第8回 VS毛利・決着 「どうした? 逃げてばかりでは勝てんぞ?」 「うるせー!」 間合いが広すぎる。 武器のレンジも違えば体格差もかなりのもの。 ランスは回避に徹し隙あらば踏み込み一撃離脱を繰り返す。今まで数発切りつけたが、手ごたえはまるで岩を斬ったかのよう。まったく堪えた様子も無い。 「ちっ……バケモノが!」 持久力ではこちらが負ける。耐久力でもこちらが負ける。決定打も出せないでいる。 一方で相手の攻撃は当たれば致命傷。防御は無意味。 ランスは、以前の魔人戦よりあせりを感じていた。 「うりゃぁ!」 だんびらをぎりぎりですり抜け足元へ。繰り出された蹴りを回避し、駆け抜けざまに斬りつける。浅い。ダメージは無いに等しいかもしれない。 魔人をも切り裂く、神が作り上げし魔剣カオスでもその程度。 ふつうの刀ではそれこそ傷一つつけられまい。 「ふむ、やはりお前は見所がありそうだ。この体になってから、傷を負った記憶なぞほとんど無かった。だが、お前はそれを成し遂げている。わはははっ……楽しくなってきたぞ」 「見所があると思うならさっさと死ね!」 「何を言うかこんな楽しみが目の前にあるのにおちおち死んでいられるものか!」 テンション上がりまくりの元就とそれどころではないランス。 一瞬この場から逃げようかとも考えた。 だが、視界の端に映ったシィルを見て考えを改める。 絶対に勝つ、と。 ―観客席 といっても決闘の場から少し離れた場所。戦場の異変を聞き駆けつけた島津4兄弟。 その場に立ち、息を呑んだ。決闘の話を聞いてから駆けつけるまでそれなりに時間も経過している。正直、到着までのランスの生存を危ぶんでいた。 「よくやるわ、あいつ……」 「まだ立っているとは思わなかったな。……これは、もしかするかもしれないね」 「でも、アイツの体力持つかな? 見ている限り動きっぱなしだけど?」 「動いてないと死ぬぜ、アレは。一撃食らったらそれまでだろう。鎧も無意味だろうしな」 「じゃあ、息が上がってきたら……」 「それまでに決着をつけない限り、彼は死ぬかもしれない、か」 「だけどよ、介入するわけにもいかんだろ」 弟達の会話を聞きながら長男ヨシヒサは黙ってタバコに火をつけた。 話していても変わらない。自分達は完全に蚊帳の外。 「……女を泣かせるようなことはするなよ?」 小さな呟きは紫煙と共に消えた。 「はぁっ!」 ランスは気づいた。こちらの攻撃があたりやすくなっていることに。 無論、ランス自身の体力も消耗しているがそれ以上のペースで寿命は元就の体を蝕んでいた。傍から見たら元就がペースを握っているように見える。 直前まではそうだったのだが今の一撃の手ごたえは別物だった。元就の表情に初めて苦痛の色が浮かんだ。 おそらく気づいたのは戦っているランスだけ。 「そろそろ幕にしようぜ」 「ふん、首を差し出す気になったのか?」 「馬鹿か。俺様の辞書に敗北という文字は無い!」 「そうだろうな。これから先もそうやって生きていけ」 「当たり前だ。これが俺様の生き方なんでな」 それを最後に両者無言でにらみ合う。一瞬なのか、あるいは数分なのか。 硬直の後、先に動いたのはランス。黒い刀身には蒼い剣気をまとわせる。 振り下ろしの一撃をステップで回避。横なぎの連携を懐に踏み込み回避。 ランスはカオスを振り上げる。 「ランスアターーーック!!」 必殺の一撃は完全に元就を捕らえた。肩から袈裟切りに裂傷が走り一瞬の停滞の後血が噴出す。そんなさなかランスは見た。 元就がにやりと笑みを浮かべているのを。 その理由に気づいた。だが、手遅れだった。 元就はランスの攻撃を受けることを前提にしていた。倒れる身体。それとは反対に無造作に振り上げるだけの一撃。 その最期の一撃は必殺技が決まり勝ちを確信していて無防備だったランスをまともに捉えた。 いやな金属音が響きランスの身体が宙に舞う。 「異人……貴様の勝ちだ……」 元就の巨躯が地響きと共に地に沈む。そこから遠くない位置にランスの手から離れたカオスが突き刺さった。 「いかん! アイツを受け止めろ! 死なせるな!!」 自由落下を始めるランスに最初に気づいたのはてるだった。部下に命令を出し走らせる。 ランスの一挙手一投足に見入っていたからこそ出せる最速の命令。 そして、本人はなぜそんなことを言ったのか、わからず口元を押さえ目を白黒させる。 なぜか心臓は早鐘のように高鳴っていた。 「なんとしてでも大将を受け止めろ!」 てるの次に動いたのはランス隊の副将。あの高さから落下したらただではすまない。とっさに動く。自由落下する成人男性を受け止めるのだ。受ける側もただではすまないだろうが、元就を倒したあの男を死なせるわけには行かなかった。 