第13章 忘却の王女

―魔王城玉座の間
ランスが玉座にふんぞり返っている。その傍らにはマリアが立っていた。
「……ま、なんも言わんでもわかるな? マリアだ。パイアールと組んで兵器製作をやってもらう。それで早速だがマリア、パイアール。お前らに命令だ」
「なんですか?」
「なに、ランス?」
「巨大戦艦だ」
「は?」
「何度も言わせるな。巨大戦艦を作れ。もちろん豪華な奴だぞ」
いきなり突拍子もない事を言い出す。マリアはクスッと笑った。ランスなりの考えがあるのだろうきっと。
「ん? なにがおかしい? ……資材も労力も惜しまないでいい。頼んだぞ」
「うん、頑張るね」
早速マリアとパイアールは専門的なことを話しつつ玉座の間を出て行った。
学者肌の二人は結構気が合うようだ。
「残りの者はヘルマンを攻める準備をしておけ。以上、解散」
ランスはそういって席を立ち扉のところで振り返った。
「ホーネット、ちょっと来い」
ホーネットはうわのそらでぼーっとしていた。
「ホーネット、ランスが呼んでるぞ」
「……はっ……サテラ、何かいいました?」
「どうした? ホーネットらしくない。ランスに何か言われたか?」
「いえ……」
「……とにかくランスが呼んでる」
ホーネットは誰が見ても変だった。ふらふらと歩いてランスのそばにいく。
その足取りはなんとも危なっかしい。見ているものをはらはらさせる。
「お呼びになりましたか?」
と、ランスがホーネットの額に自分の額を押し付けた。
「……熱があるわけではないな。昨日は言い過ぎた。気にするな」
ランスは照れ隠しのためか姿を消し、ホーネット一人が廊下に取り残された。
「あれ? ランスは?」
サテラがホーネットの声をかける。
が、ホーネットは赤く染まった頬を押さえて身もだえしていた。
「……」
サテラは見なかったことにした。
続いてホーネットに声をかけようとしたシルキィの口を塞ぎ一言。
「ほっとけ」
他の魔人たちも幸せそうなホーネットに声をかけず通り過ぎていった。
そして誰もが思った。ホーネットは意外と単純ではないかと。

―カラーの森
「はぁ……はぁ……はぁ……」
森の中に少女は逃げ込んだ。恐る恐る振り返る。追ってくる影は4つ。
森の中はモンスターがあふれている。よもや追ってこないだろうと思ったが大間違いだったようだ。
「チッ……あの女どこ行きやがった! こうなったらさんざんヤッて殺してやる!」
頭の男が部下に命令を飛ばし少女に迫る。
「王女だろうがただの詐欺師だろうが関係ねぇ……くくく、楽しみだぜ」
頭はぺろりと舌なめずりした。
「捕まえやしたぜお頭! 来いこのアマが!」
「このっ! 放しなさい! リアに触っていいのはダーリンだけなんだから!」
少女―リアはロープで縛られ連れてこられた。
「放しなさい! ダーリンは魔王なのよ! ダーリンが来たらあんたたちなんかすぐに殺されちゃうんだから!」
「ほう……なら魔王様が来るまでは楽しめるわけだな」
頭の手が伸びリアのスカートを引き裂いた。
「布を噛ませろ。モンスターに聞こえでもしたら面倒だ」
「いやっ……やめてっ!」
男たちがリアの服に手をかける。初めてリアの表情に恐怖が走った。

「ルンルンランラン♪ お散歩、お散歩楽しいな♪」
薄暗い森の中を陽気にスキップしているのは小学校低学年くらいまで成長したリセット・カラー。その後ろにはケッセルリンクがついている。
「リセット様、そろそろ帰らなくては黙って抜け出してきたのがパステル様にばれてしまいますよ」
「やだやだやだ! もう少し。お願い、いいでしょ?」
リセットのお願い攻撃にケッセルリンクは懐中時計を取り出した。
「ではあと15分。その後は屋敷まで私がお連れします」
「わ〜い、ありがと!」
リセットは毎日のお稽古の鬱憤を晴らすかのように森の奥へ走り出した。
ケッセルリンクもその後を追う。
突然リセットが動きを止めケッセルリンクを招きよせる。
「どうなされました?」
「あのね、変な声がするの。人間かな?」
耳を澄ますとくぐもった声と男たちの嬌声が聞こえてくる。
「リセット様?」
気がつけば横にリセットの姿はなく、少しはなれた藪に上半身を突っ込んでいた。
好奇心旺盛なリセットはとんでもなくすばやい。
「やれやれ……面倒な事にならなければいいが……」
以前からリセットの前で殺しはやるなとランスに言われていた。
侵入者は容赦なく殺せとも。
「はてさて、どちらを優先すべきか……」
ケッセルリンクは霧に姿を変えゆっくりとそこへ近づいていった。

