第7回 VS毛利・大決戦

―戦艦長門 毛利陣営
先の戦いで少し後退したが拠点のひとつを奪われたに過ぎない。
奪われた地を奪い返そうと兵士達の士気は高い。
そんな兵士の熱気とは裏腹に人払いをし自室に篭っていた元就は体に走る激痛に顔をしかめていた。
「ぬぐぐぅ……」
妖怪の呪いで寿命半分。強靭な体を得たとはいえ、いつ命を落としてもおかしくないのは理解している。同時に、その時が近いということも理解していた。
体が強張り胸の奥が軋む。
「わしは死なん……まぁだ……だ」
戦の中で散るのは本望だが、寿命で散るのは己が許さぬ。
暗い室内に元就の苦悶の声が響いた。

―廊下
様子を見に来たてるは襖の前で中の異変を悟った。
「……元就」
一瞬、すぐさま父に抱きつきたい衝動に駆られるが何とかそれを押さえ込む。
父は誰にも今の姿を見られたくなくて人払いしているのだ。
ギリリと歯をかみ締めて耐える。
奪われた半分の寿命がいつ尽きるのか。
もう長くはない。本人はもとより娘3人も気づいている。
ここ1ヶ月ほどで元就は目に見えて衰えていた。
あの体だからこそごまかしきれているが、普通の体なら床に臥していてもおかしくはない。
武人の父にそんな最後を迎えさせたくは無かった。
少しの思案。
そして、何か決意をひめたてるは足早にそこを離れた。

―島津軍野営地
緒戦の大勝で陣地内にはすでに戦勝ムードが漂っていた。
兵はみな浮かれている。
「ふん、お互い様子見の一戦で勝っただけだろうが……」
そんな中、ランスは割りと冷静に兵士たちを見つめていた。
意外にも戦況を見る目はあるらしい。大きな戦闘を生き抜いてきた勘のようなものなのかもしれない。
だからと言って、盛り上がる兵士達に水をさすつもりもない。
盛り上がっているのならむしろ、持ち上げてさらに勝利を得るために力を出させる。
「お前ら! 浮かれるのは毛利の首を取った後だ! 今日勝てたのだから明日も勝てる。黙って俺様について来い!」
「「「「「おおーーー!!」」」」」
「……」
そんなランスを少し後ろから見ているシィル。
内心少し複雑だった。自分の知っているランスではないような変貌振りだ。
兵士達をまとめる求心力なんて正直なかったと思う。
今の姿はまるで別人。シィルの知らないランスのよう。
この地に来て、軍隊というものを統率するようになって才能が開花したとでも言うのか。
「ん? どうしたシィル?」
「え、いえ。なんでもないです」
振り返る姿はいつものランスだ。シィルは少しだけ安心した。

「ランス殿、ここにいらしたのですか」
「どうした?」
「はい。殿が将を招集しております。なにやら毛利からの軍使がきたとか」
「がはははは、俺様の強さに投降して来たのか?」
「いえ、自分は何も聞かされておりません。お急ぎを」
「ふん、まあ、いってやる。シィル、ついて来い」
「は、はい」
このタイミングで軍使が来るとは、毛利方に何かあったのかもしれない。
ランスはそんなことを考えながら島津兄弟のもとへむかった。

