「好き」という気持ちに境界は無い。 人と魔。 種族に違いがあり、子孫も残せぬ間柄だがその気持ちに偽りはない。 知り合いのクスシ族に聞くところによると裏技も存在するらしいが何か違う気がするのでこのさい除外する。 ……コホン。 「期間は3年間」 ホーネット様の声が蘇る。 楽しい時はこうも早く過ぎていくものなのか。 私は手元の写真入カレンダーを机に伏せた。期限が近い。 ×マークが増えていくカレンダーは目に毒だった。 ×マークが増えていくと同時にため息をつく回数も増えているだろう。 「もうすぐ3年目だな」 ため息の原因が後ろから声をかけてくる。 「早かったな。ひたる暇もありはしなかった」 振り返ると愛しい男がベッドから身を起こしていた。 時と共に残っていた幼さは消え、がっしりした体躯になった。 無駄の無いつき方をした筋肉。思わず見とれてしまうほど。 ……もちろん本人には言わない。ふむ、思考が反れた。 「まあ、レナが忙しすぎたのもあったろうがな」 確かに。アイスの防衛部隊の戦力を強化するという仕事が思いのほか大変でランスとの時間が思った以上に削られてもいた。 それでも私は、十分に幸せだった。もちろん過去形ではなく今も幸せな気分だが。 「さて、それじゃあ、私は仕事に向かう。ランス、今日の予定は?」 「ギルドの仕事が昼から一つ。その前にもう一度……」 「ダメだ。昨日あれだけしたのにまだ足りないか。まったく、私の体調も考えろ」 この男の絶倫ぶりときたらそれはもう……。 普段ガサツなくせに攻めは繊細、身体の感じる部分を的確に攻めてくる。 まったく、何度意識を飛ばされたことか……。 っとと、いかん、思い出すな。今から私は仕事なのだ。私までその気になってどうする。 「そういうなって」 するりと伸びてきた手が身体に巻いていたシーツのスキマをすり抜けてくる。 ったく。経験が豊富すぎるのも考え物だ。 「な? いいだろうぅ!?」 まず、肘を鳩尾に。ランスの身体がくの字に曲がる。 続いて防御の無い顎へ掌打。ランスは仰け反ってベッドまで飛んだ。 その上にシーツを投げ捨て踵を返す。 「シャワーを浴びてくる。大人しく寝ていろ」 たぶん聞こえていないだろうが。 ……念のため風呂場に通じる扉にトラップを仕掛けておいた。 ―都市長の館 談話室 あろうことかトラップに引っかかり伸びているランスを放置し身支度を整えた私はまず都市長の邸宅に向かう。 秘書に通されその部屋で待っていると間もなく都市長スレイヤー卿が現れた。 背筋はピンと伸びとても70代には見えない御仁だ。 「すまない、待たせた」 「いえ。こちらこそ申し訳ありません。急な面会を申し込んで」 「ああ、それはかまわない。さて、何の用かな? いや、聞かずとも大よその推測はついておるが」 「おそらく推測どおりかと」 スレイヤー卿が秘書に合図し秘書は一礼して部屋を出る。 「後三日で期限になります。それにあたってのお話が」 「私としては優秀な君が去るのは非常に惜しいのだがね」 「そういっていただけるのは嬉しいのですが……。今からカスタム経由で魔王城に戻り後任を選抜に行きたいと思います。その許可をお願いしたいのです」 「残念だがしたがあるまい。分かった許可を出す」 「ありがとうございます。では」 ランスには今日出かけるということは伝えていない。魔王城に戻るのは後任を探すだけではないのだ。そもそも、後任ならすでに選んである。 私はある計画の協力を依頼するために帰還するのだ。 二人の世界 外伝 二人は道を分かつ 夜遅く、すでに寝静まった子供達を起こさぬようにこっそりと部屋に戻る。 計画の下準備は完璧。後は実行に移すだけだ。 とりあえず、今夜は寝よう。 そう思いベッドにダイブする。服を脱ぐのもめんどくさい。そんな状態だったから 気付かなかった。 「レナ」 跳ね起きる。窓際の壁にランスがもたれかかっていた。慌てて佇まいを正す。 「な、ランスか。……無断で女の部屋に入るのはどうかと思うが?」 「お前、今日仕事じゃなかったんだって?」 「いや、朝出かけるときにそう言っ――」 「訓練所に顔出したんだよ。なのにお前はいなかった。それどころか休暇の申請を出していた」 いつになく真剣なランスの声。部屋は暗くまともに表情も伺えないが、茶化せる雰囲気ではない。しかし、ばれたのは私のミスだ。 「ホルス隊から帰還命令が届いてな。