オオサカ武勇伝・ぷらすA 三日目 ―コフン 旧ヤマト事務所 「……太陽が黄色い……」 ふらふらと外に出てきたのは無敵。朝日を見上げてぼ〜っとしている。 「おはよ〜、無敵。どしたの?」 「あ、姉上。おはようございます。ただ、もう少し寝ていたいなと思っただけです」 「そりゃ、アレだけ激しく求め合ってたらまともな睡眠なんて取れないわね」 「……姉上、プライバシーって言葉を知っていますか?」 「知ってるわよ。知らなくても覗いていたけど」 「飛び入りしても混ぜませんよ?」 「え〜、いいじゃん別に」 「良くありません」 事務所の前で姉弟がきわどい会話をしている頃、寝室では3人の一子纏わぬ姿の女性がシーツの海に漂い気持ち良さそうに寝息を立てていた。 一応本来の恋人セリス、麻薬の苦しみから救われ無敵の虜となった山沢麻美、エデン攻略戦の折無敵の使徒となった土岐遥。ただ、無敵と一緒にいることを望む三人は共謀して無敵を落としにかかっている。ちなみにその作戦、ほぼ成功している。 「起きろ〜。朝だぞ〜」 リセットが三人の寝ている寝室の扉を蹴りあける。 「ん……っ、リセットさん!?」 「へ? きゃっ」 「くー……」 いち早く気配を察し目を覚ます土岐。 その声で目を開ける山沢。 セリスはまだ寝たままで。 「さっさと服着て朝ごはんにしなよ。朝から悪司のところに行く予定でしょ?」 「あ、そうでした。あれ? 無敵さんは?」 「無敵なら外で太陽が黄色いって呟いてたわ。よほど激しかったんでしょうね〜」 ニヤニヤ笑いのリセットから逃れるように起きた二人はシーツを身体に巻きつけて隣室へ。 残った一人はリセットにイタズラされて、悲鳴と共に飛び起きた。 「朝から賑やかっすね」 「リセットは静かなよりいいと思うな」 「何はともあれ、まともな朝飯が食えるのは大歓迎っす」 「あんたの家金持ちじゃなかった?」 「最近はこっちに泊り込みっすよ。余程のことが無い限り帰る気はないっす」 そういうと鬼門始はリセットの作った朝ごはんをがつがつと食べた。 ―ミドリガオカ 悪司組事務所 「で、今日も学校へ行くと言って聞かないんだ」 ミドリガオカでリセットたちを迎えたのは困り顔でそういう悪司だった。 そして、その隣にはところどころに包帯が見え隠れする殺。装備は学校用。 「……バカじゃないの?」 しばしの沈黙の後口を開いたのはリセットだった。 「私は学生だ」 「でも、昨日のことを忘れたわけじゃないでしょ? あれだけのめにあっておいてまだそんなこというの?」 「もう出発の時間だ」 「……ああ、ダメだわ悪司。コレ、頑固過ぎ」 「だろ? 言ってもきかねぇんだ」 「仕方ないわね。今日の予定は私らで何とかしましょう。無敵は今日も護衛ね」 「それしかねぇわな」 「よろしく頼む」 「あれ? 確か今日は市長さんの支配を解除に行くんじゃ?」 「アレは学校が終った後ね」 まあ、そういうことなら、と無敵も納得しすぐさま殺に急かされて出発した。 「さてと、ドンパチヤリに行くか」 「ソレが予定?」 「ああ。コウベにはすでに兵隊を隠してある。一気に仕掛けるぜ」 「了解。遥、あんたと始はリセットと一緒に来なさい。セリスと麻美はお留守番ね。無敵が帰ってきたらコウベに連れてくるように」 戦える者と、戦いに抵抗がある者をそれぞれ適材適所に指示して方針を決める。 「さぁてと、戦争しに行くわよ!!」 「……なんでお前が仕切る……?」 悪司の影は薄くなっていた。 ―学校 殺が教室に入り一人になった後、無敵は一人で暇になった。 いつPMからの刺客が来るとも限らないのでとりあえず校内に居ることにしたのだが。 「……迷った」 校舎内はどこも似たようなつくりになっていてそもそも校舎という場所に初めて入ることになった無敵にはどこもかしこも同じ光景にしか見えなかった。 「と、とりあえず……上を目指そう。登り続ければ屋上に出れるはず」 山で迷った時は、と同じ考え。無敵は平静を装いつつ屋上を目指す。 「そこの人」 階段の途中で声をかけられ無敵は動きをとめた。 