幽々自適な生活 外伝 お正月だよ全員集合!?

―12月24日
世間はクリスマスムード一色。
私たちも二人でデートしてちょっとリッチな夕食をホテルのレストランから夜景を見下ろしながら。
その後は大きくてふかふかなベッドの上に導かれ……ふふふ……

「っだったら良かったんだけど」
「はい??」
何を想像していたのか音夢ちゃんは私の顔を見てため息をひとつ。
「手が止まっていますよ?」
「詩乃はいいね、手を動かさなくても良くて」
「む、幽霊なんですから仕方ありません。もう、無駄話はこれまでに。ノルマが終わりませんよ」
「はぁ……。世間はクリスマスなのに」
「白さんのお願いなんですからがんばりましょう」
「主にがんばるのは私でけどね」
「大丈夫、ちゃんと応援します! 終わったらご褒美も用意していますから」
「……ちゃんと報いてもらうからね」
ちょっと邪まな笑みを浮かべる音夢ちゃん。
相当キてるようです。
それもそのはず。世間はクリスマスムード一色だというのに。
私たちが寝泊りしている廃校の校務員室にはわらとみかんとしだが山積みされています。
音夢ちゃんは半ばやけくそになりながら手順どおりに注連縄を編んでいきます。
朝からずっと。飽きてくるというレベルの話ではないでしょう。
コレ。白狼神社のお正月の準備なわけです。
普段はお賽銭も乏しい白狼神社ですが、お正月と縁日の時期は別です。周辺に神社が無いこともあり近隣の都市からも参拝客が訪れます。
それにあわせて縁起物の製作に終われることになるのです。
今までは白狼神社の裏の顔を知る木楽町の妖怪さん達と協力して何とかしてきたのですが、今年は音夢ちゃんも戦力に組み込まれました。
幽霊たる私は完全に戦力外ですけど。

神主の白さんは巷で有名な御神籤を作っています。年に千枚だけめちゃくちゃ達筆な字で手書きです。それを引いた人には小さな幸運が訪れるとか。
実際に効果があるのでしょう。なんたって神様本人の手書きですし。
千尋さんは引きこもって御神籤を書いている白さんの世話を担当。
いつもより甲斐甲斐しく動いているように見えます。
飛雲丸さんは各縁起物製作部隊の総合指揮。予定数を完成させるために戦力を割り振り効率よく仕上げていきます。
お守り、注連縄、破魔矢、お神酒等々。
猫の肉球では何も作れないとか言う理由で指示するだけなのですが……。箸を持てるんだから他も持ててもおかしくないと思うのです。言ったら噛まれました。

ともかく、神社周辺は殺気立っています。
音夢ちゃんもノルマ達成の後のご褒美を想像して妙なテンションになっています。
……何されるのでしょうね、私は。
この年末、色々と不安です。

―12月31日
御神籤も縁起物も完成し、後は新年に備えるだけ。
と、いいたいのですが、神社は不気味な静寂に包まれています。
嵐の前の静けさとでもいいますか……夜になれば戦争です。
「詩乃、どうこれ?」
「とっても素敵ですよ」
「ふふ、ありがと」
振り返れば紅白な音夢ちゃんがくるりと回っています。
紅白の巫女さんルックの音夢ちゃん。普段は閑古鳥が鳴き千尋さん一人でも暇をもてあます販売所ですが、今日はそうも行きません。大幅に戦力を増強してあります。
千尋さんを筆頭に、鎌鼬の月乃さん、猫娘の楓さん、そして、音夢ちゃんとその他数人の美人どころを取り揃えて臨戦態勢です。

