魔王列記・外伝V 喪失 長崎城が陥落するのを私達3人はただ見ているしかなかった。切華から知らせを受け、途中でハニ吉と合流し城に到着した時にはもう何もかもが終わっていた。 城は紅い閃光と共に大破、今は瓦礫の山となっている。もちろん生存者も探してみたが一人もいなかった。そのほとんどが刀傷で城が吹き飛ぶより先に息絶えていた。襲撃はあまりに突然だったらしい。私なんかよりはるかに強い武士達が刀を抜く前に殺されているのだから。 そして、瓦礫の山を探した結果、私達3人の主がそこにはいないことが分かった。死体はなかった。だから生きてはいるのだろう―そう思いたい。……分かったのはそれくらいでしかなかった。 「邪美、落ち込んでいても仕方がない。これからどうするか決めよう」 「……ええ」 私の目からみると切華は少しもショックを受けていないように見える。私は主の危機に何も出来なかった事を後悔しているというのに。 私達が今いる場所は長崎城下にある切華の家だ。城で遺体を埋葬してとりあえずここへ戻ってきた。 「私は一度魔王城と連絡を取ってみるのがいいと思う。魔人メガラスが月乃の所に定期報告へ来る時期だから彼に頼めるかもしれない」 メガラス。……正直な話あの魔人は苦手だ。コミュニケーションは取りにくいし彼のおこす突風はせっかくセットした髪をぐしゃぐしゃにしてしまう。 「じゃあ、月乃のところへ行くんだネ?」 ハニ吉の問に切華が頷く。本来、切華の前で月乃の話は禁止だ。以前決闘して負けた時以来二人はライバルであり、負けた切華にしてみれば最もヤな相手だ。名前を出しただけで怒鳴られた事もあるほど。 「なら決まり。早く行きましょう。ちょっとでも早い方がいいわ」 「ああ。最短ルートを使う。遅れるな」 「大丈夫よ」 それから私達は月乃の住む洞窟へ向った。 ―月乃の住処 結局、そこでは何一つ情報が手に入らなかった。なぜなら月乃が不在だったのだ。 月乃自身が長崎城の異変を悟り魔王城へ出かけた直後だったから。 仕方なく私達はもときた道を引き返した。 ―切華の住処 帰ってきたとたん私達は異変を感じた。誰もいないはずの家に気配がある。それも二つ。 自然と体が警戒態勢に入る。そのまま上官である切華の指示を待つ。 「行くぞ」 GOサインと同時に中に毛針を撃ちこむ。ハニ吉はハニーフラッシュを、切華は光の矢を。だが攻撃は一つ目の気配の前で消えた。絶対命中率を誇るハニーフラッシュですら掻き消された。ありえない。破れた障子の向こうにいるのは白いローブを着た男。 切華は続けて闇の矢と光の矢を連射する。男はあろうことかそれを素手で掴み取った。 「こらこら、僕の後ろには怪我人がいるんだ。手荒な真似はよしてくれないかい?」 つかみ所のない気配で男は後ろを指差した。全身に包帯の巻かれた怪我人だ。私の良く知っている気配……。 「アスカ!?」 真っ先に気が着いたのはアスカと最も仲の良かった切華。すぐさま抱き起こそうとしたが男が止めた。 「全身にやけどを負っている。普通なら致死レベルのね。下手に動かさない方がいい。わざわざここにきたのは君達に彼女の治療を任せたいからだ。一日2回包帯を替えこの薬を全身に塗るだけでいい」 差し出されたのは毒々しい緑色の軟膏。こんな物を塗ってほんとに効くのか疑問。 「……アスカは引き受ける。……リセットと無敵がどうなったのか知っているのだろう? 話してもらおう」 目の前にいる男がなんとなく得体の知れない存在だとは感じ取れていた。それでなお、切華は情報を得ようとする。 「……君達が行って出来る事はもうない」 男はそう言って天を仰ぐ。 「彼はもう決めてしまった。彼女もそれを受け入れてしまった。僕はその二つを受け入れ見守るしかない。そうしないと今までの苦労が泡と消える……。僕に出来る事はもしもの時のストッパーを用意する事くらいだ」 「どういう意味だ? 魔王は何を決めた? リセットは何を受け入れたんだ!?」 話の流れで『彼』と『彼女』が誰を指すのかわかった。