第4回 入隊しました。

私、入隊することになりました。
どこに? 今は存在しないニホン軍です。でも制服は自衛隊という名前の軍隊の女性用です。
それしか知らないので仕方ありません。
今日から彼らの前では八津基陸軍中尉だそうです。
昨日は夜遅くまで美香さんと話しこんでしまい、先ほど起きました。
幽霊でも眠くなる時はあるんです。
目を覚ました後は玄さんと再び合流して美香さんと私は町の案内の続きをしてもらうことになりました。
そこから最初に戻ります。

―大木楽公園
今日もこの公園です。とにかく広い公園内には色々あります。
池も、グランドも史跡も。
旧ニホン軍訓練施設跡。玄さんが今日案内してくれる場所だそうです。
何でも旧ニホン軍の兵士が二人地縛霊となっているとか。
今からその二人に会いに行きます。

―訓練施設跡
ただ石碑が建っているだけで他は特に何もありません。石碑には空襲で焼けたとありますから当然でしょうか。ただ、ちょっと変わった方がいます。
石碑の脇あたり20mほどの狭い空間をぐるぐると走っています。しかもありとあらゆるものを素通りして。あ、この方も幽霊で地縛霊なんですね。
服装もよく見れば軍服です。
「あいつは田中二等兵じゃ。そして君は八津基陸軍中尉、美香君も佐々木陸軍中尉ということで通しておくれ。ちなみにわしは少佐じゃ」
なにやら玄さんに勝手に決められました。でも軍隊って私どういうものかあまり知らないんです。どうしましょう?
「いや、あんまり難しく考えんでええ。上官として接するのが一番楽なんじゃよ」
まあ、わしに任せておけ。と玄さん。
よくわからない美香さんはそれに従うそうです。
私もよくわかりませんけど、私は私なりに接しますよ?
「集合!」
突然玄さんが叫びます。その声に田中二等兵さんはすごい速さで反応しました。
一瞬です。瞬きした後にはすぐ側に立っていました。
「元気にやっているようじゃな」
「はい、少佐。自分は雨が降ろうと槍が降ろうと焼夷弾が降ろうと訓練を怠りません!」
それは幽霊だからじゃないでしょうか?
さすがに生身で槍が降ってきたり焼夷弾が降ってきたりしたら死んでしまいます。
「今日は新たに着任する上官を紹介する。八津基中尉と佐々木中尉じゃ」
「よろしくおねがいします。まだ、幽霊になって間もないですけど」
「間もないのに中尉? もしかして、何かすごい力を持っているのでありますか?」
「……期待に沿えるほどすごいかどうかわかりませんけど、実演しましょうか?」
「是非とも!」
「じゃあ、行きますよ。はい」
ぷつん。あら不思議、他の人には絶対的な拘束でも、私にとっては軟らかい粘土のようになってしまいます。どうしてなんでしょうね?
やっぱり田中二等兵さんも例に洩れず同じような反応をしてくれます。
後ろでは玄さんと美香さんがあきれた様子で私を見ています。
「仕向けておいて何だが……、未だに信じられんわい……」
「でも信じるしかないわよ。……実際私も自由になったしね」
「しかし、やりすぎは不味い。いずれ死神が本格的に動くかもしれん」
「あいつらには関わりたくないけど……」
なにやら二人は小声で話しています。よく聞こえません。……もしかして二人は恋をしたのでしょうか?
「違うわよ。って、そんな思考だけ飛ばさないで」
「気のせいですよ、きっと」
ホントはわざとです。二人ともきっとわかってますね。
「や、八津基中尉……? じ、自分には何が起きたのか、り、理解できません」
田中二等兵さんは消えかけている鎖の残骸を握り締め見つめています。
どんどん鎖は消えていき、手の中からなくなりました。
「もう、同じ場所に縛られる必要はないんですよ? 幽霊になってから、世界を広く感じます。地縛霊より浮遊霊のほうがきっと楽しいはずです」
「も……もう、同じ場所をぐるぐる走らなくていいのでありますか……?」
「はい」
公園の中どころか町中だって走れますね。
「わぁ〜〜〜〜〜!? また縛鎖が切れてる〜〜〜〜〜!?」
ふふふ、彼が来るのを待っていました。
「こんにちは、シキ君」
「……お願い、もうやめて。これ以上、浮遊霊を増やさないで……」
上目つかいの涙目。……ちょっと、キュンときました。
どうしましょう、ものの見事に私のウィークポイントに当たるんですが。
このまますぐにお持ち帰りしたい気分です。あの細い体を抱き寄せて、誰も踏み込んでこない場所で二人きりに……。
え? ……持ち帰って何をするかって? 
……ふふふ、乙女にはいくつも秘密があるのです。
聞いちゃいけませんよ?
「戻っておいで、詩乃ちゃん」
美香さんに軽く肩を揺さぶられて現実に戻りました。
あれ? シキ君がいませんね?
きょろきょろと周囲を見回します。
「死神坊やならあんたが手を伸ばすなりすぐに消えたよ。よっぽど怖がられているみたいね」
おかしいですね? 怖がられるようなことはしていないつもりですけど……。
「さて、予定通り田中二等兵が自由になったところで次に行こうか」
「少佐、どこへ行くのでありますか?」
「……部下を誤って射殺して、その罪の重さに耐えかねて自ら命を絶った軍曹の所じゃよ」
田中二等兵さんの動きが止まりました。
玄さんはさらに続けます。
「ここから丘を越えた向こう側、元は宿舎があった場所じゃ」
私はまだ軍曹さんがどんな方かはしりませんが、大体の指示を受けました。
玄さんは田中二等兵さんと彼を殺してしまった西山軍曹という方を和解させたいとの事。
だけど二人とも地縛霊、いままで実行に移すことは出来ませんでした。
そこで私の出番です。鎖を切ったその後は、美香さんと二人で田中二等兵さんを捕獲します。
「なっ……!?」
「抵抗しないで下さいね。これは命令ですよ?」
よほど軍隊気質が染み付いているのか上官の命令が効果覿面です。
やはり、それでも自分を殺した人物に会うのは嫌なのでしょう。複雑な顔をしています。
まあ、そんなものはことごとく無視して強制連行ですが。

