東方異人伝 第2回 混乱する城 ―地下牢 「気に入らん」 「仕方ないですよ、ランス様。あんな数が相手では怪我していたかも知れません」 「そうじゃない。気に入らんのは俺様とお前の扱いの差だ!!」 ランスのいる牢:2畳ほどの広さ。筵が一枚。排泄用の壷。 シィルと京子さんの牢:4畳半ほどの広さ。簡易ながらベッドが二つ。簡易ながら周囲を覆われたトイレ。 「だぁぁーーーー、出しやがれ!!」 ランスは牢をガシガシ蹴った。当然それで破壊できるわけもなく。 「はぁはぁ……」 疲れるだけに終った。 それからしばらく経ち、寝ていたランスは近づく人の気配で目を覚ました。 兵士が5人ほど牢の前にやってきた。 「出ろ」 鍵が開けられ、ランスにだけ手枷がはめられどこかへ歩かされる。 「どこへ連れて行く気だ?」 「最初に言ったはずだ。国主島津ヨシヒサ様のところだ」 「何で国主様が私達を?」 シィルの問いに兵士は答えず、早く歩くように急かす。 「おい、シィルや京子さんに手を出したらこの国を潰すぞ」 「……」 やはり兵士は黙したまま。 「けっ、だんまりか」 一行は地下から地上へ、そして天守閣へ進む。 途中窓から遠くに天満橋が見えた。 ―天守閣 謁見の間 「例の異人を連れてまいりました」 「ご苦労。下がれ」 「はっ」 ランス達を引っ立ててきた兵士が去り、広い部屋にはランス達3人と4人の美青年が残る。 「で、どれが国主だ?」 「うわ、口でか〜い」 「異人だからじゃないか?」 ごついのと小さいのがランスのことを笑う。ランスの怒りゲージが少し伸びた。 「……お前ら俺様を馬鹿にしているだろう」 「イエヒサ、少し黙っていろ」 「は〜い」 落ち着いたのが小さいの、四男イエヒサを黙らせる。 そして、ランスに向き直った。 「無理やり引き立てたのは侘びる。わざわざこうしたのは色々と聞きたいことがあったからでな。……その前に名乗っておこうか。俺が島津ヨシヒサ。国主だ」 「俺様は英雄ランス様だ。敬意を込めて『大英雄のランス様』と呼べ。がはははは」 「……」 「ランス様、国主様にそんな言い方したらダメですよ」 シィルが小声でたしなめるが、 「かまわん」 それで聞き分けたらランスではない。 「国主ということは王様みたいなものだろう。大陸の端の小国のさらに細分化された領地の王だぞ? 俺様はリーザスとゼスという大国のトップと自由にヤレるんだぞ? 実質大陸の半分は俺様の物だ」 ランスの主張にはかなり語弊があった。が、微妙にそうなりそうで即座に否定できない部分もある。シィルは何か言いかけて口を閉ざした。 「ああ、お前の妄想が聞きたいんじゃない。こちらが聞きたいことは一つ。この国へ来た目的を言え。俺が聞きたいことはそれだけだ」 「目的? 最初は美人と有名な香姫を目標に来たんだがまだまだ青いらしい。だからチェンジだ。ここにいるという黒姫を出せ」 ギシリと空気が軋む。シィルと京子は息を呑み硬直した。 「そうか。やはり、黒姫が見たという大きな出会いというのはお前の事なのかも知れんな。その可能性が出てきた以上、お前には消えてもらおう」 「決まりだな。丸腰の相手ってのがアレだがしかたねぇ」 「僕ら兄弟を差し置いて黒姫に近づこうなど……身の程をしってほしいね」 「にーちゃん達、やっちゃえ」 ヨシヒサを筆頭にカズヒサ、トシヒサが刀を抜く。イエヒサは後ろで応援らしい。 一方でランスは丸腰。武装解除されてカオスも鎧も無い上に手を後ろでに縛られている。 「安心しろ。