第12章 道を選ぶ時 ―リーザス城 マリスの執務室 夜遅く部屋をノックする者がいた。 「入りなさい」 「マリス様。……その、悪い報告が二つ」 入って来た兵士は、手元の報告書をちらちら見ている。 報告する気がひけるほどの内容らしい。 「悪い報告、ですか。話なさい」 「1つ目ですが、フリーク殿が戦死されました。小川殿とアリオス殿は無事のようですが」 「……全滅ではないのですね」 これはマリスの予想通りであった。魔人と交戦した場合まず健太郎達の足代わりつまりフリークが狙われると予想していた。撃墜されないならそれにこした事は無いがもしもの時の策もすでに準備させている。 「それでもう1つは?」 「チューリップ4号の試運転に出かけられたマリア殿が消息を絶ちました」 「なっ……なんですって?!」 マリスが珍しく取り乱した。 「研究所の所員によりますと突然レーダーから消失したとのことです。最悪何者かに撃墜された可能性があると……」 「……そうですか。……さがりなさい」 兵士が出て行くとマリスは机に突っ伏した。 フリークに代わる機動力としてかつてユプシロンまで行ったマリアの飛行機械に目をつけたのだ。設計図を手に入れる前に行方不明になるとは。 再び部屋にノックの音が響く。 マリスは慌てて体を起こし才女の顔になった。 「失礼します。こんな物が王の寝室の前に……」 兵士が差し出したものは手紙にしか見えない。 『マリス様へ 私たちはランス様のもとへ参ります』 そう書いてあり最後にシャリエラ、エレナ、レベッカ、すずめの名が印してあった。 この手紙を見る限り魔王はこの城に来ていた事になる。 だが誰も殺されていないため、リーザスの壊滅が目的でないのはわかる。 ただ単にメイドをさらいに来ただけか? ランスの事をかんがえると違うと言い切れないが……。 しばらく考えるがあの人物の思考パターンは読めないと結論を出し考えるのをやめた。 そして時計を見る。午後1時。 「リア様と食事にしましょ」 マリスはそう決めると早速リアの部屋へ向かった。 近頃のリアは部屋にこもりがちになっていた。例の癖も再発して余計にだ。 マリスが食事を運んで一緒に食べないと何も食べようとしない。 メイドが食事を運ぶとメイドのほうが先に喰われてしまう。被害者続出だ。 「リア様入りますよ?」 返事が無い。ただそれはいつもの事。鍵が開いているのでマリスは部屋に入った。 明かりも付いていない。そしてそこかしこにおいてあるSMアイテムが目に入る。 ノーマルな人なら一秒でもいたくない空間だ。食事などもってのほか。 「リア様、お食事をお持ちしました。……どこかに隠れておいでで?」 反応が無い。マリスはベッドに近づいた。シーツが膨らんでいたからだ。 「……」 だがそれはリアではなかった。マリスは容赦なくシーツを剥いだ。 それは全裸にされた挙句荒縄でギチギチに縛られていた。しかもちょっとでも動けば体に縄が食い込んでしまう高度な縛りかただ。さらにそれの口には穴の開いたボールがかまされていた。 マリスはそれをベッドから蹴落とした。くぐもった悲鳴が響く。 「……かなみ、説明しなさい」 縛られていた哀れなかなみはその前に解いて言いかけて止めた。 マリスの目がとっても怖かった。 それでもボールだけは外してもらえた。 「リア様はどこです?」 「その……それが……」 かなみの話によるとリアに呼ばれて出てみるとお茶に誘われたらしい。仕方なく付き合っていると一服盛られた。普通の眠り薬程度ではかなみには効かない。 自白剤にも耐えられるように訓練をつんでいる。しかし、今回のはそんな生ぬるい薬ではなかった。 媚薬。それも普通の人に使えば狂い死ぬかも知れないほどの……。 「……それで?」 「そのまま……」 さんざんいじめられていかされて最後には縛られたまま失神。今に至る。 マリスは無言で短剣を抜いた。 「ちょっ……マリス様!!」 動けないかなみに短剣が振り下ろされた。 「……あれ?」 パラリと縄が落ちた。 「なにを勘違いしているのです」 あははと乾いた笑いを浮かべかなみは急いで服を着た。 「かなみ、すぐに主だったものを集めなさい。今すぐに」 マリスの手には一枚の便箋があった。かなみの下にあった物だ。 『ダーリンに会いに行くから』 文面はそれだけ。しかしマリスをあせらせるには十分だった。 その30分後リーザス城から各地に向けて捜索隊が出発した。 ―ヘルマン領 ログA 「ふう、やっと着いたの。はいこれお礼よ」 荷台から降りたリアは御者に少し多めの金を握らせた。 