第13回 脈動する世界 ―魔王城 玉座の間 「よし……、まあ、こんなものか」 いくら魔王城が広いといえど100人規模の大掃除ではあっというまだ。 隅々まで綺麗になったが疑問は残る。 「しかし、何で大掃除に?」 「さ、さあ? どうしてでしょう?」 ランスもシィルも首を傾げる。当然答えは出ないが。 「ともかく、再び魔人を玉座に集めます」 「ん、頼んだぞ、ホーネット」 ホーネットの召集に応じ、まもなく魔人が集結する。 「さて、さっきの続きだ。ケッセルリンクも今は黙って話を聴いておけ。どうせ負けるんだからな」 「たいした自信だ。しかし、今は話を聴きましょうか」 「よし、今から話すのはお前らにやってもらうことだ。魔王直下の対人部隊があるな?」 「はい。テロ鎮圧を主眼にした精鋭部隊です。数は千体ほどですが」 「それでもって反魔王派の占領したカスタムを奪い返せ。そして、お前達は全員その部隊に紛れ込め。ホーネットもだ」 「わ、私もですか?」 「ああ。必要なのは混乱を与えること。自分達じゃどうにもならない奴らがいると相手の兵に理解させる。もし、悪魔憑きが一般兵のフリをしてるならそこでぼろを出すだろう。そうでなければ、混乱が最後に及ぶ場所に悪魔憑きがいる。……そっちの方はうすうす分かっているのだが核心が無い」 「なんという者ですか?」 「リックとレイラさんのガキだ。レノン・アディスンという」 一部のものが息をのむ。志津香やマリア、アールコート、そしてシィル。 「リセットはあの時殺したつもりでいたんだろうが、あいつらはどうやってか生き延びたようだ。逃げ延びながらあいつを生んだんだろう。そのせいか魔人や魔王をとことん嫌っているようだな」 「それが、反魔王派に身を置く理由なのでしょうか?」 「おそらくな。細かい日時は後ほどフェリスを介して伝える。いつでも進軍できるように準備をしておけ」 「はい」 「じゃあ、俺とシィルはカスタムに戻る」 「……はい? ランス様も一緒に進軍するのでは?」 「何でだ? 俺様は人間だぞ? 俺はお前らを迎え撃つ側にいる。そして、混乱の行き着く先を見極める。では帰るぞ、シィル」 「は、はい。ホーネットさん、お世話になりました」 ぺこりと頭を下げるシィル。 「おっと、忘れる所だった。ケッセルリンク、お前は好きなときに俺を狙ってきてよし。返り討ちにしてやる」 「……ほう、そうきましたか」 「ただし、シィルとやってる時に乱入してきたら棺を破壊してからお前を殺す」 「そんな無粋なまねはしません」 「ならいい。じゃあな」 ランスはさっさときびすを返し玉座を後にした。 玉座に残ったのは沈黙だ。展開が速くて誰もついていけない。 しばらくして、ホーネットが思い出したように口を開く。 「ランス様が日時を伝えてくるまでは城で待機していてください。連絡があり次第カスタムへ進軍します。では解散してください」 ―魔王城 正門前 「ランス様、歩いて帰るのですか?」 「そうだ、といいたいんだが時間が無い。少しのんびりしすぎた」 「ではどうやって?」 「ちょっと城から離れたところでケッセルリンクを負かしてラバーに送らせる。そういうわけでラバーを呼び寄せておけ」 「……気づくのが早すぎませんか?」 霧として周囲に紛れ込んでいたケッセルリンクが実体化する。城から少しはなれたらすぐに挑むつもりだったらしい。 「半分はカンだ」 「……読まれていたと思うと癪ですね」 「まあ、ここでやるとカイトの時と同じ事になりそうな気がするから番裏砦あたりまで待て」 「分かっています。……しかし、何で彼方はそこまで人間離れしているのでしょうね」 たった一人の人間が次々と魔人を倒している。いくら前世の記憶があるからといっても首を傾げざる得ない。 「簡単なことだ。サボってないからだ」 「どういうことです?」 「以前のランス様は大きなお仕事の後は遊び呆けてレベルをだいぶ落としていました。けど―」 「転生した後の俺様は自分でも驚くほどまじめでな。怠けてレベルを落としたことが一度も無い。才能限界も無い俺様はかなりのレベルだぞ?」 