第11回 寒村での一夜

―山奥の村
「なんだか寂れた村だな」
「そうですね……ぜんぜん活気がありません」
「まあ、村があると言うことはふもとへの道もあると言うこと。一晩の宿を借りられれば寂れた村だろうがどうでもいい」
「まあ、そうだな。よし、人を探すぞ」
数時間前、ランス達は街道から道無き山に踏み込んだ。
原因はハニーの大群。
「ハニホー上洛! 京を目指せ!」
そんな声と共に街道を埋め尽くすハニーを前に流石のランスも迂回を選んだ。
そして、見事に迷った。
半日以上山の中を彷徨い夕暮れ時、たどり着いた村の灯はまばらだった。

「おーい、誰かいないか?」
返事はない。
「仕方が無い。分担して人を探すぞ」
「わかった。ランスは右手の家屋を。きくは正面の数軒、私は左手の灯を担当しよう。シィル殿はここで待機を。交渉が丸く収まればシィル殿を介して残りのメンバーに伝えるように。散開」

「数人だが人間がいるな……家も他よりは大きそうだ。おーい、誰かいないか?」
ランスは周辺の家と比べて一回りほど大きな家の門を叩いた。
大きいといってもランス屋敷よりはるかに小さい。
「道に迷ってここへたどり着いた。1晩泊めてもらえるとありがたいんだが」
しばらくして、誰かが動く気配が。
「いけません、――様! お待ちください!」
そんな声と共に門が開いた。目の前には誰もいない。
「うわ、ホントだ。大陸の人だ」
「ん? ガキか。おい、親はいないのか?」
年の頃は10歳前後だろうか。門を開けた少年は興味津々の様子でランスを見ている。
「父上も母上ももういない。けど、僕が許可を出せばこの家に泊めてあげられるよ」
「ふん、偉い奴には見えんが……」
「偉いわけじゃないんだけどね。一つ条件出してもいい?」
「ん、まあ、かまわんぞ。言って見ろ」
「大陸のお話を色々聞かせて欲しいんだ。聞かせてくれるならいれてあげる」

―屋敷内
「お客人、我々もギリギリの生活ゆえ質素なものしかだせぬが、我慢してくだされ」
「いや、もう、食えて屋根があるところで寝れるなら何でもいい」
失礼なことを言いつつ出された夕飯をがつがつ食べるランス。
そして、食べながら近くにいる人間を観察する。
年寄りばかり。唯一若いのはさきほどの少年だけ。
少年はランスが夕飯を終えるのを心待ちにしていた。
ただ、それ以外の老人達はどうもランス達を歓迎していない。視線が少々不快だった。
「ふう、くったくった。ごっそーさん」
「食べた? じゃあ、お兄さん。僕の部屋へきてよ」
「まあ、そう急かすなって」
「お、お待ちください太郎様! このような者達相手に不用意すぎますぞ!」
見かねた老人の一人が思わず叫ぶ。
「大丈夫だよ、じい。悪人面だけど、目はそうじゃないよ」
正面から少年に見据えられ、そんなことを言われランスは顔をしかめた。
後ろではてるときく、シィルが笑いをかみ殺している。
「おい、早く連れて行け。気が済むまで付き合ってやる」
「こっちだよ!」
案内されたのは屋敷の中央に配置されている部屋。広さはさほど無く少年とランス達4人が入れば少々狭く感じるほど。物もほとんど無く、端にたたまれている布団と小さな机、その上に積まれている数冊の本くらい。
「しっかし、何も無いな。さっきの老いぼれ達に命令できる立場にあるならもう少しまともな部屋に出来るだろう」
「それは無理なんだ。僕はただの人質だから。ホントは僕一人だけだったんだけど、じい達は無理して駆けつけてくれたんだ。僕一人だけ贅沢なんて出来ないよ」
「出来たガキだな。しかし、なんで人質なんてやってやがる?」
「ん〜、お兄さん達になら話してもいいかな。僕は山本太郎。ちょっと前までは小さいながらも大名家だったんだけど、足利家に滅ぼされちゃって……。もう残っているのは姉上と僕だけ。僕らは殺されない代わりに、僕は人質に、姉上は軍を率いて足利の手足になってる」
「……ほう、姉がいるのか」
ランスの目がきらりと光った。気づいたのはシィルだけ。
「綺麗でとても頼りになる姉上。けど、山本を継ぐのは男の僕だからもっとしっかりしないといけないのだけど、知識も経験もなにもないんだ。だから、色々な話が聞きたいんだ」
「ふむ、話すのはいいが真似できるなんて思うのはよせ。凡人と俺様は違うのだ」
それから展開されるのは少々……否、かなり誇張されたりランス主観にひねくれた冒険譚。
時折シィルからフォローが入る。
いつしか、てるもきくも聞き入っていた。