今日は訓練所についてすぐ休暇申請を出すことになってしまった」 「で、どこへ行っていた?」 「魔王城」 この辺は特に隠すことでもない。 だが、言ったとたんランスが息を呑んだ。 「……今さら帰るだなんて言うつもりじゃないだろうな?」 「少なくとも今はその時ではない」 「……」 何か言いたそうな雰囲気だったがランスは何も言わず部屋を出て行った。 まったく。聡い人間とつき合うのは骨が折れる。 ランスがいなくなって今日の疲れが一気に戻ってきた。そもそも、一日で魔王城とアイスを往復しているのだ。転移装置を使うにしてもカスタムまでは自力で行かなければならない。しんどいものはしんどい。 後二日で期限となる。 ランスと私は互いをパートナーとしうまくやってきた。 だが、私にとっては期限付き。ランスにとって見ればそうではない。 もしかしたら、私と添い遂げる気でいるかもしれない。 人と魔。種族は違えどあの男ならやり遂げるかもしれない。 しかし、それでは困る。世界の契約が履行されない。 だから、ランスには私を諦めてもらうことにした。 私が魔王城に戻っただけでは追いかけてくるかもしれない。 それくらいの無茶はしかねない。 だから私が二度と会えなくなればよい。例え、私を失い悲しみにくれようと半年の月日と彼女との出会いが忘れさせてくれよう。私としては悲しんでもらえるならそれで本望だ。 そう、つまり。 私は死ぬことにした。 と、言えばいらぬ誤解を招く。 もちろん、本当に死ぬつもりなど無い。 他人から探されないようにする時、目の前で死んで見せるのが手っ取り早い。 誰も死人を探そうなどとは思わない。 ランスから離れてランスに私の消息を掴まれないようにするためには私は死んだと思ってもらう必要がある。 そのために一芝居打つ。そのためにあちこちに協力を仰いでいる。 まあ、駄目元で言ってみた方からもいい返事が帰ってくるとは思わなかった。それを伝えに来た使徒は私を殺さんばかりの気迫だったが。 ……あれだな。魔人でも女であり、やはりどんな理由であれランスに近づきたいということかもしれない。偶然以外に会うことを禁じられている彼女らならなおさら。会えるなら理由は二の次なのだろう。 計画書は各自に配ってある。実行は明日。 今日も方々を飛びまわり舞台のセッティングに追われることになる。 芝居とはいえ自分が死ぬ舞台を作るというのは少し奇妙な感覚だが……仕方が無い。 夜。 疲れきった私は孤児院の部屋には戻らずアイス守備隊の宿舎にある一室にいた。 計画の始まりはここからだ。 とりあえず、今できることは眠ること。本人が嫌がるので隠し撮りしたランスの写真を胸に抱き簡易ベッドに倒れこむ。 ……今夜、ランスが仕事でアイスを離れていなければあの腕に抱かれたかったのだが。 ふと、気配を感じ慌てて佇まいを整える。 今は夜中に他人の部屋へ忍び込むのが流行りなのか? ……窓際に立つ後姿はホーネット様のもの。 「計画は、明日実行だそうですね」 「はい」 ホーネット様は一瞬目を伏せて思案顔。そして― 「……本当に、よいのですか?」 一瞬、言葉の意味が分からなかった。だが、理解と同時に少し頭に血が上った。 「……貴方様がそのようなことを言うべきではありません。いえ、口にしないで頂きたい」 「ごめんなさい。貴女を軽く見ているわけではないの。ただ、私は……」 「今さら何を言うのですか!? 期限を区切ったのは貴方様だ。そして、その理由は私も承知しています。……計画に変更はありません。お帰りを」 「……分かりました」 ホーネット様が姿を消す。 「何を、今さら……!!」 誰もいなくなった部屋で私は思わず壁を殴りつけた。私らしくない行動だが今はそんなことに気をつかえる状態ではない。 今それを言いにわざわざ来るのか? なぜ、最初に止めなかった? そう……全ては『今さら』なのに。 翌朝、私はこそこそと日の当るところを避けつつ孤児院に戻る。 夜のことはもう忘れた。計画を実行するのだ。 それが正しい。昨夜のはホーネット様が間違っている。 ランスはもう帰っているはず。その部屋に私は追手から逃れるため逃げ込むことになる。 用意した合鍵を用い部屋に飛び込む。 「な、レナ!?」 「ランス……すまない、匿ってくれ。少し疲れた……」 「いや、ちょ、ちょっと待て!」 何かおかしい。ランス以外の人間の匂いがする。 ……そこでようやく私はランスの方を見る。 