凄くいけないことをしている気分になりめったに高鳴ったりしない心臓が早鐘を打つ。 「校舎内は部外者の立ち入りは禁止です。……しかも刀まで提げて……なんのつもりですか?」 恐る恐る振り返るとビシッとスーツに身を固めた女性教員が居た。 どこかで会ったような人物だが無敵は観察どころではなかった。 完全にパニック状態である。 「えっと、部外者ではないのですよ、一応。なんというか、護衛ということでついてきたので手ぶらではその……支障をきたすというかなんというか」 わたわたしている無敵を見て、突然女性教員が笑い出した。 「へ?」 「まだお気づきになりませんか、無敵様?」 名前を呼ばれて初めて無敵に余裕が出てくる。 眼鏡をかけて髪をアップにして、いつもと雰囲気が違いすぎるが……どっからどう見てもレナだった。 「……レナ、さん?」 「はい」 「殺さんを見張りに潜入ですか」 「はい。ちなみに身分は正式な物です。ウィミィ語の教師ということで教員免許を取得しましたので」 「……そんなものいつの間に?」 「昨日の襲撃後です。巻き込まれて教員が一名負傷して入院したのでその穴埋めをやることになりました。私が選ばれたのは成り行きですが」 「それで、どうするつもりですか?」 「今のところは行動するつもりはありません。ここにいる私は一応、認めたくは無いのですが教師という肩書きですので。与えられた職務は全うしなくてはなりません」 学校に侵入するだけならそんな肩書きがなくてもどうとでもなる。 そういった意味では信用してもいいような気がした。 「それを信用していいのですね?」 「言葉通りに受け取っていただければそれで」 言葉通りに。少々含みのある言い方だ。 「念のため、僕は校内にいますので。変な気は起こさないで下さいね」 「無敵様こそ、ここには若い女性がたくさんいますが手を出してはなりませんよ?」 「……父上じゃないんですから出しません」 「そうですか。アレの血を引いている方なので少々心配しました」 「……」 無敵の脳裏に昨夜の光景がフラッシュバックした。 シーツの海。肌色の世界。獣の芳香。 無敵は思わず黙り込んだ。 「ハワード先生? 誰と話しているのです?」 レナを探す声が聞こえ無敵は我に返る。 そして、レナの注意が無敵から離れたのと同時に階段を駆け上がった。 ―屋上 「ふぅ……思い出すな。僕は僕だ。父上とは違う」 先ほどから昨夜のイメージが頭から離れない。振り払っても離れない。 柔らかい身体が我先にと絡みつく。もちろん嫌ではなかった。 ただ、小さな罪悪感があった。 父ランスの所業には抵抗を持っていた。倫理観は母譲りだったから。 だが、今はどうだ。 昨日など結局流されていた。セリスさんと愛を誓ったのに。 セリスさんと一緒に他の女性まで。 父の所業となんら変わらないではないか。 無敵の脳裏にレナの先ほどのセリフがリフレインする。 『アレの血を引いている方なので』 「……」 無敵はさらにうなだれた。 「あああああああっ!!!」 しばらくして突如叫び立ち直る。 「今は護衛だ。レナさんの行動を把握するのが最優先!!」 まずは気配をさぐり所在地を確認。授業が始まっているのでレナは教室にいるらしい。 ただ、その教室には殺もいた。 コの字に建てられている校舎の屋上を移動し、殺の教室が見える位置に移動する。 だが、レナはすぐに教室を出て行ってしまった。 「……陽動?」 そういう作戦はレナの得意とするところ。 だが、こんなにみえみえな陽動を彼女がするだろうか? 無敵があれこれ考え込んでいるうちにレナはなぜか校舎裏の旧倉庫へ。 「……授業、って雰囲気じゃないな」 近くまで寄ってみたものの、さすがにこれ以上近づくと察知されてしまうため外から隠れて観察する。間もなく半裸の男子生徒が飛び出していった。 「何だ?」 そして、その後にレナが数人の女生徒と共に出てきた。 どの生徒も憔悴しきっている。 てっきり桃山組の隠れ家にでもしているのかと思ったが見当違いだったようだ。 しばらく間をおいて無敵は倉庫の中へ。地下への入り口を見つけさらに入り込む。 中にはボコられた男子生徒が死屍累々と。 