主と式


―マヨイガにて

「紫様、ちょっと場所を移動してください。そこにいられては掃除が出来ませんよ」
「ぐ〜」
ありとあらゆる境界を操作する程度の能力を持つ大妖怪、八雲紫。
彼女の式である八雲藍言われて、夢と現の境にいながら器用に動く。
布団ごと転がって芋虫のように。

うにうに。ころん。

「ぐ〜」
そんな姿で移動した先を見て式は額を押さえた。
「……何もそんな寝難いところに移動なさらなくても……」
部屋と廊下の境。障子戸のサンがごつごつしている。位置はちょうど背中辺り。
もしかしたら背中がほぐれていいのかもしれない。
そのせいかどうかは知らないが、藍が部屋の中に引き込もうとすると布団を抱きしめて抵抗する。抵抗が激しいので諦めて放置することにした。
「まあ、寝にくければ自分で動くだろう」
そういうことにしておく。
藍が離れると紫は布団を放し大の字に。
同時にネグリジェがはだけて色々と外気に晒される。
「……ここは式としてどうするべきか?」
藍、考える。

1、素直に直して布団を掛けなおす。
2、この方が萌えるため放置。
3、橙を呼び出して「体のお勉強用教材」として使う。
4、理性を失くし、テンコー!! と襲い掛かる。

「……4は無しだな」
藍は1を選択。紫の胸元に手を伸ばす。

がしっ、と腕がつかまれた。

「えっ!?」
さらに勢い良く引っ張られバランスを崩す。

ぽよん。

「あら、藍ったら……」
「ゆ、紫様!? 起きていらしたのですか?」
「挨拶はいいわ。それより、いつまでそうしているつもり?」
藍の現在位置といえば紫の体の上。ほっぺたにはぽよんとゆれる膨らみが触れる。
「え、わ、ああ!? し、失礼しました!」
飛び起きようとするが腕はつかまれたまま。
再びつんのめって今度は正面から。

ぽよよん。

「離れていいとも言ってないわ」
(うわ〜、柔らかい……はっ!?)
「紫様! 家事がありますので私はこれで……って、何をしてるんですか!?」
もぞもぞと紫の手が藍の体を撫でまわる。
「昔はもっと細かったのに。ずいぶんと育っちゃって……」
「へ、変なところ触らないで下さい!」
「ぐ〜」
「寝たふりしても駄目です!」
「もう。じゃあ、目を覚まさして」
「何をすればいいんです?」
ん〜、と考え込み紫は唇をなぞる。そして指を止め、トントンと。
それの意味するところに気づき藍は固まった。
「最近、橙にばかりかまって……式のことが気になるのもわかるけど、主の私も大事にして欲しいわね」
紫は目を閉じわずかに唇を差し出す。
「け、けっして、紫様の事をおろそかにしていたわけではありません……から……」
藍も意を決して紫に近づいていく。と、藍の耳がある音を聞きつけた。
じ〜〜〜〜〜。
ついでに視線のようなものも。そちらの方向を振り返る。
同時に紫は小さく舌打ちした。

いつの間にかスキマが開きそこからなにやら出ていた。先端にガラスのレンズがはまった機械。スキマからの漂流物だろう。
「……なんとなく想像つきましたがアレは何をする道具なのですか?」
「周囲の風景をその動きごと記録する道具。あ〜あ、惜しい事したわ。藍コレクションが増えると思ったのに」
「そんなものあるんですか!?」
「まさに成長記録ね」
「……はっ! この道具だけでも―」
藍が手を伸ばすがビデオカメラはスキマに消えた。
「後で橙と一緒に見なくちゃ」
「橙と一緒に? それは恥ずかしいので勘弁してください」
「じゃあ―」
紫は唇をトントンと。
そして、目を閉じる。

「……わかりました」

ホンの一瞬だけの触れあい。藍はすぐに部屋を飛び出していった。
きっと顔は真っ赤になっているだろう。

「ふふふ……可愛いんだから」
残された紫は名残を確かめるように唇に触れた。

あとがく

主と式ではあるが二人はそれ以上の……。
まあ、脳内設定の域を出ませんが。
こういう関係もありかと。

それにしても短い。咲夜さん支援はもう少し長いのを書かなくては。


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