第4回 裏切り ―VIPルーム 部屋に戻ったランスはドレスを着たままのシィルを押し倒した。3ラウンドぶっ続けで、今さっき終わった所である。2人とも燃えていたせいかいつもより激しくなりシィルはすでに眠っていた。ランスにしてみれば予定通りだ。 シィルが完全に眠っているのを確認してベッドから這い出ると普段着にそでを通しベッドの下からカオスを引っ張り出す。 『生殺しだ……わしの上でお主はシィルちゃんと〜〜!!』 「黙れバカオス。シィルが起きる」 まだ文句をいいたそうだったカオスだがしぶしぶ口を閉じる。 「フェリス、レイの所へ」 ランスの言葉が終わらないうちに足元が歪み、ランスはそこへ吸い込まれ部屋から消えた。 現れた先は何も無い亜空間。レイはその中にぽつんと一人立っていた。ものすごく不機嫌そうな顔で。 「よう、元気か?」 「……説明しろ」 「説明してお前の頭で理解できるのか?」 プチンと何か切れた。忍耐力の限界。猛然とダッシュし勢いに任せた一撃を放つ。技もへったくれも無いお粗末な一撃だったためレイの攻撃は空を切った。 「冗談だ、冗談。ま、座れ、全部話してやる。フェリス、食い物と飲み物を。シィルとヤッたあとで腹減った」 「はいはい」 どこからとも無く食べ物が現れ二人の前に広がった。ランスがそれを食べ出すとレイもしぶしぶそれを口に運び始める。 「……で、いつから記憶が戻っている?」 「ん〜、ほんの一ヶ月ほど前だな。プランナーのやつが現れてな。強引に封印を解除していきやがった。何でも大陸の危機なんだと」 「危機? 今、やばい事なんて起こっているのか?」 レイの問いにランスは上を指差した。 「プランナーが言うに悪魔どもが手段を選ばなくなってきたらしい。原因はルドラサウム追放によりパワーバランスが5分に近づいた事。そのせいで地上の魂集めにやっきだ。そして、とうとう地上に直接介入するバカが現れたらしい。プランナーたち自身が地上で行動を起こす訳にはいかないらしくてな、俺の所へ頼みにきたらしい。悪魔の起こそうとしている争いを阻止してくれと」 「……反魔王派か?」 「ふん、賢くなったじゃないか。ちょっと前はただトンがっただけのやつだったのにな」 「余計なお世話だ」 レイはそっぽ向き、ランスはニヤニヤとさも楽しそうに笑う。 「まあ、お前のことはどうでもいい。お前のいったとおりだ。おそらく反魔王派のどこかに悪魔が食い込んでいる。カオスの封印を解き反魔王派に与えたのが何よりの証拠だな。まあ、誰に取り付いているかはまだ分からないが」 「ところで俺はどうするんだ?」 「ここで出番を待て」 「は?」 「お前の出番は当分ない」 「ちょっと待て、こんな所に閉じ込めておく気か!?」 「表向きお前は死んだ。俺様に殺されたんだ。そこんとこを理解してるか?」 ホーネットですらレイは死んだと思っている。レイ自身もあの瞬間死を覚悟した。 だが実際のランスアタックはレイの足元を破壊し、閃光を目くらましにレイはフェリスの亜空間に引きずり込まれた。レイは黙るしかなかった。 「それで、だ。これから先反魔王派と行動しつつ内情を探っていく。魔人と接触する機会があれば表向きは倒しここへ送り込む。戦力をある程度確保した時点で介入している悪魔を叩く。フェリスの話では中級の悪魔がメインらしいが戦力は多いに越した事無いだろう」 「……いつの事だよ、それ?」 「さあな。一週間後かあるいは一年後か。ま、成り行きしだいだ。この先の事は分からんが安心しろ。フェリス!」 「なによ、今度は?」 フェリスは心底迷惑そう。 「こいつの恋人を拉致って来い。一人じゃつまらんだろう」 「はいはい、わかったわよ」 姿を消すフェリス。すぐにメアリーを連れて戻ってきた。 「ご苦労。