オオサカ武勇伝・ぷらすAB

最終日

―アイスの町
カーテンの隙間から差し込む朝日が顔を照らし目が覚める。
見知った天井、横には愛しい男の顔。
寝息をたてる男に唇を重ねる。
「ランス、朝だぞ」
「もう少し……昨日遅かったから眠い……」
「その原因はお前にある。何度も何度もするから少しひりひりするぞ」
まあ、不快ではないが二、三日はお預けを食らわせてやる。その後のランスの激しさといったらもう。……凄いのだ。
っと、朝から何を妄想しているのか、私は。
後始末もそこそこに眠ってしまったため色々とひどい身体を眺めシャワーを浴びることにする。
身体中を念入りに洗い足の付け根はさらに念入りに。
しかし、流せど流せどランスのモノが溢れてくる。
「まったく……出しすぎだぞ、ランス」
手についたそれをペロリと舐める。

思わず手が止まった。

コレはありえない。

ランスが、『女の子モンスター』である私の胎内に射精するなど。

ランスに抱かれる時は必ずゴムを用いていた。

もし、何も用いず中に出されでもしたら私は死んでいる。

急速に世界が現実味を失う。

思い出される現実。

そして、私は現状を理解した。

そこから脱するために私は一言告げる。

「ワーグ様、今戻ります」

ランスとの蜜月は私の記憶の底へ。離れがたいが所詮は過去であり夢の世界。

私は……現実の方が好きだ。


―???
チカチカするほどの光量に再び目を閉じる。
ゆっくりと開く瞳に写るのは見知らぬ天井、横にはかたっぽだけになったモミアゲ。
……山本悪司。
「!?☆&@◎×∴!?」
自分でもなんと表現していいのかわからない悲鳴を上げてベッドから飛びのいた。
着地に失敗し、手をつこうとしさらに空振り。
あるべき腕が無い。それはそうだ、無敵様に斬られたから。
なんて冷静に分析していたら顔から床に突っ込んだ。
「きゃはははは、あ〜、もう、レナのボケっぷり最高!!」
不慣れな片手で身体を起こす。側には目に涙まで浮かべて笑っているワーグ様。
「おはよう。いや、おそうようかしらね」
「……おはようございます、ワーグ様。出来れば状況の説明をお願いしたいのですが?」
「ん? 必要?」
「あまりに情報が少なすぎます」
「無敵とあんたのガチバトルの被害が広がりすぎて収拾がつかなくなりそうだったから悪司組とPMで手を組ませて住民の避難に当らせたの。で、終ってみれば両陣営被害が大きすぎて抗争どころじゃなくてね。とりあえず、休戦協定を結びなおして仲直りというわけ」
なるほど。
だからといって、私の横で悪司が寝ている意味がわからない。
「悪司は何故ここに?」
「面白そうだったから私が悪司を移動させたの」
あんたの差し金か。
頭痛がした。
「ちなみにここはミドリガオカ。悪司の事務所よ。リセットがしばらく馴染んだ部屋の方がいいって駄々こねたからこっちに移ってきたの」
だんだん頭がはっきりしてきた。
とりあえず、本来の目的である無敵様の送還が成った今どちらの陣営にいようとさして問題はない。どうせすぐに帰るのだから。
この後やるべきことは大陸への帰還。ワーグ様やリセット様を連れて。
先に行った無敵様や土岐遥達にも説明が必要だろう。
そう、彼らはまだ大陸についてはいない。大陸とこの世界の狭間に部屋を設けその中に閉じ込めてある。大陸とこの世界では時間の流れに差があるため、個別に送還すると時間も場所もずれてしまう。セリス殿ならまだしもこちらの世界の住人である土岐遥や山沢麻美を個別に送ってしまうと大変なことになる。
だから、部屋に留め置いてあるのだ。
すぐにでも私も部屋へ赴き無敵様に事情の説明とネタばらしをしよう。
無敵様をあおるためとはいえ土岐の首を作ってみたり、調子に乗ってガチンコ勝負を挑んでみたりと色々やらかしている。
謝罪の一つでもするべきだろう。
「大体把握しました。では大陸へ帰還しましょう」
「そうね、長居しても仕方ないし。リセットを呼んでくるわ」
そういい残して部屋を出るワーグ様。
と思ったらすぐに引き返してきた。
「どうされました?」
「そうそ、あんたの腕ね。ラッシーの中に保存してあるから帰ったらパイアールにでも頼むといいわ。ないと不便でしょう?」
「ありがとうございます」
このまま無いものかと思っていたが……非常に助かる。とはいえ、帰るなりアースガルドに入院決定か。
「さてと……」
今着ているのは私の普段着ではない。趣味から言って、リセット様がこちらで調達した寝巻きだろうか。ベッドの隣に畳んでおいてあった普段着に着替えよう。
だがその前に。
「山本悪司。先ほどから起きているのだろう。着替えをしたいから出て行ってくれるか?」
「んだよ、気付いてたのか」
「逆に問う。気付かれないとでも思っていたか? とりあえず、出て行け」
「断る」
「そうか、ならば仕方が無い」
問答無用で叩き出した。
いつもの服に袖を通すと気持ちが落ち着く。
ふと見るとあちこちぼろぼろになり腕に至っては袖もない。
なんとも貧乏臭くみえる上にアンバランス。
……以前なら勝手に服は再生したのに。
魔人化に伴い皮膚から服になった現在、破れたら自分で修繕するしかない。
もちろん、代えの服はあちこちアレンジしてあるものが魔王城の自室に用意してある。
だが今は悪司の世界。
毎日洗濯して、戦闘をこなしたりすればくたびれもする。
なんともみすぼらしい格好だ。
ため息と共に両手を何気なくポケットへ。