「そうしてマジノラインの奥で魔人に追いついた俺様とシィルは―」
「ランス様」
シィルの呼びかけ。彼女が指差す先を見てランスは眉をひそめた。
「……ったく。 これからがいいところなのに失礼なガキだ」
かなり長かったランスの話。まじめに聞いてもらったことがないせいか調子に乗って長々と話しすぎたらしい。
いつしか少年はきくの膝枕で寝息を立てていた。
「えい」
「うわ!?」
その姿を見ていたランスは何を思ったか太郎の足を引っ張りきくの膝から引きずり落とした。
「そこは俺様専用だ。ガキとは言えつかうことは許さん」
「おいおい、何子供に妬いてんだ……」
「うるさい。ダメといったらダメだ」
言い切るランスは非常に子供っぽかった。
「ごめんなさい。お話の途中で寝てしまって」
「まあ、ガキは寝る時間だからな。続きは明日してやろう」
「はい、お願いします」
「……ちょうど客も来たところだ。ガキは大人しく寝ていろ。シィル、ガキと一緒にいろ」
「あの、どういうことですか? ランス様」
ランスは黙ってカオスを握る。他の武装は流石にこの場には無い。
「さぁな。いえることは一つ。屋敷の外に敵がいる」
「我らを狙ったのか、あるいはそこの少年を狙ったのか。もしくは、その両方か」
「理由はどうでもいいだろ、姉貴。向こうがヤル気ならこっちはやり返すだけだ」
「くくく、違いない」
毛利姉妹はスカートの中から得物を取り出し臨戦態勢に。

その時勢いよく部屋の襖が開けられた。
「太郎様、大事にございます! あ、足利の兵が……!」
「なるほど、従属しているとはいえ大名家。その血を絶やす気か。どうするランス。狙いは我々では無い様だが?」
「狙いじゃないだろうが確実に巻き添えくらうな。ならば、やり返す」
「お兄さん、そこの掛け軸の裏に抜け道がある。今なら逃げられるよ」
「ならそこはお前が使え。俺様は逃げるのが嫌いだ」
「い、今他の者が応戦しております。お客人……この通りですじゃ!!」
老人は土下座する。
「太郎様をお守りください!」
「ふん。てる、JAPANでは宿を借りたら恩義がどうのってのがあるらしいな」
「一宿一飯の恩義とでもいうのか、お前が?」
「たまにはいいだろう」
「そうだな、たまにはいいかもしれん」
「たまーにならな」
妙に楽しそうな3人。
「じじい。敵の数は?」
「お、おおよそ50……」
「行くぞ。シィル、ガキのお守りは任せた」
「は、はい!」

「さ、太郎様。彼らが時間を稼いでいる間に抜け道から脱出しましょう!」
「やっぱり、時間稼ぎの囮にするつもりだったの?」
「もちろんです。いくら強そうでも3人で50人以上の兵をどうにかできるとは思えません! ささ、お早く!」
太郎はしばらく何か考えている様子だった。
そして、シィルの方を見る。
「お姉さん。さっきのお話、全部本当なの?」
「そうですね、少し誇張された部分やランス様の主観が多分に入ったところもありましたけど……やってきたことは本当ですよ」
「じゃあ、逃げない。ここで待って続きを聞く」
「そんな!」
「まだまだ子供の僕がいうのもおかしな話なんだけど……あの人なら、どんな大きなことでも成し遂げる。そんな気がしたんだ。だから、興味が湧いたから待ってみる」

―屋敷 外
「よ、鎧ごとだと!?」
魔剣カオスの一撃の前にまた一人武士が倒れた。
「てる、きく。三方に分かれて屋敷への侵入を許すな」
「しかし、数が多いぜ?」
「無理か?」
「いいや……血が滾るね」
きくはすばやい身のこなしで武士の懐へ滑り込むと鎖鎌を鎧の隙間、がら空きの喉元へつきたてる。背後からの一撃を鎖部分で受け流し分銅部分でカウンター。頬骨を砕かれた武士はもんどりうって転げた。そして無慈悲にトドメ。
「毛利が長女てる。悉く掃除してやろう!」
鎧と言ってもJAPANの物は比較的機動力を殺さないように出来ている。関節部分はどうしてもむき出しで。
てるのはたきが煌き一撃で武士の腕が飛ぶ。二撃目で首が飛ぶ。
はたきの様ではたきではないソレの先端につけられた刃は非常に鋭利だ。
「平穏な旅も良い。目的の無い旅も面白い。されどやはり……私の故郷は戦場(いくさば)のようだな。……くくくく。さあ、次は誰だ?」
久しく暴れていなかったせいなのか、テンション上がりっぱなしの毛利姉妹。
50対3。数の上では絶対的に不利なのだが、状況はすでに覆っている。
「きいてないぞ! 年寄りが数人いるだけだったんじ――ギャアア!?」
すでに逃げ腰だった者へも容赦なく。戦闘開始から30分もしないうちに勝敗は決した。

