第3回 お友達が増えました。

―大木楽公園
別に『小』木楽公園があるわけではないのですが、とりあえず大きいからこんな名前になったのでしょうか?
今、私と玄さんは大木楽公園の上空にいます。ふわふわと飛んであっという間につきました。ちょうど今日は日曜日、昼間の温かい時間帯となれば至る所に家族連れが見えます。
シートにお弁当を並べている家族、サイクリングを楽しんでいる家族、池で釣りに興じるおじさんや、キャッチボールしている父親と息子なんてのもいます。フリスビーしている犬や、あ……コホン、あれは見なかったことにしましょう。
なんというのか、森の中で首輪をつけ(略)、だいたいはほのぼのした雰囲気です。
あ、あのお弁当はおいしそう。幽霊は物を食べられません。実体がないから当然ですね。
残念です。けれど、休息さえとれば幽霊というものは半永久的に存在できるのだとか。
玄さん曰く『早寝早起きが長生きの秘訣』だそうです。
幽霊が長生きというのも変な話なのですけど。
「ほれ、最初は池じゃ。あそこに1人いるぞい」
池、というと、自殺でもした人でしょうか?
「一応心の準備をしておいた方がいいぞ。あやつの見た目はちょっとショッキングじゃからな」
見た目といえば私は死んだときと同じ服装です。腕につけていた腕時計は何故か今も動いています。実際は壊れたはずなんですけど、腕時計の幽霊なんでしょうか?
「美香嬢、新入りを連れてきたぞい」
池にいる地縛霊さんは美香さんというらしいです。どんな女性なのでしょう?
「あら、珍しい。浮遊霊なのね」
声は後ろからしました。振り向きます。
……。
……。
あ、ちょっと驚きました。青白い顔に水を含みべったりした髪がまとわりついています。
その隙間から見える目は水にふやけてよどんで見えます。さらには首を両手で絞めた痕が。
「初めまして。私、八津基詩乃といいます」
「……こちらこそ。私は佐々木美香。あのさ、玄さん。何、この子? ホントに新入り? 思考が読めないんだけど、まったく」
私も驚きましたけど、美香さんも驚いている様子。
「まあ、かなり珍しいタイプじゃな。ほとんど意識せず思考も制御しておる」
「浮遊霊も少ないのに珍しいわね。あんたはどうやって死んだの?」
「踏切で特急に轢かれました」
木っ端微塵です。
「……よく地縛霊にならなかったわね。普通そんな死に方したら縛られるわよ」
「鎖はあったのですけど、引っ張ったら切れちゃいました」
美香さんはこめかみの辺りを押さえてうつむきます。……皆さん似たような反応をしますね。
「ごめん、もう一回言ってくれる?」
「かまいませんよ。鎖はあったのですけど、引っ張ったら切れちゃいました」
「ちょっと、この子ホントに新入りなんでしょうね?」
美香さんは玄さんの襟首を掴んで激しく揺さぶります。玄さんは苦しそうです。
助けてあげましょう。
とりあえず、手近にある美香さんの足に絡みつく鎖を引っ張って玄さんから離します。
……あらら。
「あ……」
「なんと……」
引っ張ったら切れちゃいました。同時に鎖自体が消えてしまいます。
「な、何がどうなってるの? あの鬱陶しい鎖が消えた?」
と、その時池のふちで釣りをしていたおじさんが悲鳴を上げました。私たちもそちらを振り向きます。
おじさんの持つ竿の先には何か丸いものがぶら下がっていました。
ああ、頭蓋骨ですね。それは驚いて当然です。あれ? 何でこんなところに頭蓋骨が?
ふと見ると美香さんの様子がおかしいです。どういうことでしょう?
「そんな……私が見つかった……」
呟く言葉から察するに釣られたのは美香さんのものらしいです。
「ふ〜む、鎖が切れた影響か? 美香嬢、体に不自然なところはないかの?」
「……ないわ。それどころか私も浮遊霊になったみたい」
美香さんはすーっと空に上ります。あ、20mの範囲を抜けました。私と玄さんも追いかけます。高度は50mほど。追いついたと思ったら、そこにいたのは美香さんじゃない女の人でした。
「……空って気持ちいいわね。まあ、風を感じることは出来ないけど」
「あの〜、美香さん見かけませんでしたか?」
目の前にいた女の人は見事にずっこけでしまいました。
「美香は私。さっきの姿は死んだときの私。死んだときのイメージが強すぎてあのまま縛られていたけどいつまでもあんな不気味な姿でいたくないから」