すっぽ抜けた。

血の気が引く。
破れたからとかそういう問題ではない。そんなもの縫えば済む。

「レナ、リセット連れてきたわよ」
「さぁ、早くパ〜パの所へ!!」
「……」
「レナ?」
「どうしたの?」
「無いのです」
あるべきものが無い。
二つのアイテムのうち一つはある。そのポケットは無事だった。
問題は、ゲートを開くスイッチが無いことだ。

つまりは。

「ゲートの鍵をなくしました。見つけるまで帰れません」
「……は?」
「もう、冗談はいいから早く」
「本来なら、このポケットに入っていました」
すっぽ抜けているポケット。
「……」
「……」
二人の視線が刺さる。殺されるかもしれない。
本気でそう思った。

―夕暮れ 町の廃墟
あらためて見ると私と無敵様の戦闘の痕跡が生々しい。
……どちらかというと私のせいだろう。
魔法使いによる絨毯爆撃みたいなこともやったから。
ああ、なんというか。やりすぎたな。
「そこ!! ぼーっとしない!!」
リセット様から石が飛んできて額に当った。痛い。
だが、現実逃避でもしないとやってられない。
「この中から手のひらサイズの物を探せと?」
砂漠で一粒の砂金を探すような物かもしれない。悪司組とPMの動けるものを総動員しているが開始から数時間、まだ見つかる気配も無い。
「だ〜、無いな。今日は日も落ちる。明日改めようぜ」
「今ここで永遠に夢の中に落ちるのと探すの、どっちがいい?」
「探す」
サボりに来た悪司はワーグ様に脅され現場に戻った。
「レナ、あんたもよ?」
ええ。……分かっていますとも。

結局のところ太陽も沈み、この日の捜索は打ち切らざるを得なくなった。
皆意気消沈して帰路につく。
明日も朝から捜索をするとして、本当に見つかるのだろうか?
「ただいま。すまねぇ、さっちゃん。迎えをやるのを忘れてた」
ミドリガオカの事務所に帰るとエプロン姿の岳画殺が出てきた。
どうも今日も学校へ行っていたらしい。エプロンの下は学生服のまま。
「それはかまわん。それより何事だ? かなりの人数を動かしていたみたいだが?」
「探し物よ。どこかのおバカが大暴れして大事な物を落しちゃたの。ね、レナ?」
リセット様がにこにこ笑いながら頬っぺたを抓る。
抵抗は許されない。でも、ちょっと手加減してくださいってば……。
「レナが落したものか。……ちょっと待っていろ」
そういい残し岳画殺は自室へ。
すぐに戻ってくるなりソレを差し出した。
「倒れているお前のそばに落ちていた。コレのことか、探し物は?」
「……」
「……」
「……」
一同沈黙。私も言葉を失った。
「なんとなく拾わねばと思って拾ったのだが、どうもこの世界の物質では無いらしい。よほど大切な物だったみたいだな」
「……今日一日の捜索、無駄だったね」
リセット様の言葉に皆がうなだれた。
「……拾うべきではなかったか?」
そんなことは無いのだが……。