なぜ、帰ってきて間もないはずのランスが旅装束でないのか。 なぜ、ランスが触れてもいないシーツがこそこそと動くのか。 ……まあ、いい。今日はもうかまっている暇は無い。むしろ、巻き込まないようにしなければならない。 「……仕事でアイスを離れるというのは嘘か」 「……」 ランスは沈黙。だが、目は肯定している。 まったく……バトルノートの観察眼を甘く見るな。 「まあ、いい。今はそれどころじゃないからな」 「……何があった?」 「とりあえず、彼女には帰ってもらえ。命に関わる」 「お、おう」 修羅場にでもなるとでも思っていたのだろう。普段ならなってもおかしくなかった。 ランスはあからさまに安堵している。 本当は問い詰めたいが今はそのときではない。いや、問い詰める必要も無い、か。 浮気相手が部屋を後にするのを確認して改めてランスの方を向く。 「ちょっとまずいことになった」 「不味いこと? 命に関わるほどのか?」 「そうだな。おそらく消される。知ってはならないことを知ってしまったからな」 「おいおい、誰の秘密だ? 魔王とか?」 「正解だ」 「…………は?」 ランスが固まる。私はあえて黙る。 重苦しい沈黙が続き、耐えられなくなったランスが口を開く。 「追手というのは魔王からの?」 「ああ。今朝防衛部隊の宿舎で襲撃を受けた。相手は……カミーラ様だった」 「カミーラ……って、魔人だぞ!?」 「そうだ。魔人カミーラ。戦闘力では指折りのお方だ。今私が生きていることを考えると今朝の襲撃は戯れにすぎないのだろう。おそらくここもすぐに狙われる」 「……逃げる当てはあるのか?」 「ある。母とその主だった魔物使いとその従魔が創った隠れ里がある。そこは魔王城にも存在を知られていない。魔王が探すにしても容易には見つからない……ハズだ」 「場所は?」 「カスタムのさらに南、大陸の端にある。……本当は私一人で行くべきだった。だが……心細くて……」 「だぁ、皆まで言うな。一緒に行ってやるから」 ぐいっと引き寄せられその腕に抱かれる。……不思議な安堵感。 「相手は魔人。……勝ち目は無いぞ?」 「なら逃げ切る」 にやりと笑って言い切るランス。本当に彼と一緒ならそれも可能かと思えてしまう。 まあ、それは非常にまずいのだが。 いつもの軍服では目立つので控えめな旅装束に着替える。ランスはいつのもブレストアーマーに良く研がれた大剣を吊る。それ以外にもあれこれ必要な物を整えて私たちは管理都市カスタムへの定期便に乗り込んだ。 今のところは順調だ。私にとっても、おそらくランスにとっても。 この定期便は大きな町で一度停まり、翌朝出発する。次はラジールの町。 計画ではそこでも襲撃を受けさらに逃亡した私は町から出たところで殺される。 のんびりとうし車に揺られること半日ほど。日も傾き夜が近づいてくる。 うし車は何事もなくラジールに到着した。 「……到着したはいいがこれは非常にまずくないか?」 「非常にまずいな」 ラジール上空には魔人パイアールの牙城アースガルドが浮遊していた。パイアール様とアースガルドは定期的に大陸上空を巡回し無償の医療技術を提供している。 パイアール様本人に聞いた話によるとほぼ毎日予約でいっぱいらしい。 医療に興味を持ち研究を進める中、人間の女性を攫い半機械化していたマッドサイエンティストは成りを潜めて久しい現在―― 曰く『僕の技術で病という病を屈服していくのが楽しくて仕方がない』との事。 ……天才の考えはよくわからない。 と、そんなことはどうでも良い。 ランスにとってまずいのはあの城には自立機動兵器MPシリーズが多数格納されているということ。その索敵能力はおそらく大陸で最も高い。 「……明日の朝まで隠れていられると思うか?」 「半々、といったところか。確実にアースガルドにも連絡が行っているはず。オーディンが探そうとすればこの町の走査など一瞬だ」 「なら、長居は無用だな。急ぐぞ」 「しかし、この時間から市門の外に出るのも怪しまれないか?」 「……下手に他人を巻き込むよりいいだろ!! 走れ!!」 上空のアースガルドから数十機のMP−Xが射出される。 さすがはオーディン。仕事が速い。 とりあえず、走り出したものの市門から出て間もなくあっという間に周囲を取り囲まれた。 相手は飛行するため当然といえば当然なのだが。 『警告。ソノバトルノートハ指名手配サレテイマス。