「おい、来てやったぞ」
「ああ、ちょうどいいところに来た。とりあえず、これを読め。毛利からの書簡だ」
「どれどれ……。あ〜、シィル。読め」
JAPANの言葉が読めないわけではなかったが適度に崩された達筆な文章は流石に読めなかった。ランスは一瞬であきらめ、書簡をシィルに渡す。
「はい。えっと、我が軍は華の無き小出しの戦いを望まず。ゆえに大決戦を以て両軍の雌雄を決したい。だそうです」
「……ランス、お前の意見を聞かせてもらおうか」
「それはこの大決戦に乗るか乗らんかの意見か?」
「いや、とりあえずは思ったことでいい」
ヨシヒサにそう言われたランスは一瞬の思案の後、一気にしゃべった。
「まず、いきなり緒戦の後に大決戦を望む理由だがいくつか考えられる。1つ、毛利軍の総力をもってすれば島津軍に圧勝できるだけの物量と自信がある場合。小規模な戦闘で策を練られるよりは基本的に正面衝突になるだろう大規模戦闘で打ち勝つほうがいい。2つ、兵糧か何かの理由で毛利側が長期間の戦闘が不可能な場合。まあ、いくら無法集団とはいえ誰かそのあたりを仕切るやつもいるだろうし兵糧以外の理由のほうが考えられる。そして、最後」
島津兄弟、そして、シィルもランスの講釈に唖然としていた。
こんな人間だったか? と。
種をあかせば、とある女性武将がランスに抱かれる際あれこれ教えているのだった。
戦況の見方、兵士の指揮等、軍を動かすのに必要な事を少しずつ叩き込んでいった。
そのおかげで付け焼刃だが知識を得た今のランスは注目の的になっている。
「―俺様の強さにびびって物量作戦で俺様を狙いに来た」
しかし、やっぱりランス。最後の最後で台無しになった。
微妙にしらけた空気。
「で、受けるべきか否かは?」
「受けろ。相手の大将も出てくるだろう。俺様が元就をぶっ殺して戦に勝利だ」
自信満々なランス。
島津兄弟は半ばあきれて首をかしげた。
「まぁ、いい。これで受けるに多数票。書簡を用意しろ。大決戦を受けてやると毛利に使者を出せ」
「はっ」
「カズヒサ、各武将に激励を飛ばせ。トシヒサ、鉄砲隊の指揮は任せる。種子島と連携して最大数稼動できるようにしておけ。イエヒサ、決戦場の地形と条件を調べておけ。正面衝突することになるだろうが何か策を練る必要も出てくるかもしれん。それからランス、お前にはこれだ」
ヨシヒサは一気に指示をくだし、ランスには紙の束を投げた。
「何だこれは?」
「毛利元就に関する報告書だ。島津と毛利は隣国同士だからな。敵将の事はできる限り情報収集してある。読んでおいて損は無いだろう。……と言っておいてから言うのもなんだがな。止めておけ。元就と一騎打ちは。死ぬぞ」
「ふん、俺様を誰だと思っている?」
「……警告はしたからな」
「がははは、大船に乗った気でみておけ」
ランスは聞いていなかった。隣ではシィルが申し訳なさそうにしている。
ヨシヒサはため息を一つ。そして、自分も大決戦に向けて動き出した。

―決戦場
戦艦長門中央部に広がる広大な平野。一堂に会する兵は各軍5万。
おそらく、史上稀に見る大戦となるだろう。
「兵はほぼ同数といったところか……。ただの雑兵なら楽だがな。毛利に吸収された勢力の兵は馬鹿にできんな」
強力な水軍を保有する村上家を筆頭に過去中国地方にあった大名家はすべて毛利家に吸収されるか根絶されている。吸収された彼らが生き延びるすべは元就の機嫌を損ねないように指示に従うことのみ。
「さて、出陣といくか」
ヨシヒサは咥えタバコを投げ捨て重い腰を上げた。

戦場にほら貝が高らかに鳴り響く。
轟く鬨の声。
鳴り響く進軍の地響き。
島津と毛利の大決戦。
その幕は切って落とされる。

「がははは! 弱いぞ! 雑兵共、元就でも呼んで来い!」
ランスは中央で先陣を切っていた。
ランスという将に何かを見出した千の部下もそれに続く。
シィルは赤い血の花咲き乱れる戦場にめまいを覚えながらもランスの傍を離れない。
本当はこんな場所にいたくは無い。だが、自分の居場所はランスの傍と決まっている。
これまでもそうだったように、これからもずっと。
シィルはランスの背中だけを見て戦場を駆けた。

「げぇ!? なんだあの男……鎧が役にたたねぇ!」
総じて軽装なJAPANの防具はランスの振るうカオスの前にまったく意味をなさない。足軽を盾ごと両断し武士隊を鎧ごと叩き切る。
「ぬおぉ!! 我こそは代々毛利家に仕える―」
「うるさい、雑魚に用は無い!」
そこそこの将だっただろうが口上の途中で神速で踏み込んだランスに首を跳ね飛ばされた。
「どうした、元就! ランス様が相手だぞ! 出てきやがれ!」
ランスの雄たけびが響き渡る。

「突出した部隊がいるな。……下手な武将では相手にならんか。総員戦闘準備」
毛利5万の軍の中でもっとも統制の取れた部隊が動き出す。
「毛利の底力を見せてやろう。きく、ちぬ、折を見て動け」
「あいよ」
「は〜い☆」
「うむ。毛利元就が長女てる。島津の雑兵共をことごとく掃除してやろう」
「「「「「おおおおーーー」」」」」
部下の雄たけびと共に毛利三姉妹の長女てるが動き出した。
目標は突出した島津部隊の撃破。てるのカリスマの元統率された部隊が牙を剥く。