「……なるほど、分かりました。つくづく恐ろしい人だ」 「あきらめるか?」 「いえ、また後ほど……」 ケッセルリンクは一礼すると霧になって消えた。 ―番裏砦付近 「……何に乗っているのですか、貴方達は?」 「何って、見て分からんか? うしだ」 「……ランス様、きっと違います……」 ランスが乗っているのはうしバンバラ。嘆きの谷で襲い掛かってきたのを逆にのして屈服させた。 今はろくな抵抗も出来ないまま首に縄を掛けられ二人の乗り物扱い。 「ここから先へは使えないでしょう、放してやりなさい」 「分かっているさ、ここまでの繋ぎの足だ」 ランスとシィルが下りるとうしバンバラは泣きながら走り去った。 「不憫な……」 「ラバーは?」 「カラーの集落に待機させてあります」 「呼び寄せるのはお前に勝ったらというわけか?」 「ええ」 「シィル、離れていろ」 「は、はい!」 シィルは慌てて距離を取る。ランスとケッセルリンクもシィルから離れる。二人ともシィルに被害が及ばないようにと考えてだ。 「ランス様……無理はしないで下さい……」 二人はもうかなり遠くにいる。シィルはそんな二人を見つつ1人つぶやく。 『大丈夫じゃよ。あの魔人とてランス殿を殺そうとしているわけではあるまい。そうなれば自分の身が危ないからな』 リュックの一番上に乗せられているチャカがフォローした。 「そのとおり。ただの力試しというわけだ」 さらに声が。 「あ、貴方は!」 「なんとか、過去に潰されずに済んだみたいだね」 相変わらず神出鬼没で暇そうな創造神プランナーがそこにいた。 「せっかくいい情報を持ってきたのに彼はお楽しみ中か。あれはただのお遊び。戯れだよ。君が心配するようなことは起こり得ない。あの二人も理解の上さ」 「でも……」 「心配ないって。じゃあ、気にならないようにトランプでもしてようか」 言った側から机といすとトランプが忽然と現れる。 「あ、あの……」 心なしかシィルの顔が青い。 「なんだい?」 「その……ランス様が、後ろに……」 振り向くと鬼のような形相のランスが剣を振り上げていた。その後ろには手傷を負わされたケッセルリンクが。 「人の女をたぶらかすとはいい度胸だな?」 「こらこら、明らかに誤解だよ―うわっ!?」 カオスが振り降ろされる。しかも、全力で。プランナーは両手でガード。傷はつかないが威力は殺しきれなかったようで踏みしめた地面がちょっと陥没した。 「……って、なんだ、プランナーか」 ランスは何事も無かったようにカオスを鞘に戻す。 「えらく早い決着だね」 「シィルが男にたぶらかされているかと思うとこいつの相手をするのがばかばかしくなってな」 「ものの見事に不意打ちされましたよ……続きをするのがバカらしくなるくらいのね」 プランナーやケッセルリンクの方も何事も無かったかのように話を続ける。 ケッセルリンクにいたっては血だらけなのに。 まともな神経をもつシィルは困惑するしかない。 「それはそうと、今日来たのはいい情報をもたらすためなんだ」 「いい情報だと?」 「でも、ここで話すのはちょっと無用心なのでご足労願うよ」 ランスが承諾する間もなく周囲の風景が変わる。荒地からどこかの書斎のような部屋に。 ご丁寧なことにケッセルリンクを含む人数分の紅茶も用意してある。 「とりあえず、一切の質問は後で。これを見てくれ」 テーブルの上に異形の姿が立体映像として映し出される。黒い翼に巨大な鎌。 「こいつが地上に介入してきた悪魔か?」 「その通り。名をレギオン。階級は第5級魔神。その中でも実力は上の上。単純な戦闘力だけなら魔王クラスだそうだ」 「魔王クラス……?」 ケッセルリンクは絶句した。無理も無い。いくらケッセルリンクであろうと悪魔に関する知識などほとんど持ち合わせていない。 「なるほど、いい情報だ。事前に分かっていなかったら全滅だな」 「いやいや、これだけの情報じゃない。もう一つある」 「もったいぶらずに話せ」 「ラサウムとの話がついた。ベリアルは命令無視を理由に降格させられる。階級はワンランクダウンの第6級。