速ヤカニ引渡シナサイ』 「五月蝿い、黙れ」 『最終警告――』 「御託はいらねぇ。かかって来い!」 ランスは警告を告げていた隊長機に突進する。隊長機は一瞬反応が遅れた。 MP−Xの装甲は普通の剣ではダメージにならない。だが、ランスは大振りの一撃をフェイントにし急制動。懐に入り込んで強烈な突きを放つ。 ……いくらなんでも喧嘩っ早い。 隊長機は首関節駆動部の装甲の無い部分を貫かれ火花を散らして崩れ落ちた。 ランスの戦闘力の高さは知っている。だが、ここ最近の伸び方は異常だ。これが……才能現界無限という特異体質の力か。 「レナ、指示を!」 ここで抵抗しないわけにはいかない。ランスにこれが全て狂言であると気付かれてはならないから。一呼吸置いてランスの戦闘データを引き出し最新の物に更新する。 「能力強化セット。ランス、敵はこれだけではない。体力配分に注意しろ!」 「おう!」 シナリオでもここで殺されるつもりは無い。ランスに追われていることを信じさせるためにもここは勝ち抜かなくてはならない。 『目標ノ危険度再設定。ランクSト推定。オーディンヘノ戦闘許可申請――承認確認。弾種、対人スタンバレット。戦闘開始』 破壊される運命にある彼らには申し訳ないが、ここは一つ全力で行かせてもらおう。 たまにはそうしないと能力という物は鈍ってしまう。 MP−Xのバックパックからアンテナが伸びる。彼らはこれでリンクし、互いの思考をやり取りしながら攻撃を仕掛けてくる。相手にとって不足は無い。 「行くぞ。バトルノートの戦い、その頭脳に刻み込むが良い」 不謹慎ながら笑みがこぼれる。 こうしてランスと共に立つのは状況がどうであれ楽しいのだ。 「はぁぁぁ!!!」 気合一閃。正確無比に振りぬかれた刃はMP−Xを着実に無力化していく。 だが、それを上回るスピードで敵は出撃してくる。 ランスの息が荒くなってきた。私の補助魔法で身体能力を最大限に引き出しているのだ。気力より先に身体のほうに限界がやってきてしまう。 にもかかわらず、本当はとうに倒れてもおかしくないくらい戦い続けているのに、ランスは剣を振るう。回避しきれず被弾して身体が麻痺してきているはずなのに。 最初は心躍った今だが、もう、そのような状況ではなくなった。 ランスに背中を預け正面を見据える。状況は最悪。全方位を包囲されている。 それは予定通りだ。 だが、ランスの状態が異常。 ランスから読み取れるバイタル数値が無茶苦茶だ。普通の人間ならとっくに命を落としている。 「ランス……もう、よい」 徐々に補助魔法のレベルを下げる。 「な、レナお前ここまで来て……!?」 「……これ以上はお前の命に関わる」 「まだ、問題ない」 「私の観察眼を侮るなと以前から言っている。……ありがとう、ランス。ここまでよくやってくれた。私は嬉しく思っている」 じりじりと包囲の輪が縮まる。 「勝手に終らせるな! このまま逃げ切るんだろうが!?」 「……逃げ切ってもお前が命を落とせば意味は無い。これ以上の戦闘続行は無理だ」 「まだだ! まだ行ける……!!」 ランスは私の補助無しで攻撃に移る。 確かに人間ではずば抜けた戦闘センス。 潜在能力も遥かに高い。 だが、身体は人間。耐久力はそれほど伸ばせるものでもない。 今まで無茶な動きをしていた反動が一気に襲い掛かり、ランスは踏み込みと同時に膝を突く。 「く……はっ……」 剣を支えに立ち上がろうとするが動けない。 「ちく……しょう……!!」 動けないランスの前で私は捕縛される。 「ありがとう、ランス。お前と会ってからの生は本当に充実していた」 「そんな言葉は聴かない。指示を出せ!」 「もう遅い―」 大きな翼の影が私たちに落ちる。傾いた太陽を背に黒い翼が空を覆う。 「私の死がそこに来ている……」 カミーラ様が。 ランスはその目に射すくめられ動かない。 そして、私はカミーラ様にランスの目が行っている間に薬を取り出し飲む。 昔、シルキィ様が作り出した薬で今は改良されて即効性を持つ。 PTTP薬・怪。『改』でなく『怪』なあたりキケンな香りがぷんぷんするが……効果は実験済みらしい。その効能は服用した対象の身体を縮めるというもの。 硬直した空気の中、手のひらサイズになった私は服だけ残しMP−Xに保護される。 刹那、上空から打ち出される炎。 MP−Xは即座に退避し、私が居た場所は紅蓮の炎に包まれそこにあったものをほとんど燃え尽きる。