第24章 暴走彼女

―魔王城 シルキィ研究所
その前の廊下をすずめとエレナが掃除をしていた。
「きゅっきゅっきゅっと、ふう。これくらいでいいかしら?」
「じゃあ次いきましょうかエレナさん」
「はい」
二人はピカピカになった廊下を満足そうに眺めその場を離れようとした。
その時研究所の扉が開き白衣の女性が現れる。
この部屋に出入りするのは持ち主たるシルキィしかいない。
最近ランスに『薄いのにそんな露出して恥ずかしくないのか?』と言われ、白衣を着るようになった。
だが、今は白衣に見えない。なぞの液体に濡れ表現できないような色をしている。
「まったく、強化してやると言っているのになぜあそこまで抵抗する? おかげで汚れてしまったじゃないか……」
シルキィは白衣のすそをつまみ呟く。
すると乾ききっていない液体がぴかぴかの床に落ちた。
―ぷち―
どこかで何かの切れる音がした。
「シャワーでも浴びるとするか」
シルキィが歩き出すと滴り落ちた液体が白衣のすそで引き伸ばされる。このままではシャワー室まで汚れが続く事になる。
直後、シルキィの後頭部に水入りバケツが激突した。シルキィは全身濡れ鼠となったしまう。
「なっ……貴様何をする!!」
振り返ると怒りのオーラをまとうすずめとおろおろするエレナがいた。
「シルキィさん!」
「な、なんだ」
すずめのただならぬ気迫にシルキィはひるんだ。
「……前まで二回見逃してきましたが……もう見逃せません!! その格好で歩き回るのやめてください! 大・大・大迷惑です!!」
今掃除が終わりピカピカになっていたはずの廊下はなぞの液体のせいで見る影もない。
これは今日だけでなく、前にもあったことだ。
「……しかし、それを掃除するのがお前たちの役目だろう?」
「ええ、そうですとも。だからこそ目の前で汚されて黙ってられるわけありません!」
「言わせておけば……」
シルキィは腕に力をこめた。魔人でもないこの女くらい一発殴れば死ぬだろう。
「……反省してもらえないのでしたら王様に告げ口します」
シルキィはもう迷わなかった。この二人を殺し証拠を隠滅する。
ダッシュをかけたシルキィの腕がすずめに当たるかと思われた瞬間足元に黒い剣がつきたてられた。必然的にその剣をつき立てた人物が目に入る。
「シルキィ。何だその手は?」
シルキィはすでに逃げ腰だった。

シルキィはランスが嫌いである。理由はいくつかあり大事なホーネット様が『ランス様ラブ』なのが気にいらないというのがある。曰く娘を恋人に持っていかれた父親の気分。
二つ目、どちらかと言うとこちらの方が大きい理由と言える。
あれは初めて夜伽に呼ばれた時だ。それなりの覚悟を決めてランスの部屋へ赴いたのだがランスはシルキィの服を脱がせると哀れみの視線を向けてこういった。
『……サテラよりかなり薄いな』
ぐさっときた。さらに、
『へたしたらワーグといい勝負か? よく平気だな。薄いのにそんな露出して恥ずかしくないのか?』
である。サテラならまだしもワーグと同レベルなどといわれショックを受けた。
そして、とどめ。
『ガキの体じゃ起たん。チェンジだチェンジ。ホーネットを呼んで来い』
シルキィ再起不能。あの日以来シルキィは研究所にこもりがちになっていた。

「こ、こ、れはですね……じゃ、じゃんけんをしようと……」
あまりに無茶ないい訳だった。
廊下に重苦しい沈黙が訪れる。
「あの、王様。聞いていただきたいことがあります」
最初に口を開いたのはすずめだった。
「ちょっと! 告げ口する気か!」
「黙れシルキィ」
命令。黙るしかないシルキィの前でどんどん事実が明るみに出て行く。
怒りのためか所々誇張されてはいたが。
「ふ〜む、確かにその格好で歩き回るのはいただけんな……。よし、いいことを思いついた。すずめ、エレナ。女たちを玉座に集めろ。シルキィ、お前はシャワー浴びてからだ」
ランスは言うだけ言って姿を消した。