レイ、他の魔人を送り込むまでは自由にいちゃついてろ」 「なっ―」 反論しようとしたレイだが、ランスは元の空間に戻ってしまった。 毒気を抜かれたレイはただただため息をつく。 「……あの破天荒さ……ちっとも変ってやがらねぇ……」 「レイ、今にはやっぱり……?」 「そう、元魔王。転生しても中身はちっとも変っていなかった」 「そうかしら? ちょっとしか見なかったけどとても幸せそうに見えたわ」 「……二人の世界……か。あれの娘が言ってたな……」 ―反魔王派本部 会議室 翌朝早くランスとシィルは唐突に呼び出された。通された部屋には幹部らしき男数人が先に呼ばれていたレノンを取り囲むかのように座っていた。ランスとシィルもレノンの側に座るように指示される。部屋内の空気はかなり重い。 「さて、当事者がそろった所で早速聞くとしよう。我々執行部はお前に行動の自由を与えた。だが、ここまでやってよいといった覚えは無い。よって審問会にかける」 中央の最高幹部らしい男が口を開く。 「お言葉ですが都市長会議襲撃に関する許可は頂いたはずですが?」 「襲撃の事ではない。魔人を倒すためにカオスの封印を解きあろう事か冒険者などを雇う。そこまで独断専行を許可した覚えは無い。返答しだいではお前とその者達ともども処刑する」 シィルは息を飲みランスの手をぎゅっと握り締める。ランスはそれを心配するなというように握り返した。 「処刑ときましたか。しかしですね、魔人を殺せばさすがの魔王も人の抱く敵意に気づくでしょう。人との共存など完全に成り立つはずがないとも。それで魔王が手を引けば我々の悲願に近づくではありませんか。私のやった事は有益にこそなれ有害になりえないはずです」 「魔王に目をつけられてここを襲撃されたらどうする? 魔人を倒し魔王の気を引くという事はその危険性もはらむのだぞ? これを有害といわずなんと言う?」 「……保身など考えているからここまで魔王どもの言いなりになる者を蔓延らせたのではありませんか? もっと強攻策にでて、共生派の愚か者どもを皆殺しにするくらいの手段に出ていればよかったのです。……いや、今からでも遅くは無い。私は打って出ますよ」 「そうか仕方が無い。レノン・アディスン。お前は有能な部下だったのだがな」 最高幹部が指を鳴らす。直後ドアから武装した兵士が侵入しランスとシィル、レノンを取り囲む。シィルはランスに抱きつき震え、ランスは一人合点がいったというふうに頷く。 「なるほど、どおりであった事がある気がする訳だ。あの2人の子供か……」 「ラ、ランス様?」 「ん? 心配ないみたいだぞ。この瞬間は敵じゃないらしい」 ランスのいったとおり入ってきた兵士はレノンに向かって一礼すると幹部に武器を向けた。 「な……どういうことだ、レノン!」 「見ての通りです。組織の99%はすでに掌握してあります。思い通りにならないのは彼方達のみ。しかし、これでその憂いも無くなりますね。カオスを振るい、魔人を屠る戦士が手に入った今賽は投げられた。今や彼方達は邪魔以外の何物でもない。アラン様、死んでください」 今度はレノンが指を鳴らした。兵士はジリジリと包囲の輪を縮める。 「ま、待て! レノン! 早まるな!! ヒッ……ギャァァ!!!」 剣が振り下ろされる直前ランスはシィルを抱きしめ殺害の瞬間から目をそらさせた。 「さてと、ランスさん朝早くからお呼び出ししてしまって申し訳ない。どうぞ部屋にお帰り頂いても結構です。後ほど食事を届けさせます。あと、今日からは外出して頂いてもかまいません。ただし、共生派との接触は避けてくださいね。顔を見られていないとも限りませんから」 「……お前一体なにをたくらんでいる?」 「さっきあの死体に話したとおりですよ。