マリスがリア捜索隊を派遣するより前にリアはリーザス・ヘルマンの定期郵便に便乗しすでにリーザスを離れていた。 服装はタイトスカートにレザーアーマー。腰にはレイピアをさし、髪はポニーテールにしている。戦争時の今どこにでもいそうな女傭兵といった感じだ。 「さてと……そろそろマリスたちが気づくころね。今度はラング・バウをめざそっと」 彼女は本気だった。本気で魔王に会いに行くつもりだった。 ―魔王城 玉座の間 「―というわけだ。俺様からは以上だ。ホーネットなにかかわったことは?」 ランスは帰るなりホーネットに捕まり事情聴取を受けた。 「はい、1つは人類側の対魔人部隊との戦闘がおこり闘神オメガをアールコートが撃破しました」 「アールコートがか。予想以上にやるな。あとでかわいがってやろう」 「無理です」 ランスがニヤニヤしているとホーネットが口を出した。 「今は戦闘で負傷し医務室で治療を受けています」 「そうか、ならホーネットお前だ。久しぶりに抱いてやる」 「えっ……あっその、うれしいのですがまだ報告しなければならないことが」 今はまだ明るい。だから少し後でみたいな言い訳をしてみるが、ランスの前では無意味。 「問題ない。ベッドの上でいくらでも聞いてやる」 ホーネットはなすすべもなくランスの部屋に連れ込まれた。 ちょっと困惑しているがまんざらでもないらしく、ホーネットは自ら着ているものを脱いだ。 「おっ、積極的だな」 「まだ仕事が残っていますから。服がしわだらけでは他の者に示しがつきません」 「仕事中になにをやってるんだってか?」 「ええ」 「誰も気にせんぞ。……ま、先に報告とやらを聞いておこう」 そういいつつもランスはホーネットをベッドに押し倒す。 「もう1つというのはパイアールのエンタープライズを小さくしたような物に乗った人間が上空にきたそうです。報告によると第一発見者のレッド・アイが撃墜、たいした怪我も無かったので地下牢に連行させました」 「なんだって? いつだ?」 ランスはがばっと体を起こした。 「確かちょうど24時間前くらいかと」 ランスの表情にはあせりの色がうかぶ。 「ホーネット、用事ができた。ちょっと待ってろ」 そういって服を身につけると地下へ転移した。 「空飛ぶ機械……マリア……無事でいろ……」 ホーネットはわけもわからぬままおいていかれた。 「……私より大切な用事?」 とっても不満そうだった。 ―どこまで飛べるかとゼスを越え魔人領へ入ったとたん撃墜され捕まった。 ここに連れてこられてランスに会えるかもと期待したけど……そんなうまくはいかなかった。それどころかかわるがわる犯されもう何も感じない。 「マリア!!」 遠くからかすかに声が聞こえた。とたんにモンスター達がいろめき立つ。 「邪魔だ!! 失せろ!!」 魔王の気に当てられたモンスターが瞬時に消滅する。 「大丈夫か、マリア……」 マリアはうつろな目でそこにいる人物をみた。しかしメガネが無いため顔がはっきりしない。それでも声を聞いたとたん体が緊張を解いた。 「……くそっ」 ランスはマリアを自室へ連れ帰った。 「ホーネット……地下への管理がいき届いていないな? 改修を命じておいたはずだぞ。管理の行き届いていない地下牢がどんな物かお前が一番知っているはずだな?」 部屋に戻ってきたランスは怒っていた。腕に抱えた女が原因だという事はすぐわかる。 「以前と変わっていない。……お前、一週間ほどあそこへ戻ってみるか?」 ホーネットの脳裏に地獄の日々がよみがえる。体は震え汗が落ちる。 「も……申し訳ありません……」 「ふん、今日はやめだ。部屋へ帰れ」 ホーネットはランスの視線から逃げるように魔王の部屋を飛び出した。 女であるホーネットでこれだから男魔人だったら問答無用で殺されていただろう。 ホーネットを追い出したランスはマリアをベッドに寝かし体についた体液を拭い取る。 「……本当に……ランスなの?」 うっすらとマリアが目を開けた。 「ああ。別人に見えるか?」 「見えない……。何で……魔王になっちゃうの? バカ……バカバカバカ!!」 マリアはランスの胸に飛び込みポカポカたたいた。 「もう……どうやっても対等になれないじゃない……魔王なんて……バカ……」 「マリア……これからどうする?」 ランスは泣き喚くマリアを軽く抱き寄せいった。 「……アールコートちゃんにもそうやって訊いたの?」 「いや、あいつは自分で望んだ。……お前も自分で決めろ」 マリアはランスを見上げる。 「……私は―」 あとがき やっぱり不幸なかなみちゃんとメカ部門担当マリア嬢のお話でした。 マリアの最後のセリフ、もちろん予想どうりに続きます。 |