異史「曲秘境史−アナザーヒストリー−」(N)
「まったく、何も無いじゃない」 「あら、怪我した妖怪蛍と夜雀がいたわ。すぐに逃げていったけど」 「誰かと弾幕ごっこでもしたのかしら? 妖怪もあんまり襲ってこないし」 「楽なのはいいことです。ずっとこのままいけるわけ無いですけど」 「藍は悲観的ね。けど、今夜の藍は武器なのよ。武器は黙って襲ってくる妖怪を撃墜してなさい」 「うう、ひどいですよ紫様。式神にだって人権くらいあってもいいでしょ?」 「どうしようかな〜」 「あんたらはそもそも人じゃない」 そんなこんなでわずかに欠けた月を見上げつつ、1人の人間と二人の妖怪は夜を駆ける。 「ところで紫、適当に飛んでるけど方向はあってるの? こっちには人間の集落があるくらいよ?」 「大丈夫」 「その自信はどこから来るの?」 「ほらほら、霊夢。ちょうどあそこに誰かいるわ。あれに聞きましょう」 「根拠なんて無いのね。ん、あれって……人間? 妖怪?」 「疑問を持ったのは中正解ね。あれはワーハクタクよ」 集落の少し手前にいるのは上白沢慧音。二人(+武器扱いの式神1人)が近づくと明らかに嫌そうな顔をした。よく見ると所々擦り傷や火傷のあとが見え隠れする。 「博麗の紅白にすきま妖怪……お前達もか? 昨今の異常な月の原因を作った奴ならそっち」 「まだなにも言ってないわよ」 「えらく素直に通してくれるのね?」 「そう毎日弾幕ごっこなんてしていられない。お前達も昨晩の黒白魔法使いと人形遣い達と同じ目的なんだろ?」 「魔理沙とアリス? そういえば昨日の夜に会ったわ」 「あの二人も月を戻しに?」 「……そんなことを言ってた気がする」 「もしかして、あの二人が直後にすごすごと引き返してきたのはそこの紅白が原因?」 「つまり、私達と同じように永夜の術を使って月を元の戻そうとしていた二人を、撃墜して追い返したのね? それって、放置しておけば私達が今夜出かける必要が無かったんじゃない?」 「そんなに詰め寄らないの。人間誰しも間違いは犯すものなのよ」 「まあ、そういうことにしておこうかしら。それじゃあ、そこの人。私達は行くわね」 慧音はそっぽを向いてしっしとやった。よほど関わりたくないらしい。 慧音と別れ少し行くと大きな竹やぶにたどり着く。 「ここよ、ここ。この奥で魔理沙とアリスを結界にとらえたの」 「そのせいで私の睡眠時間が削られたのね?」 「うるさいわねぇ、過ぎたことを言っても仕方がないでしょ」 竹やぶの中の妖怪はまだまだ活発で次から次へと現れては次から次へと妖弾をばら撒いてくる。 「藍、任せたわよ〜」 「ひ〜、人使いが荒い〜」 「いや、だから人じゃないって」 「そんなことどうでもいいわ。それより、人の気配がするわ」 「あ、ホント」 猛スピードで接近してきたその気配は霊夢たちのすぐ前で止まる。 「動くと撃つ! 間違えた。撃つと動く」 「あら、魔理沙。今日一日くらい寝込んでるかと思ったけど大丈夫なの?」 「ああ、昨日はアリスがいたからな。今夜は私一人だ。昨日みたいに一方的に負けたりはしない」 「つまりここで弾幕ごっこ?」 「そう、リベンジってやつだぜ」 「私たちがここにいる理由知ってるの?」 「昨日の私とアリスと同じだろ? それでも付き合ってもらうぜ?」 「分かってるのに邪魔するなんて……二、三日はベッドの中よ?」 「珍しいことに紫がやる気ね……」 「今夜は魔法の出血大サービスだ。ありったけを持ってきた。2、3日せんべい布団に寝たきりなのはそっちだぜ」 言うが速いか竹やぶを昼のように照らし出す星がばら撒かれた。 「いくぜ! 魔空『アステロイドベルト』」 「もう、仕方ないわね……付き合ってあげるわよ!」 こうして竹やぶの中で弾幕の花が咲く。 最初は物量で押していた魔理沙だが、息のあってきた霊夢と紫の攻撃にさらされ追い詰められた。手にしたスペルカードが音をたてて引き裂かれる。 「ふう、3対1はちょっときついぜ」 「藍は武器よ。プレイヤーじゃないから数えちゃダメよ」 「いつもにもまして扱いがヒドイです……」 「もう少し主人の教育を徹底したら?」 「そうかい。2対1ならなんとかなる。お次はこれ。黒魔『イベントホライズン』」 魔理沙を中心にばら撒かれる星の軌跡。それは魔理沙流の結界だ。 「ふ〜ん、結界生成の真似事? 本質的に違う気がするけど……」 結界のプロフェッショナル二人の前にはこのスペルもたいした効果は無い。 