そして、リセットが何を受け入れたのかも。切華も気づいていたはずだ。ただ、認めたくなかったんだろう。……私だって認めたくはない。 「……君は答えを知っているはずだ。ほら、感じるだろう、彼女の力を」 本能を強烈に揺さぶる威圧感。一瞬放たれた魔王の気配に私達が馴れ親しんだものが混ざっている。私達の主君はあまりに遠い存在になってしまった。 「そう落ち込むことはない。君達には大事な役目がある。暴走した場合、彼女を止めるという重大な役目が。そのためにもアスカ君の治療、忘れずにね」 「どういう……ことだ?」 「今は考える必要はない。必要が出てくるとしたらおそらく数年後だ。それまでアスカ君を連れておとなしくしておく事をお勧めするよ」 男は一方的に告げるとかすれるように消えた。暫くあっけに取られていたが切華に肩を叩かれ正気を取り戻す。 「……あいつの言うとおりにしておこう。今はアスカが心配だ。富士の癒し場へいこう。あそこなら好き好んで来る者はいないだろう」 その場所は霊峰・富士の樹海の奥深く。よほど慣れた者でないと辿り着く事など出来ない場所だ。癒し場とはモンスター達が戦闘で傷ついた時などに使う特殊な場所で、不思議な力がそこにあり、傷の治りが早くなる。はるか以前にウエンリーナが住んでいた場所だとか天に帰る魂が通る道だとかその『力』については諸説あるが未だ解明されていない。たいていモンスターのコロニーはこの癒し場中心に作られる。その中でも富士の癒し場は癒しの力が強い。だが、富士にはモンスターを寄せ付けない力場のようなものがあり近づくには苦痛を伴う。霊峰と呼ばれる由縁だがそのためモンスターのコロニーはなく存在は知られていてもわざわざ出向くものはいない。私達も相当な苦痛を被るだろうがアスカの命の方が大事だ。 私達は霊峰・富士に抗い、交代でアスカを背負いながら癒し場へ向った。 ―富士の癒し場 いったんその洞窟の中に入ってしまえばさっきまで襲ってきていた苦痛はウソのように消えた。さすがは癒し場といったところか。ただここへ来るまでの疲労が大きかった為3人とも動く事も出来なかった。苦痛を伴う富士の樹海へふみこんで2日目さすがに命の危険を感じ始めた頃にこの洞窟は現れた。 「しばらく休んだら奥へ進もう。こんな入口では雨風にさらされる」 切華はずっとアスカを背負っていたにもかかわらず一番余裕があるように見える。……さすが切華。一方、ハニ吉は突っ伏したままピクリとも動かない。そういう私も動く気力ですらわかない。 一時間ぐらい休み奥へと進む。奥に行けば癒し場の中心がある。足首くらいの深さの浅い泉だ。直径5mほどの円形の泉で絶え間なくすんだ水が湧き出している。アスカを側に寝かせ皮膚ごと剥さないように気を使いつつ包帯をとる。緑の軟膏の効果か、謎の男に連れて来られた時よりはマシになっているがほぼ全身におった火傷は痛々しい。よく生きていると感心するほどだ。慎重にアスカを泉にひたし頭だけ出るように切華が膝の上にのせる。 どれくらいかかるかわからないがアスカが意識を取り戻し火傷が治るまで私達はここから動けない。 「切華、疲れたらいつでも代わるから。ずっと水の中にいるのも辛いでしょ?」 「そうね、でもまだまだ大丈夫。邪美悪いけど食料を探してきてくれない? たぶんここには何も無いから」 「了解。ハニ吉は残ってて。ちょっくらいってくるわ」 と、言い残して出たはいいけれどやっぱり外はキツイ。ここでの生活は予想以上に辛そうだ。 富士の癒し場の力をもってしてもアスカが意識を取り戻すまでに1ヶ月かかった。そして、話せるまでにさらに半月、ここへ来てから1ヵ月半ようやくアスカと話す事が出来た。 「……死んだと……思ったけどな……」 「アスカ! 話して大丈夫なの!?」 意識を取り戻した直後は言葉を出そうとして舌が思うように動かず言葉にならなかった。今は小さい声だが聞き取れる。 「切華、ハニ吉! 起きて!!」 「ん……アスカ! 大丈夫なの?」 「切華……説明してくれる? 