―旧ニホン軍訓練施設 宿舎跡
宿舎があった頃から中庭に生えていたという松の木。そこが西山軍曹の自殺した場所です。
……西山軍曹はまだぶら下がっていました。
さすがに驚いて足が止まります。
「ずっとあのままじゃよ」
玄さんの言っている意味が一瞬わかりませんでした。
「まさか、死んだときから!?」
黙って頷く玄さんを見て私も理解しました。さらに近寄って、玄さんが彼を助けたいと思う理由も知りました。
地縛霊をその地に縛る鎖『縛鎖』は本来、腕や足に絡みつくそうです。
私の場合も美香さんの場合田中二等兵さんの場合も足でした。
西山軍曹の場合は……なんと首です。自ら命を絶ったその時の形のまま『縛鎖』によって吊るされているのです。
……私なら耐えられません。
「……これは、少佐殿。……願いを聞き届けて下されたのですね」
「うむ。しかし、わしに出来ることはセッティングまで。まあ、それすらもわしだけではどうにもならなんだが……」
玄さんから合図を受けました。死相そのままのちょっと怖い西山軍曹さんの顔を見ないように鎖に手を掛けます。軽く力を入れるだけでほら、この通り。
地面に足をつけた西山軍曹さんはゆっくり田中二等兵さんを振り返ります。
顔は生前のものになおしたようです。おお、10年ほど賞味期限が過ぎてそうですがかなりの美形さんですね。男の人は15歳までが華ですよ?
「さて、後は二人で話をするんじゃ。わしらは退散するとしよう」
「はい」
「わかったわ」

このあとどうなったかといいますと、二人は素直に和解しました。
元々は幼馴染だそうで、その相手に殺された無念さと殺してしまった後悔ゆえ二人とも地縛霊になってしまったみたいです。
和解した二人は仲良く浮遊霊をはじめました。
これでお友達は4人です。今日だけで2人も増えました。
早くシキ君とも仲良くなりたいのですけど、会うたびに彼は険しい表情を見せます。
西山軍曹さんの鎖を切った後も側に現れて
「これ以上はダメだよ!」
と一言だけ言って消えてしまいました。
それを聞いた玄さんも険しい表情を見せていました。
……なんだったのでしょうか?

あ、もう一つわかったことがあります。
私の不思議な力、鎖を切れてしまうあの力、すごく疲れるのです。
直後はそうでもないですが、1日に二人は負担が大きすぎたのか、自宅までは美香さんに送ってもらいました。恥ずかしい話ですが、自力で浮遊することも出来なかったのです。
そんなわけで、今日はまだ日も高いですが休息をとることにします。

ふう、やっぱり自分のベッドは落ち着きます。
いい夢が見れそうです。……見れるのでしょうか?
ふあ……まあ、今度考えます。

それでは、おやすみなさい。
あとがき

少数でも期待されるとうれしいもので。
相変わらずの更新頻度ですがちまちまやっていきまする。
そろそろ登場人物も増えていきますのでその他キャラは淘汰されていくことに。両親とか設定だけのはずだったくらいだし。まあ、主役は幽霊と視える少女と死神君。のはず。


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