「ああ、なるほど。相手が何者かも知らずに喧嘩を売ったわけですか。しかし、良かった。姉上やワーグが相手なら命は無い」 その時。物陰から飛び出した影が無敵の頭めがけて角材を振り下ろした。 先ほどレナがここへ入った時、外から入り口を閉めた生徒だった。 彼は無敵をレナの仲間だと思った。だからせめてこいつだけでもと。 無敵の見た目は痩せ型のひょろっとした青年。お世辞にも強そうにはみえない。 後頭部を殴りつけた後さらに何度も打ち据える。 「は、ははっ。どうだ! お前をネタにあの女を引きずり出してやる」 「う〜ん、きっと無理ですよ」 悲鳴の一つでもあがるかと思ったが。 帰ってきたのは至って普通の声。ただ、その声を聴いた瞬間から身体が動かなくなった。 「レナさんと僕は今敵対関係にあるので」 振り返って男子生徒と視線を合わせる。 殺される。戦場に立ったことの無い男子生徒だったが心の底からそう感じた。 ―放課後 「昼休みに校舎裏で男子生徒が数人、縛り上げられて見つかったがやったのはお前か?」 結局レナは行動に出ず、殺と無敵は帰路についていた。 「ああ、アレの半分は僕です。のしたのはレナさんで縛って晒したのは僕です」 「そうか。一人だけ精神状態の不安定な者がいたそうだが」 「ちょっとだけ邪眼をつかいました。犯した罪への罰ということで。まあ、後遺症は残らないはずです」 「そうか」 それ以来、殺は口を閉ざす。 無敵も黙って歩いた。 ただ、時々殺は振り返り無敵を見る。それでも何も言わず、何か考え込みながらすぐに歩き出す。あまりに思いつめたような雰囲気が無敵にも口を閉ざさせていた。 ―ミドリガオカ 悪司組 事務所 「しかし、ひどい有様ですね」 「ったくよ、あの力は反則だぜ」 「だよね〜、直接は使ってこなかったからマシだったけど。リセットでもアレには抗えないしさ」 事務所に帰ってきた無敵と殺が見たのはボロボロになったリセット達。 「伏兵まで仕込んでおいて何故負ける?」 「うわ、ひどいなさっちゃん。もう少しいたわりの言葉をかけるとかないのか?」 「ない」 「殺さん……。とりあえず、何があったんです?」 無敵は心配そうにリセットを看る。あちこちに怪我はあるがさほどひどくないようだ。 「ん〜、とりあえずね、こっちの伏兵と共に奇襲したまでは良いのよ。快勝かと思って油断してたらワーグが出てきたの」 「なるほど。ワーグ一人にこの被害ですか」 「そ。夢に狂わされたこっちの下っ端が大暴れして大混乱。ワーグと共に来た桃山の増援が追撃してくるからリセットと悪司で殿やったの。で、その中に強いのがいて手こずったのよ」 「姉上と悪司の二人で手こずる相手ですか……」 「も一つ原因があるんだけど……」 なぜか言いにくそうなリセット。 首をかしげた無敵は他の者を見る。セリスも山沢も鬼門も下っ端も一様に目をそらす。 その反応に疑念を抱きつつも、違和感に気付いた。 「ところで、遥さんは?」 「……アレが原因」 「はい?」 「今は縛り上げて地下牢に入れてある。押さえつけるの大変だったんだから」 「縛って地下牢? 話が見えません。何故そんなことに?」 「知らない。自分で見に行けば?」 「わかりました」 言うが速いか無敵は事務所の地下にある牢屋へ降りていった。 「で、何があったんだ?」 無敵を見送り殺がリセットを問いただす。 「全部説明するのは面倒だからかなり端折るけど。遥はこちらの世界の普通の人間じゃなくなってるの。死に掛けた時、無敵があの子の命を繋ぐために行った処置でね。適合できなければ死、適合すれば永遠の時と何かしらの力を得る。で、あのこは適合したみたいだけど……。無敵が吸血鬼としての一面を持っていることは知ってる?」 数人が頷く。 「そのわりには昼間でも生きてるな」 「原種に近い無敵にしてみれば影響もないみたい。ついでに、遥も」 「え、あいつも吸血鬼なのか?」 「そう。たぶん、使徒化の時の大量の血液交換のせいだと思うの。本人は隠していたのか、あるいは気付いていなかったのか。