オマケ:外伝 二人は道を別つ 第二案

■先に外伝の最終話を最後の方まで読みすすめてください。










「はぁぁぁ!!!」
気合一閃。正確無比に振りぬかれた刃はMP−Xを着実に無力化していく。
だが、それを上回るスピードで敵は出撃してくる。
ランスの息が荒くなってきた。私の補助魔法で身体能力を最大限に引き出しているのだ。気力より先に身体のほうに限界がやってきてしまう。
にもかかわらず、本当はとうに倒れてもおかしくないくらい戦い続けているのに、ランスは剣を振るう。回避しきれず被弾して身体が麻痺してきているはずなのに。
最初は心躍った今だが、もう、そのような状況ではなくなった。
ランスに背中を預け正面を見据える。状況は最悪。全方位を包囲されている。
それは予定通りだ。
だが、ランスの状態が異常。
ランスから読み取れるバイタル数値が無茶苦茶だ。普通の人間ならとっくに命を落としている。
「ランス……もう、よい」
徐々に補助魔法のレベルを下げる。
「な、レナお前ここまで来て……!?」
「……これ以上はお前の命に関わる」
「まだ、問題ない」
「私の観察眼を侮るなと以前から言っている。……ありがとう、ランス。ここまでよくやってくれた。私は嬉しく思っている」
じりじりと包囲の輪が縮まる。
「勝手に終らせるな! このまま逃げ切るんだろうが!?」
「……逃げ切ってもお前が命を落とせば意味は無い。これ以上の戦闘続行は無理だ」
「まだだ! まだ行ける……!!」
ランスは私の補助無しで攻撃に移る。
確かに人間ではずば抜けた戦闘センス。
潜在能力も遥かに高い。
だが、身体は人間。耐久力はそれほど伸ばせるものでもない。
今まで無茶な動きをしていた反動が一気に襲い掛かり、ランスは踏み込みと同時に膝を突く。
「く……はっ……」
剣を支えに立ち上がろうとするが動けない。
「ちく……しょう……!!」
動けないランスの前で私は捕縛される。
「ありがとう、ランス。お前と会ってからの生は本当に充実していた」
「そんな言葉は聴かない。指示を出せ!」
「もう遅い―」
大きな翼の影が私たちに落ちる。傾いた太陽を背に黒い翼が空を覆う。
「私の死がそこに来ている……」
カミーラ様が。

静かに見下ろす視線。本当に殺されるかと思うほどに冷たい。
「思ったより抵抗したようだな」
その言葉は私に向けられている。
「……死にたくはありませんので」
「お前の頭なら無駄な抵抗とわかっていたはずだ。しかも、人間まで巻き込んで。そこまでして生き続けたいか」
「黙れ!」
割り込むランスの声。ランスは崩れそうになる身体を剣を杖にして支え立ち上がる。
「俺は勝手に付いてきただけだ。レナは俺様が守ると決めたからな。……魔人だかなんだか知らないが――」
完全に立ち上がり剣の切っ先をカミーラ様に向ける。
「レナを殺す気なら俺を殺してからにしやがれ!」
ありえない。大きな傷こそ無いがもう立てる力など残っていないはず。
私の眼に捉えられる情報はすでに死んでもおかしくない数値ばかり。
だけど、その目は諦めてはいない。

……知らずに涙が出ていた。

そして、カミーラ様の顔には小さな小さな笑みが浮かんでいた。

「人間を殺すなと魔王から命令されている。こればかりは回避のしようがない。だが、幸いアースガルドが近くにある。わずかでも生きていれば治療可能だろう。……加減というのは得意ではないが――」
カミーラ様の背後に次々と火球が燃え上がる。
その視線はすでに殺すべき私を見ていない。
あの方は、ランスとこうなることを望んでいたのだろう。
「少しばかり戯れにつきあってやろう」