シィルはその瞬間を見てから動けなかった。 明らかにおかしな方向に曲がった腕。砕けた鎧。 息を呑み、言葉を紡ごうとしてもそれすらもかなわず。 そのままシィルの視界は暗転した。 ―??? 「……生きて、いるか」 視界には最近見慣れた木目の天井がある。 「あのデカブツめ……自分が喰らう事前提で攻撃しやがった」 寿命を迎えようとしてた敵将。捨て身の一撃がありえるだろう事は想像に難しくない。 だが、ランスは最後の最後で油断した。 あの瞬間、ほぼ無意識にだんびらと身体の間にカオスを差し込んだ。もし遅れていたら身体は真っ二つだった。だが、衝撃は軽くなくカオスをねじ込んだ腕は一瞬で砕け、そのまま鎧も粉砕された。 「流石に、死んだと思ったな」 まだ全身に激痛が走るがそれこそ生きている証拠に他ならない。 身体を起こそうとして、どうにも動かないので断念する。 場所はランス屋敷の寝室。呼べば誰か来るだろう。 「お〜い、誰か。俺様が目を覚ましたぞ」 しかし、誰も来なかった。 「……シィルのやつめ、俺様をほってどこへ行ってやがる」 「嬢ちゃんなら水を取りに行っているだけだ」 「なんだ、誰もいないわ……け……じゃ……?」 「とっさに武器を盾にしたのが分かったからな。生き延びるだろうとは思っていたが……いやはや、予想を超える生命力だ」 「……」 「どうした? わしの顔に何かついておるか?」 ランス思考停止。 意識不明の状態から復帰してすぐにコレは衝撃的だった。 ランスの枕元。『半透明』の巨大な毛利元就が座っていた。 「ウギャーーーーーーーーーーーー」 ランス絶叫。 「どうした、何事だ?」 「ランス様、目が覚めたのですね!」 声を聞きつけてか襖が開きそこから二人現れた。 一人はシィル。驚き、反射的に跳ね起きてその激痛に悶絶しているランスを助け起こす。 もう一人は毛利てる。悶絶しているランスと元就を見比べはたと手を打った。 「流石のお前でも起き抜けに元就の幽霊を見ればショックか」 「あ、当たり前だ! 死んだんじゃないのか!?」 「ふむ、まだ頭がはっきりしていないか。今、私は言ったぞ。元就の幽霊、とな。父はお前との勝負に敗れ死んだ。それは確実だ」 「だが、わしはまだまだ戦い足りなかった。そう思っていたらまだ、地上に居たわけだ。わはははは」 「笑い事じゃねぇ!! うぐっ……」 大笑いする元就にランスが食って掛かるが身体はそもそもそれどころではない。 「ランス様、お体に障ります。落ち着いてください……」 まだまだ言いたいこともあったが、今にも泣きそうなシィルに諭されてはランスも黙るしかない。 「……で、何でお前らがここに居る?」 「元就が死んだ今、毛利を束ねるものは居ない。戦を続けても負けるのが分かっていたからな。さっさと休戦協定を結び、表向きは島津に制圧されたことになっている。国としての毛利はなくなったが、それでも我々は生きている。生きているなら戦ができる。お前と……お前達ととも居れば戦に立ち会えるだろう?」 「……戦争狂か」 「何とでも言え。我ら姉妹はそうして教育されてきたのだ今更方向転換できるものではない」 「んじゃ、好きに……しろ……」 覚醒したばかりのランスはまだ色々不安定で。シィルに抱かれたまま再び眠りに落ちた。 「ああ、そうさせてもらう。……そうそう、眠った今だから言えることだが……私はお前に惚れたらしい。最初に言ったのは口から出任せのつもりだったのだがな。お前の戦っている姿を見ていると自分でも不思議なほどこの胸が高鳴った。お前の負傷の瞬間には恐怖すらした。ちぬに聞けば恋とはそういうものだという。……くくく、不思議なものだ」 「え、ええ!?」 これに驚いたのはシィルだった。ぎゅっとランスを抱きしめる。 ランスはちょっと苦しそう。 「安心するといい、シィル殿。そなたから盗ろうとは思っておらん。ふふ、今のところは、な」 「わしに勝ったこやつの子種なら強い子が生まれそうだな。そうなると毛利は安泰だ。わはははは! 将来が楽しみだ」 盛り上がる親子と硬直するシィル。 「さて、また様子を見に来よう」 てるは襖を開け外へ。元就は姿を消した。 シィルは誰も居なくなったのを確認してからランスの顔を覗き込む。 「心配、したんですからね……」 こぼれる涙を拭おうともせず、シィルはそっとランスにキスした。 もともと護衛のつもりで部屋に居た元就。 今は姿を消しているだけでやっぱり部屋に居た。 「(てるよ……道は険しいぞ?)」 その呟きは誰にも聞こえない。 |
あとがき 放置続きであげくこの出来。 終わらせられるかな〜……orz 話の方向は決まってるけどモチベーションが最近出ないとです。 また、潜ります。 |