第15章 新生魔王軍 ―魔王城玉座の間 鬼ごっこの命令権の効果が切れて1週間、魔王城内はようやく以前の落ち着きを取り戻していた。それを見計らったように魔人たちに召集令が下った。 「よーし、全員そろったな。そろそろヘルマンを落とすぞ」 「あれ? 巨大戦艦が完成するまで攻めないんじゃなかったの?」 この前の鬼ごっこは戦艦の完成までの暇つぶしだったはずだ。 「気が変わった。今週中に落とす」 要するにランスの気まぐれなわけだが誰も異を唱える者はいない。 「ラング・バウへ向かう部隊は4つ。これで決める」 ランスの手には球に近いサイコロがあった。 魔人の名前が書いてあるだけでなく、『やっぱやめ』とか『俺様』とか『一発ヤってから』、『先にリーザス』なんてふざけた物もある。 「……そんなのでお決めになってよろしいのですか?」 「別にかまわんだろ。誰が行っても落せるだけの戦力はあるはずだ」 今までの半年ほどだらだらと過ごしていたわけではない。アールコートによる『戦術講座』 やランスのよる『特訓(男女に差あり)』によって戦力の増強はできている。 「んじゃ、一人目」 ランスの手からサイコロが離れホーネットの足元へ転がる。 出目は『ワーグ』。 「二人目」 サイコロが不可視の力で振りなおされてサテラの足元へ。 出た目は『ケッセルリンク』。 「魔王様、森の警備はどういたしましょう?」 「そうだな、ラバーの数を増やしておけ。どちらにしろお前が森を離れる時間はそんなにないだろう」 話しながらもランスの指がつっと動きサイコロが振りなおされる。 結果、ワーグ、ケッセルリンク、アールコート、レイが行くことになった。 「今回は作戦などいらん。強化された魔王軍の力を見せてやれ」 「ねぇ、まお〜さま。ワーグはリセットちゃんと遊んでたいな。だめ?」 「だめ。リセットは今、パステルの所だ。甘え放題やってるんだろう。邪魔してやるな」 「あっそう……やってやるわよ。やればいいんでしょ?」 一瞬ワーグの口調が変わり古株の魔人たちは耳を疑った。 「ワーグ……貴女……」 「じゃあ行ってくるね。いこ、ラッシー」 ホーネットが声をかけるもワーグは無視してさっさと出て行った。 「あの、ランス様。ワーグが変じゃありませんでした?」 「いや、別にいつもどおりだったろ?」 「そうでしょうか?」 ランスはニヤニヤと戸惑うホーネットの様子を観察していた。 ―ラング・バウ ヘルマン防衛軍本陣 「レリューコフ将軍、魔王の軍勢が現れました!」 「ようやく現れよったか……数と距離は?」 「数は約4万。距離は2500です。斥候によると伏兵等は見当たらないそうです」 「4万か……前回は30万できたのじゃぞ? 何か策があるということか。ゼスを陥落させた魔人が来ておるのかも知れん。気を引き締めなければ……」 レリューコフは今回の作戦を練りながらテントを出た。 兵士たちを鼓舞するため演説台に上がる。 「きけ! 今回は我らとほぼ同数。敵ではない数だ。しかし油断はならんぞ。各自気を引き締めてかかれ!」 あいかわらず兵の士気は高い。 「さらに、今回はリーザス軍のエクス将軍とアスカ将軍が応援に来てくれた! 我らに負ける要素はない。空飛ぶ魔物は弓を持って射落とせ! 地を這う者は剣を持って叩き切れ! 勝利を我らの手に!!」 兵の間から歓声が上がる。 誰もが勝利を確信していて120%の力を出せるようになっていた。 ―魔王軍陣営 そこには戦場とはかけ離れた雰囲気があった。 「えっと……これでチェックメイトまであと5手です」 「……ふぅ、何度やっても勝てませんね。勝てそうな配置にはなるにはなるんですが」 人類側は戦闘開始に向け盛り上がっているのにケッセルリンクとアールコートはチェスをやっていた。その近くではレイが居眠りしていて、その側でワーグも寝ていた。 まったく緊張感がない。 「もう1戦といいたいところですが……」 「ええ、時間ですね。ワーグさん、レイさん。準備にかかっていただけますか?」 「うっ……ふぁ……ようやく暴れられるのか。……ワーグ起きろ」 「……もうちょっと……」 ワーグは起きようとしなかった。 「しかたありません。三人でなんとかしましょう」 アールコート達はワーグ1人を残し自分の部下のところへ行った。 三人が出て行った直後、ワーグは起き上がりまわりを見渡す。 「ラッシー、みんな出撃した?」 「わふわふ」 「そっか、じゃあ遊びにいきましょ」 誰も見ていないのを確認してワーグとラッシーはどこかへ行ってしまった。 それからまもなく両軍が向かい合う。 そして、ほぼ同時に動き出した。 「さて、アスカちゃんにチャカ殿。