第11章   死闘

―ランスがリーザス城に入ったころ カスタムの町上空
「ここにもいませんね。サテラさんの心当たりここが最後ですよね?」
「うん、ランスどこへ行ったんだ? リーザス城にもいないアイスの町にもいないここにもいない……」
ランスのことを心配したホーネットの命により何人かづつのグループに分かれた魔人が人類領で隠密行動をしていた。捜索のポイントはリーザス城、アイスにあるランスの家、長崎城、カスタムの町の四ヶ所。サテラ・アールコートペアはランスと入れ替わりにリーザス城を出ていたのだ。
「あの、サテラさん。合流地点に戻って長崎城へ行っているホーネットさんとメガラスさんの結果を待ちましょう」
「そうだね、シーザー合流地点にいって」
「ハイ、サテラサマ」

「サテラサマ、コウホウ500ニハンノウアリ。ニッコウツカイトオモワレマス」
サテラたちがプアーの町に差し掛かったころシーザーが警告を発した。
後ろを振り返るとオメガの肩につかまった勇者と健太郎がすさまじい勢いで迫ってくる。
合流地点はカミーラが使っていたあの山小屋だ。そこまで逃げ切れそうにない。
「どうしよう、どうしよう。サテラあいつらに勝てる気がしない……」
「もう少しスピードをあげましょう。それで振り切れるかもしれません」
「うっ……サテラこれで限界……」
アールコートにまだ余裕があると知りサテラは失速する。
「あっ、そんなつもりじゃ……」
「オフタリトモ! オイツカレマス!」
失速したせいでかなり接近を許してしまっていた。距離は50mをきっている。
「……しかたありません……サテラさん、合流地点へ先に行ってください」
「どうするつもり?」
「できるだけ早く誰か他の方を連れて戻ってきてください。新参者の私より貴女の方が他の方もすぐ動いてくれるはずですから。……お願いします」
止まろうとしたアールコートの腕をサテラが引き止める。
「無理だ、勝てないよ! 闘神も日光も勇者もいるんだ絶対に―」
「生きて帰ります。こんなところで死ぬわけにはいきませんから。それに……ランス様にいただいたこの力こういうときにしか使う機会ありませんから」
「……すぐ戻るから。絶対に死なないで。死ぬなんてサテラが許さない」
にこっと微笑みアールコートは地上に降り、サテラは限界速度で合流地点を目指す。
オメガもアールコートの意図を読んで地上に降り立つ。
「……以前、何度かお会いした事がありますね小川さん」
「君は確かランス王が建てた士官学校の……。そういえばゼスを滅ぼしたのが君だったね。……人類を裏切り魔王の手先となった裏切り者」
健太郎は殺気を振りまき日光を抜く。
「ちょっと待つんじゃ小川殿。最近まで人間だった彼女なら懐柔の余地もあるかも知れん」
「無理ですよ。あの下衆についっていった女なんか信用できません」
フリークの言葉も殺気だった健太郎を止める事はできない。
「……私をののしるのは勝手ですが、ランス様を下衆呼ばわりするのは止めてください。唯一私を認めてくださった方だから」
「あの人が君にとってどんな男だったかなんて僕には関係ない。美樹ちゃんの仇、それ以外の何者でもない」
「……仕方ない、アリオス殿、小川殿全力で行きますぞ」
「はい、小川君は右、僕は左、フリークさんは上へ!」
アリオスの指示の元三人が同時に展開、攻撃を仕掛ける。
「覚悟!」
アリオスの剣が振り下ろされるがアールコートは優雅に微笑む。次の瞬間アリオスの一撃はアールコートではなく氷の板を砕いた。鏡像だった。
「なに!?」
いつの間に入れ替わったのかまったくわからない。
一瞬ひるんだときに日光が鼻先をかすめ再び氷の板が砕ける。
健太郎もダミーを斬ったようだ。さらに上からオメガが。
「「うわぁっ!」」
二人の悲鳴が空しく響く。
「くっ、あいつは!」
体勢を立て直した三人の後方5〜6mほどのところにアールコートはたっていた。
「氷の矢!」
ワンワードで数百の矢が放たれる。
「後ろへ!!」
フリークがシールドを展開、氷の矢を受け止める。しかし、数百の氷の矢はシールドとの衝突で蒸発し水蒸気が三人の視界を閉ざす。
「……ここまで計算して動いているのか。へたに動けんぞ」
周囲を警戒し背中あわせにする三人。直後その中心にスノーレーザーが直撃する。
反射的に違う方向へ回避した。とたんに三人を濃密な霧が隔離した。
「しまった……これでは味方がどこにいるかつかめん!」
同士討ちを避けるためフリークは霧の上空を目指す。
だが、濃密な霧をぬけたとたん目の前に細い足が現れた。
「なっ……」
驚くフリークの頭部に少し冷たいアールコートの手が添えられる。
「……空を飛べるのはわしだけじゃったな……」
「ええ。……さようなら」
少し悲しげな目をするアールコート。だがそれは一瞬の事。
「白色破壊光線!」
全てを塗りつぶす光がフリークを飲み込みその存在を完全に消し去った。
それでも威力は衰えず霧を吹き散らし地上に大穴を穿った。
土ぼこりが収まると勇者と健太郎が倒れている。
上からでは死んでいるのか気絶しているだけなのかわからないためアールコートは地上に降りた。どちらにせよとどめを刺すつもりで健太郎にちかよる。
ただ、このときのアールコートはあまりにも無用心だった。
健太郎の横に立ったとき突然彼が飛び起きた。アールコートはそれに驚き致命的な隙を作ってしまう。飛び起きざまに振られた日光はアールコートを即死させる威力は持っていなかった。それでも戦いなれしていないアールコートは激痛で呪文の詠唱どころではない。
「あう……」
傷は左脇から右肩へ。血がとまらない。
治療魔法も満足に掛けられない。
「これで、終わりだ。フリークさんの仇は討たせてもらう」
健太郎はうずくまるアールコートの鼻先に日光を突きつけた。
「ハイスピード!」
高速で接近した何かが健太郎の前をかすめる。
「ちっ……メガラスか!」
慌てて周囲を見回すが少し離れたところに倒れているアリオス以外何も見当たらない。
アールコートの姿もない。
「……逃げられたか」
健太郎は悔しそうに日光を鞘に収めた。