居場所のわかっている魔人にこちらから打って出ます。我々が彼方の戦いやすい場を作り彼方が魔人を血祭りに上げる。魔王が人間を見限るまで続けますよ」 「それだけなのか?」 「……さあ、どうでしょう? まだ彼方達に話す時ではない、とだけ言っておきましょうか。では、また後ほど」 ランスはまだなにか言いたげだったがレノンは先に部屋を出てしまい、ランスも仕方なくシィルを連れ立って部屋に戻る事にした。 ―VIPルーム 「レノンのやろういったいどうするつもりだ? 本当に魔人を全部潰していく気か?」 「ランス様……もう魔人と戦うのはやめてください……私、心配で―イタッ」 ランスはシィルに拳骨を見舞った。 「お前は俺様が負けるなんてことはありえない。一対一なら俺様の勝ちだ。心配する必要はない」 「でも……魔人が大勢で迎え撃ってきたら?」 「……レッドカードだ。それはなし」 「魔人ならそれをやってくるかもしれません……」 ランスはふと真面目な顔になりなにやら考え始めた。 「ランス様?」 シィルが呼んでも反応が無い。肩を揺すってみてようやく反応した。 「ん、ああ、すまない。どうした?」 「どうした、じゃないです。急に黙ってしまって何かあったのかと……」 「本当に集団で来られたらどうやってバラバラにするかを考えていただけだ。何しろアールコートの戦略に勝たにゃならんわけだからな。チェスでも勝てないんだよほどうまく立ち回らなきゃならん」 「アールコート……? 確か魔人ですよね。……チェスをした事があるんですか?」 ランスは固まった。そして、心の中でしまった〜〜〜〜!! と絶叫する。チラリとシィルを見ると真実を聞くまで引きませんと目が訴えている。 (まずいな……こうなったら……) 目を閉じる。さらにイビキをかく。ようするに寝た振りしようとした。 ……当然通じる訳が無い。ぐいっとランスの頬が引っ張られる。 「ランス様、どうなのです?」 珍しく語気が強い。ランスは有無を言わせずシィルを抱き上げベッドに移動した。 そしてすぐさま服に手をかける。いつものパターン。 「そんな、今は嫌です! さっきの話を……んっ……」 ランスの愛撫が始まると問答無用で体が反応する。体の奥に火が灯りランスとの行為の方に意識が流れる。前戯が終わるころにはアールコートの事など意識の外に追いやられていた。 「ふう、何とかなったな……」 シィルをダウンさせたあとしばらくしてランスは体を起こした。 そして大きくため息をつく。その半分は自分の迂闊さに対して出たもので残り半分は押しの強いシィルに対して出たものだ。過去のシィルはランスの奴隷という立場であり絶対服従の魔法が消えた後もランスに逆らったり強く迫ったりする事は無かった。だがいま、2人は結婚していて主従関係ではない。記憶の封印が解かれた今、先ほどのように強く迫ってくるシィルを見ると複雑な気分になってしまう。あまりにも主従関係が染み付いている自分が嫌になり、急に不機嫌になったランスは服を着込み、カオスをクローゼットから引っ張り出すとふらりと部屋を出た。 『まだ日も高いというのに激しいのう、ランスよ? いいかげんわしも混ぜてくれんか?』 「黙れ。俺様は今虫の居所が悪い」 『じゃろうな。アールコートちゃんの名前を出すなど軽率にもほど―ガッ!? むぎゅ……』 カオスは床に叩きつけられさらにぐりぐりと踏みにじられる。 「ふん、お前に言われなくてもわかっている。……しかし、これからどうするか……」 ランスの足元からはしばらくカオスの悲鳴が聞こえていた。 あとがき レノンさん、誰と誰の息子かは一目で分かると思います。やっぱり剣技には長けていると思われます。そして、彼がどうなるかは今後の展開をお待ちください。 |