第3回 都市長会議襲撃作戦 ―カオスを手に入れてから数日後 ランスとシィルの使っている部屋にレノンが訪れた。 ランスはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべてままレノンを迎える。 「今日中央ホールで都市長会議があります」 「知っている。で、それの襲撃に参加しろって言うんだろ?」 「その通りです。よろしいですか?」 ランスはしばし黙った。 「俺様の姿を見ろ。カオスを吊るして鎧も身につけて準備は整っているぞ?参加の可否を聞くのは間違ってるぞ」 「ふう、それもそうですね。よかった、魔人が来るので貴方の参加は絶対不可欠だったんですよ」 「どいつが来る?」 「ちょっとお待ちください」 レノンはなにやら紙を出してランスに差し出した。ランスとシィルがそれを覗き込む。それには会議に参加するメンバーの名前が書いてあった。 「あの、スレイヤー卿の名前もありますが……」 「ご安心を。契約通りに解放しました。ただ、この場所に関する記憶だけは操作させて頂きましたが。あと、実際今回の会議には不参加です。アイスに送り返しましたから。代理に部下を変装させて出席させます。あ、その表の赤い字は人間で青い字が魔王と魔人です。今回来るのは三人だけのようですね。魔人きっての頭脳派といわれるアールコート・マリウスと電撃を使うレイ、あとは魔王ホーネットのようです」 「……目標はレイだな。頭脳派より戦闘タイプと戦って勝てれば後は楽勝のはずだ。こいつと戦うのに当たって用意して欲しいものがある」 そういうとランスはニヤリと細い笑みを浮かべた。絶対何か企んでいる時の表情だとシィルには分かった。 年に一度行われる都市長会議はその一年間の発展度合いを報告する場でありまた今後の方針を決定する場でもある。たまたま今年の護衛に当たってしまったレイは講堂の隅で大きなあくびをしていた。レイにとって今ここで行われている会議には何の興味もない。魔王たるホーネットの命令でなければこの場にいようなどとも思わない。元々あまり頭を使う事は苦手でいまはメアリーと一緒に過ごせれば正直それ以外のことはどうでもいい。今年の護衛がそんなレイだったために誰も講堂に近づく武装集団に気づかなかった。 「続いてアイス都市長スレイヤー殿、お願いします」 進行役が読み上げスレイヤーが演台に立った。 『コホン、共生派の諸君。我々人類解放派はここに改めて宣戦布告を行う!』 マイクを通してスレイヤーの声が響き渡る。 一瞬の間。そして、講堂内は戸惑いの声で一杯になった。元々スレイヤーは共生派の中心人物だったため驚きも大きい。 そんな騒ぎの中、講堂に続く扉が外から打ち破られ数十人の武装した黒服が押し入ってきた。 「レイ、アールコートさん、都市長の方々をお守りして」 「は、はい!」 『魔王殿、我々の敵はとりあえず貴女達ではない。魔王に組する愚かな人間なのだよ。引っ込んでてもらえまいか?』 「スレイヤー卿……いえ、スレイヤー卿のふりをした誰だかは知りませんが、はいそうですかと言って我々とて引き下がる事など出来ません。世界の安定のためにも共生派の方々を見殺しにはしません」 スレイヤー―否、スレイヤーに化けた反魔王派の構成員は顔にかぶっていた精巧なマスクを剥ぎ取り懐からナイフを抜いた。それを合図に反魔王派が共生派の都市長たちに襲い掛かる。 「アールコートさん、サポートを。都市長たちを外へ転移させます」 「はい」 「レイはここに残って彼らを鎮圧してください。ただし、極力死人は出さないように」 「分かった」 ホーネットは指示を終えると都市長を連れて転移した。これで講堂に残るのはレイと反魔王派の構成員だけとなる。 「……久しぶりに暴れられるか。……極力殺すなってのがネックだがまあいいか。どこからでもかかって来い」 やる気満々のレイだが反魔王派は急に反転すると撤退し始めた。 