―合流地点
少し時間をさかのぼる。
アールコートとサテラが勇者たちと会う直前。
「サテラたち遅いわね。一番早くに出て行ったのに」
そういってホーネットは紅茶を優雅に飲む。
「どっかに寄り道して買い食いでもしてるんじゃない?」
「買い食いしてたのは姉さんじゃない」
ハウゼル、サイゼル、ホーネット、ケッセルリンクの四人がお茶会を開いていた。
あと一人メガラスも小屋にいるが今は屋根の上で鳥と戯れている。
「まあ、我々はこうしてゆっくりできるわけですから。彼女たちもよほどランス様のことが気になるようですし気がすむまでやらせてやるほうがいいと思いますね」
「けどさ、あまりこっちで人目につくと日光使いたちが出てくんじゃない?」
「そうね、闘神を手にいれ、機動力を得たらしいから。……ランス様も気になるけど、あの子達も心配ね。……少し探しに行きましょう」
「イ―」
「はい、ホーネット様。行きましょう、姉さん」
サイゼルがイヤという前にしっかりした妹は姉を連れて出て行った。
「……我々も動くとしましょう」
「ええ」
「メガラス、聞いていたでしょう。我々はリーザス城へ向かいます貴方はカスタム経由で長崎方面を探してください」
トンと屋根をける音がしてメガラスの気配は遠ざかっていった。

サテラとメガラスがであったのはメガラスが長崎から戻る途中だった。前方に赤いポニーテールがなびいている。
「モウヒトリハ?」
「うわっ、メガラス! 脅かすな。今サテラは急いでるんだ。早く合流地点に戻らないとアールコートが勇者と日光使いに……」
「……」
メガラスは180度反転。そして、高い魔力の波動を感知するとその場所を目指し最大速度で飛行した。
「そうだメガラス! ホーネットたちを……あれ?」
サテラが振り返ったときにはもうメガラスの姿はない。
「シーザー、メガラスは?」
「ユウシャトノソウグウチテンヘムカワレマシタ」
「……そっか、最初からメガラスに頼めばよかった。でも一応ホーネットたちを呼んだほうがいいかもしれない。シーザー急ぐよ!」
サテラのこの判断がアールコートの命を救う結果となった。

―1時間後 山小屋
「ホーネット、どう?」
「大丈夫、傷は塞いだわ。あとは体力の回復を待つだけ」
「よかった……」
気の抜けたサテラは床にへたり込んだ。
「でも、あと10分治療が遅れてたら危なかったかもしれないけど」
「それにしても彼女がオメガを葬るとは……」
「ホント、びっくり。あたしならとっくにあきらめてるわ」
「ダメよ、姉さん。そんなに簡単にあきらめちゃ」
盛り上がる二人をよそにサテラは誰にも気づかれずに外に出る。
「ねえ、シーザー。サテラも一緒に戦ってたらこんな事にならなかったかな?」
「サテラサマ……」
「……サテラが弱いからいけないんだ。……強くならなくちゃ」
サテラは上を見上げると息を大きく吸い込み―
「サテラはもっと強くなるんだ!!」
自分の決意を大声で叫んだ。



あとがき

アールコート少し無茶をしすぎました。
で、フリーク戦死。この方にはたいした思い入れがないので妥当な結果か……。
う〜ん、キャラによって扱いに差がでるなぁ……

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