第13回 防衛戦

四兄弟率いる島津は織田との非戦協定に続き忍者の地位協定も含めた条件で伊賀とも同盟を結ぶ。
一方、天志教は反島津同盟を本格化する。瓢箪持ちの足利に原、浅井朝倉、そして武田家が同盟に加入。北条、上杉は静観する体勢にはいる。

火種は十分に灯り、いつ爆発してもおかしくない状況になりつつあった

―尾張
大宴会から半月、ランス達はまだ信長の城に厄介になっていた。
というか、足止めを食らっていた。
理由は簡単。織田家臣下の内乱である。
敬虔な天志教徒であった数名の武将が島津との同盟に反対を唱え続け挙句の果てに離反したのだ。まあ、裏では足利からの工作もあったのだがどちらにせよ足利と原に挟まれた状態にある織田はそれなりにピンチだった。

「ほんと、参っちゃうね……」
やれやれと天を仰ぐのは国主織田信長。
「それは俺様のセリフだ。ったく……」
「しかし、この状態が面白くないのも事実だぞ、ランス」
「まさか自国の城で兵糧攻めに遭うなんてね」
天志教の動きは早かった。内乱の際、武将だけでなくほとんどの兵士も寝返らせた。そもそも職業兵士などほんの一握りしかおらず、普段は本職で有事の際には武器を持つのがほとんどだ。そういった者達はほとんど天志教を信仰していた。
「手勢は城内にいる100名たらず、城を囲むのはその10倍。城の兵糧はまだもつけど、そろそろ団子屋に行きたいんだよね」
「どうにかしようと思う理由がそれか。国主がそれでどうする?」
「じゃあ、ランス。君に任せるよ」
「……は?」
「君のやりたいように現状を打開してくれ。俺と香は応援してるから」
織田家の紋入りの旗を振ってフレーフレーとかやり出す信長。
「チッ……しょうがない。香ちゃん。主だった奴を集めてくれ。作戦会議だ」
「はい。……けど、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「無敵の俺様がヤル気を出せば問題ない。とりあえず、アイツの応援が目障りだから別の部屋だ」
「わかりました。じゃあ、会議室に集まってもらいますね」
「おう、頼んだ」

誰もいなくなった部屋で一人残った信長は激しくむせ返り肩で息をしていた。
「ランス、意外と気が利くね……」
一人ごちて口元を拭う。
薄っすらと血がにじんでいた。
「悪いけど俺はあんまり無理できないんだ。……君みたいなのが織田にいてくれたらよかったんだけどな」
呟きを聞く者はだれもいない。

―会議室
「……ッチ、思ったより少ないな」
集められたのは柴田勝家や乱丸、明智光秀といった信長の側近、その副官くらい。
「後は板前さんとか庭師さんとかがほとんどなんです……」
ランスはすまなさそうにする香の頭をぽんぽんと撫でた。
「ひゃぁ、ランスさん!」
「心配するな。俺様がいれば百人力だ。これくらいの包囲は軽く蹴散らしてやる」
「けど、どうやって?」
「相手は油断している。包囲の輪が閉じて後は兵糧が尽きるのを待つだけだからな。その油断に乗じて少数精鋭で奇襲を掛け天志教の扇動者の首を取る。あとはそれを晒してこうなりたくなければ許しを請えとでも言ってやればいい」
「でも、油断しているとしても……数が、違いすぎます。……危険すぎます!」
「大丈夫だ。俺様を信用しろ」
「でも……」
「デモもストもない。この場では香ちゃんが上に立つ立場。ただ君は行けと命じればいい。俺様が言うよりこいつらも動きやすいだろう。主君に仕える将兵ってのはそういうもんだ」
「そうですぞ、香姫様! ランス殿の言うとおりですぞ!」
部屋に響く柴田勝家の大声。ランスは嫌そうに顔をしかめた。
「我らの命は織田の為、それがわからぬバカ者どもに目に物見せてやりましょうぞ」
「……わかりました。皆さん、この危機を打開してください。ただし、誰一人欠けることなく」
「承知」
「もちろん生きて戻りますぞ!」
「よし、てる、きく、シィル。準備はいいな」
「無論だ」
「いつでもいけるぜ」

