第18回 衝突、介入 ―アイス 「第1〜8師団は南門の防衛に、残りは北に集めろ!」 「隊長! 兵力が違いすぎます! このままでは守りきれません!」 「そんなことは分かっている! ぐだぐだ言わずに町を守れ!! 時間を稼げばスレイヤー卿が戻ってくる!」 反魔王派との戦闘は世界各地で同時に発生していた。すべての反魔王派に所属していた者が『声』に同時に突き動かされた。 それだけではない。反魔王派に属さずとも魔との共存に違和感を少しでも得た者はみな『声』の影響を受けて武器を取った。女子供関係ない。 目に宿すは狂気。自分達を絶対の正義と信じ込まされた歪んだ正義。 「隊長! 西区で内乱です!!」 「東区でもです!」 「……さっき感じた『声』の影響か……我々がそそのかされてはつまらん。みんな気をしっかりもて」 「はっ」 「内乱は武器を奪って拘束して鎮圧、外からの兵力は門で防衛。奴らを中に入れると内乱が増えるかもしれん。死守せよ!」 「はっ!」 ―富士樹海の村 遠くから近づく不穏な一団。普段誰も踏み込まぬ樹海の奥の村に『声』に侵された一団が迫りつつあった。 「……戦えるのはこれだけなのね……」 村の入り口に立つのは槍を持つ一人の女性と10人ほどの男達、そして、村を守護してきた3体の魔物とその眷属。人と魔の合わせても30人に満たない防衛兵力。 「仕方あるまい。このような争いで幼子達を巻き込むのは愚考というもの。そうなれば我らだけで何とかしなければならない」 「そうね。それに私はここであの人を待つって決めてるから……失うわけにはいかない」 「……来たぞ」 魔物の一人神風の切華が弓を引き絞る。 「地の利を生かし、なんとしてでも生き延びろ。壊れた物は修理できるが、失われた命は戻らない。無事を祈る。戦闘……開始!」 矢が唸りをあげて飛び、樹海から現れた落ち武者の首を貫いた。 ―サウス 「よく集まってくれた。まさかこれほど集まるとは」 「だが、もう剣を握らなくなって久しい年寄りばかりだぞ、見事にな」 「戦えないか?」 そこに集まった者全員が否と応えた。 「では剣を取り、懐かしい鎧に身を包もう。そして、我らはかの王のために」 「王の望む世界を維持するために」 10数本の剣が空を指す。彼らはリーザス緑の軍の鎧を身につけていた。 彼はそれぞれ私兵を引き連れ反魔王派の鎮圧に向かう。 「スレイヤー様。お聞きしてよろしいでしょうか?」 残ったのはスレイヤーとその秘書の女性だけ。 「私と王の関係かな?」 「はい。王とは前のリーザス王であることは想像できますが」 「……リーザス王直属部隊緑の軍。率いるのは破天荒な王。玄人の職業軍人はそりが合わないと判断されたのだろう。配置換えがおき、緑の軍として組織されたのは軍学校を出て間もなく実戦経験のない士官候補生と徴兵されて訓練を終えたばかりの兵士だけだった。そんな我々が見ていたのは先陣を切り、突き進む王の姿。凄まじい順応性、戦闘センス。個人でも軍組織でも王は卓越したものを持っていた。我々はそれを見続けていた。あのお方がいたからこそ緑の軍は損耗が少なく、我らは今まで生きてこられた」 スレイヤーは昔を懐かしむように目を細めた。 「だが、あの時の戦闘……。王はある女性の亡骸を抱きかかえ戦場で座り込み、戦意をうしなった。それをきっかけに軍は壊滅的な打撃を受けた。戦意喪失した王を守りながらの撤退戦だ、仕方がないともいえる。そして、あの戦闘で生き残ったのはここに集った者くらいだった。1000人近くいた兵士が一度の戦闘で2、30人ほどになる。それでも我々は死に物狂いで王を連れ帰った。……ただそれだけだ」 本当はそれだけではない。鬼畜王とまで言われ、兵は壁と公言してはばからなかったランスが城に帰りついた時生き残った兵士達に言った。 無理やりの虚勢を張った空っぽの声で、 『壁にしては役に立つな。この俺様が男に礼を言うことなど無いのだからな。光栄に思え』と。 その後、生き残った兵士達は莫大な報奨金と共に一方的に解雇された。 スレイヤーはそれを元手に事業を起こし現在はアイスの都市長にまで上り詰めている。 