まずい。計画が狂っていく。
あの方は最初からそのつもりだったのだろうか?
否、恐らくランスの殺気に当てられたのだ。珍しく饒舌なのもそのせいだろう。

目の前で繰り広げられるぶつかり合い。最早介入して止められるものではない。
ランスの身体はボロボロなのに。
縦横無尽に襲い掛かるカミーラ様の炎と鋭い爪の攻撃を回避し、スキあらば攻撃に移る。
もちろん、それに効果はない。人と魔人。いくらランスが元魔王でも今はただの人間。ただの少年だ。魔剣カオスも無しに魔人を切ることなど出来ない。
そもそも握っている剣も限界だ。今ではただの鈍器に近いなまくらに成り果てている。
それにもかかわらず、そして、自分すら顧みずランスは戦う。
「どうした、動きが鈍っているぞ?」
「余計なお世話だ!!」
「そうか。だが、お前はなぜそこまでして戦う?」
「レナは俺の女だ。誰にも手は出させない!」
「しかし、お前達は種族が違う。さらに、あの者は魔王の秘密とやらを知ってしまった消されなければならない者だ。世界中の魔物が、人間が敵に回るぞ?」
「ならば敵全てを殺して生き残るまでだ。魔人でも魔王でも人間でも関係ない!」
「フフフ……そうか」
カミーラ様が笑っている。顔を押え、殺しきれない声をあげて。
「てめぇ、逃げるなっ!」
ランスは地上に、カミーラ様は翼を開き上空へ。どうやってもランスには届かない高さ。
「そうだ、それだ。大切な物を取り戻すため、守るために、お前はそうやって世界すら切り捨て滅ぼすだろう。お前の求めるモノは屍山血河の果てにしかなかった。そして……その在り方に私は惹かれたのだ」
「な、何を言っている?」
「ただの独り言に過ぎない。やはり、お前はランスだ。姿も力も違うがお前はそれでこそランスなのだ」
「いい加減下りて来い!」
「いいだろう。これで――」
さっきよりも火球の密度が上がる。あれでは、今のランスに回避しきれない。
「カミーラ様!!」
やめろという意味をこめて叫ぶ。
だが、止まらない。
「幕にしよう」
降り注ぐ火球の弾幕が地上をなぎ払う。
立ち上る爆炎。中心地にいた人間など骨すらも残さないだろう。
そう思った矢先。ランスはその中心から飛び出した。あろう事か高さはカミーラ様と同じくらい。どうやったのか。答えはすぐに出た。破壊したMP−Xのウイング。薄く長いそれで爆風を受け止め足場にして跳んだ。普通はそんなこと誰もやろうなどと思わない。もし思ったとしても実行しない。だが、ランスはいとも簡単にやってしまった。
「こんなところで死ねるかァ!」
予想を遥かに上回る奇襲にカミーラ様が反射的に爪を振るう。
当れば手加減無しの即死コース。
私が声をかけたところで間に合わない。
だが、ランスの発した言葉が私とカミーラ様を凍りつかせた。
「俺はもう二度と自分の無力さで誰かを失いたくないんだ!!!」
今のランスに誰かを失った過去はない。
つまりその言葉は、ランスの魂に刻まれた記憶から無意識に出た言葉なのだろう。
出がかりで止めた必殺の一撃は転じて大きなスキとなり、ランスはそれを見逃さない。
落下のスピードも乗せて剣を振り下ろす。

キーーーーーン

耳障りな音を立てて剣が砕けた。もちろん、カミーラ様に傷は無い。
だが、衝撃まで殺しきれるかというとそうでもない。まったくガードできなかったのも相まってバランスを崩し地面に叩きつけられた。
続いてランスも落ちる。だが、着地などできるわけもなく、受身を取ることも無い。
ランスは一撃の命中と同時に意識を手放していたから。
命令待ちで待機していたMP−Xの拘束を振りほどき走る。間に合わない。
せめて下に潜りこめれば少しはクッションになるはず。
3m、2m、間に合わない。
「ランス!!!」
と、物凄い突風がランスを掻っ攫った行った。
ぐったりするランスを小脇に抱えて浮遊しているのはホルスの魔人メガラス。
土煙が収まると向かい側には同じようにランスを受け止めようとしていたであろう私と同じ格好のカミーラ様。……視線が合って非常に気まずい。
「治療がいる。行くぞ」
メガラス様は空気なんぞこれっぽっちも読まずに相変わらず唐突にランスをアースガルドに運んでいってしまった。
「……さて、本来の命令どおりお前を殺しておかなくてはな」
「本人の前でやら無いと意味が無いと申し上げたはずですが?」
「いや、方法はある」
言うなりカミーラ様の爪が私を襲った。


―アースガルド 一般病棟

ブラインドの隙間から差し込む光にランスが目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。
「つっ……ここ……は?」
あれから半月以上経過した。
ランスのダメージは内臓にまで及んでいて相当に深刻なレベルだった。とてもじゃないが魔人と戦えるものでは無かった。
集中治療室に2週間、一般病棟に移してからもすでに10日経ってようやく意識を取り戻したのだ。だが。
「目が覚めたか?」
隣にいるのは白衣の天使ではなく。
「な……てめぇはレナを殺そうとした魔人!! な、なんでこんなところにいやがる!?」
カミーラ様だったりする。
ちなみに、私、レナはアースガルドのブリッジでモニター越しにランスとカミーラ様を見ている。隣には半分泣きそうなラインコックも。
「お前を死なせるわけには行かなかったからな。動かなくなったお前を拾ってここへ運んだ。もちろん、間に合わず死にそうなら使徒化しても生き延びさせるつもりだったが」
物騒なことを言いつつカミーラ様はある包み紙を取り出す。
包んであるのはあの時バッサリ切られた私の髪だ。おかげで今は首がスースーするほどの長さしかない。
「あのバトルノートの形見だ。私に一撃入れたお前に敬意を表し焼き払わず死体から切り取っておいた。好きにしろ」
「……」
「ではな」
ランスの前に包みを置き、カミーラ様は踵を返す。
「……っくしょ……」
ランスはそれを抱きしめてうつむく。
そして、カミーラ様が部屋を出ると同時に声をあげて泣き出した。
私は見ていることなど出来るわけもなくモニターを消した。
カミーラ様が言った方法、それは自分を圧倒した強者に救われ生かされたと思い込ませて、その後でわざわざ形見を残しておいたとそれを渡すというもの。
実際、効果は劇的だった。

こうして、ランスの中の私は死んだ。
そして、私の中のランスも過去となった。
いや、私は……そう決めた。
もちろん、私は忘れられないし、何があっても忘れはしない。

二人の道は別たれれど私はいつでもランスを側に想う。



あとがき

「二人は道を別つ」のあとがきで気が乗らなければ第二案に書き換えも―っと書いたところ
『いいから両方書け』というコメントを頂きました。
まあ、いまさら差し替えも面倒なのでここに掲載することに。
なんとかシリアスな雰囲気が出ているはず。

ちなみに、ラストの一撃は『るろ剣の明神弥彦の見よう見まねの龍槌閃』をイメージしてください。
まんまです。
というか、完全版が出るにあたり全巻読み直したらアレが書きたかっただけ。

……だめじゃん。



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