―JAPAN 島津領 モロッコ

天満橋。
この世界で大陸とJAPANを繋ぐ巨大な建造物である。
大陸との交易で栄えるこの地では大陸の人間を良く見かける。
だが、あくまで商人がほとんどなのだが……ここに非常に目立つ男が一人。
緑の服に鋼のブレストアーマー。さらに異形の黒い大剣を吊っている。
「がははは。弱い弱い。出直して来い!」
「ひっ……ちくしょーー!!」
数人の男達が痛めた身体を引きずりながらよろよろと逃げ去った。
「さて、怪我はないか?」
大陸の鎧に身を固めた男が座り込む女性に手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます」
女性は差し伸べられた手を取り立ち上がる。
「繁栄して治安の良さそうなここにもああいうやつらがいるんだな」
「そうですね。路地に入ると人の目は届きませんから」
「なるほど、好都合だな」
「……好都合?」
「うむ。俺様は君を助けた。というわけでお礼が欲しい」
「ああ、あまり持ち合わせが無いので――」
「金が欲しいわけじゃない。君が欲しいのだ」
「……はい?」
固まる女性。
「あの、ランス様。それでは先ほどの人たちと変わりませんよ……」
「大違いだろう。数に物を言わせて強姦しようとしたやつらと、それを撃退した俺様とどちらがいいヤツだ?」
「手を出される女性からしたらどちらも変わりないと思います」
「五月蝿い。黙って見張ってろ」
「うぅ……」

見張りを任された彼女はシィル・プライン。
背後で助けた女性に甘い声をあげさせている男、ランスの奴隷。
ということになっている。
ランスに買われた当時は絶対服従の魔法がかかっていたが今はそれも消えていて、それでも彼女はランスの側にいる。まあ、ぶっちゃけランスの事が好きなのだ。
女好きで手が早くて強引で、それでも離れたくなくてずっと一緒にいる。
いつか気持ちに気付いてほしくて。
シィルはぎゅっと肩を抱いた。今来ている服、天満橋の大陸側にある都市でランスが買い与えた物だ。シィルの普段着じゃ目立つという理由だが、一方のランスはそのままなのであまり意味は無い。だが、それは重要ではなく。
重要なのはランスからもらった数少ないものだということだ。
「ふぃ〜。満足、満足」
ふと見ると1戦終えたランスが女性をお姫様抱っこしながら路地から出てきた。
「シィル、宿を探して来い。今日は朝まで京子さんとお楽しみだ」
抱かれた女性、京子さんは顔を赤く染めランスに頬を摺り寄せる。
ちょっと羨ましい。
が、それより『ああ、やっぱり』という気持ちが強かった。
最近こうなる可能性が非常に高い。
このランスという男、見た目はいいし、強いし女性を惹きつける要素をいくつも持つ。
だが、世の中の女は全て俺様のものとか思っていて、わりと手当たり次第なのだ。
最近でこそ強姦より和姦の方が互いに気持ちいいと知ったためか無理やり犯すことは減った。それがきっかけか、テクニックの方も上達していて、成り行きで抱かれた女性もそれなりに落ちる。
「なんだ、その顔は」
「あ、いえ。なんでもないです」
なんとか嫉妬を押し隠しシィルは大通りへ。
小さくため息をつきながらその日の宿を探した。