「さて、出陣するとしよう。早くアイスに戻らねば」 「御武運を」 「うむ。……ふと最近思う。王はどこまで見通していたのかと」 「……」 「では行ってくる。ここの留守は任せたぞ」 「はい。いってらっしゃいませ」 ―フェリスの異空間 ギイイィィン!! 激しい剣と剣のぶつかり合い。レノンのパイ・ロードとランスのカオスが激しくぶつかり合い火花を散らす。 「さすがランスさんだ。この力について来れるなんて」 「ふん、人間を止めてこの程度か」 「さあ、どうでしょうか? その身に刻み込んで差し上げますよ!」 次から次に矢継ぎ早に繰り出される攻撃にランスは防戦するしかなかった。身体能力に差がありすぎて攻撃のチャンスが作れない。 周囲では魔人達が固唾を飲んで見守っている。 この空間に現れたレノンに1対1の勝負を持ちかけたのはランスだった。だが、今は少し後悔している。ここまで能力差があるとは思わなかったのだ。こんなことなら最初からふくろにすればよかったのだが、途中でそうするのはプライドが許さなかった。 かといってこのままではいずれやられる。 今はまだ軽口を叩く余裕があるがそれもいつまでもつか分からない。 しかも、レノンはまだ人間としての技しか使っていない。圧倒的に不利。 「はぁ!!」 裂帛の気合と共に振り下ろされるパイ・ロード。片手ではガードしきれずカオスを両手で支える。そこへレノンの足が跳ね上がった。 「ぐっ!?」 さらに踏み込んでの膝蹴りはランスの腹部を強打。下から上へ突き上げる一撃。 ランスは肋骨が砕ける音を聞いた。 ランスの身体は高々と打ち上げられ次に迫る止めの一撃を回避することも出来ない。 そこへ飛来する影。追撃しようとランスとレノンの間に飛び込む志津香とランスを抱きとめたサイゼルの二人。 「白色破壊光線!!!」 志津香とレノンの距離は無いに等しい。放たれた魔法はレノンを飲み込んでいく。 「やった、まともに……勘弁してよ……」 「ふう、ただの人間なら骨も残っていませんね」 破壊光線のゼロ距離射撃を喰らったにもかかわらずほとんど無傷だ。 「ランスのばか、こんな奴と一人でやりたいなんて。ホーネットさん、シィルちゃんバカの治療を任せるわよ」 志津香を中心に魔人達がレノンを取り囲んだ。 「1人に対して大勢でというのは私の美学に反しますが……今回は別ですね」 「うむ。そんなことをいっていられる相手ではあるまい」 「なんたってアイツが負傷するんだからな」 「腹減った〜」 ガルティアの緊張感を打ち壊す一言。 ここにはマルチナがいないのでとりあえずレイがどついて黙らせた。 「まあ、何人で来ようともかまいませんよ。最初から魔人程度は眼中にありませんから」 「あ、その言い方なんかむかつくわ」 「私は事実を言ったまでですが」 魔人達が一触即発な雰囲気になる中ホーネットとシィルは気を失っているランスの治療を始めた。 「くっ……下手をすると内臓も……。ここでは治療し切れません。シィルさん、ランス様をアースガルドへ。あそこなら治療できます」 「は、はい」 「その間我々は時間稼ぎをします。……できれば倒してしまいたいですが、どうも底知れぬ力を感じます」 そういってホーネットはランスとシィルをアースガルドに転送する。 待機しているパイアールがすぐ治療するだろう。任せておいて大丈夫だ。 「さて、私も混ぜていただきましょう」 ホーネットはヴァイスを手に、五色魔法球を周囲に纏う。立ち上る力は魔人が思わず息を飲むほどの物。大陸最強存在としてのホーネットがそこにいた。 「ようやく魔王様においでいただけるのですね。まさに光栄の極み。では、ランスさんが戻ってくるまでお相手していただきましょうか」 「ええ。しかし、私としては早く終わらせてしまいたい。……ランス様を傷つけた彼方の顔など見たくも無いですから」 表情からはうかがい知れぬがホーネットは怒っていた。無表情なのが逆に迫力を感じる。 「彼方達は下がっていなさい。手出しは無用です」 『命令』されたのでは魔人達は引くしかない。 文句の一つや二つありそうだが皆、黙って下がった。 