ガンパレードマーチ 
第三話

小隊日記 4月22日
我ら化け物二人は占有の葬儀に出ることすら許されなかった。滝川が死んだとき厚志が息の根を止めたミノタウロスで我らの幻獣撃破数は300にたっした。
絢爛舞踏賞が与えられることとなり地獄の一日を味わった。そのせいか小隊内の者が距離を置くようになった。化け物に対する畏怖。
私は気にならないが厚志はそうではないようだ。苦しんでおる。
なんとかせねば……
担当者 芝村舞

「ふう……これでよいな。私的な日記のようになってしまったが問題はないだろう。厚志、仕事に行くぞ」
「……もう少し後にしない? 今はまだみんながいるから……」
今二人は西日の射す教室にいた。時間は5時30分。
「何をいっておる。そんな暇などない」
「……それでも今は……舞……ちょっと一人にさせてくれないかな?」
「ほう、私一人に仕事を押し付ける気か?」
「ごめん……」
「冗談のつもりだったが……もうよい厚志お前は、今日は家で休むがいい」
うつむいていた厚志は怪訝そうに顔をあげた。
「今のお前では仕事も手につくまい。ゆっくり休め」
そう言って舞は厚志を引き寄せキスした。
「そして、明日になったらいつもどおりの笑顔を皆に見せてやれ。そうすれば過ちに気づくだろう」
舞は照れ隠しのためかさっさと踵を返しドアに向う。
「舞……ありがとう。それから無理しちゃダメだよ?」
「ふん、それくらいわかっておる」
舞は余裕たっぷりの笑みを浮かべると教室を出て行った。
そして、教室には厚志一人が残された。
「……落ち込んでても変わらないよね……そんなことわかってるつもりだったけど。やっぱりこたえるな」
厚志は背伸びしてから帰路についた。
「よく考えてみたら舞と付き合いだしてからずっと一緒にいるな……」
一人での帰路がなんだか寂しい。告白された次の日から始まった調教もとい芝村的教育。
戦闘時はもちろん仕事の時も訓練の時もずっと二人でいた。
「……僕の中で舞の占める割合がこんなに大きくなってたんだ。……やっぱり気を使わせるわけにはいかないや」
厚志はくるりと向きを変える。足はハンガーに向いていた。

―ハンガー2F
そこにいるのは舞一人。整備員たちはすでにいなくなっていた。
「帰ったのではなかったのか?」
舞は振り返りもせず、手も止めない。
「ちょっと歩いたら気持ちの整理がついちゃった。……僕って冷たいかな?」
「そのような事はあるまい。人間誰でも乗り越えねばならぬ壁がある。お前の場合滝川の死がそれだっただけの事。それを乗り越えただけに過ぎない」
「そうだね。さてと、手伝うよ」
「いや、よい。こっちへ来るな!」
舞の強い否定。厚志は眉をひそめた。
「僕なんか舞の気にさわることした?」
「ち……違う……近づかれたら仕事ができなくなる!」
「どうして?」
「さ……さっきのは勢いでやってしまった事だ! あれは別れ際だったからできた事だぞ!」
背を見せたままあからさまに厚志を避ける。ちょっとムカッとした厚志は舞の肩を掴むと少し強引に振り向かせた。
「!!!!」
真っ赤だった。それはそれは気の毒なほどに。
「真っ赤だけど熱でもあるの?」
「この鈍感男め!!」
ばき。舞の拳がうなり厚志を吹っ飛ばした。
「っ……ひどいな。何が鈍感なのさ? ……あっ、もしかしてさっきのキスのこと?」
「わ、悪いか! お前はなぜそんなに平気でいられる!」
「そう見える? でもキスなら何度も―」
言い終わる前に舞は唐突に消えた。
「なっ!? なにもテレポートで逃げなくても……」
厚志はため息。結局その後も仕事にはならなかった。

小隊日記 4月23日
朝教室に入って舞に言われたとおりにしてみた。
そしたらみんないつもの雰囲気に戻ってくれた。僕が変わってないと言う事に気がついてくれたみたいだ。けど舞は口も聞いてくれない。
今日は天草戦区に攻め込む予定らしい。滝川、森さん仇は必ず取るから。
担当者 速水厚志