残った物はポケットに仕込んでおいた骨っぽい物と縮んだ時に外れた装身具の類が少々。 「……ちっく……しょう……」 生き物が燃え尽きた跡を前に、ランスも気力たのかが尽き前のめりに倒れた。 これで、ランスの中の私は炎と共に死んだ。 そして、私の中のランスも過去となった。 いや、私は……そう決めた。 ―2週間後 アースガルド 「早く解毒剤を作って欲しいみゅ!」 「……みゅ?」 空気が凍りついた。そして、次の瞬間―― 「あ、あはっはははははっ、な、何その語尾!?」 馬鹿笑いしながら机をガシガシ叩くパイアール様。 そう、思考はまともなのに。何故か。 「笑わないでいただきたいみゅ。シルキィ様に頼んでも逃げられてしまったから後はパイアール様だけが頼みなのみゅ」 「ぷ……くっ……あはははっ!!」 あれから2週間たつというのに、身体は元の大きさに戻らなかった。 本来は卵から孵ってほんの数日しかない幼生態のまま、それ以降成長する兆しが無いのだ。 さらにこの口調。どんなに気をつけてもどうにもならない。 ちなみに、元凶たるシルキィ様は『レナが非常に面白いので旅に出る』と不届きこの上ない書き残したまま姿をくらませた。目下捜索中である。 とはいえ、この状態では何を言っても説得力もなく、あちこちから完全に子ども扱いされて居心地も悪いし仕事も進まない。何しろ執務室の椅子に座ったところで座高が足りない。早く何とかしなければと思い、魔王城上空に来たアースガルドを訪ねパイアール様に診察と解毒剤の調合を願い出た。 「あはははははは! ひ〜、おかしい!」 が、……いくらなんでも笑いすぎだと思うのですが? 「は〜、おもしろいね。あまりのギャップに笑い死ぬところだったよ」 ……いや、それは無いでしょう。魔人ですし。 数度の深呼吸の末、ようやく落ち着いたようだ。 「はぁ、よく笑った。さて、例の薬。PTTP薬・怪ってやつ。これの元になった薬はなんていうか知ってるかい?」 「知らないみゅ」 「ぷくくっ」 まだ笑うかこのお人は!? 「……おっと、悪い。元の薬はパーフェクトツルツルペッタン薬というらしい」 ……聴いただけで眩暈がしそうな薬品名だった。そして、用途も連想できてしまう。 よし、製作者をブラックリストに加えておこう。二人の世界の為に。 「幼女趣味の変態な人間が作り出した薬でね。服用者の身体をある一定の身体年齢に固定してしまう効果がある。とはいえ、もとは人間用の薬。シルキィの行った改悪と女の子モンスターの身体との相性のせいでちょっと予想外の副作用が出たみたいだね。まあ、さして強い薬でもないから1年もすればちゃんと成長するよ」 「い、一年も嫌みゅぅぅ!!」 思わず椅子から立ち上がり後ずさる。 そして、パイアール様はまた馬鹿笑い。 「そんなに笑うにゃぁぁ!!」 「あははははははは、今度はにゃ……って……ぷ……あははははっははは!! もう、無理!!」 腹を抱えて笑い転げるパイアール様。 何事かとブラックナースなど治療系の魔物が部屋を覗き込む。 もう、泣きたくなってきた。 「見るなみゅぅ! 笑うなみゅぅ!!」 ああ、逆効果なのは分かっているが……。 もはや、どうしようもなかった。 そうそう、ランスだがアレからしばらくは塞ぎ込みがちだったらしい。 非常にランスらしくない姿だったと。だが、今は見た感じ立ち直っているようだ。 もちろん、心のうちは分からない。 だが、傷ついていたとしても時間と彼女が癒してくれる。 ただ、心の片隅にでも私と共に過ごした時間を記憶していてくれればそれでいい。 もちろん、私は忘れられないし、何があっても忘れはしない。 二人の道は別たれれど私はいつでもランスを側に想う。 「あ、そうそう。さっきのはアレは冗談。解毒剤はここに用意してあるよ」 ………………。 …………。 ……。 とりあえず、差し出された薬を奪取し飲み干すと、隠し持っていたPTTP薬・怪をパイアール様の口にねじ込んだ。 |
あとがき 今読み直してから気付いたこと。 エンディングのネタはギャルズーアイランドやってないとわからない……orz 気分次第で第二案に書き換えるかもしれません。 分からないという方は拍手かBBSまでどうぞ。 追記:バトルノート自体ギャルズーやってないとわからないというツッコミを頂きました。 ……あはっははは、まったく持ってその通りだww ……orz |