魔王列記 第31.9章 ありえない過去 |
雲ひとつない青空。その色をその身に映し輝くコバルトブルーの海。そして、どこまでも続く真白い砂浜。ジリジリと肌を焼く太陽の光を避けて水着姿のリセットは椰子の木の下にビーチチェアを置き寝そべっていた。 「おーい、リセット!」 海の方からリセットを呼ぶ声がする。顔にかけていた麦藁帽子をテーブルに置きリセットは体を起こす。波打ち際で手を振る男がいる。 「な〜に?」 「せっかく2人で来たんだ。一緒に遊ぶぞ」 「うん、パーパ」 リセットはパーパことランスの手を取り海に踏み込む。心なしか若く見えるランスと魔王となり成長したリセット。事情を知らない者が見れば恋人同士に見える。二人はどこからともなく取り出したビーチボールで遊んだ。水が蹴散らされしぶきは宝石となってリセットを彩る。 「きゃ!?」 突然の高波にリセットは足をすくわれバランスを崩す。ランスが走りリセットを抱きとめた。その時の、お互いの距離はキスもアクシデントにしてしまえる距離。2人は引き合う磁石のように近づき―世界は闇に包まれた。 闇が晴れると見慣れたベッドの天蓋が見える。 魔王の寝室。つまりリセットの部屋。 「……なんて夢……」 リセットは気だるげに体を起こす。 「……あんな事起こるわけがないのに。……リセットのばか……決意が緩む……」 楽しくて、いい夢を見たはずなのに、気分は最悪だった。 隣で寝ているワーグとラッシーを起こさぬようにそっとベッドから降りるとリセットはテラスに出た。つ、と空を見上げる。 「パーパ、もうすぐで終わるから……リセットを見守っていて……」 リセットの後姿をいつの間にか起きていたワーグは複雑そうな表情で見ていた。 (……激励のつもりだったけど……逆効果だったみたいね……) ふうと小さくため息をつく。 (まったく、手間の掛かる魔王だこと) ワーグは小さい肩をすくめた。 「リセット、おはよう。何してるの?」 「……ちょっとだけいい夢を見て、ちょっとだけ過去を振り返ってただけよ」 |
アトガキ ちょこぱふぃーさんにリセットの絵を戴いたのがうれしくて、つい書いてしまいました。 31.9章などとしていますが本編とはほとんど関係ありません。ただ単に32章の直前と言いたかっただけですので。 以上、ASOBUでした。ちょこぱふぃーさん、ありがとう! |