スペルが弾けると魔理沙は猛スピードで竹やぶの暗闇に入り込んだ。 「あ、逃げた」 「追うのよ。あっちから仕掛けてきた弾幕ごっこだもの。これくらいではこっちも収まらないわ」 「主にやるのは私なんですけどね」 「武器は黙る」 「……(落涙)」 巻き込まれまいと遠巻きにしていた妖怪たちが魔理沙の撤退に乗じて再び襲い掛かってくる。霊夢と藍がそれらを撃退していく。 紫はただ流れ弾を避けるだけ。残り二人の視線なんてなんのその。 「……まったく。あ、追いついた。魔理沙、あんたから勝負を挑んでおいて逃げ出すのは無いんじゃない?」 「なに、ちょっと仕切りなおすだけだぜ。恋風『スターライトタイフーン』」 今度はレーザーの嵐。それでも霊夢たちはその隙間をかいくぐってくる。 「やっぱりこれも使わなきゃいけないのか? そっちは二人だからこっちも2本! 恋心『ダブルスパーク』」 いつもは一本のマスタースパークが今宵は2本。さすがの霊夢もこれには驚いた。 「今日の魔理沙ってかなり無茶苦茶ね……昨日負けたのがそんなにショックだったのかしら?」 とんでもない範囲に照射されるレーザーは避ける二人の後方にある竹をなぎ倒し竹やぶを切り開いていく。 「はあ、はあ……これで落ちたか?」 「魔理沙、自然破壊のやりすぎよ?」 「うわっ、まだいた? もう手持ちが少ないというのに」 「ちょっと際どかったけど。まだやるの?」 「言ったはずだぜ? 今夜は出血大サービスだって。光撃『シュート・ザ・ムーン』」 今度は水晶球が放たれそれらは霊夢達の背後に回りこみレーザーを放つ。さらに魔理沙自身は星型弾を次々にばら撒く。 「もう後が無いみたいね。藍、霊夢、さっさとやっちゃって」 「あんたも少しは働け!」 思わずつっこんだ霊夢だが今そんな暇は無い。 「っ! しまった……」 背後からレーザーが迫る。 「結界『永夜四重結界』」 すんでのところで周囲の弾が結界に捕らわれ打ち消されていく。 「ほら、ちゃんと働いたわ。後はよろしく」 「なんか納得いかない気がするけど……終わらせるわよ、魔理沙」 「こっちもこれで最後! 魔砲『ファイナルマスタースパーク』」 ダブルスパークとも比較にならないようなレーザー。避けようにも間に合わない。 「え、ちょっと何よそれ! きゃ〜〜っ」 「あらあら、派手ね〜。でも、もう十分付き合ったでしょ?」 紫はすきまを開くと迫り来る衝撃に身を硬くしていた霊夢と藍の襟首を引っつかみその中に投げ入れた。 「それじゃあ、魔理沙。また会いましょう」 そして、自分もすきまに滑り込む。直後極太のレーザーがその場を通過した。 「ああ? 飛んでったか? 確認……は、まあいいや。帰って寝よう……」 さすがに疲れた様子で魔理沙は自宅のベッドを目指した。 しばらくして誰もいなくなった弾幕ごっこの跡地に再びすきまが開く。 「もう行ったみたいね。出てきて良いわよ」 「……あんまり何度も入りたいところじゃないわね、すきまって」 「同感」 霊夢と藍はどこか疲れた様子。すきまの中で何を見たのか? 「それより霊夢、魔理沙の魔砲のおかげで見晴らしがよくなったわ」 「あれ、あの館……」 「今回の犯人はあそこにいるわ。まだ時間に余裕はある。けれどもう少し慎重に行きましょう」 「今度はアリスが出てきたりして」 「それも撃墜するだけよ」 「それもそうね」 「なら二人とも頼んだわよ?」 「武器はこいつだけでしょ?」 「同じようなモノよ。じゃあ、頑張ってね。危なくなったら働くわ」 「紫、ここで弾幕ごっこする?」 「いやよ、めんどくさい。武器は藍だけね」 「よし。行きましょ」 「いや、よくない……」 「「武器は黙る」」 「く〜っ、泣いてやる〜!」 こうして二人は藍を剣に、盾に使い謎の館を目指すのだった。 |
あとがく 異史「曲秘境史−アナザーヒストリー−」Normalレベルを取得しました。 でも魔理沙のスペカはLunaticのもの。 まあ、それは置いといて、まだ続きます。……激不安。 書くにあったって。 藍はいじられキャラだと思う。いろんなSSでその傾向がある。 が、八雲藍はASOBUのお気に入り。狐だから。九尾だから。スペルカードも好きなのが多い。慣れれば簡単だが初見はまず落ちるであろう仙狐思念やラスト1秒でよく落ちるこっくりさんの契約とか。お気に入りなんだけど……こういういじられキャラがあってる気がして……。 10月の第3回東方人気投票でも藍に2P入れる予定。でもまだ未定。 |