異史「曲秘境史−アナザーヒストリー−」(EX)
そこは湖畔の館。紅き月の吸血姫が住まう紅い館。侵入者対策にと歪められた空間を渡り彼女は目的の部屋の前にたどり着く。片手には本、眠そうな目をした魔法図書館の管理者、パチュリー・ノーレッジだ。めったに外に出ない彼女だが、昨今の異変が気になっていた。実のところ、友人でありこの館、魔館の主でもあるレミリア・スカーレットが異変に気づき解決に向かうだろうとたかをくくっていたのだが、レミリアは一向に動こうとはしない。 とある事情もあり次の満月までに月を元に戻す必要があるパチュリーはこれ以上放置することは出来ないと悟り、自ら探索に出向くことにした。 ―レミリアの寝室前 そして、一応知らせておこうとここまで来たのだが……。 『お、お嬢様……もう少しやさしく……っく……』 『あら、咲夜はこれくらいでねをあげるの? これは仕事に失敗したお仕置きなんだからもう少し我慢なさい』 『し、しかし、私にはまだ今日の他の仕事が……これ以上されては……』 中にいるのは聞こえてくる会話でわかった。 ……しかし、一体何をしているのか。あの瀟洒なメイドが泣きそうな、それでいて切なそうな声を出している。 「えっと、中に知られず部屋の中を見る方法は、っと」 パラパラと呪文書を検索し始めるパチュリー。 「あれ、パチュリー様? こんなところでどうなされたんです?」 振り向くと中国っぽいやつがいた。 「中国こそどうしたの? あなたは門番でしょ?」 「中国言わないでくださいよ〜。私は紅美鈴です」 「はいはい。それでどうしてここにいるの?」 「咲夜さんが私を呼び出しておいて来ないんですよ。だから、なんとなくここかな〜と思って来て見たんです」 「そう。咲夜なら中にレミィと一緒にいるわ。けど……まあ、自分で確認してみたら?」 「はい? ……かまいませんけど」 美鈴はコンコンと扉をノック。 「お嬢様、紅美鈴です。こちらに咲夜さん来てないでしょうか?」 『咲夜? ここにいるわ。入ってきていいわよ』 『えっ!? ちょ、お嬢様! こんなところを他人に見られるわけには!』 『いいじゃない、減るもんでなし』 『減ります! 中国! 開けたら後で殺人ド―』 ガチャ。 ベッドの上に固まる咲夜と楽しそうに微笑むレミリアが。 「失礼します。って、お二人とも何を?」 レミリア、咲夜ともに上半身裸。しかも血まみれである。 続けて入ってきパチュリーもそれをみて目を細める。 「……入ってよかったのかしら、レミィ?」 「あら、パチェもいたの?」 「ええ。それで、一体何を?」 「食事。咲夜が今夜のディナーなのよ。ほら、咲夜が暴れるからこぼし放題だわ」 「お嬢様、いい加減に服を着てください。あと、着させてください」 「だめよ、咲夜。食事も終わってないのに服を着たら血が付いちゃうわ」 「それぐらい私が洗います!」 「ダ〜メ。というわけで続き」 かぷ。あらわになった首筋に牙が。まあ、それ以外にも色々と噛みは痕はあるが、とりあえず見ないふり。啜りきれず、あふれた血が咲夜の白い肌を紅く染めていく。 「はうっ」 「……レミィ、食事中に悪いけど、ちょっと聞いて。今から少し出かけてくるわ」 「「「えっ!?」」」 パチェリー以外の3人から驚きの声が。妖しいお食事は中断された。 「……そんなに驚くこともないでしょう。最近……その……魔理沙の家に出かけたりしてるじゃない」 「今日は違うの?」 「月。あれの異変にはレミィも気づいてるんじゃないの?」 「ああ、あれね」 レミリアはちらりと天井の方、その更に先に視線を送る。最近の月の光は弱々しい。満月には少し欠けてしまう。それにはとっくに気づいている。 「レミィが動かないようだし私が行ってみようと思うの。