我々もそろそろ動きましょうか?」 「あい、がんばるろ〜」 エクスはリーザス正規兵3000を率いぶつかり合う両軍の側面に回りこんだ。 「でてこいちゅ〜はい!! やっつけるよ〜」 エクス軍のすぐ前にチョーハイが現れてリーザス兵と同時に殴りこんだ。 以前のモンスターならこれで大混乱になっていただろうがアールコートの指揮のもと徹底的に教育されたモンスター達はそれぐらいでは揺るがなかった。 それどころか勢いに乗ってくるリーザス兵を飲み込むかのように陣形を変えた。 エクスがそれに気がついたときはすでに退路すらたたれた後だった。 「将軍! 上空に魔人が!」 全方位を囲まれて上には魔人が迫る。絶体絶命だった。 「後方がまだ薄い。総員反転! 全力離脱せよ!」 エクス自身も反転して離脱を図る。 「残念ながらそうはいきません。あなたはここで死にます」 地面に影。すぐ背後にマントを翻したケッセルリンクがいた。 「アールコートが言うに人間の軍は将軍を失うと烏合の衆と化すそうです。この軍を指揮している貴方には死んで頂く事になります」 「……一度は国を裏切ってろくな死に方しないだろうと思っていたけど……」 エクスはため息をついて自分の剣を抜いた。 数分後、エクスの息の根を止めたケッセルリンクは新たな将軍を前に困惑していた。 「白冷激〜!」 「……こんな子供まで戦場に借り出すとは……なんて愚かな」 ケッセルリンクはアスカに近寄りその首根っこをとらえた。 「ひゃぁっ!? はなすろ〜!」 暴れるアスカの首の後ろを軽く叩き昏倒させケッセルリンクは本陣に戻っていった。 リーザス軍があっさりと敗れたという報告を受けたレリューコフもモンスターの強さに肉薄していた。 「まずいな……誰か、パットン皇子に出撃を要請しろ。もはやわれらだけではどにもならん!」 レリューコフは改めて気を引き締めなおした。 「ようやく俺たちの出番か。腕が鳴るぜ!」 「前みたいに無茶するんじゃないよ? 前回より敵さんも賢くなっているようだからね」 「わかってるって。いくぞ!」 こうしてパットン部隊もハンティの援護を受けながら前線に突入していった。 「オラオラオラオラオラオラオラオラウラァ!!」 やはりこの男の頭にハンティの言葉は届いていなかった。近寄った奴にとりあえず殴りかかる。少々噛まれようが殴られようが気にしない。 パットンはそれでも鬼神の強さを見せていた。 が、突如モンスターが左右に道を開けた。 「ああ? やべっ!」 正面にはアールコート魔法兵団。レッドアイの軍団と並ぶ強力な魔法攻撃部隊だ。 「スノーレーザー!」 逃げるまもなく白い光がパットン軍を貫いた。 「うがっ!!」 パットン自身も数条のレーザーを受け半身を凍りつかせた。 魔法部隊が次の詠唱にかかる。 「くそっ、動けねえっ!」 あせるパットンの横にハンティが降り立つ。 「さすがに潮時だね。ヒューを連れて離脱するよ」 「けどよ」 「死にたいのかい? あたしはゴメンだよ」 「……悪かった」 アールコート部隊から第二波が放たれる。 しかし着弾点にパットンとハンティの姿はなかった。 「いかん、このままでは……こうなれば最後の手段か……しかたあるまい……」 レリューコフは背後のラング・バウを振り返る。 「……全軍撤退、ラング・バウに戻り市街戦に移る」 今や数でも質でも負けていて最後は地の利を使うしかない。 一般人にも被害が出てしまう最後の手段だ。 「シーラ様……ふがいない老いぼれをどうかお許しください……」 「……市街戦にはいるみたい……どうしよう……もうすぐ日が暮れるけど。……追撃せず、明日再攻撃するほうが被害は少ないかも……よし……こちらも撤退します。総員反転してください」 ヘルマン軍の撤退にあわせてアールコートも兵を引いた。 「くっ……兵を引くか……有利な戦況にもかかわらず敵地には踏み込んでこんか……」 しかし、これで時間に余裕ができた事になる。 こちらに眼をひきつけておけば特殊部隊の行動は楽になるはずだ。 それゆえ今回の戦闘には健太郎は参加していない。 特殊部隊の作戦が成功すれば魔王に勝てる可能性が生まれるのだ。 「皆にゆっくり休むように伝えろ。今日はもう攻めてくることはないじゃろう」 レリューコフもそういい残し自室へ引っ込んでいった。 戦闘結果 人類側 将軍 15名 損害兵数 約2万 魔王側 魔物将軍 4名 損害兵数 約5千 魔王の思惑どおりに人類は魔王軍の強さに震えることとなった。 あとがき かなり強化された魔王軍。もはや人類側の軍隊などメじゃありません。 彼らはどこまで強くなるんでしょう? ASOBUがわからないことを訊いても意味ないですな。 |