ガンパレードマーチ
―涙―

小隊日記 4月12日
熊本県全域に空前の規模の幻獣が現れた。
我々5121小隊は彼我の戦力差の大きい阿蘇特別戦区に転戦す。
本日の戦闘は小隊開設以来最大の戦闘になると考えられる。
担当 善行忠孝

―5121小隊指揮車内部
「前方2kmに幻獣群確認。スキュラを中心に約30体。2時方向より接近中」
オペレーター席に座る瀬戸口からの報告を聞き善行はうなずく。
そしてマイクのスイッチを入れた。
「皆さん聞こえていますか? 今日の戦闘は今までで最大のものになるでしょう。蛮勇は許しません。他機との連携を忘れずに。生きて帰る事を最優先に行動しなさい。以上」
「いいんですかあんなこと言って? 抗命は罪の問われますよ?」
「そうかもしれません。しかし、ある程度の結果を出せばとやかく言われずにすみます」
「そういうもんですかね」
瀬戸口はそれだけ言ってヘッドホンをつけた。
「今日を乗り切れば……寄せ集めの小隊の未来に少しは希望が持てるでしょう」
「乗り切れますかね?」
再び瀬戸口が口をはさむ。
「いえ、乗り切るのですよ。……全軍行軍開始!」

―士魂号複座型 コクピット
「行くぞ速水。このまま直進し、スキュラの射程に入る前に煙幕弾を使う。準備せよ」
「うん、わかった。壬生屋聞こえてるよね? 突撃は煙幕弾の後に」
「ええ、わかりました」
速水厚志は一番機の壬生屋に行動を指示するとすぐに二番機滝川に繋ぐ。
「滝川、君は壬生屋を後方から援護して。バズーカでスキュラを落してくれると助かるな」
「OK、見てな。やってやるさ!」
速水はマイクのスイッチを切ると後部座席を振り返った。
とはいえ、見えるのは芝村舞の足だけだ。
「これでいいかい、舞?」
「ああ、上出来だ……なかなかカダヤらしくなってきたな」
「ありがと」
速水はニコと微笑んでその後目つきを変えた。
ぽややん少年から幻獣を狩る狩人の目つきに。
「さてと……やるぞ」

―指揮車内部
「ところで瀬戸口十翼長。彼らは今いくつだ?」
「……200と6体。もうすぐ化け物の仲間入りですね」
「……絢爛舞踏……彼らなら取るでしょうね」
善行の言葉に瀬戸口は一瞬顔をしかめた。ほんの一瞬だったが。
「司令、全機作戦ポイントに到着」
「そうですか。無駄話もここまでですね。全機作戦開始」

合図と同時に戦場一帯を煙幕が包む。
「よし、行くよ舞。ちょっとゆれるけど我慢してね」
「うむ」
一番機が先頭にいたミノタウロスと切り結ぶ傍らを三番機は微妙にステップを変えすり抜ける。ジャンプを駆使し一番機を狙う幻獣が密集する絶好のミサイル発射ポイントに到着する。
「6時と9時方向に熱源。回避せよ」
「まかせて」
速水は軽く幻獣の攻撃を避ける。
「舞、ミサイルは?」
「少し待て。……よし完了した。17体をロックオン。撃て!」
「よし!」
速水は勝ち誇った笑みを浮かべミサイル発射命令を出した。
士魂号複座型は命令どおりに発射孔を開く。
その瞬間、ゴルゴーンから発射された生体ロケットの一発がミサイルランチャーに突き刺さった。そしてその生体ロケットは発射入力を受け安全装置を解除されていたマイクロミサイルの信管をたたいた。
閃光―そして爆発。
三番機は接近していた幻獣もろとも大爆発をひきおこした。
「さ……三番機被弾により……大破……」
瀬戸口の報告に誰もが息を飲んだ。
「速水さん!」
いち早く反応した壬生屋は一刀のもとにミノタウロスを切り倒し機体を三番機のほうに向けた。
「オペレーター、彼らは?」
「……反応消失はしていません。ですが―」
その時、割り込むように通信が飛び込んできた。
「こちら芝村だ」
その声が全員に伝わるとあちこちで歓声が上がった。
「私は軽症だがかばった厚志が負傷している。これ以上の戦闘は無理だ帰還する」
「了解した。一番機は二人の救出に向かってください。二番機は一番機の援護に。救出が完了し次第撤退します」
そう伝えて善行は通信を切った。そしてため息をついた。
「司令、準竜師からの撤退命令はまだ出ていませんよ?」
「ええ、承知の上です。ですが、救出が完了する頃には撤退命令が下るでしょう」
「あっ……いいん―じゃない司令、たいへんなの増援が来てるの! みおちゃん急いで!」
ののみの切迫した声が車内に響く。
「くっ……間に合うか……」
善行は唇を噛みしめた。