―城門
唯一の城への道。守るにも攻めるにも要になる。兵糧攻めにするなら城門を封じればよく守りに入るならここを守りきればよい。その分外の兵力は多く危険な場所でもある。
「シィルと五十六、そこのひょろいのは城門上から牽制、残りは正面から切り込む。ただし、それは陽動だ。相手の反応を見極めきくが敵首魁をとる。香ちゃんに死ぬなと言われたからな。俺様一人なら何とでもなるが他もいるとそうもいかん。適当に引くことも考えろ」
「ランス様、お気をつけて……」
「ふん、奴隷に心配されずともやってやるわ」
ランスはシィルの頭をグシャグシャとかき乱すと城門へ向き直る。
「いくぞ、開けろ」
陽動メンバーは武器を握りなおした。

―包囲陣地
「ひーふーみー……結構いるな」
樹上に潜むはきく。すでに単身敵地の中。
気配を消し敵陣の様子を探る。
「僧兵長っぽいのが目標っても、ハゲ頭はどれも同じに見えやがるぜ」
標的を絞りかねていた。
「ランス達の陽動が上手く行けばいいけどな」
城門の方角が騒がしくなり、数人の僧兵が慌しくやってくる。
そして、陣地に残っていた僧兵が皆前線に行ってしまった。
「……やばい、乱戦になったらなお更首魁がわからなくなっちまう!」
ある程度の目星はつけた。
「こうなったら全員やっちまうか」
狙いは3人、当たりはおそらく一人。
きくは静かに尾行を開始した。

城門前を突き進むランス。
そもそも狭い城門前で下級兵士が群れていてもただの的にしかならない。城門上から矢と魔法が降り注ぎその隙間をランス達が蹴散らしていく。
「ランス」
「ああ、坊主が増えてきたな」
戦闘開始から僅かな時間しか経っていないがすでに死体の山。前衛にいた下級兵士は倒されるか逃げ出している。そのせいか後方にいた僧兵団が前に出てきていた。
とはいえ、狭い場所で少人数しか戦えない現状、個人の技量が上回るランス達に分がある。
いくら僧兵達が補助術を使いこなそうとも結果は火を見るより明らかだった。
そんな動揺が敵兵、僧兵の中に伝播し始める。
「くっ、一旦引け! 体勢を整えにもどれ!」
その情報が行き着く先、潜伏していたきくは正確に見極める。
「円山様、城門に鬼神が現れて前線は崩壊―」
「あんたが大将かい」
鎖分銅が空を切り大将僧兵の頭蓋を砕いた。報告を聞くまでも無く大将は崩れ落ちた。
「さて、仕事は終わり。さっさと引き上げるぜ」
何が起きたかその場にいた敵兵に伝わる前にきくは身を隠し退散、入れ替わりに雑兵を追い散らし追撃してきたランス達がなだれ込む。
「て、撤収!」
その強襲を凌げるわけも無く僧兵団は撤退しはじめる。
「くくく、逃げられると思うな!」
「てる、追わんでいい」
「ふむ、ランス。楽しみの邪魔をしないでもらおうか」
「あとで可愛がってやるからとりあえず、戻るぞ。これだけやっておけば島津からの応援が来るまで十分しのげるだろう」
「応援? どういうことだ?」
「夜にイエヒサの側近という忍びが来ていた。足利がもう陥落するからこっちに兵力を回せるそうだ」
「なるほどな。しかし、弱体化した足利如きに思いのほか時間が掛かったようだが?」
「どうせ、ここと同じように邪魔が入ってんだろう」
「ふん、暴れたりないが……次の戦場に預けておこうか」
統率の乱れた部隊は撤退の際もバラバラ。あれではまともに機能しないだろう。
ランスはそれをつまらなさそうに見送った。