女には手をださん。安心して死ね」 「シィル、縄を焼き切れ」 「え、でもランス様が……」 「火傷ならここで袋にされるよりマシだ!!」 「はい! 炎の矢!」 それからは一気にことが進む。 シィルの魔法で縄を焼き切ったランスは即座に足元の畳を引き剥がした。そして、蹴り飛ばす。一斉に斬りかかって来たヨシヒサ達は何の障害ともせず畳を斬りすてる。 だが、ランスは攻撃に転じることなく京子さんとシィルを連れて反転、謁見の間の襖を蹴り破り廊下へ。 「ちっ、追うぞ。事は大きくするな。黒姫に知られたら後が怖い」 「「了解」」 「じゃあ、僕は黒ねーちゃんの所へ行ってくる。こっちに来ないようにごまかしておくよ」 「頼む。だが、過度な抜け駆けは厳禁だぞ」 「も、もちろん」 三人は頷きあい散開する。勝手知りたる城の中。 完全に地の利は彼らにある。 一方ランス達。天守閣のわりとすぐ近くの納戸の中に隠れていた。 灯台もと暗しと言うやつだ。下手に地の利があり、移動が早かったヨシヒサ達はすでに階下にいる。 「ランスさん、お城の中じゃ逃げてもすぐに捕まりますよ!」 「ちっ、わかっている。シィル、京子さん。二人はここに隠れていろ。俺様は武器を探してくる」 脱出するにしても数度の戦闘は避けられない。そして、ランスは丸腰だ。 「カオスが見つかれとは言わん。剣の一本でもあれば……ん?」 「あ……」 納戸から出たランスと黒姫の部屋に行こうとしていたイエヒサは見事に鉢合わせした。 先に動いたのはランス。超絶反射でイエヒサの腹を殴る。 「きゅー」 あまり鍛えていないイエヒサはあっという間にランスの手に落ちた。 だが。 「男はいらん。必要なのは剣だ、剣」 ランスはイエヒサをぽいっと捨てた。 そのまま数歩進み思い立ち振り返る。 「こいつ国主の兄弟だな。……ふふふ、いい事を思いついた。さすが俺様、冴えているぞ」 ランスはイエヒサの身体中を弄り目当ての物を見つけた。イエヒサが護身用に持ち歩いている短刀である。無論本人がひ弱で技術も無いため活躍の機会はない。 「おい、起きろ」 ぺちぺちと短刀の腹でイエヒサの頬を叩く。 「ん……あ……異人……」 聡明なイエヒサは一瞬で事態を把握した。 「お前、さっき部屋にいたな。男の顔を覚えるのは嫌いだから覚えが無いが」 「さ、さぁ? どこの部屋かな?」 短刀が動きイエヒサの喉が少し切れた。 「悪いが男には容赦しない。ガキでもな」 「っ!」 「黒姫の居場所を……いや、大声で黒姫を呼べ。さっきの会話からお前たちが俺様の事を黒姫に知られたくないのは気付いているぞ」 イエヒサの中で二つの選択肢が浮かぶ。 命惜しさに黒姫を呼ぶか、あるいは捨て身で脱出を図るか。 助けを呼べば騒ぎが大きくなり呼ばなくてもいずれは黒姫が気付く。 かといってこの男相手にでは捨て身でも脱出する方法が思いつかない。 と、天井の板が音もなくスライドした。ランスはイエヒサを見ているので気付いていない。 子飼いの忍者が天井から音もなくランスの背後に降りる。 「ランス様! 危ない!! 炎の矢!」 納戸から覗いていたシィルからの警告と援護射撃。ランスはとっさに身をひねり忍者の斬撃を回避しカウンターの一撃を放つ。忍者は炎の矢を迎撃して打ち落とした直後。わずかな時間差で来たランスの攻撃を回避しきれず短刀を腹に受け倒れる。 その間にイエヒサは身体を起こし逃走を図る。だが、身体能力はランスのほうがかなり上だった。たった3歩で追いつかれる。 