「ば、ばかな……」
「おう、太郎。風呂を用意させてくれ。張り切りすぎた」
「本当に、やっちゃったんだね」
「ああ、俺様は無敵だ」
「けど、次はもっと多くの兵士がくるね」
「……だろうな。ここにいるのは得策じゃないだろう」
「じい。姉上にすぐ伝令を。あと風呂の用意も」

「ふう、さっぱりした」
「戦の後は風呂に限るな」
風呂から上がったランス達は夕飯の時に通された居間でくつろいでいた。
くつろぐランスを横に太郎はどこか落ち着かない様子。
「何をそわそわしている?」
「……姉上が無事かどうか、不安なんです」
「無事なはずだ。軍は使えるんだ。この戦国の世に手駒を減らすことは無いだろう」
「僕がこうして襲われたので……」
「ふん、姉も心配かも知れんがおまえ自身も心配したらどうだ? 少なくてもここにはもういられんだろうな」
「行く宛なんか無いですよ」
「心当たりはあるが……誰か着たな」
屋敷の外には数頭の馬の足音と嘶きが。
「太郎! 太郎は無事か!」
足元も荒く居間に飛び込んできたのはかなり綺麗な女性武将と取り巻き数人。
女性の姿を舐めるように見て、ランスの口元がにやりと歪んだ。
「姉上こそ、ご無事で何よりです」
ひしっと抱き合う二人。しばらく引き裂かれていた兄弟の再会シーン。
ランス達は完全に蚊帳の外で。
「こほん」
ランスがわざとらしい咳払いをするまで女武将はまったく気づいていなかったらしい。
「っ……失礼した。私は山本五十六。……彼方達が太郎を?」
「ああ、ここへ来たのは成り行きだがな。巻き込まれるのは面倒だったんだがかかる火の粉は振り払ったまでだ」
「ありがとうございます。偶然とはいえ山本家の未来を守っていただけた。本当に感謝します」
「感謝はいいんだが、これからどうするつもりだ?」
「……」
ランスの問いに答えは無い。
問いの意味も理解しているのだろう、女武将の顔が曇る。
「次は数倍の兵力がくるだろうな。お前さんの手勢がどれくらいいるかは知らないが、足利家を敵に回すことは不可能だろう。山本家の未来も不安だな」
事実、山本家は太郎を人質にして、五十六を足利軍に編入することでかろうじて存在している。そして、足利家が五十六だけを残して利用しようとしたやり方を知った今、まとめて消されるだろう。後は無かった。
「……それを何とかする案は在るぞ?」
「先ほど言っていた心当たり、ですか?」
「そうだ。お前ら二人とも島津につけ。口を利いてやる」
「な……!? お前達、島津の回し者か!」
「落ち着け。少なくとも足利にこのままいて消されるよりはマシだろう。……あんまり言いたくは無いが4兄弟はそれなりに優秀だぞ。そして、JAPANを制覇するのも島津だ。そんな島津も俺様が一言言えば山本家を保護するくらい造作も無い」
「いったい、何者ですか?」
「世界最大の英雄、ランス様だ。おぼえておけ」
居間が静まり返った。
沈黙を破ったのは五十六。深々と土下座する。
「本当にそれが成されるなら、太郎と一緒にいられるなら。どうか、お願いします」
「頭は上げろ。そんなことされても嬉しくない。よし、シィル。ヨシヒサに手紙を書け。旅先で拾ったから保護してやれとな。あ、部隊だけでいいぞ。二人はこのまま俺様に同行させる。こんな美人をあいつらの傍に送れるわけが無い。二人一緒にいたい様だから太郎はおまけだ」
「はい、ランス様」
「……ランス殿、我々が同行する旅の目的とは?」
「魔人殺しだ」
ランスは不敵に笑う。

あとがき
何かもう、書く方も時間が空くとだれるというかなんと言うかorz


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