その後夕飯をよばれ、腹も膨れたところで大陸に帰ることにした。
「ま、こっちの世界も楽しいし気が向いたらくるわ」
「来るな。ここは我々の世界だ。干渉はコレきりにしてもらおう」
「ふ〜ん、つれないのね。無敵に心を奪われていたくせに」
「……あれは、違う」
「嘘ばっかり。心の上辺をごまかしても奥底ではごまかしきれていない。……でも、これで諦めもつくわね。無敵は私のモノ。そして、彼方の手にはもう届かない」
「ワーグ様、その辺で。ゲートを開きます」
キリがないので釘をさしゲートを起動させた。
「じゃ〜ね、悪司。さっちゃんも。楽しかったわ」
「ばいば〜い、また来るね? 覚悟しておきなさい」
お子様モードと大人モードを使い分けて岳画殺をあおるワーグ様とリセット様がゲートの向こうへ消える。
「では、もう二度と会うことは無いと思いますが……。この度はお騒がせしました」
一応謝罪しておく。
そして、以前まとめておいたレポートを岳画殺に渡す。
「コレは?」
「この世界の情報を取り込んだ際の副産物です。町の復興にはお金がかかるでしょうから、その足しにでもなればと思いまして」
この世界の経済の動き、主に株の値動きのデータ。その中でもこれから伸びるであろう企業をピックアップしてある。まぁ、確実ではないが、国の復興には欠かせないであろう企業ばかりだ。それ以外にも、大手企業の弱みやら問題点やら影で行われている不正など表に出ない情報も纏めてある。
「どう使うかは任せます」
目を通しニヤリと邪な笑みを浮かべる彼女を見ればそれなりに満足してもらえたようだ。
それを見届けて私はゲートをくぐった。

さて、ここからが難題。
どう無敵様に言い訳するか。

―世界間回廊 休憩室
世界と世界を繋ぐ回廊の途中にある部屋。
本来はそんなものは無いのだが少々無理を言って用意してもらった。
心の準備をして部屋の扉を開ける。
「……もう、無敵ったらお盛んね」
「……一人くらい間引いていいかしら?」
「やめたほうがいいかと」
さほど大きくない部屋は一面肌色だった。
全裸の無敵様と寄り添う3人の全裸の女性。
……これは予想外だった。
「ん……遥さん……」
無敵様の寝言に答えるかのように土岐遥はさらにぎゅっと寄り添う。
二人とも非常に幸せそうで。
見ていると、なんかこう、イライラしてきた。
「リセット様。この4人、このまま大陸に放り出すというのはどうでしょう?」
「異議な〜し」
「賛成。どうせなら砂漠かヘルマン北部にでも棄てましょ」
本当にそうしてやろうかと思っていたら無敵様が目を覚ました。
眠そうな目できょろきょろと辺りを見回す。
イマイチ状況を把握できていないらしい。
「あ、おはようございます」
あくびを一つ。
「おはようございます、無敵様。早くしまわないとリセット様に喰われますよ?」
「う〜ん、パ〜パには劣るけど無敵のも素敵ね。ま、何度も見てるけど」
つんつん。
リセット様が起き抜けで元気なアレをつついた。
直後、無敵様の、男とは思えない悲鳴が上がった。

