―シィル勝利編

サイコロが止まる。出目は1だ。あがりには届かない。
だが、表示された指示を見てシィル殿の表情が一変する。
『自分以外をスタートに戻す』
これで、シィル殿以外に勝利は無い。
「くっ……」
「ええ〜〜〜ひどいよ〜」
「うぅ……そんな……」
「あ〜あ、無敵んとこに乱入してくる」
「ふぅ……」
思わずため息が出た。おそらく一番丸く収まる形だろう。
シィル殿がどんな無理難題を出しても誰も不満を出せない。
「これはシィルの勝ちだな」
ランスの一声で誰もが受け入れる。
「で、賞品はどうする?」
「えっと……」
シィル殿は集る視線に戸惑いながら。
「ほんの少しでいいんです……他のひとを近づけないで……その……私だけを――」
言葉の続きはランスの唇に塞がれ出てこない。
完全に予想通り。そして、周りの反応も予想通り。
落胆しすぎです、ホーネット様。もう少し魔王としての威厳を持ってください。

……まあ、とりあえず私には関係ない事だが。
と、その時は思っていた。

その後、大宴会を経て日は移る。

―魔王城 執務室
「いい加減に書類に目を通してください」
「……はぁ……」
「聞こえておいでですか?」
「……今日で1週間……」
「そうですね。ランスの決めた期日まであと3週間ありますね」
「……はぁ……」
大陸世界で人と魔物を共存させていくため、色々な重要な案件がここ、魔王城の魔王の元に届く。
今まではその全てに目を通し対応を決めてきた魔王が今日は完全に腑抜けている。
それだけで世界は混乱した。
魔王が腑抜ける原因はランスに会えないからだ。
3日で禁断症状が出て、1週間で目も当てられない状態になっている。
反魔王争乱(レギオンの事件は歴史にそう記される)の後、3日に1回はランスに会いにいく時間を作っていたホーネット様。
最早魔王の威厳は無いに等しい。というか、無い。
そして、問題は、魔王が仕事をしないので部下にツケが回ってくる。
……この1週間ほぼ寝ていない。
他の魔人も魔王と似たような状態なのでさらに作業は遅延する。
魔王が腑抜けたのも私が過労死しそうなのもなんか妙にいらいらするのも。
「やっぱり全部ランスが悪い。アイツのせいだ」
そう言ったところで作業量は減らず。
私は再び書類の山を切り崩しにかかった。

シィルエンド。

真にランスが望んだ結末かもしれない。

戻る