最終章 決着=始まり

―古代遺跡上空
「―ってな夢を見せてるの。ラッシーから少しづつ魂をこいつに流し込んでるからそう簡単には気づかれないと思うわ。こいつは今も破壊された夢の世界で馬鹿笑いしてる」
「そう。もう少しそのままにしておいて。もうすぐお客を呼ぶ準備が出来るから」
ルドラサウムは夢をみていた。夢の世界を破壊していたのだ。
いつからか? それは上昇してきたルドラサウムに崩れた洞窟の破片に紛れてラッシーとワーグが接触した瞬間からだ。ラッシーの溜め込んだ魂を開放する事でより夢と現実の区別をなくしている。実際ルドラサウムが気づく気配はない。
「リセット、扉の準備は出来たよ」
リセットの側にプランナーが現れた。そして、アースガルドの側に巨大な扉が現れる。
大きさはアースガルドの約2倍。
「あ……あの……リセット様……? この扉はいったい?」
ポカンと扉を眺めていたホーネットは我に帰るとリセットを振り返った。
「ガイがリトルプリンセスを召喚した時の事、覚えてる?」
「はい。確か魔方陣を開きそれから―」
「それは人間を召喚する時。この扉はあの世界の神を導くための物。さあ、みんな離れなさい。くじらさんを起こすわ」
魔人や魔物たちがアースガルドまでさがるとリセットはワーグを連れて転移。同時に夢の中の荒廃した世界は泡が弾けるように消えた。ルドラサウムは目をぱちくりさせた。何が起きているのかわからないといった様子。
「おはよう、くじらさん。いい夢は見れて?」
リセットに気づくと同時にルドラサウムは全てを悟る。
「僕が……神である僕が……お前たちの好きにされていたと言うのか!!」
ルドラサウムの顔が赤く染まっていく。怒りの色だ。
「そのことが、お前が全知全能でないと証明しているんじゃないのかい?」
その言葉の主を見つけルドラサウムの思考が停止した。
「プ、プランナー? 何をしてるんだい君は? ……なんだって魔王の側にいる?」
「あんたに付き合うのはもうあきた。ずっと同じような歴史を作るのがイヤになった。裏切りの理由としては十分だと思うね」
「な……な……お前何を言っているのかわかっているのか? 神でありお前を創ったこの僕を殺そうとするなんて馬鹿げてると思わないのかい?」
「ルドラサウム」
「なんだい!」
リセットの呼びかけにルドラサウムは敵意剥き出しで答えた。
「一つ間違ってる。私達はあなたを殺そうなんて考えていない。大体それが無理だっていう事も知ってるわ」
「ほうほう、じゃあどうするつもりだったんだい? 答えによっては楽に消してあげるよ」
「それは光栄ね。じゃあ答えるわ。あなたを裁くのは私じゃない。……あの扉にまだ気づかないわけ?」
扉にルドラサウムが気づく。その表情が赤から青に変わる。怒りから一転、脅えの色に。
「ま……まさか……」