―数時間後 玉座の間
遅れてやってきたシルキィは唖然とした。
「あら、シルキィ遅かったわね。さ、これに着替えて」
シルキィを除く全員、なんとカミーラまでメイド服を着ていた。
入り口付近にいたホーネットは子供っぽい笑顔を浮かべシルキィにメイド服を手渡す。
シルキィは立ち尽くしたまま事態を飲み込めないでいた。
「な、何をしているんですかホーネット様!」
「ふふふ、ランス様の思い付きよ。さ、早く着替えて」
「くっ……」
シルキィはこういうのが一番嫌いそうな人物に詰め寄った。
「カミーラ! なんでお前まで混ざっている!!」
「……売り言葉に買い言葉でだな……着替えさせられた」
「はわぁ〜カミーラ様何を着てもお美しい……」
カミーラの横ではラインコックがその姿に見とれている。彼もまたメイド服だ。
玉座の間を見渡せば自分だけいつもの服で、サテラや志津香、リセットまでメイド服だ。
じぶんだけとても浮いていた。
シルキィは手渡されたメイド服に目を落す。ケッセルリンクのメイドと同じ物だ。
「わかったぞ魔王の意図が! この服装のまま×××な事をするつもりか! 魔王のくせにそんなことを考えていたなんて!」
哀れシルキィはそのセリフを口に出してしまった。
室温が2度ほど下がった。
「シルキィ……」
ホーネットの視線が殺意を漂わせている。他にも同じようなのが数人。
「ほ、本当の事じゃないですか! こんな格好のまましようとするなんてただの変態です!」
「……俺様に対して言いたい事はそれだけか?」
ぺたぺたと黒い刃が頬を叩く。
「誰が変態だと?」
パクパク。言葉が出ない。殺される。本気でそう思った。
「仕方ない。ガキの体でもこの際目をつぶる。二度とそんな口を聞けんようにしてやる」
ランスはシルキィを肩にかつぐと玉座を出る。
「すずめ後は頼んだぞ」
「はい。承知しました」
今からすずめの指揮のもと魔王城の大掃除が始まるのだ。
城があまりに大きすぎるため掃除の手が届ききっていない。
一回綺麗にしてしまおうというランスの思い付きだった。
言ってしまえば魔王領は今暇なのだ。

翌日からシルキィも参加した。その様子は恋する乙女状態で、ホーネットやサテラは増えてしまったライバルにため息をつくのだった。

シルキィの起こす騒ぎはこれだけではなかった。

―シルキィ研究所
「フッフッフッフ……ようやく完成したわ。究極のほれ薬……これを飲ませれば魔王様は私しか愛せなくなる……」
シルキィは出来上がった怪しげな液体を小ビンに移す。その姿はどう控えめに見ても魔女。
「そうだ、ほれ薬なんて書いとくのも無用心ね」
さめて白っぽくなった液体を眺めシルキィはペンを取った。
『ミルク』。そして、自分だけにはわかるようにラベルの端にハートマークをつける。
「後は、これをお茶会の時に混ぜれば……ホーネット様、、魔王様は私が頂きます」
『正々堂々勝負しろよ』とつっこむ人物がいないためシルキィの暴走は止まる所を知らなかった。

