せきはらパート

木々の間から日光が漏れる、薄暗い森の中をディスは足を進めている。
木の根を踏みながら進む彼女の足取りは大胆だ。
白のローブにブラウンのスカート姿のディス。ブーツが枝を踏んで音を立てる。
「む……」
そんな彼女の眉間に皺が寄る。彼女は枝を踏んだまま静止した。
と、ディスの背後から人影が現れた。彼女は背後に気配を感じるや振り返り、掌を突き出した。
「どりゃあ!」
年頃の乙女のものとは思えない豪快な声と共に人影が光に包まれる。ディスの得意魔法、雷が炸裂したのだ。
人影はぐうの音も出せぬままゆっくりと地面に倒れる。
「いっちょ上がり♪」
ディスは何もなかったかのように前進を再開する。
「しっかしやっぱり襲いかかってくるワケね……やれやれ」
彼女はため息混じりに呟いた。
ディスのような15、6の少女が一人で登山しているのには特殊な経緯があった。ちょうど一ヶ月前、国家は『未来への扉』を開くことを明かした。その知らせは一大ニュースとなり国中を騒がせた。さらに国家はその知らせと共に『未#FAFAD2来への扉の向こう側』の見学を希望する者を募集した。応募資格は14才以上であることと腕に自信があること。その二つのみだった。当然の如く応募は殺到したのだが、そんな莫大な応募者の中から彼女、ディスは選ばれたのだ。
「えーと確か審査通過者が39人だったから……私を除いてあと35人いるワケか」
ディスは歩きつつ独り言を続ける。根がお喋りのディスの口は放っておくとどうも開閉したがるようだ。その独り言の内容から既にディスが4人リタイヤさせたことが解る。
「しっかし襲ってくるのは戦士風の男ばっかだなぁ……なんでマジシャンいないんだろ?」
魔法の使えるマジシャンは人口比率からするとほんの僅かしかいない。が、応募規定に『腕に自信があること』とあれば、マジシャンが相当多いだろうとディスは踏んでいたのだ。そのための装備を調えてきたし心づもりもしてきていた。しかしまだ、ディスはマジシャンに遭遇していない。彼女は、マジシャンにはこの手のイベントは好かれないのではないかと想像する。自分のような性格のマジシャンは珍しいということを彼女は認めていた。
「こりゃ師匠に秘密で来て正解だったかも……っと」
微かな人の気配。立ち止まって周囲に注意を投げるがどこにいるのか解らない。
ディスは痺れを切らして走り出した。慣れない森でスピードは出ない。が、スピードは問題ではない。潜伏者をあぶり出すために走るのだから。
「おっ」
声を上げるディス。斜め後ろの木々を足場に跳ぶ影が目に入った。
「身軽なヤツ!」
ディスは振り返りざまに空中に跳んだ姿勢の人影に雷を放つ。
「おわあぶね!」
しかし人影は空中で姿勢を変えて雷を避けた。
「!?」
ディスは驚きに声が出ない。彼女は過去空中で姿勢を変える人を見たことがなかった。ディスが足を止めていると目の前に影が降り立った。
肌を隠す束縛感のある衣装は黒一色。露出した目だけが輝いている。線の細い体格。そんな男がディスに歩み寄る。
「ヘイ彼女、もしかしてマジシャン?」
「……は?」
緊張感のない黒装束の言葉にディスはまた固まる。
「しかし驚いた、噂には聞いてたけど魔法ってアブねぇなぁ」
「あんたなに?」
「名前? 名乗るほどの者じゃないぜ、ま、呼ぶのに困るというなら仮に『クロちゃん』とでもどうぞ」
「あんたもしかしてニンジャってヤツ?」
「そんなキュートなキミはなんて名前?」
ディスは前触れなしに雷の魔法を放つ。クロちゃんと呼ばれたい男は仰け反って避ける。
「ちょいちょい、いきなりそれは物騒よ」
「じゃあ話聞け」
「ずっと聞いてるけど?」
「……もういい」
ディスはクロちゃんを無害だと判断し、無視して歩き始める。
「ちょいちょい、待ってよ、待ってってば!」
『未来への扉』がある頂上までの道程は長い。
ディスは無言で頂上を目指す。