「これで邪魔する者はいません」 「いいんですか? サポートくらいさせてかまいませんよ?」 「邪魔なだけです」 断言するホーネット。 「……そうですか。では」 魔王ホーネットと悪魔憑きレノンの戦闘が始まった。 白い空間に咲く剣撃の軌跡。パイ・ロードの赤とヴァイスの緑。 対照色がぶつかり合い、合間にそれをかき消す魔法が放たれる。 「白色破壊光線!!」 わずかな詠唱で放たれるホーネットの魔法。レノンはそれを難なく回避。かといってホーネットに攻撃する余裕はないらしい。どちらかというとホーネットが押していた。 小さい物ではあるが傷を受けているのもレノンだけ。 「ふふふ……さすがは魔王!」 「まだ笑う余裕があるのですか。……これはどうですか?」 転移と攻撃を繰り返すヒット&アウェイ。その動きはどこかパターン的だ。 魔人ですらそれに気づき、レノンが気づかぬはずは無い。 次の出現予測地点にパイ・ロードを振り下ろす。だが、そこに現れたのは五色の魔法球。 同時に全ての魔法球がレノンを取り囲む。完全に予測されていた。 「しまっ……―」 レノンを白い光が飲み込んだ。 ―アイス 遠くから響く鬨の声。 陥落寸前の市門で戦っていた兵士達は敵味方関係なく動きを止めた。 力強い行進の響き。旗にはアイスの印章。スレイヤー率いる私兵団。 「大変待たせてしまったな、アイスの民よ!」 スレイヤーの叫びを皮切りに反魔王派を挟撃。スレイヤーの登場で活気を得た防衛兵力も一気に反魔王派を押し返す。 反魔王派の抵抗など無意味だった。瞬く間に兵力は減っていく。 ほとんどの反魔王派兵士は抵抗し命を落とした。そして、完全に戦意を奪われたホンの一握りは投降する。こうして、アイスでの戦闘はあっけなく終った。 スレイヤーの仲間が派兵した都市はほとんどそんな感じだ。 ―アイス スレイヤーの屋敷 兵のは都市の守備隊に任せてスレイヤー自身は屋敷に戻る。 鍛えてはいるが歳には勝てずさすがに疲労困憊だった。サウスからの強行軍そして、アイスでの戦闘。兵にも自分の身体にもかなり無茶をさせた。 疲れ果てて、何とか自室にたどり着くと今の身体には重い鎧を外しソファーに身をゆだねた。 「ご苦労だったね」 と、正面のソファーには白いローブの男が座っていた。この神出鬼没な存在と会うのは3度目だった。1度目はあの時の戦闘前夜、その時に見た夢の中。2度目は反魔王派から解放された日に見た夢。そして、3度目が今。 「……夢ではない、と?」 「ん? 君は信じて戦ったのではないのかい?」 「確かに、夢にしてははっきり覚えている。この前の夢の中で知りえないはずの、それでいてあまりにリアルな『魔王ランス』の記憶を見せられた。元々彼が私の知る『ランス王』であったほしいと思っていた私はあの夢で確信を得た。だが、仲間を扇動しておきながら頭の端ではありえないと思っていた。だが―」 「現実と夢の境界は曖昧なもの。夢か現実なのかはあまり重要ではないよ。……君がどう思っていても、君の選択は必ず『二人の世界』のためになる。直に会って礼をするべきだと思ったからここへ来た。さて、私には君のいかなる望みでもかなえる力がある。君が最も望む物は? それを叶えよう」 スレイヤーは目の前にいる存在に対する戸惑いを捨てた。そして、望みを告げる。 「物ではない。かの王の望む世界の実現を」 「……承知した。あとはゆっくり身体を休めるといい」 体が限界をに達しスレイヤーの意識はゆっくりと眠りに落ちていく。 「そうそう、これはサービスで。彼女が近くにいた方が何かと都合がいいだろう」 白いローブの男の元々あってないような気配が消えると同時に別の気配がすぐ側に。 「え、あ、あれ? こ、ここは?」 自分はサウスにいたはずなのに気づけば別の場所。そして、見覚えのある部屋。 目の前にはスレイヤーがいる。 なぜ? と、疑問だったがそれより先にせねばならないことに気づく。 スレイヤーの秘書はそっと彼に毛布をかけた。 |
あとがき オリジナルのキャラ設定を公開。そんな話。 ランスも退場してどうなるんだ? きっと流し読みでも大丈夫。 |