私どうして生きてるの? プチハニーに血を吸わせて自爆したはずなのに……」 「すまない。なぜ生きているのかは分からない。ただ、爆発の後白いローブをきた男がアスカを連れてきた。それから私達がここへ連れてきて治療している」 「リセットは? 無敵はどうなった? 五十六さんは?」 その問に切華は目をそらし、唇をかんだ。話せるようになってもまだアスカの状態は予断を許さない。今、アスカに聞かせるのはまずい気がする。食料探しのときに仕入れた情報によると山本将軍は死亡し無敵は魔人に、リセットは魔王になり人類に大規模な攻撃を仕掛けた。余計なショックを与えるべきではないと3人で意見は一致させてある。 「どうしたの? ……答えてよ……」 「すまない、アスカ。今は傷を治すのに専念してくれ。立てるようになる頃にはすべて話す」 「……よっぽどよくない状況になってるのね……いいわ、今は聞かない。こんな怪我すぐ治しちゃうからちゃんと聞かせてね」 「ああ、わかった。だから今はゆっくりと休んでくれ」 「そうする……」 僅か5分ほどのやり取りだったがアスカはだいぶ消耗したようですぐに眠りに落ちた。 「主が魔王になったと知ったら……アスカはどうするのだろう?」 ふと湧いた疑問が口に出た。切華が訝しげに私のほうを見る。 「……アスカの事だきっとリセットを叱りに行くと言い出すに決まっている。……恐らく魔王となったリセットは私達が知る彼女と別人だ。いけば恐らく殺される。アスカと知った上でな」 「確かに残虐性は増したみたいだけどいくらなんでもアスカってわかれば手は出さないんじゃない?」 「……分からないうちに殺されるかもしれない」 それはあんまりだ。阻止するためにもアスカとリセットは会わせないと3人で決めた。 意識を取り戻したことが関係あるのかアスカは順調に回復していった。今では少しなら歩けるほどにまでなっている。だが、それにつれて私達の気は重くなる一方だ。リセットはあれから2ヶ月で5つの都市を攻め滅ぼした。しかも、皆殺しだ。女子供関係なく、残されたのは死体の山と血の河、後は瓦礫のみ。そしてそれをやったのはリセット一人だという。大量のモンスターで都市を包囲しリセット一人が虐殺を行ったというのだ。……こんな事実をアスカに知らせるのは……正直つらい。 「そろそろ話してくれない? 立てるようにはなったでしょ? 外の世界はどれくらいひどい事になってるの?」 切華を見る。彼女は決心したのかアスカの目をまっすぐに見た。 「魔王ランスが死に……リセットが後を継いだ。父親を殺されたリセットは人間に憎悪を抱き虐殺を行っている。あれから3ヶ月ほど経つが7つの都市が壊滅した」 ある程度予想はしていたのかもしれない。アスカは唇を噛みうつむいた。 「……無敵と五十六さんは?」 「無敵は魔人に、山本将軍は殺されたらしい」 「……そう」 表情に変化は無い。逆にそれが不気味だ。 「……止められないとしても……姉として一言、言いに行かなきゃダメよね。きっとリセットを思いとどまらすために2回も死に損ねたんだ」 予想通りの反応だった。それに対する対応も決まっている。 「ダメだ。行かせることは出来ない」 切華がきっぱり言い切った。3人とも移動し外へつながる通路の前に立つ。アスカを死なさないためにもこの道は譲れない。 「きっと行ったら殺されてしまう。だからお願い、考え直して」 「たぶん、殺された方が効果的よ。それで、リセットがやさしいあの子に戻るなら安いもんじゃない」 「違う。それはアスカ自身の自己満足に過ぎない。どうしても行くというなら―」 「どうやってでも行くわ」 アスカの背後にチューハイが揺らめく。……本気だ。 「そうか……なら私もいく」 切華から飛び出したセリフは打ち合わせとはまるで違った。予定では縛り付けてでも行かせないはずだった。 「切華! どういうこと!?」 「安心して欲しい。アスカが死ぬのを見に行くわけじゃない。アスカがリセットと話すチャンスを作りに行く。この命を犠牲にしてでも」 「……二人じゃ心もとない。