「数多ある世界の間で異界の者を召喚すること事体に問題はない。だけど、呼び出された先で死んだ異界の者の魂は神を通してもとの世界に還すのが掟。創造神たるあなたが知らない筈ないわね?」
「当たり前だ! それが……どうした!」
「リトルプリンセス、いえ、来水美樹って言ったほうが正しいかしら? その魂は……今、どこにある?」
ルドラサウムの表情が強張る。もはや赤かったころの面影はない。
「創造神であるあなたが持ってるんでしょ? つまり、世界間の掟を破った」
リセットがカオスを扉の鍵穴に突きたてた。ガチャリと鍵の外れる感触が伝わる。
「カオスと日光はこの時のためのカギ。あの頃にはもう計画は動き始めていた」
「そんな……たった……たった人間一人の魂を隠匿するのも、すべて見通していたのか……だからって……介入してくるなんて!!」
「掟を破ったあなたは神たる資格を失う。さ、お迎えを呼んどいたわ。心置きなく裁かれてらっしゃい」
扉が開ききりルドラサウムを上回る巨大な網が襲い掛かる。ルドラサウムはよける間もなく絡め取られた。
「言わないでもわかるでしょうけど彼はリトルプリンセスの世界の神。抵抗は無駄よ」
「うわっ!? この! 放せ!! こんな侮辱が許されるか! 僕はこの世界の神だぞ! それが……それが魚扱いだなんて!!」
「ガキみたいに駄々こねて、見苦しいだけよ?」
「黙れ! 黙れ、黙れ、黙れぇ! 魔王ごときが口を開くな!」
ルドラサウムが必死に抵抗するにもかかわらずその巨体は徐々に扉へと引き寄せられる。
「くうっ……この世界に神がいなくなったらどうなる!?」
「いなくならないわよ。しばらくはプランナーが代行で輪廻を管理するわ。他の神々も協力を約束している。その後はプランナーが正式にこの世界の創造神になる。『プランナー』じゃなくなるから他の呼び方を考えなきゃならないけど。……それとね、くじら一匹いないくらいでダメになるほど世界はやわじゃない。あなたがいなくても日は昇りそして沈む。今までと何も変わらない朝が来る。それは神が誰かなんて関係ないの」
「み、認めない……認めないぞ! この世界は僕の物だ! 創造神は僕の一人だ! それ以外……それ以外―」
ルドラサウムが扉の外へ引きずり出されると同時にその声も途切れる。
「バイバイ、ルドラサウム。もう二度と会うことはないわ」
小さく呟くリセットが見上げる扉はゆっくりと閉じていく。
いつの間にか扉の前に移動したプランナーは小さなビンを取り出し、蓋を開けた。
「さあ、君も在るべき場所へ帰るんだ」
ビンの中にいた小川健太郎の魂はふわふわと漂い扉をくぐる。
そして、扉は閉じると同時にその姿を消した。
「ふう、お終いっと」
リセットは大きく伸びするとアースガルドのはるか上空へ転移。
「パーパ、リセットやったよ! 見ててくれた?」
空の彼方めがけてVサイン。
その時の表情は魔王になって以来一度も見せたことのないまだ幼さの残るとびっきりの笑顔だった。