そもそも幽霊は意識だけの存在なため、姿形は自由になるんだとか。ただ、地縛霊になった人は死のイメージが強すぎて死んだときの姿から変われなくなってしまうそうです。
だけど、私が美香さんの鎖を切ったため美香さんは浮遊霊になり、死んだときのイメージから脱却し、『生前の自分』の姿になったみたいです。説明してくれた玄さんには申し訳ないですが、な〜んとなくしかわかりません。
でもとりあえず、美香さんは喜んでいるみたいです。
「ふふ……ふふふ……これでようやく現世に止まったかいが出てきたわ……」
「残ろうと思って残れるものなのでしょうか?」
「実際私はここにいるわ。あいつに、私を裏切って殺したあいつに復讐するために!」
高らかと宣言する美香さんの後ろには打ち寄せる大波が見えます。あれも美香さんのイメージなんでしょうね。練習すれば私もあんな演出が出来るようになるのでしょうか?
「駄目、だめ、ダメ!! そんなことは僕が許しません!!」
あらら、いつの間にか死神少年が側にいました。今回こそは名前を聞かなければいけません。他にも、身長体重、胸囲とかいろいろ。
「もうこれ以上僕の管轄地域で問題を起こさないで! 復讐なんて駄目!」
「いやよ。駄目といわれてもやるわ。せっかく鎖が外れたのに、呪いの一つや二つ掛けてやらないと気がすまないわ」
「呪いって……掛け方知っているの? そ、それ以前になんで池から離れてるの!?」
気づくの遅いですね〜?
「その娘が鎖を切ってくれたから」
「へ?」
どうも彼は私と玄さんの存在に今気づいたようです。交互に私たちを見ます。
「八津基さん……お願いだから踏切から出ないで……僕の仕事が増えるから」
「あそこにいてもつまらないですよ?」
あなたが毎日来てくれるならそうでもないでしょうけど。
「とにかく! 全員本来の居場所に戻って!!」
もうちょっと聞きわけがいいと100点満点なのですけど、ちょっと減点ですね。
あ、そういえば名前を聞いていませんね。
美香さんに食って掛かっている死神少年の肩をトントンと叩きます。人差し指を立てておけば……。振り返ったほっぺたに人差し指が食い込みました。
……ああ、幸せ。
「……今度は何なの?」
「そういえば名前を聞いていないなと思ったのですよ」
「……シキ」
「シキ君ですか。今後ともよろしくお願いしますね」
「分かったから頬っぺた揉むのやめてよ」
あ、つい無意識のうちに。シキ君が私の好みにジャストミートなのが悪いんです。
「突っつくのもやめて」
「これもだめですか? じゃあ、ぎゅ〜っと」
「わああっ!? いきなり何!?」
あらら、逃げられました。残念です。見た目はあんなに華奢なのに以外と力があるんで振り切られちゃいました。
「ただの愛情表現ですよ?」
「なおのこと嫌」
うわ、そこまで否定されました。でもまだ会ったばかりですし仕方ないでしょう。時間はたっぷりあります。ちょっとずつ調教……コホン、もとい年上の魅力を刷り込んでいけばいいだけです。
「……今の思考をブロックしなかったのはわざと?」
「もちろんです」
「第一年上じゃないし……」
「見た目の問題です」
「そんなの嫌だ〜〜」
あ、逃げてしまいました。
羽があるんですね、シキ君には。羽ばたいて飛んでいってしまいました。
まあ、とりあえずこれでシキ君は追い払えました。美香さんのこともうやむやに出来たみたいです。
「詩乃ちゃん、実は策士じゃな……」
あら、玄さんには分かったみたいですね。
「……まさか、死神坊やを追い払うための?」
本当は半分だけですけど、それは内緒です。
「鎖も切ってくれた上にあの坊やまで追い払ってくれて……ありがと。一応お礼を言っておくわ」
「じゃあ、お礼の代わりにお友達になってください。まだ、玄さんしかお話できる人がいないので」
「それくらいならいいわ。お互いいつ消えるか分からないけど、よろしくね」
「はい、こちらこそ」

幽霊になってまだ3日ですが、今日もお友達が増えました。
100人できる日は遠くないかも知れませんね。

あとがき

いい調子で更新中。バイト中にネタが浮かぶほど(仕事しろ!
誰かがドーピングしてくれたおかげです。感謝。

追記:どこぞに美香さんの設定追加。誤字修正1回。


←前      小説の部屋へ       次→