つきあう」 ハニ吉までアスカ側にいってしまった。正直あきれている。バカばっかりだ。……結局の所私もバカの一員に変わりはないのだけれど。 「邪美はどうする? もちろん強要はしない」 「たった3人じゃ群がる雑魚を片付けるの大変でしょ? 仕方ないから私も行くわ。ここまで来たら一蓮托生よ。でも勘違いしないでね、アスカ。私はあなたを死なさないためについていくから」 それからアスカの傷が完治した半年後4人で富士の癒し場を出て拠点を切華の家に移した。 癒し場の力なのかあるいは、あの緑の軟膏の効果かはわからないがアスカの体には火傷の跡すら見当たらない。時間をかけただけあってきれいなものだ。だが、その時間の間に世界の半分は滅ぼされた。昨日の段階でヘルマン地方のポーンが滅ぼされている。私達4人は相談の結果アークグラードで待つことにした。最近侵略は速度を緩めリセットは月に一度のペースで町を襲っている。そのコースを予想して選んだ。長崎の町からアークグラードまで移動しそこの地図を頭に入れるくらいの時間はあるハズだ。もちろん魔王となった主が気まぐれを起こさないとも限らないが。 ―アークグラード この町に滞在してすでに2ヶ月がたった。予想に反して主はゼス攻めに移った。ヘルマンはローゼスグラードが滅ぼされたのを最後に捨て置かれている。おかげで私達は待ちぼうけだ。冬が近づきさすがに今の隠れ家では寒くてたまらない。一目で人間でないとわかってしまうハニ吉がいるため町の中にある宿などは使えない。偶然見つけた廃屋に4人で潜んでいる。ボロボロのため隙間風がビュービュー吹き込みたまらない。ついでに資金もつきかけていた。 「あと食費がこれだけしかないわ」 アスカが財布を逆さまにするといくつかの硬貨が転がり出た。……1000Gもない。もって後半月といったところか。 「これじゃまずいから私、アルバイトしようかと思ってるんだけど?」 「ダメだ。私達の目のとどかない所へいくのは許可できない」 「でも、このままだと飢え死によ?」 アスカの言う事はもっともだ。しかし、長時間私達の側を離れるのはよろしくない。いつ主が襲ってくるともわからないのだから。 かといって金策を講じないと主を待つどころではない。どうしたものか……。 『警報!! 魔王が……魔王が来……ギャァ!!!』 町中にマイクを通し響き渡る断末魔。主の襲撃はあまりに唐突だった。 『はじめまして。そして、さようなら。アークグラードの人間、おとなしく死んで』 だいぶ大人びたが聞き間違えようの無い主の声。 『どうしても生きたい者は1時間逃げなさい。私に見つからなければ見逃します』 命をかけた鬼ごっこ。放送が終わってからあちこちで悲鳴が聞こえる。 「……ランス王が目の前で殺された事がよっぽどリセットを変えたのね……。どうあっても止めないと」 アスカがそう言った直後だった。それが起こったのは。 「見つけた」 小さな呟きとともにアスカの背後に人影が現れた。そして、アスカの胸から剣が突き出した。起きてはならないことが、私達が命をかけてでも阻止しなければならないことが起きた。剣が突き出したのはちょうど心臓の位置。即死だ。私達は……動く事すら出来なかった。 「ん? 神風に髪長姫にブラックハニー……。何でここにいるの? 総員外で待機を命じたはずよ? それとも、私の楽しみを奪いに来たの?」 血に濡れた剣をさげ、返り血に染まった主の姿は私の覚えている主の姿とはあまりにかけ離れていた。壮絶なまでの美しさだ。 「もし、邪魔しに来たのならさっさと死になさい」 とてつもない殺気が体を縛る。呼吸すらままならない。にもかかわらず切華は主の方へ、否、主の足元に倒れているアスカの側へ。その体を抱き寄せた。 「何? 人間が一人死んだくらいで泣いてるの?」 「……」 涙をぬぐおうともせず切華は無言で主に近づき、突然主の頬を張り飛ばした。主もまさかそんなことをされるとも思わずそれをまともに受けバランスを崩す。 