「む?」
戦場のさなかランスが動きを止める。
「ランス様?」
「……気のせいか? 動きが変わったような……あ〜くそ、もう少し聞いとくんだったな」
付け焼刃のランスが気づいた違和感。
部下の将兵もそれに気づき動きを止める。
「ランス殿、敵の指揮が変わりもうした。油断できませぬぞ」
「やっぱりそうなのか。まあ、イエヒサが何とかするだろう。俺達は突き破るだけだ」
確かに、戦場を把握しているであろうイエヒサが援護くらいよこすだろう。島津には他にも優秀な将がいる。ランスは面倒なことを考えるのを止めた。動きのいい敵が出てきたならそれを叩き潰す。そうすれば次は元就が出てくるかもしれない。
「行くぞ! 正面突破だ。後に続け!」
対足軽部隊への常套手段、針の穴を通すような一点突破。
いかに訓練されていようとも個の兵士の力量が変わるわけではない。
初めて見る大陸の魔法と鬼神の如き大陸の剣士。
魔法にひるみ、隙を見せたが最後、剣士が肉薄する。伝播する混乱、切り込む島津の雄将達。崩された槍衾はあらぬ方向を向いた槍同士でぶつかり合い自らの反撃の機会を無くす。いかに錬度の高い部隊であろうとなすすべなく蹂躙されることとなった。
「む!? あれは!!」
ランスの目が光った。シィルもそれに気づいた。あの目は、ランスの眼鏡にかなう女性を見つけた時の目だ。そして、シィルはそうなったランスを止める術を知らない。
「がはは、いいぞ。ランクAだ。今日の戦利品確定だ」
目標を定めたランス。その後の動きは早かった。
「あ、ランス様!?」
あろうことかランスは部隊を放置で特攻をかけた。

「姉さん、まずいですぜ……正面衝突だったはずなのに奇襲を受けたみたいになってやがります。あの部隊突破力が強すぎて立て直す時間がありやせん」
「混乱の元はアイツか。……島津の異人。くくく……面白いやつだ」
「は?」
「あの強さ。傍若無人さ。そして、将兵をひきつける何か。……確信を得たぞ。異人、お前こそふさわしい」
「ふむふむ、メイド服の君。どうやら部隊長だな。俺の女になれ」
相対するランスとてる。戦場が一瞬停滞した。
「死ねやぁ!」
我に返ったてるの側近が切りかかる。
「雑魚に用は無いぞ」
技量差はあきらか。ランスはそいつを一瞬で切り殺した。
「さて、もう一回言うぞ。メイド服の君。抵抗は止めて俺様の女になれ」
「何を!」
ランスは一人、てるの兵力は数十人。ランスの首を取ろうと一斉に襲い掛かる。
だが。
「よかろう。お前の女になってやる」
てるのその一言で動きを止めざる得なくなたった。
当のランスも目をぱちくり。こういう突発なモノには弱いらしい。
「お、おう。そうか」
「ただし、条件がある。我は強い男が好きだ。異人よ。父、毛利元就と死合え。それに勝つことが条件だ」
ざわめく兵士。敵も味方も武器を振るう手が止まっていた。

―毛利本陣
どよめく兵士の間を縫って毛利てるとランスとシィルが歩く。
「ランス様……こ、怖いです」
射殺すような視線。シィルは震えランスのマントを握って歩いた。
「あん? 気にするな雑魚はどれだけ集まろうと雑魚だ。それよりいるぞ……やばそうなのがな」
ランスの視線の先。小山のような体躯。
毛利元就がそこにいた。
「おおぅ……てるか。どおぅした?」
「元就。死合いの相手を連れてきた。思う存分殺しあうといい」
「ちょ……てる姉!?」
「黙ってみていろ、きく。我らは見届けなければならん……」
「見届け……る? まさか、おやじ!?」
緊迫する空気。それは決戦場全てに伝播した。戦場が凍りつき音が消えた。
それを打ち破ったのは元就の笑い声だった。
そして、それは最近の毛利元就を知る者に大きな衝撃を与えた。
「がぁーはっはっはっは! 流石、てるだ! 最期の孝行というわけか」
「っ!? 元就、言葉が……」
「む、いよいよ時間切れか。頭まで冴えてきおったわ。異人、異論は無いな? 死ぬのはわしか、おぬしかどちらかだ」
「はっ、上等だ。ぶっ殺す」
「皆に告げる。この決闘へは一切の介入を禁ず。島津の者よ、そちらにもそう伝えよ」

「さぁて……消える直前の蝋燭は大きく燃え上がるぞ」
「黙れ、デカ物。御託はいらんだろう」
「確かに、その通りじゃ。てる、もう少し兵を下がらせよ。……邪魔だ」
巨大なダンビラを片手に立ち上がる元就。
「シィル、てるちゃんの近くに下がっていろ。手は出されんだろう」
ランスはシィルを遠ざけてカオスを抜く。
『ランスよ、あれは……ヤバイぞ?』
「黙れ、駄剣。俺様は、最強だ」
そう、そんなことを言われずともランスは肌で感じていた。
眼前の敵がとんでもない者だと。
知らず知らずにカオスを握りなおす。
「俺様は死なん。世界中の美人を俺様のモノにするまでは。……死なん!!」
ランスVS毛利元就。
最大級の一騎討ちが始まった。


あとがき

大問題発生。
戦国ランスをおさらいしようと再インストしようとした。
が、ディスクが無い……。
そんなわけで、停滞の予感……。

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