ランスが手を伸ばしイエヒサのズボンの後ろにかかる。 それによりイエヒサは前にバランスを崩し、その結果、脱げた。 ぺろーんと丸出しになるイエヒサの尻。まだ、蒙古班が残っていた。 「……ぷっ、見た目もそうだが下半身もガキだな」 「黒ねえちゃーーーん!!」 恥ずかしいモノを見られ、イエヒサの中でプライドとか色々な物が壊れた。 そして、気づいた時には己の意思とは関係なく黒姫の名を叫んでいた。 それはもう、城中に響くほどの大声で。 ―モロッコ 名護屋城の一室 4人の男が一人の女性に長々と説教を受けている。 その姿はしゅんと縮こまったその姿はとても国主とその兄弟には見えない。 あまりの姿に天井裏にいた女忍者が落涙したとか。 「黒姫、そろそろ終わりにしてもらえないか?」 「何を言うのです。まだ半分しか終わっていません」 「たはっ、マジかよ」 次男が天を仰ぎ、長男はああ、久しぶりだなコレなどと過去を振り返り、三男は怒る黒姫も美しいと現実逃避して、四男は先ほどのがトラウマになりかかっているのか未だに落ち着きが無い。 「いいですか? 今まで黙認してきましたが、近頃の彼方達の行動は目に余ります。この際は母代わりとしてはっきり言わせていただきますが、英雄色を好むにもほどがあります。いまや城の中に彼方達の誰の手にもかかっていない者がいないではないですか。家臣の夫人にまで手を出したり数件の苦情もあるのですよ? 彼方達が女性に好かれやすいのは分かっていますがもう少し(以下長いので割愛) いいですか? 今度このようなことになってしまったら、私は旅に出ますからね」 「「「「!!」」」」 最後の一言が効いた。四人は座りなおし頭をたれた。他の者には見せられない光景である。 国主の威厳が失われるだろう。 「なんだ、国主も形無しだな」 そんな時に神経を逆撫でするような声。 『こら、心の友よ。覗いてやるなというのに』 「ふん、男などどうでもいい。黒姫ちゃん、話はすんだか?」 「ええ、ランスさん」 部屋に入ってきたランスは無遠慮に黒姫の肩に手をかける。 すっと、ヨシヒサの手が刀に触れた。 「異人、その手を離せ」 「ヨシヒサ」 少し悲しそうな黒姫の声。ギシリとヨシヒサの歯が音を立てる。そして、二度ほど深呼吸してから手を離した。 「すまない、黒姫。だが、その男をかばい立てする理由を聞かせてもらおう」 「……ええ。全て、全て話すわ。私が何なのかも、私が何を望み、何をしようとしているのかも。でも、……少しだけ時間をちょうだい」 「わかった。そこの異人。今の段階では納得いかんが部屋を用意させる。そこでしばらく待て。ただし、何があっても出るな」 「ふん、まあいいだろう」 「後で呼びに行かせる」 ランスは女中に案内されて姿を消す。 「いいの、にーちゃん?」 「……今は、な」 「だが、黒姫の思いつめよう、ただ事じゃねーな」 「そうだね、兄さん。あんな黒姫は初めて見たかもしれない」 「……全て話す、だそうだ。今は待つしかあるまい」 頷き各自散っていく弟たちを見送り、ヨシヒサは煙草を取り出しくわえ黒姫の言葉を反芻する。 「黒姫が何なのか、黒姫が何を望み、何をしようとしているのか。……決まりきっている。黒姫が何者であっても、何を望み、何をしようとしていても、我ら兄弟の答えは変わらない」 そんな呟きと共に噴き出された紫煙が大気に溶けていき、やがて消えた。 |
あとがき 相変わらず遅いな〜 とりあえず、まだしばらく島津から出ることは無いでしょう。 のんびりいきますよ〜 |