直球甲子園
三
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なぜ？ どうして？ 俺の頭には疑問符ばかりが浮かび上がる。 俺の変化球の要求に頷きながら、直球を投げる― 四季、何考えてんだ！？ 捕手矢加部の不安 焦る気持ちをどうにか抑えて、今度は直球のサインを出す。 軽く頷いて、振りかぶる四季。 キャッチャーミットを前に出す。 四季の手元からボールが離れる。 バッターが踏み出して、振り抜く。 空振り。 ほぼ同時にミットに収まる四季のボール。 わずかに遅れて手に伝わる強い感触。 要求通りの、スピードボール。 電光掲示板に目をやる。 １５０キロ。 はやい。 全力投球には、はやすぎる。 高校野球で勝ち抜くには、二回戦以降も視野に入れた投手起用が重要― それなのに、うちのエースは― 四季は、一回から正真正銘の全力投球。 相手チームには悪いが、四季の力を持ってすれば全力投球の必要はない。 それなのに… いやそれ以上に― 疑念でイヤな汗をかきながらも次のサインを出す。 俺は外にはずれるカーブを要求。 唾を飲む。 四季は振りかぶり― 投げる。 速い、直球。 外角低め、威力充分。 球審が手を挙げる。 二者連続三振。 ―まただ― 変化球を投げない気か？ なぜ？ わからない… 次のバッターが、左打席に入る。 県大会で４本もホームランを打った強打者だ。 油断できない相手。 コイツにも、直球だけで勝負するのか？ 俺はもう一度、カーブのサインを出す。 ミットを出す。 四季が投げる。 バッターがバックスイングする。 ボールが曲がらず、ど真ん中へ― ミットに収まると思った瞬間、ボールは高く舞い上がった。 打球はセンターに伸びる。 四季が後ろを仰ぐのが見える。 真城が懸命にバック。 バック。 バック。 フェンス際でジャンプ、そしてキャッチ。 ファインプレイ。助かった。俺は立ち上がったまま、マウンドを降りる四季を待つ。 四季は帽子を深く被って、俺の横を無言で通り過ぎた。 いったいこれから…どうすれば良いんだ？ |