一方リセットは茂みからその行為を覗き見していた。
「……逆だ」
なにが逆かと言うとリセットが村の家畜小屋を覗いた時は男1人にカラーが4〜5人だった。それゆえの感想だった。
「はわぁ……疲れないのかなぁ……」
じぃっとみていると男の一人と目が会ってしまう。
あっというまに茂みから引きずり出された。
「ほえっ?」
「お頭、カラーのガキですぜ。ラッキーだな、クリスタルも手に入るなんて」
「ガキか。まあいいよこせ、俺が色を変えてやる」
リセットはわけのわからぬままお頭に投げ渡された。
頭の手がリセットの服に伸びて―ポロリと落ちた。
「リセット様、そろそろお時間です」
何事もなかったかのようにリセットに話し掛けるケッセルリンク。
「ひっ! 俺の手が!!」
「それとこういう輩とはかかわりにならないほうがいいかと……。30秒ほど目をつぶっていてください」
?と首をかしげたリセットだがこくんとうなずいて目を閉じた。
「……散れ……」
ケッセルリンクの呟きとともに4人の男は切り刻まれ、その場所から干からび散っていった。相手の生命力を奪うエナジードレイン。ケッセルリンクほどの使い手になると1人5秒もかからない。
「……にじゅうきゅう、さぁんじゅう! もういい?」
「ええ、結構です」
リセットが目を開けるとマントで包んだ女を抱いたケッセルリンクだけがいた。
「この娘……リーザスの王女か……」
「どうしたのおじ様?」
「……いえ。リセット様、急いで背中へ。しっかりつかまっていてください」
「わ〜い、お空大好き!」
ケッセルリンクは空へ上がり一気にカラーの村へ飛んだ。そしてリセットの部屋のバルコニーに下りる。
「リセット様早く中へ」
「うん、ありがと」
リセットは背中から飛び降りるとこそこそと自室にもぐりこんだ。
「さてと……」
自分の屋敷につくなりメイドにリアの体を洗い清めるように言う。
ケッセルリンクはリアを使徒にすることに決めていた。ハイパービルよりプライドの高いリアの精神は男たちに強姦された事によって崩壊しかかっていた。
今まで彼が拾ってきた少女たちと同じような境遇だった。
そして、その夜リアは記憶を書き換えられケッセルリンクの使徒となった。

―その後
ランスがケッセルリンクの屋敷を訪ねた。
「はいるぞ」
いつもの調子で扉を開ける。直後ランスは固まった。
「あ、お客様ですね。少しお待ちください。ケッセルリンク様をお呼びいたします」
メイドは一礼して奥へ消える。ランスは固まったままだ。
「これは、魔王様。何の御用でしょうか?」
ケッセルリンクがでてきてやっとランスは動いた。
「……来週あたりヘルマンを落とすぞと言っておこうかと思ったんだが……あれはなんだ!!」
ランスの指がリアを指した。指されたリアは不安そうにケッセルリンクを見る。
「ここで立ち話もなんですのでこちらへ。リア、紅茶を準備して」
「はい。少々お待ちください」
リビングに通されランスはどっかりとソファーに座る。
「……で?」
「記憶を探ってみたところ貴方様に会うためにリーザス城からでてきたようで、ごろつきを金で雇いボディガードにしていたようですが裏切られ一方的に―」
「……わかったもういい。それで使徒にしたわけか」
「はい」
そうかと呟いてランスはお茶を運んできたリアを見つめた。
「あ、あの……なんでございましょうか?」
「ちょっとこっちへ来い」
と手招き。魔王を前にしてリアは恐る恐る近づいてきた。
ランスはすっと手を伸ばすとリアの尻をいやらしく撫で回した。
「キャッ!?」
真っ赤になって座り込むリア。紅茶を飲んでいたケッセルリンクは思い切りむせた。
「……こうも反応が違うとやっぱ違和感あるよなぁ……」
ランスはしみじみと呟いた。



あとがき

違和感バリバリのリアのメイド服姿。想像つかないなやっぱり。
誰か絵を書いてくれないかな……。
なんて、高望みだな。

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