「なっ……逃がすか!」 逃がすまいと踏み込んだレイの足元に黒い物体が転がる。それには導火線が付いていてちりちりとそれが短くなる。ようするに爆弾だ。 爆発。ダメージはなくともその衝撃波はレイを扉とは反対側の壁まで弾き飛ばした。 「手前ぇら何がやりたい!」 レイは再びダッシュ、扉から一番離れていた敵に殴りかかる。が、再び黒い物体が。 絶対防御があるからダメージはない。しかし、衝撃波までやり過ごせる訳ではない。ケイブリスのようにごつい体をしている訳ではないレイは爆風をやり過ごせるようなウェイトを持っていない。再びレイは吹っ飛ばされた。 「ちくしょう、うっとしいまねしやがって!」 瓦礫から飛び起き立ち上がる。ちょうどその時撤退した反魔王派と入れ替わりに扉から3人の人間が入ってきた。 「お前が魔人レイか。おとなしく俺様に殺されろ」 大胆不敵な一言にレイはカチンと来た。足に充電した電気を解放しその勢いで一気に距離を詰める。 「砕けろ!」 セリフの主―ランスは余裕たっぷりに自らも距離を詰めた。電撃を帯びた拳と黒い大剣がぶつかり合う。正面に来てレイは大いに混乱した。緑を基調にした鎧、黒いマント。そして、刀身まで黒い大剣。数十年前に時間が戻ったかのような錯覚に陥る。レイは戦闘中にもかかわらず動きを止めた。 (効果絶大だな) ランスは心の中で苦笑していた。ランスがレノンに用意させたのはこの鎧とマント。さすがに魔王時代の物と同じ物は用意できなかったが似た物で十分だった。しかし、このままではランスも面白くない。 「何、固まってんだ? 来ないならこっちから行くぜ!」 「……どういうことかは分からないがお前をホーネットの前に引き出せばハッキリしそうだな。以前と違うという事を思い知らせてやる!」 「俺はお前に会った事などない!」 「そうだったな。まあ、いい」 2人は同時にバックステップ、距離を取り再び激しくぶつかり合う。 それからの攻防はほぼ互角。本人たちが傷つく事はないが周囲は余波で破壊されていく。 「凄い……魔人と互角の戦闘力か……これなら……」 不安そうに見守るシィルの横でレノンは不適な笑みを絶やさない。 技量はほぼ同じなため勝負を決めるのはそれぞれの体力。そうなると人であるランスが不利となる。 「チッ……(強くなってやがるな)」 ランスは舌打ちをするとランスは切り札を出すことにした。 「レイ、愛しのメアリーは元気か?」 「なっ!?」 時間にしては一瞬。だがランス相手には大きく致命的なスキをレイは見せることになる。 「ガハハハ! 死ねぃ! ランスアタック!!」 「しまっ―」 どっご〜ん。闘気の爆発は青い閃光を撒き散らしレノンとシィルは目をかばう。 光が消えた後には大きく陥没した床とランスのみが残っていてレイは跡形もない。 「俺様の勝ちだな」 シィルはそんなランスに抱きついた。ふいを突かれたランスはしりもしりもちをつく。 「ランス様、どこにも怪我はありませんか!? 魔人と戦うなんて私心配で、心配で……」 シィルの目じりから涙がぽろぽろとあふれる。ランスは手を伸ばすとシィルのほっぺをつまんだ。そのまま上下左右に引っ張る。 「いひゃいれす、りゃんひゅひゃま」 「お前は俺様が負けるとでも思っていたのか?」 しばらく考え込んでシィルは首を横に振る。 「なら泣く事はないはずだ。それから少し離れろ」 シィルが離れるとランスはようやく体を起こす。 そこへレノンが拍手しながらやってきた。 「いや〜、さすがですね。魔人とさしで勝負して殺してしまうとは。さあ、本部へ凱旋です。今夜はパーティーですよ」 ―パーティー会場 反魔王派といっても構成員の幹部クラスは著名人が多くを占めるため正装での参加とが当然となる。ランスも用意されたタキシードを着ているがとても気にいらないらしい。