フェリスと同じだね。それでも戦闘力はまあ、最盛期のケイブリスが5人、魔王の影響を受けないようなものかな」 ケッセルリンクはケイブリスがずらりと並ぶ光景を想像して頭痛を覚えた。 「……それで、ラサウムは何を得るんだ?」 悪魔の王が何の条件もなしにそんな取引に応じるとは思えない。 「もとより彼が敵視していたのはルドラサウムであって僕じゃなかったみたいでね。パワーバランスが5分になったはいいけどそこから先は考えていなかったみたい。部下が勝手に動いただけだとさ。ただ、今までの悪魔と天使の関係を無かったことにも出来ないから色々と協議中でね。魂の数を争う競技みたいなものをやりあうような関係に出来ないかと思っている」 「……まあ、なんにせよお前らのことはどうでもいい。地上に被害が及ばなければ、な」 「まだ細かいことは決まっていない。構想中ってやつだ。そして、計画を進めるにはレギオンがどっちにとっても目障りなんだ」 「早く消せってか……。勝手なやつらだな。まあいい、とりあえず情報は聞いた」 「ん、それじゃあ地上に戻すよ」 「おう」 再び風景が歪み4人は荒涼とした荒地に戻った。 名残といえばシィルが飲みかけで手にしたカップだけ。 「では僕はラサウムとの協議に戻る。……気をつけてくれトリックスター。君は今の世界の核。君が死ぬということはこの世界がそこで閉じてしまう危険性を帯びる。核を亡くした世界はそれを無かったことにしようとリセットをかける。一度そうなってしまえば誰もが同じ歴史を繰り返しまた同じタイミングでリセットがかかる。……この前のような無茶は慎んでくれ」 「……分かっている。こいつをこれ以上悲しませたくないんでな」 ランスはシィルを引き寄せ、抱きしめた。 シィルは急なことで真っ赤に。 「分かっているなら何も言わない。……ここは君の世界。君達二人の世界だ。心に留めておいてくれ」 それを最後にプランナーの姿は背景に溶け込むように消えた。 「また時間を食ったな。早くラバーを呼び寄せろ」 「もう召集は掛けてあります。まもなく来るはずです」 「えらくあっさり負けを認めるな?」 「いくら不意打ちでも反応すら出来ませんでしたしね……私もまだまだです」 対ルドラサウム戦から今までほとんど戦闘の機会すらなく、平和にのんびりと時を過ごしていたせいで戦闘力の低下は著しい。それをはっきり実感させられた。レイやガルティアは自分を鍛えることを欠かしていなかったようで、ランスには及ばなかったものの強くなっていた。 「下手をすれば彼らにも負けるかもしれません……」 「なんか言ったか?」 「……いえ。……来たようですね」 4体のラバーが2〜3人乗れそうなゴンドラをぶら下げて降り立つ。 「ではこれにお乗りください」 「……えらく簡素な造りだが大丈夫かこれ?」 「ガルティアとその使徒を運んだこともありますし問題ないかと」 「いつだ?」 「……十数年前でしょうか?」 ランスは無言でゴンドラを軽く蹴った。みしりと大きく軋む。 「木、腐ってるぞ?」 もう一撃。ゴンドラは残骸に成り果てた。 「……申し訳ありませんが徒歩でカラーの集落へ。新たなものを作り直させます」 「当然だな」 こうして一行は一旦カラーの集落へ向かうことになった。 ―アイス ランスの家 日が沈み闇の支配が始まる時間、光が入らないように目張りされた部屋で少女二人が目を覚ます。魔王の使徒となり日の光を浴びれぬ身体となったが二人に後悔は無い。むしろ、二度とかなうまいと思っていたランスとの再会がかなったのだ。永遠の命というのも悪くは無い。少なくても、今は。 「おはよう、レベッカ」 「おはよう、シャリエラ」 毎夜繰り返される挨拶。 「「今日こそ王様も帰ってくるかな?」」 二人同時に同じセリフを口にし、二人はクスクスと笑い出す。 今回は長い方だがランスとシィルが家を開けることは多い。だからいつ帰ってきてもいいように待ち構えるのが二人の楽しみ。 服を着替え冷蔵庫から紅い液体の入ったパックにストローを刺す。 二人は深呼吸して一息にそれを飲み干す。 