時間は午後8時。
境内の中央で焚き火に火が入れられ夕食を済ませた町の妖怪さんが三々五々に集まってきます。商店街からはお酒やお節料理が次々と運び込まれ宴会ムードも高まります。
「詩乃、ちょっと来て」
着替えを終えた音夢ちゃんに連れられた先は人気の来ない裏の森。
ひょっとして、こんな場所でご褒美の要求ですか? それには少し心の準備が……。
「詩乃」
森は暗くあまり表情は見えません。
ただ、真剣さだけが伝わってきます。
「今年は楽しかった?」
「楽しかったですよ。充実もしていました。死んでしまったことを除けば、ですが」
とはいえ、両親や親戚には申し訳ないのですが、死んでしまったからこそ見える世界もあり、私はそこに居場所を見出し素敵な時間をすごすことができました。
「私も。詩乃が事故にあった時は世界が終わったように感じた。けど、今は……、こうして話せること自体が幸せかな。私の、視える目に初めて感謝した瞬間でもあったけど」
「……来年も、これからもずっと一緒にいてくださいね? 私がここにいる大きな理由は音夢ちゃんがいるからなのですよ」
「うれしいこと言ってくれるのね。勝手に消えたりしたら許さないから」
「音夢ちゃんもです。あなたはちゃんと生きていてくださいね」
「当たり前よ」
二人とも顔を見合わせて苦笑し、そのまま一瞬だけ二人の距離をなくします。
「さて、がんばりますか」
「終わったら大宴会ですよ」
「一応未成年だけど、私」
おそらく誰も止めないでしょう。むしろ、酒をすすめられるかもしれません。
「おいしいおせち料理もありますからそれを励みにがんばってくださいね」
「詩乃はどうするの?」
「ちょっと商店街にお使いに行ってきます。あとは適当にぶらぶらと」
実体に干渉できない幽霊にできることはかなり限られています。ただ、天も地もあってないようなものなので伝令係には好都合なのです。
行く先は商店街の呉服屋さん。目的は白さんが用意した例のモノの搬入を促すため。
「そう。じゃあ、また後で」
「はい。気合入れてがんばってくださいね」

―呉服屋 麒麟堂
「こんにちは、例のモノ、完成しています?」
「ああ、ばっちりだよ」
町にある反物と呉服の老舗麒麟堂。その店主はかなり美形の一反木綿、布袋さん。
「ほら、これだ」
「う〜ん、すごいですね」
着物立てにかけられた二組分の振袖。ちょっといくらするのかわからないくらい細かい図柄が織り込まれています。
「では、納品させてもらうよ。白様によろしく言っておいてないか」
「はい、わかりました。……きっと似合うでしょうね」
「こっちが音夢君へ、こっちが千尋様に」
この着物、白さんから音夢ちゃんと千尋さんへのご褒美というわけです。
あの二人この年末白さんにこき使われていたので。
まあ、実際着るのは宴会が終わった後、おそらく明日でしょうか。
さてさて、後は適当にぶらついて時間をすごしましょうか。
忙しくなる頃には戻って音夢ちゃんのそばにいるつもりです。
……役には立ちませんけど。

その後は両親に挨拶に行き、公園などにあいさつ回り。
どこもかしこも家族やら友人やらと一緒で楽しそう。
……やっぱり一人はつまりませんね。神社に戻って応援しましょう。
そういえば働く音夢ちゃんを見るのは初めてなのです。

―白狼神社
時間は午後10時まだそれほど人はいません。先ほどより少し増えた程度。
ほとんどが商店街の人たちです。それぞれ振る舞い酒やら甘酒やなにやらの準備で忙しそう。邪魔しないようにすり抜けて一路音夢ちゃんの所へ。

流石にまだ忙しくはないようで主に動いているのは千尋さんだけ。他の人たちはまだ控え室の中のようです。壁をすり抜けようとして、中から聞こえた話し声に足を止めました。
どうも、私の話をしているようです。
どれどれ……