うまくいっても行かなくても朝には帰ってくるから」 「……かまわないけど、1人で大丈夫?」 「今日は喘息の調子もいいから大丈夫よ。魔理沙が私のために作ってくれた薬もあるし」 ポッとほほを赤らめるパチュリー。 「次の満月まで誰も動かなかったら大変だから私が行くの」 「……次の満月に黒いのとお月見?」 運命の糸をたどるまでも無く分かってしまった。まあ、本人が張り切っているわけだから止める気はない。 「……レミィにはわかるわね……その通りよ。だから行ってくるわ」 咲夜も美鈴も聞かずともわかっていたが、黙っておく。 パチュリーは踵を返すと意気揚々と部屋を出て行った。 3人はそれを、少し不安そうに見送った。 「……ところで中国は何しにきたの? 咲夜に用があるみたいだけど」 「う、お嬢様まで……。私は咲夜さんに呼び出されたんですが、咲夜さんが来ないので探しに来たんです」 「あ、忘れてた。お嬢様、少しお時間をいただけますか?」 「お腹へってるんだけどね。物凄く。咲夜がへまをやるから」 「うっ……一瞬で終わりますから」 「まあ、いいわ。後で時間を調節してよ?」 「はい」 時が止まり美鈴を取り囲むように大量のナイフが。 「ええっ!?」 「中国、昨日の夜、私の夜食を盗み食いしたでしょ?」 「き、気づいていたんですか!?」 「もちろん。それと、今朝のセリフ。肩がこるって言ってたわね? そして、今、私の一部に送る哀れんだ視線。……とりあえず反省しなさい!」 メイド秘技『殺人ドール』 さらにそれだけでなく、次のナイフが展開される。 『デフレーションワールド』 過去と未来、全てのナイフが……。 「ふう、……お嬢様がお望みなら続きをどうぞ」 ハリネズミになったはずの中国の姿はどこにも無く咲夜はいつものメイド服をキチンと着込んでいる。 「……咲夜、服を着たってことはまた脱がせて欲しいっていう意思表示?」 「えっ……」 「そう、じゃあ、遠慮なく」 「あ、ちょっと……お嬢様!」 時を止めて逃げようとしても、吸血鬼の怪力に押さえつけられていては逃げられないわけで。 「ところで咲夜、……ここ、大きくしてあげようか? 中国と比べてしまって、落ち込んでるんじゃないの?」 「お、お嬢様……その……これ以上何をするおつもりで?」 「ふ〜ん。私よりはあるじゃない」 「慰めになってません」 「ふふふ……咲夜。私は運命を操れるのよ?」 幼さと妖艶な妖しさを併せ持つ表情で、レミリアはぺろりと唇をなめる。 「ひっ……」 咲夜は期待と不安が入り混じった様子で息を呑んだ。 ―紅魔館 正面門 地獄の一部が再現されている。剣の山と血の池。 「しくしくしく……咲夜さんヒドイ……全部私情……」 わりと頑丈なようで、美鈴はまだ生きているようだった。 ■知識と日陰の少女 パチュリー・ノーレッジ 機動力はあまり無いが高威力・広範囲の使い魔とショットをもつ。 高速移動:★★★ 低速移動:★ 使い魔:『図書館の小悪魔』 ショット:『アグニシャイン』 スペルカード:月符『サイレントセレナ』 ラストスペル:火水木金土符『賢者の石』 *キャラクターの特徴:病弱。妖率ゲージの上昇率と低下率が大きい。 「……つまり私にも付いてこいと? お1人で行くんじゃなかったのですか?」 「いいじゃない。使い魔の1人や二人いないとしまらないわ」 「……はあ、図書館の整理、少しは手伝ってくださいよ?」 「咲夜に頼んでおくわ」 こうしてパチュリーと小悪魔は紅魔館を飛び立った。 「あ、中国の残骸が……」 「パチュリー様、放置しておきましょう。いつ起き上がって泣きついてくるかも知れませんし」 「それもそうね」 出発する二人の眼下で美鈴はまだ倒れたままだった。 