「はぁ……」 これが無いと生きてはいけない。未だ直接人から血を吸うことは無い。パイアール経由で手に入れるこの輸血パックが最大の譲歩。 「さて、お仕事、お仕事」 「今日は私が1階、シャリエラは2階ね」 「うん、わかった」 二人は部屋を出るといつものように家の掃除を始める。 ランスが帰ってくることを期待しながら。 それが彼女達の日常。 ―アイス 大通り いつもなら賑わう通りだが今夜は何故か人がいない。 否、いるのだがいつもの通りではない。 「作戦開始は20時。目標を確保出来次第撤退するように」 「はっ」 通りには10人ほどの黒ずくめの男達がいる。 「情報が本当なら昼間に襲撃した方がいいのでしょうが、必要以上に人目に付くのは避けなければいけません。各員注意するように」 「了解」 それを機に男たちが散開していく。 1人残ったのはレノン。 「裏切りか否か。まだ分かりませんが。……ランスさん、保険は作らせていただきます」 レノンは暗い闇を秘めた目で虚空を見上げた。 ―ランスの家 窓にはたきを掛けていたシャリエラがふと動きを止める。すっと目が細くなり闇を見据える。 「……変な人……なんだろ?」 シャリエラはそのまま1階へ下りる。 「レベッカ」 「家、囲まれてる……」 「……王様に恨みを持ってる人たちかな?」 「全部で10人。どうしよう?」 「王様の家に土足で上がらせちゃダメ。いつも通りに追い返そう」 シャリエラはぎゅっとはたきを握り締めた。 レベッカもそれに習ってほうきを握り締める。 ガラスが割れる音がして人の気配が次々と家の中へ。夜目の効く二人は目配せして移動、扉のすぐ横で構える。黒服の1人が入ってきたとたん頭部を2撃されてそいつは昏倒した。 「次……」 「またお掃除しなきゃ……」 こうして、ランスに恨みを持ったものが家に侵入しようとしたことはこれが初めてではない。過去にも何度かありそのたびに二人が排除している。 今回も順調だった。 約30分後居間には黒服の男達が山積みにされていた。 「お掃除完了?」 「たぶん……」 「残念、あと1人で終了です」 「きゃっ!」 気配も存在感もなくレノンが居間にいた。位置は黒服の山を挟んだ反対側。 二人はまったく気づかなかった。 「うわさは本当というわけですね。か弱い女性二人が特殊工作員10人を山積みに出来るわけがない。……魔王の使徒なのですね、お二人は」 「な、何でそれを……」 「ランスさんが冗談めかして言っていました。……冗談だとは思っていたのですがね。どうも本当のようだ。それならこいつらでかなわないのは無理も無い。そして、私がやらなければならないのも道理」 レノンは握りだけの剣を取り出した。 「昔、リーザス城にいた貴方達なら見たこと無いですか? この剣、パイ・ロードを」 赤い光が握りから投射され刃を形作る。 「申し訳ないがお二人には切り札になっていただきます。抵抗は無駄です」 鋭い踏み込みから一閃。 「あっ……」 「っ……」 普通なら致命傷になる一撃。しかし、二人は普通の人間ではない。血を流し倒れたもののまだ息はあった。 「すごい……もう傷が再生を始めている。……レギオン、捕獲を」 『これで決まりだな。やつは元魔王ランス』 「ええ。そして、裏切りの可能性も確定ですね」 レノンと、彼と契約した悪魔は二人の少女を捕らえそのまま闇に包まれ消えた。 |
あとがき やはり息子もパイ・ロードを使いこなせるようです。 強さは……全盛期リックと同等と設定。 追記:悪魔の強さについて指摘を受けたので書いておきます。 ASOBUの知識が少ないせいで公式の設定とはズレが生じています。 所詮は2次創作に過ぎないので、気になる方は読み飛ばすか、見切りをつけてもらってもかまいません。気にしない方はそのままどうぞ。 本来なら公式設定には忠実にするべきなのでしょうが今までこのノリで来てしまったうえ、オリキャラ出してる時点でもうなんとも……。 一応、伏線みたいなものは用意していますがソレがどうしたと言われてしまえばそれまでですので。 以上、追記でした。 |