ASOBUパート

一時間後、山の7合目付近にてディスは大きくため息をついていた。
足元には徒党を組んで襲い掛かってきた戦士風の男たちが累々と転がっている。
「はぁ……男って何でこんなのばっかりなの?」
「屈強なお兄さんばかりとつるんでると女の子の肌が恋しくなるんじゃない?」
ディスはクロちゃん(口には出さないが頭の中ではそう呼ぶことにした。)をちらりと見る。
10人同時に襲い掛かられ、詠唱が間に合わなかった時彼はその半分を一瞬のうちに伸してしまった。
「だからって束になってこなくてもいいのに」
「昔からキュートな女の子に近づく男には下心があるって決まってるの」
「……あんたも?」
バチバチと紫電を散らすディスの右手。
「ま、こいつらが君を狙ったのは体が目的だっただけじゃない」
興味を引かれるセリフに攻撃態勢を解除。
「どういうこと?」
「ひ・み・つ」
再び攻撃態勢に移行。
「だから、冗談だって。そもそも君は『未来への扉』が何なのか知ってるかい?」
知るわけがない。存在は明かされていてもそれに関するそれ以上の情報は国王クラスのトップシークレット。ディスはマジシャンといえどもその辺は一般人と何ら変らない。
「ある筋の情報によるとあれは一種の転移装置で扉の向こうは広大なダンジョンになっているとか。もちろん確かめたやつはいないが腕に自信がある者っていう条件はそれを踏まえてみたいだぜ」
「それ本トなのね?」
マジシャンは総じて好奇心旺盛である。
「いや、だから噂。けど、参加者の誰もあの扉が未来へ続くなんて信じちゃいない。お宝いっぱいの未知のダンジョンだとみな信じている」
「あんたは?」
「さあね。そうそ、さっきこいつらが襲ってきたもうひとつの理由だけど、扉をくぐるのは最終的に10人まで絞るらしいんだな、これが」
「ふーん、それでか。弱そうな女の子から狙うなんてセコイやつ」
ディスは足元に転がっている黒焦げの男をグリグリ踏みつけた。
「さてと、頂上目指すとしますか。で、あんたどうするの?」
「ついていくつもり」
「誰に?」
「ここには俺と君しかいないと思うが。女の子一人で行かせるのは心配だしね。迷惑か?」
「どっちかっていうと目障り?」
「手厳しいな。よし、ついていこう」
前触れなく放たれた雷撃がクロちゃんの足元に大穴を穿つ。
「人の話は聞け」
「さっきまではそばにいても何も言わなかったくせに」
「事情が変わった。10人には入りたいけど名前も顔も明かせないような奴とは組めない。とりあえず、覆面とって名乗ったらOKするわ」
「仕方ない、これが俺の素顔だ!」
クロちゃんは派手に覆面を脱ぎ去った。下にあったのは……ひょっとこのお面。
「……一回死ね!」
「うわ、ひど!?」
同時に放たれた数十の雷撃を全回避。そのまま森に消えた。気配はすれど姿は見えない。
「チッ、素早いやつめ」
「掟だからあきらめてくれると助かるんだけど」
「そう、好きにして」
ディスは再びクロちゃんを無視すると誓って歩き始める。
ディスの後を気配だけが正確にトレースする。50歩ほど歩いて止った。先ほどの誓いは一分で破られた。
「出て来い」
命令形。
「気にしないでくれ好きにしているだけだから」
「よけい気になる。頼むから出て来い。ついて来るなら気配を消して」
「う〜ん、『クロちゃんお願い』ってお願いしてくれたら言うとおりにしてやるぜ?」
ぐっと息を飲むディス。頂上までいやな気分で行くか一瞬でもプライドを捨てるかが天秤に掛かる。前者は精神集中の必要な戦闘に差障る可能性があり、後者は乱戦時の安全が確保で来るだろう。だからといっていまさら下手に出るのも嫌だった。
で、悩んだ末決断。
「お願いクロちゃんついて来て」
目的を最優先。後悔はしない。
「しょうがないな、キュートな君にお願いされたら言うとおりにするしかないね」
そんなセリフと共にクロちゃんが姿をあらわす。
「というわけで行こうか、ディス」
「そうね」
ディスはクロちゃんのセリフに疑問を抱かず歩みを再開した。
名乗っていない名前を知られているという事に気づかないまま。