「……リセット、あなたとの主従関係は今をもって終わりだ。私の主君はもういないようだ」 「な……ただの魔物の分際で! 楽には殺さないから!」 「いいかげんにしろ! 自分の部下の見分けもつかぬほど堕ちたか!」 切華は右手を突き出す。リセット警備隊に所属する証、右手の甲に彫った『R』の刺青。主は剣を取り落とした。 「……切華……なの?」 主は恐る恐る足元にあるアスカの死体へ視線を落とした。目に見えて表情が強張る。 「……アスカ姉ちゃん……? そ……そんな……なんで……?」 「アスカはリセット様を止めようと会うチャンスを狙っていた。けど……貴女は何の躊躇もせず……!!」 思わず叱咤の言葉が口をついた。主は今にも泣きそうになる。 「や……そんな……アスカ姉ちゃん……目を……開けてよ……」 そのままアスカの体にすがりつき激しくゆする。……そんなことをしてもアスカが目をあける事は無い。 さらに主は自分の手首を切りあふれた血をアスカの胸にあいた穴へ流し込んだ。しかし、……魔人化は死んだ者には効果が無いと聞く。案の定アスカが息を吹き返す事は無かった。 「ヤダ……ヤダ……なんで? また会えたのに……」 主はボロボロと涙を流す。切華はそんな主の手からアスカの遺体を抱き上げた。主は抵抗することなくアスカを放した。 「リセット、アスカの、あなたに伝えたかった願いだ。『これ以上その手を血に汚さないで。魔王といっても色々な生き方があるはずだから』……伝えたぞ」 「―ない……」 主が何か呟いた。だがはっきりとは聞こえない。 「それは……聞けない……。私が魔王になったのも、パ〜パが死んだのも、五十六母さんが殺されたのも、アスカ姉さんがこんな目にあったのも……全部……人間のせい……全部、人間が悪いんだ……」 「リセット!」 主がふらりと立ち上がる。その目には暗い炎が揺らめいている。本能が警鐘を鳴らした。 危険、離脱せよと。尋常でない魔力が主から開放される。 「消してやる……人間なんてもう容赦なんてしない! みんなこの手で根絶してやる!」 「っつ……!?」 主が纏っていた魔力が開放された。目の前が真っ黒に塗りつぶされていく……。 私は死を覚悟した。 「―み、邪美!」 体を揺り動かされふと意識が戻る。……死んではいないみたい。 目の前にいたのは切華だった。すぐ近くにはハニ吉も転がっている。場所もアークグラードではない。一体何が起きたのか……? 「僕が説明してあげよう」 思わず跳ね起きる。その気配はいつぞや感じたことのあるものだった。 あの時とまったく変わっていない白いローブの男。 「結局、アスカが命を賭してもリセットの意思は変えられなかった。むしろ彼女は人間への憎悪を更に燃やす結果になった。……もちろん君達のせいじゃない。……アスカが命を落としたのもね」 「……なぜ私達を生かした?」 「ランスの願いだよ。娘の事を思っていた仲間を見殺しにしないでやってくれ、と」 「……そうか。それで、ここは?」 「富士の癒し場だ。とっさに君達を転移させられる場所が無かったから。もちろん、ここで暮らせというわけではない。どうするかも自由だ」 そういい残すと男は消えた。……結局何者なのかわからず終いだった。 「もはやリセット警備隊は解散だ。……これからどうするかは各自自由だ」 「その前にやることがあるでしょ」 アスカの遺体を埋葬しなくてはならない。そのあと私はどうするのか……。大きな目標があったぶん喪失感は大きかった。 魔王リセットの残虐性は更に増し大陸上から人間のすめる場所はほとんど消えた。 そして、もはや、私の知っている主はこの世にいない。 心にあいた大きな喪失感を埋めることのできる日は来るのだろうか…… あとがき 第31章と32章の間に入る話となります。 なんだかどんどんリセットが壊れていきます。……良心が少々痛んだり。 今回の語り手は髪長姫の邪美さん。名前は大悪司でやった人ならわかるかもしれませんがきっこちゃんと悪司の娘より。切華も実は同じところから。 以上、ASOBUでした。 |