「で、詩乃とはどこまで進んでるのさ?」
「どこまでって、最後までね」
「臆面もなくいいきるかね……まぁ、自分たちが納得してるんだからとやかく言わないけれど」
「傍から見たら変わってるように見えるかもしれないけど、私は詩乃しか眼中になくなってるの。あの子が男だとか女だとか関係なく、ね」
「ふ〜ん、で、最後までって、やることやったんでしょ? どんな感じ?」
「男のほうは経験無いからなんともいえないけど……詩乃ったらあまりにかわいい声で鳴くからついつい攻めすぎちゃって―」
月乃さんや楓さんは興味津々と言った様子で音夢ちゃんの話に聞き入っています。
でもでも、そろそろ恥ずかしいので止めないと。
「―をね、体の内側から愛撫するともうすごいことに――」
「はい、ストップですよ!!」
そんな話まですることではないのです。それにあそこを内側から刺激されるなんて経験幽霊の私くらいにしかできません。って、何を言ってるのでしょうか??
「あれ、詩乃。ちょうど良かった。月乃さんと楓が実演を見たいってさ」
「……はい?」
何の? と聞き返す間もなく腕が伸びてきて私は音夢ちゃんに抱きかかえられる形に。
そのまま止める間もなく――
「ん……あ……ちょ、音夢ちゃん!?」
幽霊の私から音夢ちゃんに触れることはできず、突き放すことなどできません。
不条理です。というか、今の状況はマズいです。
女だけとはいえ人前ですよ? 
「いい加減に―むぐ」
反論はキスで封じられました。観客の二人は食い入るように見ています。
色々と、かなり、まずいです。

でも、もう流れに身を任せてしまおうかという考えがよぎりました。
音夢ちゃんにされるというのが嫌なわけではないので。

と―

「あんた達! 出番だよ!」
勢い良く開く襖。仁王立ちの紅白。その表情は心底あきれた様子で。
「……いちゃつくなら宴会が終わった後にしろ!! さっさと働け!!」
千尋さんの雷が落ちました。
あわてて出て行く3人。他の人はすでに出ているみたいです。
私も慌ててその部屋を飛び出しました。
目指すは誰もいないところ。
……ついてきちゃ駄目です。覗いてもダメです。




と、まぁ、色々ありまして……年が変わりました。
修羅場を越えた売り子組はぐったりと畳に突っ伏したまま動きません。
「……大丈夫ですか?」
「……元気を注入してくれないと動けない」
「仕方がありませんね。基本的に人前ではNGですからね?」
「わかってるわかってる」
きっとわかってないでしょうけど。
眠り姫もどきをさっさと起こします。とりあえず、アレを着てもらわないといけません。
起こした音夢ちゃんを連れて校務員室へ。
必要最低限の家具しかない部屋に不釣合いな鮮やかさ。
音夢ちゃんが思わず息を呑んだのがわかりました。
「白さんからのご褒美だそうです。着付けは千尋さんがもうすぐ来てくれることになっています」
「……正直、ちょっと、驚いたわ」
「着替えたら宴会場へ行って皆さんを驚かせましょう」
「うん」
うれしそうに微笑む音夢ちゃん。
女の子なら誰でもこのてのものにはあこがれるでしょう。
その点幽霊な私は形が自由になるのでどうとでもなります。音夢ちゃんの着付けが終わったら私もお揃いの着物に着替えましょう。きっと誰もが振り返るはずですよ?



―宴会場
誰もが振り返り息を呑むであろう美女二人が入ってきたというのに。
「……完全に出来上がってますね」
「私らが遅かっただけよ」
売り子をしてない人たちの大半はここで飲んで騒いでを繰り返していたわけで。
9割がた本性に戻って、というか、気づいてないだけかもしれないくらい飲んでいるのでしょう。猛烈な酒気と耳をふさぎたくなるような騒ぎ。
いつもの宴会よりひどいです。
幽霊なので酔えないのですけど、雰囲気だけで酔ってしまいそうです。
「部屋に戻りましょうか?」
未成年二人は場違いな気がします。
「そうね。お節の重箱一つくらいに食べ物詰め込んでくるわ。良く考えたら何も食べてないし、働いたしお腹ぺこぺこよ」
「わかりました。では、先に戻りますね」
「ん、すぐ行くから」

