第二回 悪友との再会 ―ウシ車内部 そこの中に光源といえば天井にある小さなライト1つきり。そのせいで向い側に座る男の表情が見えず何を考えているかも読み取れない。ランスは不安そうにしているシィルの肩を軽く叩き心配ないと落ち着かせた。 「……わざわざこんな事までして接触してきた理由をそろそろ聞かせてもらいたいんだが?」 「そうですね。しかしその前に自己紹介を。私はレノンともうします。さて、率直に言ってしまえば強い戦士であるあなたを雇いたいのですよ。反魔王派といえども一枚岩ではない。そのため我々は強い力を欲しています。昨日スレイヤー卿を襲ったのは反魔王派の中でも手段を勘違いしている者たち。あれとに対抗するためにも彼方のような力の持ち主を雇いたいのです」 「なるほど、な」 「もちろん望むだけの額をお支払いします。魔王と魔人どもが旧魔王領に引っ込んだあかつきにはね」 「人は人、魔物は魔物の世界にわかれたらということか。気の長い話だ」 人と魔の共存が軌道に乗るまでにも20年かかっている。逆もそれなりにかかるはずだ。 「いえ、そうでもありませんよ? 人間と違って向こうは魔王の意思で共存しようとしています。もし魔王が人とのかかわりを断つ気になったら?」 「元の世界に逆戻りだな。それで今回の会議を襲撃か。魔王も魔人も来るらしいからな。格好の舞台だ」 「そうです。都市長を皆殺しに止めようとした魔人を殺す事ができればさすがの魔王も今の状況が不自然であると気づくでしょう」 「……まて、魔人を倒すだと? どうやってだ?」 「魔人には普通の攻撃は効かず、聖刀日光と魔剣カオスのみが魔人にダメージを与えられるそうです。でも今は両方とも失われたはず……」 「博識ですね。しかし、間違いがありますよシィルさん。日光は前の魔王に破壊されたそうですが魔剣は、魔剣カオスは魔王ホーネットの手によって封印されただけです」 「……まさか……」 「本部へついたらお見せしますよ。あの、禍々しくも美しい剣を。……彼方なら使えるかもしれない」 「魔剣カオスか……。……ところでさっきから気になっていたんだがお前どこかで会ったことないか?」 ランスは不思議そうにレノンを下からうえまで眺める。ランスが男に対してこういう行動を取るのは珍しい。よほど気になるようだ。 「いえ、先ほど会ったのが最初です。勘違いでしょう、きっと」 レノンはそれきり口を閉ざし、ウシ車は反魔王派の本部へ向った。 ―反魔王派 本部 「……どこだここは? かなり長い時間乗っていたと思うが」 「ここはサウスの街ですよ。ここは親魔王派の拠点であると同時に我々の中心地でもあるのですよ。さて、ご案内しますよ我々の秘密兵器の所へね」 ランスは胡散臭そうに、シィルは不安そうにレノンの後に続いた。かなり大きな屋敷のようで、いたるところに高そうな調度品が並ぶ。反魔王派の構成員はレノンが通るとそろって頭を下げる。奥へ進むのも顔パスだ。ランスはそんなレノンを観察していた。 そのまま地下へ進みレノンが足を止めたのは厳重に封印の施された扉の前。 「さて、着きました。ここに彼があります。今開けますから少し下がってください」 レノンは足元にある小さな扉を開け何か作業した。すると封印がとけ巨大な扉がゆっくりと開いていく。 「どうぞ」 促されて入ってみるとその部屋は意外と小さい。半径5mほどの円形。その中央に台座があり鎖と呪符でがんじがらめにされた剣が刺さっている。漆黒の刀身と闇色の柄を持つ異形の剣。それを見たランスは小さく舌打ちした。 「彼が我々の最終兵器、魔人をも斬れる魔剣カオス。今までに何人もの部下が彼を使おうと試みましたが誰一人として使えた者はいない。彼のもつ負の衝動に犯され発狂させられてしまう。このままでは宝の持ち腐れだ。