東方異人伝 第5回 戦乱の胎動

―名護屋城 作戦会議室
壁に貼り付けられた地図の前に20名ほどの島津有力武将が待機している。
「悪い、待たせたようだな」
少し遅れてヨシヒサ達4人とさらに遅れてランスが不機嫌そうに入ってきた。
よく見るとランスとヨシヒサの二人はあちこち痣だらけだった。
それもそのはず、二人は城内で会うたびに殴りあう仲。模擬戦の最後のアレが後を引いているらしく、二人とも大人気ないほど過剰反応する。
普段クールなヨシヒサもこの事だけはヒートアップする。
今では名護屋城の風物詩とまで噂されていた。
一部の女性の間では『熱くなったヨシヒサ様もステキ!』となっているらしい。
話がそれた。
とりあえず、今回の会議に遅れたのも二人の喧嘩が原因だった。
将達は小さくため息。
黒姫が仲裁しても一向に改善しないので困ったものだった。

「あれから軍備も整った。その動きもそろそろ隠し切れん。気付かれる前に迎撃準備が整う前にこちらから宣戦布告を行う。……これから起きる戦に歴史の残る大義は無い。参戦に強制はしない。部屋を出てもかまわん。だが、黒姫の望む未来に少しでも希望を持つならば力を貸してくれ」
ヨシヒサの言葉。
もちろん、部屋を出る将などいない。
「ふん、聞くまでもなかったな。ならばその命俺に預けてもらう。最初に狙うは毛利!! 武田、上杉と並ぶ強敵だ。ここを落さねば先はない!!」
「「「「おおおおお!!」」」」
ヨシヒサと将が盛り上がる。
一方でランスはあくび。
「……あほくさ」
どうもこういうノリは好きではないらしい。
そもそも男多数の集団行動などやる気が出ない。
戦場に出てかわいい女の子を見かけたらやる気も出るだろう。
とりあえず、今はやる気も起きない。だから、作戦会議の話も半分だった。
そして、やる気の見えないランスを誰も注意することはなかった。

―赤ヘル
元々はこの赤ヘル1国の大名でしかなかった毛利家。しかし、現当主毛利元就が妖怪に呪いを受けて呪い付きとなると同時に大きく変化した。
元就の呪い。寿命が半分になるというソレは引き換えに強靭な肉体を元就に与えた。
それ以来やりたい放題。近隣の3カ国を瞬く間に落とし今では4カ国を支配する大名とまでになった。
が、中身はならず者の集団と変わりない。
そのならず者の集団を形だけでも軍隊にしたのが元就の3人の娘達だ。
長女、毛利てる。足軽部隊を率いて戦場を駆け回るほど戦大好き、城では掃除大好き。さらにはカリスマもある。
次女、吉川きく。忍者部隊を率いて撹乱するのが主任務。城では料理大好き。苗字が毛利で無いのは一度嫁いだためである。
三女、小早川ちぬ。ありとあらゆる毒を扱う毒殺マニア。可愛い花には猛毒がある。また、抱かれた男の数はかなりのものとか。いろんな意味で危険だ。
この3人がいてこその毛利だろう。

「が、ははは……さ、さぁけぇ、もってこぉい!!」
「へい、大将!!」
赤ヘルにある毛利の城。隣国明石との戦に勝った彼らは大宴会を開いていた。
輪の中央にいるのは毛利元就。
モヒカン兵士が運んできた一抱えもある酒樽を掴むとそのまま口に流し込む。
元就が酒樽を持つとちょうどいいコップサイズとなる。それほどのスケール。
「ほい、つまみだ。さっさと持っていけ」
「へい、姉さん!!」
特設の調理用テントからは次々と料理が運び出される。きくは一息入れようと残りを任せて元就の側へ。ふと見るといつのそこにいる人物が居ない。
「ちぬ、てる姉は? 厠?」
「あれ〜☆ ちぬはみてないよ?」
「そうかい。そろそろ、4人でのんびりしたいと思ったんだけど……」
まあ、いいかときくも勝手に飲みはじめる。
「き、きく、たの、しいかぁ?」
「ああ、もちろん。戦の後の酒は格別だ」
「ぐぁっはははっ、のめぇ、のめぇ!!」
それからしばらくして、長女てるが戻ってきた。
その口元にはいつも以上に不敵な笑みが浮かんでいる。
「元就、楽しんでいるか?」
「もちろんだぁ、な」
「うむ、ならば良い。だが、宴会以上に楽しみな情報を掴んできたぞ」
「へ〜、なにがあったんだい?」
「ちぬもききたいな〜」
「島津が戦の準備をしている」
騒がしかった宴会場が一瞬静かになった。
「おそらく今週中には打って出てくるだろう。我々も楽しい戦の準備をするぞ」
「ぐげはははははっ、し、島津と戦かぁ!! それはぁ、楽しみだぁ!!! がはは!!」
元就はさらに機嫌がよくなり恐ろしい勢いで酒を消費していく。
「さあ、少々早いがここらでお開きだ。塵も残さず片づけをして戦に備えるぞ!!」
「「「「おおーーー!!」」」」
「おっしゃ、腕が鳴るぜ!」
「ちぬも楽しみ〜」
「そこ! 白米が一粒落ちているぞ!!」
「すんません、姉さん!!」
そんなこんなで毛利の夜は更けていく。