後から思えばここで私たちが分かれたことが間違いだったのです。
二人一緒にいたのなら……あんなことにはならなかったでしょう。
いまさらどうにもならないのですが……

一足先に部屋に戻って10分。
音夢ちゃんはちっとも帰ってきません。
もしかしなくても、どこぞの酔っ払いに絡まれて困っているのでしょう。
ため息ひとつついて迎えに行くことにします。

―大宴会場
覗いてみるとさっきより混沌としていました。
「86番、百目! 全ての目に一瞬で目薬刺します!!」
バケツから水を浴びただけ。巻き起こる笑い。意味がわかりません。
「87番、鎌鼬! 大根をかつら剥きします!!」
大根がまるで反物のように。巻き起こる笑い。面白い、というよりすごい気がします。
「はちじゅう……何番だっけ? まぁいいや。ひゃぁくば〜ん、のっぺらぼう! 一気飲みいきます!」
まだ飲むんですか? というより、そこが口ですか!?
「ひゃく……いちばん? ちひろ、神隠ししま〜す!!」
ああ、危険な人もべろべろ。音夢ちゃんの着付けをしてもらってから15分くらいしか経っていないというのに。逃げ遅れた数人がどこかへ飛ばされました。
そして、巻き起こる笑い。……飛ばされた人たちは笑えません。
急ぎ音夢ちゃんを見つけ――
「あ〜〜〜! 詩乃!! こっち、こっちー!」
探す間もなく呼ばれました。場所は先ほどから一発芸大会が行われている宴会場でもっとも混沌とした場所。よく見れば、片手には一升瓶が。
……おそらく誰かに飲まされたのでしょう。弱い上に酒癖が悪いのです。
早く連れ出しましょう。少々手遅れな気がしないでもないですが。
「音夢ちゃん、お酒は二十歳になってから。さ、部屋に戻りましょう。食べ物は後で頼んで運んでもらいますから」
「いや」
「はい?」
「私も一発芸するの!」
音夢たん、目が据わっています。
「102番、東原音夢! 脱ぎま〜す!」
「ちょ、音夢ちゃん!!」
着物に手をかける音夢ちゃんを制止しようとしてすり抜けました。
私が前に立っても半透明なので丸見えです。しかも、下着を着けてない!!
「あ、間違えた。脱がせま〜す」
「え?」
誰をと問う間もなく。
「へ?」
一瞬会場が静まり返り。
「で、どうやって??」
私の着物は剥ぎ取られていました。
幽霊なのに。剥ぎ取られた着物も私の魂の一部です。返してください。
じゃ無くて。
今、私は、素っ裸で。
あまりのことに酔いも吹っ飛んだのか、誰も一言も話しません。
「ねえねぇ、すごい? 詩乃の外見のイメージに魂の一部を繋げた部分からハッキングしてみたの。こんなこと誰にもできないよね?」
一人、楽しそうな音夢ちゃんを除いては。
「……実家に帰らせていただきます」
「え? あれ? ちょっと、詩乃〜?」
決めました。しばらく口をききません。見もしません。
今のはかなり怒っています。
呼ぶ声を無視して天井を透過。本当に自宅へ帰ります。
もう、せっかくの正月だというのにコレですか? 
何が何でも音夢ちゃんと千尋さんにはお酒を飲ませないようにしないといけません。
「詩乃!」
誰かが後ろから飛んできます。美香さんでした。
「どうかしました?」
「どうかしました? じゃないでしょ!? いつまでそのままでいるつもり?」


「………………あ」


服を戻すのを忘れていました。
つまり、私はこの冬の寒空の下、素っ裸。
下手しなくてもヘンタイさんですね……。

……一年の計は元旦にあり。
こんなことでいいのでしょうか?

あとがき?

なんだ、コレ?
とりあえず、気の向くままに書いたらこうなりました。
欲求不満かなww


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