―隔離病棟304号室(最終段階)

おなかがうごめく。
いたみがなくなりうごめくかんしょくだけがいきてるあかし。
このままじゃてんしさまがうまれてしまう。
さんざんにわたしをいためつけて、わるいこはおいていってしまう。
てんごくにはいいこしかいけないから。
おしおきをうけつづけたわたしはつれていってもらえない。

てんしさま、あなたにあいたくていたいのをがまんしたけれど、やっぱりわたしはこわれてしまったみたい。ちゃんとあやまったのに、ぜんぜんゆるしてくれないてんしさま。
ずっとずっといたくしてくる。いたみがなくなったいまなんだかとてもさみしくかんじる。
てんしさまのそんざいをもっとかんじていたいの。

まだうまれないで。

さみしいのに。パパやママとてんごくでくらすより、てんしさまとずっといっしょにいたいとおもってしまったの。わるいこでもいいから。
こわれてしまったわたしのこころ。
てんしさまがなかにいてはじめていきているとじっかんできる。
それがいまのわたし。

だからでていくなんていわないで。ううん、ちがう。

にがさない

こわれたわたしからにげようとするてんしさま。
もがくてんしさまをわたしはからだにぬいつける。

ほら、これでずっといっしょだね

―ざく。


ガラスで区切られた部屋の向こうで少女の悲鳴が消えた。
それが誕生の兆し。
第二段階へ移行してから9日目、少女の体力はもってしまった。
今、最終段階に移行しつつある。
天使が生まれ出るところなど見ていたくない。
それは隣部屋に詰めていた者の共通の思い。
部屋に詰めていたほとんどが顔を背けた。
私もそうするつもりだった。が、見てしまう。
少女の腹部に人面疽のように浮かび上がる顔を。
今にも少女を食い破らんとする天使。
少女はそれを母親が子供を安心させるように撫でて、枕元にある果物かごから果物ナイフを取り出す。
何をするのか、測りかねる間に少女はナイフを振り下ろした。
その時聞いたのは現実なのか、あるいは錯覚なのか、ナイフは生まれようとした天使の額を捕らえその顔が絶叫した。……聞いたのは私だけだったというが、私の耳には今も天使の悲鳴が残っている。

その後の検査で少女の身体にほぼ異常がなくなっていることが分かった。ナイフを突き立てた傷が癒えた今、異常なのはただ一箇所人面疽のように浮き出た天使の顔。少女はそれを慈しむように撫でる。
『天使病』の患者で始めての生存例だという事実に気づくまでもう少し時間がかかった。

そして、気づいた時には全てが手遅れだった。

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