きっともうしばらく、誰かが通るまではこのままだろう。 「あら、今度は何かしら?」 「黒いですね。炭?」 高い木の天辺に黒い塊が引っかかっていた。 「炭じゃないわ。えっと、本によると蛍だそうよ」 「じゃあ、燃え尽きた蛍ですね」 「そう。……それにこの魔力の残滓はマスタースパークよ」 「さすが、パチュリー様。魔理沙さんの事になると何でもわかるんですね」 「けど……別の魔力も感じる……」 「別の魔力、ですか?」 「……え〜っと、魔力を辿って相手を呪殺する方法は、っと……」 「そんな、明らかにやばそうなモノ調べないでください」 その場は何とか小悪魔がパチュリーを諭し正気に戻らせた。 「あ、また何かあるわね」 「今度は調べなくてもわかります。焼き鳥ですね」 森の道の拓けたところに、ボロボロの人形を掴んだまま目を回している夜雀がいた。 まるでダイイングメッセージ。 「……え〜っと、七色魔法莫迦を魔理沙から引きずり離す魔法は、っと……」 「そういう関係と決まったわけではないと思うのですが?」 「……急ぎましょ。このままだと魔理沙が七色魔法莫迦に喰われるわ」 「必死ですね……」 小悪魔はもはや止めようともしない。 いつの間にかパチュリーの目的は変わってきていた。無論、自覚は無し。 「こっちは人間の集落ね……。あ、入り口に誰かいる」 「どうも人間に見えますね」 「私はワーハクタクだ。お前達もか? 何でこんなに妖怪が現れる? もしかしなくても今日は厄日なのか?」 「ワーハクタクに用はないわ。用があるのは魔理沙と七色魔法莫迦な人形遣いだけ」 「パチュリー様、偽りの月を戻しに行くんじゃなかったのですか?」 「後回し」 「……」 小悪魔が一応目的を再認識させようと試みるが無駄だったようだ。 「……白黒魔法使いと七色の人形遣いならあっち。ついでに月の異常の原因もあっちだ。さっさと行ってくれ。……イタタタ」 ワーハクタクは方向だけ示すと怪我を擦りつつ人間の村に消えた。 「竹やぶ……暗がり……このままだと魔理沙の貞操が……」 パチュリーは顔を赤らめそして、すぐに青くなる。 「……もう止められません」 わき目も振らず竹やぶに飛ぶパチュリー。進行方向に現れた妖怪は一瞬で召喚された炎に焼き払われ何も出来ないまま消え去っていく。小悪魔はただ付いていくだけだ。 竹やぶの中を、妖怪の残骸を道標に奥へ進む。 「ん……これは? 紅白のお札ね」 「何でこんなところにあるんでしょうね?」 「もしや……紅白と七色魔法莫迦が手組んで魔理沙を慰みモノに……」 「妄想がどんどんエスカレートしてませんか?」 「急ぐわ」 小悪魔のセリフはスルーされた。 「はあ……まあ、ついていきますけどね。……パチュリー様が心配ですし」 それからまもなく、強い魔力を近くで感じ取る。 「あれ、予想と違う……」 「そりゃまあ、そうでしょう」 目の前で展開されるのは魔理沙&アリスと霊夢の弾幕ごっこ。 「む……魔理沙が七色魔法莫迦をかばった……」 「どうも協力し合っているみたいですね」 「魔理沙……私というものがありながらあんな人形遣いと」 スッと懐から抜かれたパチュリーの手にはスペルカードが。 「え、乱入ですか!?」 「月符『サイレントセレナ』」 「あわわわわ」 「こっちは二人だぜ? 少しは手加減しろよ」 「二人だから本気なのよ。そろそろ帰る気になった?」 「仕方ない、今日は引き上げるとするぜ」 「もう、ホントに鈍いんだから霊夢は。いい加減気づいてもいいものなのに」 「何? まだ続きがしたいの?」 「ああ、もういいわ。帰って寝るから」 霊夢と魔理沙&アリスがお互いはなれる。そこへサイレントセレナの光が降り注ぐ。 不意打ちだったため魔理沙とアリスは回避できなかった。 