どちらにせよ、今日の戦闘のせいで吸血衝動が引き起こされた」 「要するに腹が減ったせいで苛立って見境がつかなくなった、か」 「厳密に言うと違うけどまあ、似たようなものね」 「相手の最終兵器の投入と味方の狂化でこの被害ということか。今日はもう行動できんな」 「うん、リセットはしんどい。セリス〜、肩揉んで」 「はいはい……。無敵さん、大丈夫かしら」 言われたとおりにセリスはリセットの肩を揉み始め、リセットは気持ち良さそうに目を細める。 「大丈夫、大丈夫。自分の使徒の始末くらい付けれるわよ。ん〜、次は羽の付け根」 リセットのせいで他の者もめいめいくつろぎだす。 殺は一人険しい表情で地下へと続くドアをにらみつけた。 ――地下牢 「日陰さん! って、いない? おかしいな?」 暗いところが好きといい切る少女、日陰密子。いつもなら地下に降りたところにいるが今日はその姿が見えない。 奥へ進もうとすると足に何か当った。四角い物体。 「……ルービックキューブ? まさか!」 いくつかの牢の前を抜けて一番奥へ。 鼻を突く濃密な血の匂い。牢の中には肌色の塊が二つ。 裸に剥かれた日陰の身体中に咬み傷。土岐はその傷からこぼれる血液を、涙を流しながら必死に舐め取っていた。 無敵は言葉を失う。 聞こえるのは快楽に喘ぐ日陰のか細い声とその血を必死に舐めとる水音。 「土岐さん!」 すでに土岐の手で破壊されていた牢の扉をくぐり日陰から土岐を引き離す。 「あ……無敵さん……私……私、おかしくなっちゃいました……」 無敵に抱き寄せられ嗚咽を漏らす土岐。 一方で何事もなかったかのように動き出す日陰。 「えっと、大丈夫、なんですか?」 「いい経験。……城太郎さんも良いけど、コレはコレで」 「……じょ、城太郎?」 「密子の密は秘密の密、ですよ?」 「は、はぁ……」 会話が成り立たず無敵は困惑。日陰はさっさと牢から離れてしまった。 無事ならそれで良い、ということにしておく。 「可能性は考えていましたが……もうしわけありません」 「私、どうなってしまったんでしょう……? 水をいくら飲んでも喉が渇いて仕方がなくて……気が散って、返り血を避け損ねて……血が、凄く美味しくて……」 土岐の手に力がこもった。ぎゅっと無敵にしがみ付く。 「説明は後に。対処の方法も後ほど。こんなところは早く出ましょう」 「嫌です! 私は……耐えられ、ない……から」 「……わかりました。じゃあ、僕もここにいます」 「え……? ホント、ですか?」 「本当です。あと、これから語ることも事実です。落ち着いて聞いてください」 無敵は無表情を装って淡々と語りだす。 使徒化のこと、それに伴う吸血鬼化。日中は以前と変わりないが夜は身体機能が向上すること、食事は今までと同じで問題ないがそれではただ、命を繋ぐことしか出来ないということ。負傷した時などは他人の血液を摂取しないと回復しにくく、逆に吸血を繰り返していれば自然治癒能力は飛躍的に高まりあらゆる身体能力も向上するということ。 半ば自分自身でも悟っていたのか聞き終えた土岐は落ち着いていた。 というより、無敵の腕に抱かれているから落ち着いているだけかもしれない。 「……もっと早く気づいて話すべきだった。いや、あの時一緒に大陸へ連れて行くべきだったのかもしれません。ごめんなさい」 「謝らないで下さい。……後悔はしていませんから」 二人は暗い牢の中で見つめあい、やがて距離をなくしていく。 そして、どちらからともなく闇の中に倒れていった。 |
あとがきA 最初に。ごめんなさい。 前回の更新予定日はいなかったわけでもなく書けてなかったわけでもなく、PCが不調だったわけでもASOBUの体調が悪かったわけではありません。 ……アルテイルというカードゲームにはまってやりこんでました。 そうなったのも誘ったせきはらが悪い。 なんていったら怒られそうだが書いてしまう。……とりあえず、度忘れしていたことに気付いて更新すればよかったのですが、今まで隔週更新で大抵やってきたので(続く |
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