「厚志! 意識をしっかりもて!」
舞は片手で厚志を引きずり片手にサブマシンガンを構えていた。
気絶した速水を連れていては幻獣の的にしかならないため瓦礫の影に入ろうとしている。
爆発に巻き込まれたためか幸い周囲に幻獣はいない。しかしそれも時間の問題だ。
緊急脱出のさい舞をかばった速水は破片を頭に受け血を流していた。一刻も早く手当てをする必要があった。そして舞自身もあちこちに怪我していて、幻獣に見つかれば命はないだろう。
徐々に地響きが近づいてくる。この重い足音はおそらくミノタウロス。
舞は息を潜めて通り過ぎるのを待つ。
しかし、ミノタウロスは唐突に体の向きを変えた。舞達のほうへ喜々とした様子で突進してくる。舞は瓦礫の影から飛び出すとサブマシンガンを撃ちつつ手榴弾のピンを抜いた。
1, 2と数えて投擲。すぐに隠れる。手榴弾はミノタウロスに当たり直後爆発した。
しかしミノタウロスは活動を継続していた。片腕は吹き飛んだものの残った腕を振りかざし迫ってくる。
「チッ……」
舞はサブマシンガンでけん制しつつ速水を引きずり後退する。
ミノタウロスは止まらない。
「……ここまでか……」
舞の後ろには瓦礫の山があった。ミノタウロスの攻撃をかわしながらなおかつ負傷した速水をかばい乗り越えるのは不可能だった。
「なにをあきらめているんですか? 貴女らしくありません」
声とともに巨大な影が頭上を飛び越える。
漆黒の鎧を纏った機体。壬生屋の駆る士魂号重装甲仕様。
壬生屋は着地と同時にミノタウロスにとどめを刺した。
「さ、早く手に乗ってください。もうすぐ敵の増援部隊が来ますから、それまでに撤退します」
「すまぬ」
舞は速水とともに壬生屋機の手に乗り込む。
「こちら壬生屋機。速水・芝村の両名を確保。撤退します」
「こちら滝川機。援護にまわるぜ!」
滝川はそう叫ぶなりバズーカを放った。狙いは背中を見せる壬生屋を狙っていたスキュラ。
バズーカの砲弾はスキュラのはらに食い込み爆発。スキュラを四散させた。
「滝川機、スキュラを撃破!」
「へへへっ……もういっちょだ!」
すぐにバズーカを持ち替え別のスキュラに狙いを定める。そして撃つ。
二発目は当たったものの撃破には至らずスキュラは壬生屋に狙いを定めなおした。
「……そうはさせん」
ぼそっと呟いた来須銀河は40o高射機関砲のトリガーを引いた。
砲弾はスキュラの主眼を破壊。スキュラはその巨体をフラフラと迷走させ墜落した。
「ぎんちゃんがスキュラ撃墜なの!」
さらに来須は高射機関砲を2連射して近づいていたゴルゴーンを撃破する。
近くに幻獣の姿がなくなると来須は士魂号に合流すべく方向転換した。

戦闘結果 惨敗
味方損害 5 
小隊損害 1(戦死者なし)
総撃破数 10 
 
小隊日記 4月13日
昨日の戦闘で我々は惨敗。戦死者が出なかったことがせめてもの救いである。
しかし、主力である三番機の大破、パイロット両名の負傷により小隊戦力は低下したと言わざるえない。今回の規模の戦闘にはしばらく参戦できそうにない。
再建にはかなりの時間を要する。
担当 善行忠孝

―軍病院 手術室
そこに集まった小隊のメンバーは『手術中』のランプが消えるのを今か今かと待っていた。
その間誰も口を聞こうとはせず重苦しい雰囲気が場を支配する。
舞は包帯だらけながらも扉の前に仁王立ちになっている。
キッと扉を見据えたまま動かない。
そのまま時間だけがただ過ぎていく。
そして、医師が出てきたとたん舞はその襟首をとらえた。
「厚志は? 厚志はどうなった! いえ!!」
「いっ命に問題はないっ……放してくれっ……彼は無事だ!」
生きている。その事実を知ったとたん舞は医師から手を離し、床にペタンと座り込んだ。
そして、その目から一筋の涙が……。
そこにいるのは芝村の末姫ではなく、恋人を思い涙する普通の少女だった。
誰も舞に声をかけることができず1人、また1人とその場を去っていった。

―4月15日
速水の病室に泊まりこんだ舞はほとんど常に速水のそばにいた。
厚志の意識はまだ戻らずこんこんと眠り続けている。
日が落ちる頃見舞いに来ていたののみを送ってきた舞が病室に戻ってくる。
そしてその足が止まった。ベッドは空っぽだった。
「どっどこへ行った?!」
あちこち引っ掻き回すとメモが一枚。
『屋上にいるよ』と速水の文字で。
舞は走った。途中で何人か人をはねたが無視して屋上を目指した。
ドアが開く時間ももどかしく蹴破ると―
「やあ、舞。おはよ」
と速水はいつもの笑顔で。しかしそれを見たとたん舞はまた泣き出した。
「どうしたの?」
「うるさい! 目にごみが入っただけだ! 私のことはどうでもいい!」
乱暴に目元をぬぐってそれでも潤んだ目で舞は速水を見据えた。
「もう二度と……二度と私にこんな心配をさせるな! ……生きた心地がしなかったからな。……怖かったのだからな……」
「ごめんね。それから約束するよ。もう二度と舞に心配をかけたりしないって」
笑顔とともに小指が差し出される。
「だから指きり」
「……いいだろう」
舞は躊躇することなく小指を絡めた。



あとがき

この後にオマケの付く裏ヴァージョンがどこかにあります。読みたい方は探してください。
見つけた際は今後の参考にしますので感想・意見などよろしくおねがいします。
ガンパレはかなりやりこんだゲームなのでたまにSSをかくかも。

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