―城内
「遅いぞ」
「仕方があるまい。少なからず自軍からも離反者が出たからな」
「得意の色香はどうした?」
「男につかうのは持ち合わせてないんでな」
「……それはそうか」
「そうだ」
場所は尾張の城の天守。
島津家と織田家は改めて条約を結び、織田家は立場上島津の属国になり配下となる。
「しかし、これでよかったのか?」
「ん? 俺のこと気にしてるのかい? それならかまわない。のんびり峠茶屋の店主でもさせてもらうよ」
窓際で酒を飲む男3人。条約締結の後ヨシヒサはランスと信長だけを残した。
「そういった理由があるにせよ、えらく素直に受けたなと思ってな」
くいっと杯を空け信長は遠くを見る。
「JAPANは小さい。その小さな土地でさらに細分化した国が争っている。いつまでもそうしているべきではないと思うんだ。急に変化させることは難しいだろうけど、小さな足がかりから統一が成せれば、それはそれでJAPANの未来のためになるんじゃないかな」
「……深いな。俺達の理由とは……だいぶ違うな」
「黒姫が望むから、か。このまま国土を広げて最終的にこの国を統治する気があるなら理由はあとからついてくるんじゃないかな?」
「もちろん、責任は取る」
「なら、それでいいじゃないか」
「何を小難しい話ばかりしてやがる。酒がまずくなるぞ」
「そういいつつ、さっきから減ってないぞ」
ランスは顔をしかめる。飲みはするがあまり飲めるほうでもない。
「で、次はどこを攻めるんだ?」
「もう2〜3日で足利も落ちるだろう。終われば次は原家だな。足利との縁が切れれば弱小国だ。すぐにでも落とせるだろう」
「ふん、順調だな」
「問題は……」
「問題があるのか?」
「その後の侵攻方向だ。瓢箪を狙うべきなのだから武田家と行くのが順当だがな」
「あそこは強国だね。風林火山の四将を従える武田信玄の国、てばさきをつかった騎兵と言う兵種を持つ国でもある」
「こちらには鉄砲があるが……あの突進力の前にどれだけ当てられるかわからんな」
「騎兵、か。色々あるんだな。ヨシヒサ、後で資料でもくれ。暇なときにでも目を通す」
「ふっ、お前らしくない言い草だな?」
「何とでもいえ。その国を打ち負かさんと瓢箪が集まらんのだろう? ならば少しでも早く黒姫ちゃんを手に入れるために努力するの事に何の躊躇がある?」
自信たっぷり言い切るランスに残りの二人はやれやれと肩をすくめた。

―客間
「ふう……」
「ん? なにやら気になるため息だな。これだけすき放題やっておいてつまらなかったでは私の気が治まらんぞ?」
右にはしがみつくようにシィル、左にはこれまた幸せそうに眠るきく、ランスの上にはてるが。てるはランスの首につっと舌を這わせる。
「いや、なんだかんだで結構長居してるなと思ってな」
「尾張にか?」
「いや、この国に、だな」
「やはり、この国ではお前をつなぎ止める器には小さすぎるのか?」
「目的の黒姫ちゃんとヤるまではいるさ。って、いて!?」
首筋にくっきりと残る歯型。ちょっと血がにじむ。
「お前にデリカシーを求めるのは無駄だとわかっているが……。なあ、ランス」
「ん?」
「私やきくではお前をつなぎ止める鎖にはなれないのか?」
「鎖? どういう意味だ?」
「……愚問か。まあ、いい。それより動きが止まっているぞ。ため息ついて一息入れている場合ではないだろう? さぁ、もっと私を満たしてくれ」
「む、そういう奴にはたっぷりとおしおきだ!」

―隣の部屋
「……姉上、眠れそうにありません……」
「スースー(狸寝入り)」
「うーん、ちょっと夜風に当たってこよう……」
薄い襖ではてるの声を防ぐことなど出来ない。布団をかぶっても同じ。
眠っている姉の隣では一人で処理するわけにも行かず山本太郎はこっそりと部屋を抜け出す。

目を閉じればありありと思い浮かぶ昼間の戦闘。
圧倒的な強さ、戦場で光る判断力。舞に例えられるかのような剣捌き。
援護の矢を射るときしばし手を止めてしまっていた。
お家のためと尽力し忘れていた女の部分が熱を持つ。自覚した瞬間からそれは徐々に膨らみだしていた。
自分はランスという男性に惹かれている。

隣の部屋から聞こえる艶声に自分の姿が重なる。しらずしらずのうちに手が襦袢の中に入っていった。

―廊下
「姉上まで……うぅ、さぶ……」
月明かり明るい夜の廊下、押し殺しきれない姉の喘ぎ声。
結局朝まで太郎は廊下にいたとか。


あとがき

やっぱり五十六とランスは鉄板だよね!

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