―開戦前夜 名護屋城
天守閣の一角に陰陽師たちによる結界が敷かれていた。それを取り囲むようにランスやヨシヒサ達武将が並んでいる。皆武装し空気は重い。
そして、結界の中央にはひよこ瓢箪と、なぜかぼたんが一匹。
ぼたんは周囲の空気に圧倒されて震えている。
「ランスさん、準備はよろしいですか?」
「俺様はいいが、本当に大丈夫なのか?」
「はい。封印される際、ザビエルは当時使っていた身体を失いました。前回の復活の時もそうだったように、おそらく今回も封印の破壊と同時に手近な生物に取り付くはずです」
その生贄に選ばれたのが瓢箪の横にいるぼたんらしい。
「あの子には可哀想ですが……。ザビエルを討つにはコレが一番安全で確実だと思います」
「よし、魔人殺しは俺様に任せろ。やれ!」
武将の一人が矢を番え放つ。矢は見事にひよこ瓢箪を貫く。
「さ〜て、出てきやがれ」
ぼたんが矢に興味を示し近づいたとたん黒い霧のようなものが鼻からぼたんの中に入り込んだ。
たったそれだけで空気がさらに重くなり誰もが息を呑む。
皆が見守る中、ぼたんに変化が現れた。
『む、のっとり成功だな。心の友よ、アレもう魔人っぽい』
カオスが気配を読む。ソレは誰が見てもただのぼたんではなくなっていた。
「ふむ、思わずこんな身体に入ってしまったが……凶子……お前の差し金か。父に対してこの振る舞い、仕置きは覚悟できておろうな?」
ぼたんから発せられる重い声。その小さい身体から放たれるプレッシャーは凄まじい。
「お父様。いえ、魔人ザビエル。此度の復活は彼方の生に終止符を打つためのものです。お覚悟を」
黒姫が凛と言い放つ。
「終止符を打つか。威勢がいいな。だが、ソレくらいにしておけ。周囲にたむろする日本人を見ていると機嫌が悪くなるぞ? とりあえず、そこの異人。身体をよこせ」
「断る。黙れ。そして、黒姫ちゃんのために死ね」
ランスがカオスを構えるがザビエルぼたんは気にせず近づいてくる。
「抵抗は無駄だ。我は魔人。人間ごときが我に害することなど――」
あるはずが無い。そう思っていたからこそ、ザビエルぼたんは無防備すぎた。
裂ぱくの気合と共に振り下ろされるカオスを避けようともしなかった。
「死ねぇ!!!」
ざん、とザビエルぼたんの頭蓋が割れた。
もとより小さい体。カオスは頭蓋だけでなくそのまま顎まで切り裂いた。
「な……何故だ!? 何故、我が傷つく!?」
「あ? カオスを知らんのか。まぁ、いい。さっさと死ね」
第2撃。
ザビエルぼたんは回避を試みるが最初のダメージが大きすぎた。
まともに避けられずまた食らう。
「この体……脆弱すぎる!!」
「がははは!! もう一撃!」
ランスの圧勝。だが、さすがに8分の一の力とはいえ魔人は魔人。
耐久力はある。それでも誰がどう見ても時間の問題だった。
よろよろと逃げ回るしかないザビエルぼたん。
容赦なく追撃するランス。
そして、結末はあっけなく訪れる。
カオスの斬撃をくらいザビエルぼたんの首が飛んだ。
「まさ……か……こんな方法でこのザビエルが……!」
「まだ喋るか」
「くくく……我が欠けてもまだ8分の一に過ぎん。そろそろ封印も消える。今に見ておれ異人。そして、凶子。貴様もだ!! 必ず、絶望を味あわせてくれるわ!!」
ぼたんの首は目に憎悪の炎を灯らせる。
「封印が消える前に、全てを終らせます。……必ず」
「よっし、消えろ」
ザビエルぼたんは止めを刺され沈黙。一瞬の後、ビー玉サイズの魔血魂に変化した。
「ん? 8分割されているから死んでも八分の一か」
『まあ、そういうことじゃろうな。黒姫ちゃん、陰陽師にコレを厳重に封印させてくれ。誰かがコレを取り込みでもしたらえらい事になる』
「ああ、アイツみたいになるのか。面倒だ。黒姫ちゃん、頼むぞ」
ランスはゼスでの出来事を思い出し顔をしかめた。
「はい、分かりました」
黒姫が請け負い、魔血魂は城の地下深くに封印されることになった。

そして、ソレまで様子を見ているだけだったヨシヒサが側に来る。
「以外にあっけなかったな」
「がははは、俺様が強いだけだ。恐れ敬え」
「黒姫、貴女は大丈夫か」
ヨシヒサはランスをあっさり無視した。
無論、ランスは怒ってなにやら叫んでいるがシィルと京子の二人がかりでなだめらてしまった。
「私は大丈夫。これでうまくいく可能性が出てきました。ランスさんの力添えがあれば入手した瓢箪の数だけザビエルの力を削ぐことが出来る。けれど、瓢箪を手に入れるためには他の国と戦わなければなりません。……これからが本番です」
「ああ、分かっている。黒姫のためなら世界でも手に入れよう。全ては貴女の望むままに」
「ありがとう、ヨシヒサ。でも、世界は望まないわ」
「言葉のあやだ。よし、毛利に使いを出せ。宣戦布告をする!!」

翌日、毛利に宣戦布告がなされた。

これにより、JAPANを揺るがす大戦が始まる。


あとがき

ザビエルの倒し方。
もし、ひょうたんを壊した藤吉郎が信長より先にひょうたんを触っていたら。
そんなことを想像したので、流用してみました。

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