ここではないどこかの世界。そこは剣と魔法に満ちた世界だった。ある者は名声を得るために強大な敵に立ち向かい、ある者は富を得るために古代遺跡の探索に命をかける。大抵の者は大きな目的や目標持っていた。
今より語られる者達の目的は『銀の龍を探す』ことだった。

―極東の国 ガイエン
この世界の頂点に君臨する最強で最大の国家。独自の武術、独自の魔法それらから作られる独自の文化、伝統。他には無い色々なものが存在する国である。
その国の首都から少し離れた森の中、めったに人が踏み込まぬ森の奥に最近世間を騒がせた盗賊団のアジトがあった。
『あった』つまり過去形である。
「1、2、3……10人殺さず捕獲で4000か。宿代が2食付で100、二人で200か。まあ、今月はこれで何とかなるな」
そこに立っているのは20代後半に見える男。いでたちは動きやすそうな胸部アーマーにマント。手には1mを少し超える程度の長さのロッド。先には天使をかたどった装飾がある。見た感じ魔法使いにみえる。
男は界隈でギースと呼ばれていた。これは通り名で本名は誰も知らない。
職はハンター。世界中ありとあらゆる情報網を持ち国家には中立を保つ大組織『ギルド』に所属している。
「ふう」
そのギースは目の前のアジトの残骸に目をやりため息をついた。
「少しやりすぎだな」
ほんの数分前には、こじんまりした館があった。元は隠遁した魔法使いが建てたものだが最近では盗賊がアジトにしていた。
今はただの瓦礫の山。壊れ方からみても「何か大きなモノ」が暴れたかのようだ。
「フルル、いい加減に出て来い。仕事は終わった。早く帰るぞ」
「ふにゃ〜、待ってくださいよ〜」
瓦礫の山から銀髪の少女が這い出してきた。その少女は何も身につけていないにもかかわらずハリのある肌には傷一つ見当たらない。
「怪我は……あるわけないな。フルル、早くこっちへ。髪をといてやる」
フルルと呼ばれた少女は腰まである髪をなびかせ瓦礫を飛びわたり、ギースの前に来た。
「しまったな、服が無い。荷物は宿に預けたままか……仕方ない」
ギースはマントをはずすとフルルの身体に巻きつける。後は適当に長さを調節してローブっぽく仕立てた。
「とりあえずこれで我慢しろ。今日無くしたのは今度買ってやる」
「はい、ありがとうございます」
彼女はフルル。とある仕事でギースがフルルを助けたことから二人はいっしょにいる。
年のころは14、5歳に見えるが言動はもう少し幼いように見える。実際、人と同じように考えるとまだ生まれて2、3年と言ったところか。特徴的なのはそのシルバーブロンドの髪と対照的な、背中にある黒い痣。刺青のようにはっきりと翼のような模様がある。
「……それにしても暴れすぎだ。館まで破壊して……。魔道書の一つや二つあるだろうと思ったがこれじゃ探せもしない」
「あう……。ねぇ、ギース様。フルル、役立たず?」
ギースは髪をとかす手を止めた。その代わり、くしゃりとフルルの頭を撫でた。
「努力してるからな。ま、最初期に比べればましだ。さ、出来た。町へ戻るぞ」
「宿に戻ったらちょうど夕ご飯の時間ですね!」
「その前にこれの換金」
ギースがポケットから取り出したのはピンポン玉大の水晶体。中には小さくなった盗賊たちが生け捕りにされている。これをギルドに渡すことで決められた額の金が支払われる。
「おいしいもの食べれます?」
「いつもよりは豪勢にいくか。ただし今日だけな」
「じゃあ、昼間見たあのお店に行きたいです!」
「ま、とにかく戻ってからだな」
ギースは最寄の町へ移動する魔法を使い、二人の姿は廃墟から消えうせた。

―ガイエン国 首都 トーキオ
「ふう、値段の割りに量が多い。割と良心的だな」
「フルルはもう少し欲しいです」
とある料亭に満足そうなギースと不満げなフルルが。
「まあ、今日はお前、暴れてたからな。この後ギルドにもう一度いく、何か頼めばいい」
「う〜ん、何食べようかな〜」
「ついてから考えろ。行くぞ」
「あ、待ってくださいよ〜」
さっさと店を出るギースをフルルは慌てて追っていった。