霊夢は少し離れていたため何とか回避が間に合った。 「……パチュリーがきてるの? ……まあいいや、巻き込まれると面倒だから帰ろうっと」 霊夢はこれ以上に夜が長引くことは無いと踏んで、博麗神社に向かって飛んでいった。 「痛ててて……不意打ちはないんじゃないかパチュリー?」 「なぜそうなるか、自分の胸に手を当てて聞いてみればいいわ」 ふむ、と頷いて魔理沙はいわれたとおりにする。 「ノーマルなサイズだぜ?」 「誰もそんなことを聞いてない。……魔理沙、何で七色莫迦を誘ってでかけるの? 何で私を誘ってくれなかったの?」 「ちょっと! 『魔法』が抜けてるわ」 「アリス、訂正するところはそこなのか?」 「ともかく! 私というものがありながらなんでこいつと一緒なのよ」 パチュリーが魔理沙に詰め寄る。かなりの気迫だ。 「パチュリー、それは誤解だぜ? 私はこいつがどうしてもついてきて欲しいって頼むから仕方なく付き合ってるだけだぜ?」 「付き合ってる……? 魔理沙とアリスが?」 パチュリーはふらふらと二、三歩下がり反転、地上を離れた。 「魔理沙のばか〜〜〜〜〜! げほげほげほ」 捨て台詞を残して飛び去ったはいいが、喘息の発作が出てきてふらふら。小悪魔が慌てて支える。 「あ〜、えっと、お騒がせしました。パチュリー様が落ち着いた頃にまた会いに来てあげて下さい」 ペコリと頭を下げるとパチュリーと小悪魔は紅魔館のほうへ飛んでいった。 勢いに負けていた二人はただただ、呆然と立ち尽くす。 「……どうするんだ、お前さんが誘ったせいでへんな誤解されたぜ?」 「……どうせ口先三寸で切り抜けるんでしょ。……ふぁ、帰って寝よ」 「私もそうするぜ。なんかどっと疲れた」 こうして二人はとぼとぼと今来た道を引き返すのだった。 後日、魔理沙がパチュリーのもとを訪れて、何とか誤解は解けたらしい。 月も霊夢と紫が月の民と和解し元に戻した。しかし、お月見当日― 「う〜ん、思わず笑いたくなるな」 「せっかく準備したのに……」 「こんなに雨が降るとは思いませんでしたね。月のつの字もありません」 外は大雨。お月見どころではない。 「お二人ともそろそろ諦めて室内へ。風邪引きますよ?」 小悪魔はとりあえず声を掛けるが、二人は動こうとしない。 これ以上邪魔するのもなんのなので放置しておくことにした。風邪を引いた二人の看病するのもまた面白いかもしれない。 小悪魔はそっとその場を抜け出し図書館内に戻ると本の解読作業を再開した。 「ようやく二人になれたわね」 「月見はできないけど、まあいいのか?」 「魔理沙がいればそれで」 「そ、そうか。……ちょっと暑いぜ」 「そう? 私はちょっと寒いくらい」 魔法図書館の屋根の下、雨に掛かるまいとすぐ隣にいた二人だが、パチュリーはさらに距離を縮めた。魔理沙は困ったように視線をさまよわせた後、帽子のつばを下げて表情を隠すのだった。 |
あとがき いろんなところに百合の香りが。 東方シリーズに男性キャラがほとんどいないので自然とこんな風に。パチュリーと魔理沙はASOBUの中で確定のカップリング。 エキストラということでもこたんとEX慧音が出てくると思った方、ごめんなさい。 クリアはしたけどどうもSS化しにくかったのでパチュリー単機で書いてみました。 キャラ性能は適当。紅魔郷は久しくやっていないのでスペルカードも覚えているものだけ。 紅魔郷エキストラもいい加減クリアしなくては……。 追記:魔理沙ってノーマルサイズでいいのだろうか? パチュリーはぺったんこっポイけど……。というか、東方キャラって全体的に少なそう。一部豊かといわれているキャラもいるようですが。咲夜さんは貧に(『殺人ドール』 |