―ルドラサウム追放から3日後
魔人達の傷も癒えリセットは玉座に集まるように命令を出す。
当のリセットはだいぶ遅れて入ってきた。その姿は最近着ていた黒いドレスではなくカラー族が好む白と緑を基調にしたものだった。最近の姿とかなり雰囲気が違う。
「ごめんごめん、待たせた? ちょっと旅の準備に手間取ってて」
そう言ってリセットは玉座に座る。
「……今、旅に出ると仰られましたか?」
「いったよ。それにもう魔王もやめたの。魔王のままじゃ何かと不便だし」
リセットはアッサリ爆弾発言をぶちかました。
「で、ホーネット、パス」
固まってるホーネットにリセットが球状の何かを投げる。それをかろうじて受け止めたホーネットがさらに固まった。
「ホーネットが次の魔王ね。その力でもって貴女の望んだ人類との共生を目指してみなさい。貴女なら魔王を絶対的な恐怖の対象から変えられるかもしれない」
ホーネットは手の中で光る魔王魂を見つめ言葉を失った。周りの魔人もホーネットの決断を待つためか静かになる。
「貴女が生き残った人間たちを擁護していたのは知ってるから。そんなにやりたいことなんでしょ?」
ホーネットはリセットが人類を滅ぼそうとしていた時も森の奥などに人々を逃がし結界で保護していたりした。
「ホーネット、リセット様が魔王をやめたなら……サテラはホーネットに継いで欲しい」
「私もサテラと同意見です」
「サテラ……シルキィ……」
「どうするの、ホーネット? 決めるのは貴女」
決めるのは自分自身。ランスにもいわれた言葉だ。
「やってみます。……次の千年で人と魔の共存できる世界を創って見せます」
「そ、やる気になったなら頑張って」
「はい」
「さてと、次期魔王。一つ頼みがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「無敵とワーグ貸して。旅の護衛として」
リセットは魔王でなくなったとしても人類から大きな恨みを買っている。もし旅の途中、正体がばれれば……まず間違いなく殺されるだろう。
「はい、姉上」
「や〜よ、リセットはもう魔王じゃないんだからその命令は聞けないわ」
即答する無敵と即断るワーグ。
リセットはニヤリと笑った。
「ワーグ、あの事ばらしていいの?」
すぐに思い当たったのかワーグの顔が引きつった。
「実はワーグ昨日私のベッドでおね―」
リセットにプランナーですら吹き飛ばした飛び蹴りがヒットした。
「行けばいいんでしょ、行けば!! それにあれはくじらにリンクした影響で夢見が最悪だったのよ!」
壁まで転がったリセットは無敵に支えられてよろよろと立ち上がる。
「痛った〜もう少し手加減してよ……。ワーグがいいなら決まりね。ホーネットこの2人借りてくから」
「二人がそれでいいと言うならそれで。いつ出発なされるのです?」
「従者2人の準備が終わり次第すぐにでも」
「ではすぐに準備してきます」
無敵は答えて、ワーグは無言で玉座の間を出て行った。
「あ、そ〜だ。パーパからの伝言があるけど、聞く?」
「ランス様の伝言!?」
ホーネットを筆頭に女たちがリセットに詰め寄る。リセット圧死寸前。
「ぷはっ……死ぬかと思った。じゃあ言うわ。『俺様は転生する事にした。どこかで偶然会うこともあるかもしれないな』だって」
「転生って人間にですか?」
「それ以外になんてパーパのプライドが許すと思うの?」
「……どうせあいつのことだから女の子とヤル事しか考えてないのよ」
志津香が断言する。うんうんと頷く魔人が数名。
そんな中リセットはニヤニヤ笑いを浮かべながら玉座の間を出た。
「フフフ、みんなビックリする上に落ち込むだろうなぁ。ホントの事を知れば……」
「何かホーネット達に言わなかった事があるのね?」
「わわっ!?」
いつの間にか背後にワーグとラッシーが。
「驚かさないでよ、もう。言わなかった事っていうのはパーパが一人で転生するんじゃないって事」
「それが?」
「2人は結ばれる事が決まっているの。パーパが魔王になりくじらを追放するって決めたその瞬間からね。転生して、あの人とただ幸せに暮らすことが最大の目標だった。今後の世界にはそうなるように影響力が働くわ。大げさに言ってしまえば……二人のための世界。他の女が入り込む余地は微塵もない。……いや、ちょっと……それなり……う〜ん、だいぶあるかな? パーパはえっちだし」
「なるほどね、それを彼女たちに伝えなかったと」
「そう。入れる隙がないと知った時、絶望に歪んだ顔が見てみたくて」
「……あんた鬼ね。むしろ悪魔かも」
「ワフワフ」
ワーグとラッシーの素直な感想だった。
間もなく無敵が合流し3人と一匹は城を出た。絶壁をラッシーで越え地上に立つ。
「で、どこへ行くの?」
「そうね、最初はアスカ姉ちゃんに謝りに。お墓参りにも行ったことなかったから」
「大陸横断してJAPANへ、ね。いったい何日掛かるのかしら?」
ラッシーに乗ればひとっとびだがワーグの足で歩くとなると……。
「さ、出発!」
大またで一歩踏み出すリセット。
「姉上、逆方向です」
無敵のツッコミをうけて咳払いを一つ。
「では改めて。出発!!」
こうして元魔王と魔人2人は旅立っていくのだった。

魔王列記〈了〉


あとがき

終わってしまいました。当初の予定をはるかに上回る長さです。正直な話いつからこうなったのか皆目見当もつきません……。
さて、魔王列記いかがでしたでしょうか? ASOBUとしては楽しみながらかけたので合格点のつもりです。『よし、採点してやる』という奇特な方は掲示板にでも。
誠志道場に投稿したほうの感想にも書きましたが続きみたいな話を書くかもしれません。まあ、何か反応があれば、位のつもりです。

一人にしか分からないであろう追伸。
かなり最終章が遅くなりました。一方的に送ってからかなり時間が経ってますね……申し訳ない。大した物ではありませんがどうぞ。

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