東方異人伝 第一回 歴史動かす邂逅

「日本食ってのはなかなか美味いな」
宿にて朝食をとるランスとシィルと京子さん。
「なんというか、大陸の物より繊細な味といって言いと思いま――あっ」
ランスの箸が横からのびてシィルの皿から食べ物をかっさらった。
「何で奴隷のお前が同じ物を食ってる? お前はこれでいい」
ランスが出したのはパンの耳。
「うぅ……ひどいです、ランス様……」
「ふふ、そんなに苛めちゃダメですよランスさん」
「こいつは奴隷だから良いのだ」
「奴隷、ですか。でも、お二人を傍から見ているとそんな関係にはとても見えませんよ。もちろん、JAPANにそういう習慣が無いからそう見えるのかも知れないですけど」
「いいか、京子さん。こいつは俺様の世話をして、戦闘でサポートしてヤリたい時にヤルためにいるのだ。どこからどう見ても奴隷だろう」
「う〜ん、恋人通り越して夫婦かしら」
「ちが〜〜〜〜う!!!」
「夫婦……」
絶叫するランスと赤くなるシィル。
そんな様子を京子さんはくすくす笑ってみていた。
一晩過ごしてみてわかった。この二人の間に入る隙はない。
「ところでランスさん。この後の予定はあるの?」
「あるぞ。美人と有名な尾張の香姫とヤリにいく」
「香姫? ……ランスさん、相手が子供でも大丈夫なの?」
「ダメだな。可愛くてもガキ相手では起たない」
「香姫様はまだ年若い方よ?」
はい、と差し出されるのは小さな袋。少女の絵が描かれている。
「……誰だ、これ?」
「香姫様よ」
「カーマちゃんくらいですね、この人」
カーマとは少し前にゼスで知り合った子供だ。ランスには彼女から迫られた過去がある。
「これどこで?」
「尾張に旅行に行った時に峠の団子屋さんで。もらった時は中にむきぐりが入っていたわ」
「……参ったな。後7、8年……いや、5年したらいい女になるがそんなに待てない!!」
「じゃあ、ランス様。せっかくですし有名な温泉にでもいってのんびりしませんか?」
「む……温泉宿の美人女将も捨てがたいな……」
「温泉宿なら良いところがあるから紹介してあげるわ。私も行きたいけれどそうもいかないし、ね?」
セリフの最後の方はシィルに向けられていた。
シィルは赤面してうつむき、ランスは首をかしげた。

―天満橋
このモロッコを含め4カ国を支配する島津家。トップは美男子の4兄弟だ。
長兄ヨシヒサを国主とし、次男カズヒサ、三男トシヒサ、四男イエヒサがサポートする。
とにかく女性にもてる彼らは4人のうち誰が一番もてるかを争い、その結果四カ国を支配するまでの勢力になった。無茶苦茶である。
だが、優秀な彼らは内政もきちんと行い領民の反応はかなり良い。

「しかし、黒姫から人の多い所へ行きたいなんて言い出すとは思わなかった」
「だよね。黒ねーちゃんはあまり城から出ようとしなかったから、驚いちゃったよ」
「夢を見たの。……それがどうしても気になって」
今日訪れたのは長兄ヨシヒサと四男イエヒサ、そして客将の身分にある女性、黒姫。
一応身分は客将となっているが、四兄弟は彼女を敬愛しつき従っている。
もし、彼女のためになるのなら、島津四兄弟は全力でJAPAN統一ですらやってのけるだろう。
そんな彼らは今日はお忍びで天満橋に来た。
が、容姿端麗な男二人がこれまた美女を連れていれば嫌でも目立つ。ちっとも忍んでいるようには見えない。まあ、本人達はいっこうに気にしていない様子。
「夢、か。不思議な貴方のことだ、予知夢を見ても驚かないな」
「ホントに予知夢なの?」
「いえ、わからないわ。ただ、大きな出会いが起きるような気がして」
「それは聞き捨てなら無いな。男なら少々問題だぞ」
「にーちゃんたち以外のライバルは早めに消さないとね」
「こら。何を言い出すの?」
「我ら兄弟の許し無くば近づかせもしない」
「そーそー」
「二人ともいい加減にしなさい」
3人はそんな話をしながら大通りを行く。