ぷちパート

「な、何よこれ」
木漏れ日に照らし出されるように地に散る黒い塊。
ディスは思わず口元を覆った。
それは雷使いのよく知る物、焦げた肉片。
ディスの雷撃とは比べ物にならない、相手を焦がした余力で粉砕までしている。
しかも、よく見ると散った肉片は一人分のそれを遥かに凌駕していた。
少なくとも、この周辺で十数人が強力な雷撃によって粉砕されたはずだ。
「・・・そういうことか!」
惨状にすくむディスの横で、クロちゃんが声を低く震わせた。
「おいディス、走れるか? ここから逃げるぞ!」
「えっ、な、なんで!? 頂上はもうそこ―――」
突然肩を揺すられ、はっと我に帰るディス。
同時に、ありえない提案に反発する。
「気付いてないのか、見てみろ」
そう言うと小石を拾い上げ、山頂に向かって投げた・・・が、数メートル飛んだところで強烈な閃光と炸裂音を残し小石は跡形もなく消えた。
ディスは目を丸くして、小石の消えた空間を呆然と見つめていたが、すぐにそれが何であるかを理解した。
「これがこの惨状を作り出した正体さ。 君が雷使いでよかったぜ」
雷撃で焦げた肉片、空中で炸裂した小石。
そう、雷の壁である。
雷使いで良かった、本当にそう思う。
よく見れば地面に弧状のくぼみが走っている。
「そんな、雷の壁なんて宮廷魔術師にしか使えないはず、それにこんな破壊力があるわけないじゃない!」
「あぁ、信じがたいが、こりゃ古代魔法だな」
古代魔法、それは古の昔より、現代のレベルではありえないほどの魔力をもって現代まで残リ続けている魔法のことである。
「それじゃ未来への扉って!?」
「ちったぁ落ち着けって。 多分コイツは宮廷魔術師が総出でかかっても解除は不可能だろうな。 だから未来への扉の見学と称して民間を利用したんだ。 知ってるだろ、障壁魔法はそれに触れたものの固有エネルギーによって威力が下がるって事ぐらい」
「まさか、私たちはその生贄ってこと!?」
「十中八九そうだろうな。 魔法ぶつけても吸収されるだけだろうしな。 エネルギーって点だと人間が適任ってこった」
言葉にすればどれだけ簡単なことか。
その障壁魔法の威力を減少させる為に、民間から強い人材を集めて障壁に特攻させる、それだけだ。
だからサバイバルという誰が死んでもおかしくない形をとり、頂上を目指させたんだ。
殺し合いをさせるよりは目的地が頂上にあると言った方がやりやすい。
腐った官僚主義どものやりそうなことだ。
政には無関心なディスだが、今回は完全に失望と怒りを顔に出している。
「それに、強力な人材を特攻させることで国家に対する反逆も防げるだろうし、人口も減らせる。 近づこうとしたら消えてなくなるんだ、そりゃ未来への扉の正体なんてわかりゃしねぇ」
「そ、そんな・・・」
「っと、絶望するのは後だ。 こいつを見ちまった以上、国が俺たちを逃がすとも思えねぇ!」
突然声を上げたクロちゃんに驚くや否や、即座に二人は山を下り始めた。
すぐ側で僅かな足音と舌打ちが聞こえた。
登りでは気持ちの良かった木漏れ日も、今はスポットライトにしか見えない。
どんな些細な音ですら誰かに聞かれているような気がして、まともに呼吸すらできないでいる。
さっきのサバイバルとは明らかに別物の緊張感。
麓辺りか、突如クロちゃんが立ち止まった。
その背中に顔面から突撃したディスを抱え、すぐ側の木陰に隠れる。
「いきなり止まらないでよぉ、鼻打っちゃった」
「静かにしろ、囲まれてる」
非難を浴びせるディスの口を塞ぎ、そのまま周辺を見渡す。
そんなクロちゃんを見上げるディスに一つの疑問が生まれた。
「ねぇ、あなたニンジャなら一人で逃げられるんじゃないの? どうして」
疑問をそのまま口にするディス。
それを聞き、クロちゃんは呆れたように言葉を返した。
「あのなぁ、弟子を見捨てる師匠がどこにいる?」
唖然呆然。
もはや言葉もない。
「よし、走るぞ。 雷撃準備! 返事は?」
「あ、えと・・・はい、師匠!!」


一番手せきはらの感想

ちょっと文字数制限のワリに謎が多すぎたかなぁと反省です。
しかしトップで書くと後の人がどう書くかめちゃくちゃ楽しみでした。楽しかったです。

二番手ASOBUの感想

クロちゃん、実は参加者ではなく主催者だった。……ってエンディングを考えていた。2番目だけど。
まあ、それはいいとしてどうも適当に書きすぎたようで、ぷち氏には不評だったようです。
次があるなら……真面目にやります。

三番手ぷちの感想

初めての物三リレーとしては、よくまとまったと思う。 勢いのばらつきがリレーっぽくて面白かった^^



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