その日午後の授業が終わったころいきなり召集がかかった。

「幻獣実体化接触まで推定五分」
「各機へ、今日は攻勢に出ます。一番機、二ば……失礼。一番機は私の指示に従ってください。三番機は自分達の判断で動いてもらってかまいません」
「わかりました」
「……」
答えたのは壬生屋だけ。三番機の二人は答えなかった。
「速水君、芝村さん?」
「司令、僕らだけ単独で動いていいんですか? 指示を出すのが司令の仕事では?」
「もちろん本来ならそうです。しかし、彼方達の場合私の指示で動くより効率よく動けるでしょう。期待していますよ二人とも」
「……はいわかりました。頑張ります」
厚志はそう言って通信を切った。
「勝手に動いていいって。……舞、聞いてる?」
「聞いている」
「……まだ怒ってるの?」
厚志は体を反らして舞を足の間から見上げた。
「へ、ヘンな所から顔を出すな、バカ!」
「ごめんごめん、機嫌直してよ、鈍かったのは謝るから」
「うむ、いいだろう」
「……でもうまかったよあのキス」
「しらん! 戦闘前に私の心を乱すな!」
「でもホントの事だよ?」
「いいかげんにせよ! 集中できん!!」
『不潔です……』
二人の鼓膜を壬生屋の声が刺激した。他機の音声が聞こえるって事は―
『三番機へ、大変言いづらいのですが……全軍に筒抜けです』
「……厚志?」
「ごめんごめん回線は切ったつもりだったんだけど……」
「あ〜つ〜し〜」
舞は爆発寸前だった。
『はいはい、お二人さん痴話げんかはそのヘンに。敵さんのお出ましだ』
厚志の命は瀬戸口と幻獣によって救われた。
「舞、いくよ。滝川と森さんの仇を取りに」
「もちろんだ。……だが戦闘が終わったらちょっと話がある」
「えっ!? うん……わ、わかった」
厚志は汗ジトだった。それでも深呼吸を一つして顔つきを変える。
「一匹も逃がさないからね」

三番機は一番機を追従、いつものように一番機に迫る幻獣の中心に飛び込む。
「三時方向から2発!」
「うん!」
三番機は2体分の生体ミサイルをあっさり避ける。
「よし、14体ロック。撃つがよい」
「了解。でも前と同じような事にならないように気をつけないとね」
ミサイルの発射態勢に入る前の警戒を怠らない。
敵の攻撃の僅かな切れ目にミサイルが発射された。轟音とともに着弾し次々と幻獣を吹き飛ばしていく。
「速水機ミノタウロス8機、北風ゾンビ3機、ゴルゴーン2機撃破。気をつけろまだスキュラが落ちてないぞ!」
「わかってる。ありがとう瀬戸口君」
ミサイル発射後に横へ跳びスキュラの射界から逃れる。さらにジャンプを繰り返しスキュラの横へ回り込む。ミサイルを喰らったスキュラは何とか飛んでいると言う状況だった。
三番機への反応も鈍くスキュラが気づいた時にはGアサルトのトリガーが引かれていた。
20mm砲弾が次々とスキュラの体に食い込み巨体を揺るがす。数十発を喰らって巨大要塞もさすがに火を吹く。そのまま迷走し墜落。大爆発をひきおこす。
「あっちゃん、スキュラ撃破なの!」
戦場に似つかわしくないののみの元気な声が響く。
「次は一番機の援護にまわる。壬生屋、もう少し粘るがよい」
「分かっています。こんな所で負ける訳にはいきません!」
気合一発ミノタウロスが両断された。
「壬生屋機ミノタウロスを撃破。もう少しだ。がんばれ」
壬生屋が幻獣と切り結ぶ間に厚志は一体一体正確に射撃を加える。機動力の高い北風ゾンビが三番機の周囲を飛び交い弾丸をばら撒くが三番機にはかすりもしない。そしてなすすべもなくGアサルトに打ち落とされる。
「各機へ。敵は撤退を開始しました。掃討戦に移行してください」
「……久しぶりの掃討戦だな」
「そうだね。……これからも勝ち続けないと」
「そなたとなら可能だろう。……全ての人類と我らの未来のために勝ち抜こうぞ我がカダヤよ」
「そうだね……舞と二人でずっと……」

―この日を境に熊本の戦況は徐々に好転し始めることとなる。

あとがき
ガンパレの更新は実に7ヶ月ぶり。ただほとんど忘れてるので当時書いてた物とはだいぶ違います。きっと別物でしょう(笑)当時の下書きが見つかれば掲載するかもしれません。
あくまでするかも、ですが。


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