―ギルド 極東支部
そこに集まるハンターは戦士タイプから魔法使いタイプまで色々。強さもピンキリだ。
その中でもギースとフルルは有名である。妬みやら尊敬の視線をかわし、二人は奥のカウンターへ。
「ジャック、こいつにメニューを」
「お、ギースか。相変わらず戻るのが早いな。ほい、フルルちゃん、何でも作るよ」
「ありがとうございます! じゃあ、これとこれとこれで」
「ん、了解」
ジャックという受付兼ギルドの支部長は手馴れた様子で料理に掛かる。
「なあ、何かあるのか? 普段見かけない連中もここに来ているみたいだが」
「……厄介な仕事が来ている。頭数が無いとどうにもならないだろうからな。ギースもかんでみるか?」
「先に説明しろ」
「今、ガイエン軍は北の国境で戦闘中のため南の地方に現れたドラゴンにまで手が回らない。今日までに村が3つ消されている。早急に倒して欲しい。ちなみに最低10人集まってからのミッションだ」
『ドラゴン』
存在する数と遭遇率は低いがそれにあまる強力な力を持つモンスター。彼らは気まぐれに人里に降りてきては狩りを行う。ほとんどはレッサードラゴンという下級種だが、アークドラゴンと呼ばれる上級種には特殊な力を身につけているものも少なくない。
「対象は上級種、ブラックドラゴン。能力等は不明だ。様子を見に行った部隊は1人の重傷者を残して全滅、そいつも先日死んだんでな。ほい、出来上がり」
「わ〜い、いただきま〜す」
フルルは周囲の視線を気にせず、特大のサンドイッチに齧り付く。
「……黒か。銀じゃないんだな?」
「シルバードラゴンなんてレア中のレア種だぞ? そうそう会えるもんでも……と、そうでもないか。そこにいたな」
「ふぁい?」
ジャックの視線に気づきフルルがサンドイッチをくわえたまま振り向く。
「いやいや、なんでもないよ」
ギースは思わず苦笑した。
「母親を、と思ってるんだが皆目見当が付かなくてね。ま、どちらにしろこの仕事には乗らせてもらう。国が金を出すならかなり出すんだろ?」
「成功報酬のみだが1人10万。ただ、倒したドラゴンは軍が引き取るそうだ」
「そんなところか。出発はいつだ?」
「明日朝一に。お前とフルルちゃんで11人だ」
「わかった。フルル、食べ終わったら宿に戻るぞ」
「ふぁ〜い。……んぐっ!? ○□×!▽?」
フルルは急いでサンドイッチを口に詰め込み、結果、のどを詰まらせた。
「……レアはレアでもこいつだとありがたくもなんとも無い」
「落ち着いて水飲んで」
「ぷは〜っ。ジャックさん、ありがとうございます〜」
「姿を見ないことには誰も信じないな」
「俺も姿を見るまではまったく想像できなかった」
二人の視線が集まる中、フルルはサンドイッチに再挑戦した。

―翌日・夜 南方の都市 メイタム
「ドラゴン連中は何故かガイエンの首都を目指すものが多い。今までの進路通りなら今週中にこの町に来るはずだ」
リーダーは一番仕事の成功率が高い者がやることとなり、結果ハンター歴の長い『槍神』のアズンという男がやることとなった。この仕事に参加したメンバーはほとんどが二つ名を持つ凄腕達だ。そして、今は拠点とした宿の一室で作戦会議中である。
「じゃあ、しばらくは哨戒任務か」
「そうだな。4チームに分かれよう。3人づつでギースはパートナーと二人で……パートナーは?」
「フルルなら睡眠の時間だ。まだ子供なんでな。大目に見てくれ」
「……そうか。任務に支障をきたさなければそれでいい。各チーム4時間ごとにローテーション、3チームが出て1チームは待機。最初はギースチームに待機してもらう事になりそうだな。通信は各自に渡した『映し石』で行うこと。以上、解散だ」
「了解」
他のメンバーが出て行き一人残されたギースは月を見上げる。
「永い夜になりそうだな……」


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