ガンパレードマーチ その4 ―速水厚志の部屋 厚志はカーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ました。 時計を見てみるがまだいつもの起床時間よりだいぶ早い。寝直そうとシーツをかぶり光を避けるがすぐに起きる事になった。 多目的結晶から呼び出しがあったためだ。 『15分後、舞と二人で俺の部屋に来い』 朝っぱらからこんな横柄な呼び出しをかける人物を厚志は一人しか知らない。 厚志はため息をついて隣で寝ている舞の肩をゆすった。 「舞、朝だよ」 「ん……まだ早い……もう少し……」 舞は厚志の手を押しのけるとシーツをかぶり直す。 「ダメだよ、準竜師から俺の部屋へ来いって命令が来てる。舞と一緒にだって」 「何ぃ!?」 さすがに効果があったようで舞はベッドから跳ね起きた。 「時間は?」 「あと12分。サンドイッチ作る時間もないね」 「あそこへはテレポートでいける。ここを出るのはぎりぎりでよい」 そういいつつ舞は昨夜脱ぎ散らしてそのままの服を順に身につけていく。ふと顔をあげるとニコニコと微笑む厚志がいた。厚志はもう制服姿で一方舞は下着姿で……。 「でていけ!!」 問答無用で厚志は部屋から蹴りだされた。 「まったく、油断もすきもない」 部屋の外に蹴りだされた厚志は何か釈然としないものを感じつつ呟く。 「ここ僕の部屋なんだけどな……」 ―準竜師の部屋 二人はその前に直接テレポートした。舞はノックもせずに扉を開ける。 「ふむ、時間通りだな」 朝早くから呼び出しておいて準竜師はもちろん悪びれもしない。 大きな顔でにやりと笑った。 「昨夜もお楽しみのようだったからな遅刻するかと思っていたが。フフフ、若いな」 「……盗聴ですか?」 「いや。舞がお前の部屋に仕掛けた盗聴器の電波を傍受しただけだ」 厚志は微笑んだまま舞に視線を移し舞はゆっくりと反らした。 部屋中に気まずい空気が漂う。 「話をなさったらどうです?」 沈黙を破ったのは準竜師の副官だった。 「もう少しこいつらをからかっていたいのだが……」 「勝吏様」 有無を言わさぬ一言。 「……仕方ない。舞、盗聴器の周波数は変えておけ。さもないと―」 バン。副官が机をぶったたいた。 あの準竜師が脅えにも似た表情を見せた。そしてそれをごまかすように咳払いを一つ。 「……今日来てもらったのはお前らに頼みがあったからだ」 ―ハンガー2F 「結局受けちゃったけど大丈夫かな?」 「心配するな。我ら二人なら可能だ。それに将来のことを考えても軍の上層部に名を知らしめておくべきだ」 「絢爛舞踏じゃダメなの?」 「悪くはないがな。従兄殿は顔が広い。個人的に恩を売っておいても損はない」 「……舞、今のギャグ?」 「は? 何をいっている」 厚志の言っている意味がわからず舞は首をかしげた。 「分からなかったらいいよ。さ、整備を続けよう」 それから二人は黙々と作業を続けた。 ―阿蘇特別戦区 上空 「もう一度確認する。お前たちの任務は外交官の安全の確保。追っ手を全滅させろ。必ずだ」 「了解」 「誘導は俺がやる。なに、技能はそこそこだ」 「舞、行くよ」 「うむ」 複座型は暗闇の中、空を舞った。 ―阿蘇特別戦区 地上 黄色のワンピースを着た少女と赤いチュニックを着た大きな猫が必死に走っていた。 その一人と一匹を囲むように幻獣が数体、彼らは二人を狙うミサイルやレーザーを障壁で防いでいた。 だが、敵の数が多く力を使い切り一体、また一体と消滅していく。 そして、最後の一体が消滅する。