……しかし、彼方ほどの力を持つものであれば、あるいは使えるかもしれません。どうです、チャレンジしていただけませんか?」 ランスは無言で台座に近づいていく。 「ランス様! ホントにやるんですか!?」 「安心しろ、カオスは俺様の剣だ」 「えっ? どういう―」 ランスはシィルの問を無視してカオスに手をかけた。とたんにカオスの意識が直接語りかけてくる。 『また来たか……もうわしは引退だ。狂いたくなければ早々に手を―』 「黙れ、バカオス」 カオスは黙った。というより思考停止状態に陥ったというほうが正しい。 「この剣、俺が貰うぞ、いいな?」 ランスはカオスを台座から抜き放ちレノンに向けた。 「ええどうぞ。彼方しか使えないのです、我々が持っていても仕方がありません。しかし、代わりに彼方には魔人と戦っていただきますよ?」 「いいだろう、雇われてやる。魔人ともやり合ってみたかったからな。ただし追加条件だ。スレイヤーを解放しろ。後、シィルには絶対手を出すな。あと、俺様の家に居るメイド二人からじじいのぬいぐるみを受け取って持って来い。それだけを守ってもらおうか」 「承知しました。あの、シィルさんのことは分かるのですがなぜスレイヤー卿もなのです?」 「ん? 昔の借り、といっておこう」 「……いいでしょう。深くは詮索しません。他に条件はありませんか?」 その問いにランスは指を三本立てた。 「んん、そうだな。衣食住の保証。VIP扱いでだ」 レノンは苦笑を漏らし頷いた。 「いいでしょう。VIPルームを用意させます。ただし、しばらくはこの屋敷から出ないでいただきます。今は都市長会議が近いため監視の眼が厳しいので」 「それくらい分かっているつもりだ」 ―深夜 VIPルーム ずっとランスを説得しようとしていたシィルをベッドの中で失神させるとランスはすぐさま服を着込みクローゼットに入れてあったカオスを吊るした。そのままテラスへでる。 『まったく、クローゼットなどに放り込みよって……窮屈でかなわなんだ』 「ふん、貴様がシィルにさわらせろなどというからだ」 『仕方ないじゃろ、数十年ぶりの地上だ、女の肌も恋しくなるわい』 「ったく、バカオスが。それよりお前なんでここにいる? くじらのいた大空洞に封印されたんじゃなかったか?」 そのはずであった。カオスは自ら望みホーネットに封印を頼んだ。魔王の施した封印を解けるような人間などいるわけがない。 『その前にわしからも質問じゃ。……お主、記憶はどうなっているんじゃ?』 「一月ほど前だ。プランナー……でいいのか? あいつが現れて記憶制御を解除していきやがった。緊急事態らしくてな、何でも悪魔どもが地上への直接介入を始めたらしい」 カオスは言葉を無くした。元々ルドラサウム追放で8:2くらいで神側に傾いていたパワーバランスが5:5に近づいた。その差を埋めるため悪魔達は自ら禁じていた地上への直接介入を無視し介入を開始し始めたというのだ。 「今悪魔は魂狩りを実行すべく地上に再び戦乱を起こそうとしている。冗談じゃない、俺とシィルの人生をこれ以上めちゃくちゃにされてたまるか。……で、何でお前は地上にいる?」 『今ので合点がいったわい。封印を破りわしを地上に持ち出したのは悪魔だな。そして、反魔王派に与え唆しているのもやつらという訳か。それで、これからどうするんじゃ?』 「今の所は何も考えていない。しばらく様子を見て魔人と接触できれば戦力として取り込む。あとは……まあ、成り行きだな。何しろお前と会う事になるとも思っていなかったからな」 『それはわしのセリフじゃ。……ん? ところでこの会話、悪魔に筒抜けじゃないか?』 反魔王派が悪魔とかかわっているのならそう考えて当然である。だが、ランスはニヤニヤ笑い指をパチンと鳴らした。 