コレクター

薄暗い部屋。部屋内を照らす明かりといえばテレビの画面だけ。
『臨時ニュースをお伝えします。先月より世間を騒がせている殺人事件がまた起こりました。被害者は今まで同様20代の女性で手首が切り取られた状態で放置されていました。これで19件目となりますがいまだ犯人につながる証拠はなく―』
ぶつっと音がして部屋に闇の帳が下りる。
「同じ匂いだ……俺と同じ匂い……」
気配が動きカーテンを開ける。月の光が差し込み部屋を照らした。
男が一人といくつもの首が転がっている。全て女性の首で髪の毛が無残にも切り取られている。中には腐敗しているものもあった。
「集めたがりが他にも。……コレクターが」
男は虚ろな笑みを浮かべ作業を開始した。女性の首から切り取られた髪をさらに切りそろえ束ねる作業。壁には名前のタグと写真のついた髪の束が9本かけられている。男は10本目の制作にとりかかった。
「フフ……フフフ……髪はいい……長くて黒いこれはいい……。手に入れたかいがあった」
男は恍惚の表情で手にした髪に頬を擦り付ける。
『怨めしい……よくも……』
直後頭に直接響く声がする。低く押し殺した怨嗟の声。男は周囲を見回そうとした。が、動けない。体が何かにからみつかれたかのように動かない。動こうと体をよじると戒めはさらにきつくなる。
『怨めしい……許せない……道連れにしてやる……』
先ほどより声がはっきり聞こえる。そして、男は見た。うつろな赤い目を。首を落とされた女性の目に虚ろな光がともる。体を縛っているのはそこから伸びる髪。
「へっ……へへへへ……あはははははは!!」
男は狂ったように笑い出す。それに伴って髪が男の体を締め上げる。
徐々に肉に食い込み血が噴出した。
そして、唐突に笑い声が止む。男はずたずたに引き裂かれていた。
『髪……手首……弄ぶ者に死を……』
低い呟きを残し連続殺人犯を惨殺したそれは闇に溶けるように消えた。

「あ、警部! こっちです」
「……これが世間を騒がせた連続殺人犯の末路か。哀れだな」
「しかし何を使えばこんな殺しが出来るんでしょう?」
若い刑事の足元にはもはや原形をとどめていない死体がある。
「のこぎりできられたようにも見えない。かといって日本刀とかそういうのでもないだろうな。……まるでゆで卵の輪切りみたいな感じだな」
「凶器は卵切り機とでもいうんですか?」
「馬鹿言ってんじゃない。しかし、誰が……」
警部は鋭い視線で部屋を見回す。その視線がある一角で止まった。
「部屋は密室でした。ガイシャ以外の指紋もありませんでした。外部から人が出入りした形跡もゼロです」
「数が合わないな」
「は?」
若い刑事の言葉を聞かず警部は壁にかけられた髪の束を見ていた。
「やはり犯人は別々か。君、ここは任せる」
「え、はい。警部はどうなさるのですか?」
「連続手首切り取り殺人犯を追う」
それだけ言い残すと警部はその部屋を出て行った。

―どうも首切り殺人犯が殺されたらしい。これで俺の殺しがやりにくくなる。
今までは単独犯と思われていた分俺にはやりやすかった。
つっと視線をテレビから壁にかかったコレクションに移す。18本、9人分の手首。どれも苦労して集めた一品だ。だがきりが悪い。あと一人、10人目のコレクションがほしいところだ。警察がもう一人の犯人の存在に気が付いたためつかまる危険もあるがそれでつかまるようなへまはしない。記念すべき10に人目のコレクションが手に入ればしばらく身を潜めるとしよう。
ターゲットは以前から調べ上げてある。
家族構成、友人関係、会社からの帰宅経路、その他。
その女の手はぬけるように白くまさに芸術品だ。あのて手に入れるため少々危険だが実行するしかない。今日は金曜日、彼女が遅番の日だ。
俺がコレクションを得て警察から逃げおおせるか、あるいはつかまるのか。
今日はまさに天下分け目の金曜日って分けだ。

ターゲットの帰宅経路には人気のない公園のそばを通る時がある。街灯もなく闇にまぎれて近づけばまず気づかれることはない。
待つこと10分彼女が来た。暗くて顔はわからないがこの時間にこの道をとおるのは彼女しかいない。いつもどおりの手順で忍び寄り猿轡を用意する。後ろからこれをかけて公園の茂みに引き釣り込めばいい。これまで9回失敗なく繰り返してきたこの作業を仕損じることはない。
暗がりから手を伸ばし猿轡をかける。
だが、そのときの感触が変だった。女の首が転がり落ちた。軽く後ろに引っ張っただけにもかかわらずあまりにあっさりと。首は足元に転がるとうつろな赤い目で俺を見る。
視線を合わせてしまった。あまりの事に頭がうまく働かない。気持ちは逃げようとしているが体はついてこない。そんな状態で何かに足をつかまれバランスを崩し無様に倒れる。
一体何がとそれを見て……俺は後悔した。
それは俺のコレクションの手首だった。その手首が無数に這いより俺の体に這い上がったくる。さらに転がり落ちた頭から髪が伸び俺の体に巻きついてくる。
『怨めしい……コレクター……許すまじ……』
直接頭に声が響く。
やめてくれ! 気、気が狂う!
手が……登ってくる……や、やめろ! 来るな! 来るな!
うわぁ!? やめ……許し……て……

『昨夜23時ごろ○○公園で男性の遺体が発見されました。殺害されたのは×××さん、25歳で死因は絞殺との発表です。手で首を締めさらに細い紐のようなもので絞めるという手口から警察は怨恨の線で調査を―』