あからさまに不機嫌な表情で豪華な料理を貪り食っていた。周囲からは奇異の目で見られるがランスは当然のように気にしない。 少し遅れてシィルが会場に入ってきた。そのとたん会場中にいた男の視線がシィルに移動した。薄いピンクのドレスを着ていてそれは特注したかのようにぴったりだった。 「なんだか恥ずかしいです……」 シィルは足早にランスの側に来ると後ろに隠れた。ランスは視線を送ってくる有象無象どもを一睨みして威圧しそれでも近づく果敢な者には鉄拳制裁を加えていく。数分後会場内の男の数は3割くらい減った。ちなみに制裁を受けた3割は救護室行きとなっている。まあ、パーティーには参加できないだろう。 そこまでやってランスは改めてシィルを眺める。ランス自身も正直驚いていた。 (そーいや、こういうタイプの服は着せた事なかったな……。なんていうか……グッドだ) 薄っすらと化粧もしていてそれがさらに新鮮に感じる。 ランスは真剣に悩み始めた。むらむらっと来て今すぐヤリたいという気持ちともう少しこの姿のシィルを眺めていたいという気持ちの間で揺れ動く。 「ランス様、お料理とって来ましたよ」 シィルがバイキング形式の料理を綺麗に取り分け持ってきた。ランスは先ほど食べたにもかかわらずそれを機械的に口に運ぶ。二つの考えはまだ揺れていた。 「さっきから何を悩んでいるんですか?」 「ん? かなり重要な事だ」 「重要な事?」 「今ヤるか後でヤるかを悩んでる」 シィルは困ったような顔をして頬を赤く染めた。ランスの中の天秤があるほうに傾いた。 「決めた。今からだ」 「えっ……さすがにここは……」 「バカ、部屋に戻るに決まっているだろう」 ランスはシィルを連れ立って会場を抜け出す。 「ランス様、パーティーが終わってからではダメなのですか?」 「今がいい」 ランスはにべも無い。シィルは小さくため息をつくと軽い足取りでランスに続いた。 ランスとシィルが出て行って数刻後、会場の天井近くに不思議な霧が集まり実体化する。 魔人ケッセルリンクだ。 「さて、アジトを見つけたはいいがこれからどうするか……。レイを倒した者と会う可能性もあるがここは偵察していくべきか」 魔王ホーネットは魔王城に帰還後すぐにケッセルリンクに反魔王派アジトの発見を命じた。 レイの消息も不明の今情報が必要だったからだ。 ケッセルリンクは再びミストフォームをかけると会場に下り、会話に耳を傾ける。 「それにしてもあの男スゲーな。魔人と対等に戦って殺しちまうんだからよ」 「まったくだ。魔王の再来と言われていた時期もあったらしいからな、あのうわさもあながち伊達じゃないのかもな」 (魔王の再来? 興味深い話だ) 「ん?」 話していた男が後ろを振り返る。だが誰もいない。 「気のせいか……。はぁ、俺も必殺技をもてるようになりてぇもんだ。……あいつが使ってたのなんて言ったけか?」 「え〜っと、確か『ランスアタック』って叫んでたぞ」 「なんだと!?」 ケッセルリンクは反射的に実体化し話していた男の首を掴み吊り上げる。 「今、ランスアタックといったのか!?」 「て、てめぇ……どこから……!」 「私のことなどどうでもいい。質問に答えろ」 「ランスアタックって言っただけだ! 離せ!」 短剣が繰り出されるがそれより早くケッセルリンクは霧と化し姿をくらました。 「チッ、警報! 魔人が潜んでいるぞ!」 会場が一気に騒がしくなる。だが、ケッセルリンクは早々と会場を脱しサウスの外で実体化した。 「……厄介な事になったな。レイを倒したのがあの男なら……また一波乱あるという事か。ホーネットには……やはり報告しておくべきだろうな」 ケッセルリンクは報告する事に決め空に舞い上がった。 あとがき 二人の世界とオオサカ武勇伝を平行して書いているためちっとも進みません。後々二つの話がリンクしていく予定なので気長にお待ちいただければ幸いです。 |