「フェリ〜ス」 スッと空間が歪み、ブスッと膨れた悪魔が降り立つ。 「何よ、言われたとおりジャミングしてるわよ。用がないなら呼ばないで。今すっっっっっごく後悔してるんだから!」 『……なるほどの……』 過去ランスに真の名を知られたフェリス、ランスが記憶を消して(正確には封じて)転生すると大いに喜んだ。が、記憶が戻ったとたん呼び出され彼女は後悔した。 ランスの魂を回収した後、主であるラサウムの所へ持っていけばよかったと。ランスが死亡した時点で絶対服従は無効となっているにもかかわらず彼女はランスの言う通りプランナーの元へランスの魂を運んだのだった。 「ジャミングの維持は後五分でいい。また呼ぶから覚悟しておけ」 フェリスは思い切り鼻を鳴らして消えた。 『……ランス、お主まったく変らんな』 「ん? 当たり前だ」 部屋に入ろうとしたランスは振り返って固まった。ガラスの扉の向こうにはシーツを体に巻きつけたシィルが立っていた。 「うにゃ……? ランス様がいる……」 シィルの目はトロンとしていてどうも寝ぼけているようだった。ランスはシィルを抱き上げるとベッドの上に移動させ降ろそうとした。しかし、しがみ付いたシィルは離れない。仕方なくランスはそのまま眠る事にした。ちなみにカオスはテラスに締め出された。 (ふう、あせったぞ。シィルにだけは知られる訳にはいかんからな……) ランスの安堵と裏腹にシィルはやっぱり起きていた。寝ぼけていたのはとっさの演技だ。 話し声で目を覚まし途中から聞いていたのだが悪魔がどうたらこうたらの辺りは何のことやら分からなかった。 分かった事といえばカオスが話せるということとランスが自分に何かを隠しているという事ぐらい。 シィルは改めて自分がランスの事を知らない事に気づき愕然とした。趣味も体の特徴も感じやすい所まで知らぬ所はないと思っていた。しかし、実際はどうだ? さっきカオスと話していたランスはシィルの知るランスとは別人に見えた。 自分の知るランスが遠くに行ってしまったように思えたシィルはそうならぬように少しきついくらいにランスを抱きしめ眠りにつくのだった。 ―翌日 早朝 コンコンとノックの音でランスは目を覚ました。いつものように剣をつろうとしてカオスがあったことに気づく。 カオスを吊るしやっとドアを開ける。 そこには変わったぬいぐるみをもったレノンが。 「これでよろしかったですか?」 「お、早いな。これでいいぞ」 ランスはそれを受け取ると小脇に抱えた。 「しかし、これは一体何なのです?」 「これか? 元リーザス紫の将チャカ・カドミュウムの成れの果てだ。以前のクエストで手に入れてな。それからはシィルに魔法を教えさせている」 「なるほどさすが、ランスさんだ。珍しいものをお持ちですね」 「家に居た二人の女もな自称『魔王の使徒』で吸血鬼なんだそうだ。まったく給料は要らない上にただ俺様の側にいたいだけだとさ。どうだ、モテモテだろう。うらやましいか?」 「ランスさんほどではないですが私もそれなりにモテています。うらやましくないといえばうそになりますが」 その時ランスの背後でシィルが目を覚まし体を起こした。かけていたシーツが滑り落ち何も着ていない胸が露わになった。 「見るな」 ランスは扉を蹴り強引に閉めた。扉より内側にいたレノンは扉に顔を強打され廊下に座り込むことに。 中からはシィルとランス、チャカの話し声が聞こえてくる。レノンは忘れ去られたままだった……。 「痛たたた……まったく、ひどい人だ。しかし、魔王の使徒か、調べておくとしよう」 レノンは痛む鼻を押さえながらその場から歩み去って行った。 あとがき いきなりカオスとチャカが合流です。展開速すぎでしょうか? しかし、魔王列記よりかなり短くする予定ですのそんなもんだと思っておいてくださいな。 |