大通りを島津の一行が来た方向を目指して歩くもう一組。
こちらは比率が逆だ。ランスとシィルと街道まで送っていくつもりの京子さん。
和気藹々と話しつつ道を行く。
そんなさなか。
『あ、心の友よ』
突然ランスの腰らへんから声がした。
「黙れ駄剣。お前が喋るとJAPANの美女が驚いて逃げていってしまうだろう」
『京子さん、わし、怖い?』
「少し驚いたけど……ランスさん凄い剣を持っているのね」
『そうじゃろ? わしは凄い――』
ランスの拳が唸り魔剣カオスを黙らせた。
「で、いきなり何を言い出すんだ?」
ランスはやや小さな声で問う。
『そうそう――』
島津の三人とランス達、そのセリフがカオスから発せられる瞬間、ほぼ真横にいた。進行方向は逆、互いに面識は無い故、気付きも認識もしていない。ただ、視界に入った。それだけだろう。
『魔人の気配がした』
だが、その音だけは彼女の耳に入った。
雑踏の中、他人の会話など気にしない。だが、彼女はその単語に過剰反応した。
兄弟との会話を断ち切って振り返る。だが、雑踏の中声の主を見つけることは出来ない。
意識の中の記憶を探る。視界に入っていた人物を思い起こす。
「どうした、黒姫?」
「……あ、いえ。なんでも、無いわ」
「顔真っ青だよ?」
「……そうね。人ごみに酔ったのかも。慣れないことをしては駄目ね」
「わかった。帰ろう」
「ここは異人も多いからね。大陸の変な気に当てられたのかもね」
視界の端に見えた気がした大陸の鎧。
「異人……」
「イエヒサ、適当なことを言って黒姫を困らせるな」
「あ、ゴメンね、黒ねーちゃん。冗談だよ?」
黒姫の耳にイエヒサの声は聞こえていなかった。
そして、ヨシヒサは黒姫の様子からただならぬ気配を感じ取り周囲に紛れているであろう護衛に指示を下す。
視界の端に一瞬写った大陸の男。何かある。
ヨシヒサの直感だった。

一方ランス達。
「魔人? ここはJAPANだぞ? いるはず無いだろう」
「いえ、ランスさん。JAPANにも魔人の伝説は残っているわ。詳しくは知らないけれど、封印されていて過去に何度か復活して暴れたとか」
「そいつの気配か?」
『あ、いや。なんというか、魔人の気配だと思ったじゃが、どちらかといえば使徒に近いような、あいまいな感じじゃな』
「なんだそりゃ。役に立たない剣だな。駄剣が」
『うわ、ヒドイ。わし泣くよ?』
「けど、ランス様。一応警戒だけはしておいた方がいいような……」
「必要ない。俺様は無敵だ。魔人が来ようが魔王が来ようが返り討ちにしてくれる」
「じゃ、じゃあ、この人達も何とかなるかしら?」
どこか引きつった京子さんの声。
「そこの異人。一緒に来てもらおう」
突きつけられる無数の槍。360度完全包囲だ。
「数が多いのは反則だ。男ならサシで来い」
「ゼスで魔人と戦った時は集団で戦ったような――イタッ」
ランスはシィルにげんこつを見舞った。
「横槍を入れるな」
完全に油断していたため囲まれても気付かなかった。相手にすきも無くカオスを抜くことも出来ない。
ランスは小さく舌打ちした。一人なら何とかなるが二人の女性がいる。とっさに暴れても無駄だと判断した。
「で、どこへ連れて行くつもりだ?」
「国主、島津ヨシヒサ様の所だ」

この一瞬の邂逅からJAPANの歴史は大きな転機を迎えることとなる。




あとがき

いまさらやってしまった感のあるランスSS。
戦国ランスを島津からスタートしようという無茶ですな。
去年の4月1日にだけ公開したネタ用だったのですが、まあもったいないので続きを書くことに。幽々自適な生活が煮詰まってるからじゃないのよ?
ちなみに、どんな展開になるかまったく考えてませんw
行き当たりばったり。それがASOBUクオリティ←ダメ物書き。

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