数分後。
全員が起きて服を着た。
寝起きが悪かった土岐に至っては無敵様に服を着せてもらっていた。
なんだ、このバカップルは?
「さて、無敵様。説明は必要ですか? 必要ないならばさっさと大陸へ戻りましょう」
「一通り聞きましたが、彼方の口から聞きたいですね」
「分かりました。まず、見ての通り捕獲した無敵様の使徒も生きていますね。もちろんお見せした首はフェイクです。この通り」
細部まで再現した首を取り出す。
本人は非常に複雑そうだ。
「最良のパターンとして考えていたのは、コレを見た無敵様が無鉄砲に突っ込んできてそのままゲートへという物だったのですがご存知のとおり、そうはならず。暴走した無敵様が私の予想を上回りすぎていたため別の方法を模索しました。しかし、考えがまとまるより先に、無敵様の殺気に当てられた私の闘争心に火がついてしまい、まぁ、無茶をしてしまった次第です」
「最初から彼女達を手にかけるつもりはなかったのですね?」
「当たり前です。私とて命は惜しい」
「……分かりました。もう、水に流します。あ、でも一つだけ。最後の、母上の姿はどこで?」
気になるのも無理は無い。普通に考えれば接点が無いのだから。
「魔人になって間もない頃、ホーネット様の執務室に行ったときに。魔王時代のランスが飾った写真が今も飾られています」
「あ……そういえばそうだった……」
「では、帰還しましょう。場所は魔王城でよろしいですね?」
「いいけど、どれくらい時間がずれてるんだろう」
「打ち合わせの際、プランナーに聞いたところ、約20倍ずれが生じるそうです。以前、リセット様は1年弱悪司の世界にいた。それゆえ、ランスが成長した頃に帰還した。今回は1週間ですので20週間、4、5ヶ月といったところではないでしょうか?」
「一週間? あのね、レナ。あんたどれだけ寝てたと思ってるの?」
「……」
リセット様のセリフの意味するところ。
非常に嫌な予感がした。
だが、問わぬわけにもいかない。
「ど、どれくらいでしょう?」
「三ヶ月」
「さ、三ヶ月!? 私と無敵様が壊した町並みはそのままでしたよ!?」
「あのね、ちょっとやそこらで片付く量だと思う?」
「う……」
言われてみれば。
「だからさ、鍵をなくしたと言われた時、ホントにどうなるかと思ったのよ。思わず磔獄門ってやりそうになったわ」
ケラケラと笑うリセット様。目は笑っていない。
3ヶ月も前に瓦礫の町で無くした手の平サイズのアイテム。
……どう考えても絶望的だ。
「ま、帰れるならリセットはかまわないけど。若いパ〜パもいいけどちょっと歳をとって渋くなったパ〜パも魅力的だと思うんだ〜」
「5年も経てば変わるわよ、人間だもの」
「ふふふ、だから楽しみ」
はぁ、予想を遥に上回る長期滞在になっていたようだ。
とはいえ、腐っていても仕方がない。
ここまで来て引き返すなどという選択肢もあるはずがなく。
「……とりあえず、帰りましょうか」
「そうそ、早く早く」
入ってきたのと反対側にある扉を開ける。
流れてくる懐かしい空気。
こうして、私達は大陸世界に帰還を果たした。
まぁ、色々とあったけど。

その後、大陸に帰還してからのことで語るべきことは多い。
だが、私は疲れた。しばらくは養生させてもらうとしよう。
ホーネット様に休暇を申請して、アースガルドで腕の治療を終えた後はアイスに行きランスを連れまわし、一通り楽しんだ後リセット様に献上してしまおう。リセット様のことだから約束を反故にすればどんな報復をしてくるか分からない。

だが、まず何より先に私は寝る。
久しぶりの自室のベッド。着ている物を脱ぎ捨てて倒れこむ。
数年経っているというのに新品のようにベッドメイクされている。
後で礼を言っておかねば。

……ふぁぅ……ねむ……。

では、また機会があれば。

……くぅ……。

あとがき

終ってみればあっけないもので。
長々とやってきましたがこれも終らせることが出来ました。
応援してくださった方々ありがとうございます。

さて、次は何を書くかな……。
やる気はあるんだけど時間がねぇ……

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