大きな猫はうなり声をあげ後ろから迫る幻獣の群を睨む。 飛来するミサイルとレーザーを攻性障壁で防ぐ。多くの火の花が咲くが長く持たないのは明らかだった。 少女が覚悟を決めた時、追っ手と少女の間に白い巨人が降り立った。 ついで前方にヘリが下りる。 ヘリに辿り着き少女ははじめて振り返った。 戦いはすでに始まっていた。 「来るぞ! 前方全方位!!」 「全!? くそっ!!」 すさまじい量の攻撃をかいくぐり厚志はたくみに複座型を駆る。 移動射撃で雑魚を蹴散らし幻獣軍の只中を突き進む。ジャンプで敵を翻弄し確実に敵を減らせるミサイルの発射ポイントをめざす。 「ロックオンは完了したぞ!」 「もうちょっと待って、このミノタウロスをやり過ごさないと……」 手を伸ばせば触れる距離にミノタウロスが4体。囲むように隊列を組み、隙をうかがっている。下手に動けばいっせい攻撃を受ける。先に動いたのはミノタウロスだった。厚志はそれにタイミングを合わせ完璧に回避する。そして、前方にいた一体の頭部を踏み砕き空から幻獣軍を見下ろす。 「舞、ここでもいいかい?」 「座標は完璧だ。撃て」 轟音とともにミサイルの雨が降り注ぎ闇を裂く。 一瞬後咲き乱れる炎の花は空と白亜の巨人を赤く染めた。 「残敵数6。スキュラ1、ミノタウロス2、ゴルゴーン3―」 空中から降りた複座型は着地と同時にゴルゴーンの背を踏み砕いた。 「ゴルゴーンは2だな。この調子で行くぞ、厚志。予備弾倉を装てんせよ。次のミサイルで全滅させるぞ」 「了解。……良かったね、予備弾倉積んでおいて」 「備えあれば憂いなしというやつだ」 「だね」 厚志はスキュラの射界から跳んで離れるとすぐに弾倉を入れ替える。ミノタウロスとゴルゴーンの執拗な攻撃をかわし、かつ誘導しスキュラの周囲に誘う。発射位置はスキュラの後方。完全に回り込まれたスキュラは手も足も出ない。複座型を追うので精一杯だったミノタウロスやゴルゴーンは言うまでもない。ほぼ真下からミサイルを喰らいスキュラは即座に爆散する。ミノタウロス達も逃れる術はもっていなかった。 『全滅だな。ご苦労だった。撤収の準備をせよ』 「はい。なんとかなったね、舞」 「無論だ。戦力的にはいつもの戦闘とあまり変わらない」 「壬生屋さんやスカウトの人がいるからもう少し楽だけどね。ふ〜、さすがに疲れたよ」 「……私もだ。今夜はゆっくり休みたい」 この日の戦功は表に出ることはない。 それでも彼らの活躍は風のうわさとなり人類全体を鼓舞する事になった。 おまけ 舞は厚志の前で正座していた。縮こまりいつもの雰囲気はそこにない。 「あとどこにあるの?」 「……寝室のテレビの中とベッドの下と寝室のコンセントの中と―」 「……質問を変えよう。あといくつ仕掛けたの、盗聴器」 「お前が見つけたのを含めて20……」 言葉に力もない。一方厚志はニコニコ笑っているが目はあんまり笑ってない。 「そんなに僕が信用出来ないの?」 「お、お前は意外ともてているのだぞ。……心配だったのだ。……お前は私のカダヤなのだから……他の女に……」 舞は赤くなってうつむいてしまう。 「大丈夫。僕は舞一筋だから。これからは心配でもこんなことしないでね?」 「う、うむ」 うつむき頷く舞はまるで怒られた小さい子供のようだった。 あとがき 降下作戦です。少々起きる時期が遅い気がしますがまあ、いいでしょう。速水がまだ天才技能を持っていなかったと考えれば。このSSは、ほとんど舞と仕事をしているという設定で書いているためそれも奇跡に近いかもしれません……。 |