―テラス
ランスが魔王になって以来女達はよくお茶会を開いておしゃべりしていた。
たわいもない話から恋敵達への牽制までそこでこなす。
そんな席にランスがたまに顔を出す。
昨日まで長崎城に泊まっていたが今日はこちらに帰ってきている。
そういう時ランスは必ず顔を出す。
ちなみに今日のメンバーはホーネット、サテラ、アールコート、マリア、シルキィそしてサイゼル姉妹。
おしゃべりに花を咲かせていると案の定ランスが現れた。
「よう、元気にしてたか?」
「はい。……今回は一週間でしたね」
「何だ、妬いてるのか?」
「……いいえ、はい。どちらでもお好きな方を」
そんな会話が進む横でシルキィは小ビンを傾けランスに出す紅茶に薬をたらした。
見た目はミルクティーだが中身は恋の劇薬だ。
「どうぞ」
「おっ、気がきくな。ミルクティーか」
ランスの言葉にホーネットが眉をしかめた。
今日のお茶会にミルクは用意していなかった。というか、切れていてできなかったはずだ。
ふと見るとシルキィの横にミルクと書いた小ビンがある。
ホーネットは何の疑いもなくそれを取り自分のカップに傾けた。
「あれ? ホーネット、ミルクあったのか?」
「ええ。シルキィが用意していたみたいよ」
「サテラにもくれ」
サテラはシルキィの了解も取らず『ミルク』をいれた。
シルキィは青くなったが今はまだ止められない。まだランスがミルクティーを飲んでいない。あと10センチ。
「パ〜パ! 大変なの!!」
ランスはカップを置いた。
「長崎のお城にパジャマと歯ブラシ忘れてきちゃった! 連れてって!」
「それは大変だな。行くぞ」
結局ランスは紅茶を飲まずに消えた。
そのやり取りの間にホーネットを先頭にシルキィを除く全員が劇薬を飲んでいた。
「シルキィ……」
とろんとした表情でホーネットがしなだれかかる。
「ホーネット、離れて。シルキィはサテラのものだ」
サテラは断固主張した。
「違います。私の大事な人です」
アールコートはブースターロッドを取り出し戦闘態勢に。
マリアは無言で手のひらサイズのチューリップ兵器を取り出し構える。
サイゼルとハウゼルはおたがいににらみ合いいつつかみ合いが始まってもおかしくない状態になっている。
「どうしよう……みんなが飲んじゃった……」
「ねぇシルキィ……誰が一番?」
答える前にホーネットの唇がシルキィの口をせき止めた。
「もちろん、私よね?」
それが引き金だった。
色とりどりの魔法がひらめき飛び直前までホーネットのいた所を木っ端微塵に破壊する。
ホーネットはシルキィを抱え土煙の中を逃げる。
「あっ、逃げた! 待てホーネット!!」
ホーネットは逃げサテラたちが追う。
「ぎゃ〜〜〜なんでこうなるの〜〜〜!!」
シルキィの絶叫が城中に響き渡った。
ランスが帰ってくるまでの10分間に魔王城の3分の1が消滅した。

ランスが変えてきてまず目にしたものは以前のメガラスのように首を残して氷に閉じ込められたサテラ、マリア、サイゼル姉妹だった。
空中ではホーネットとアールコートによる魔法合戦が行われていて城は大破。
「マリア、何が起きたんだ?」
「それがね、なんだかシルキィさんが大好きになってアールコートちゃんに氷付けにされたの」
「……大変だな」
「わかってくれた?」
「……シルキィ!」
マリアの説明ではよく分からなかったがことの中心にいるであろうシルキィを呼ぶ。
「説明しろ」
端的な命令。ランスの目があまりに恐かったためシルキィは全てを話した。
「……で、解毒剤は?」
「そんなもの作って魔王様がもとに戻ったら意味ないじゃないですか」
シルキィはしれっと言ってのける。
「……そんな薬を俺様に盛るつもりだったのか?」
「もちろんです」
ランスは黙ってカオスを抜いた。
「す、すぐ作ります!!」
シルキィはすさまじいスピードで消えた。たぶんメガラスより速かったはずだ。
「さてと……」
ランスはホーネットとアールコートを捕獲し当て身を入れて黙らせると氷付けの連中ごとどこかへ転移した。
そこは洞窟だった。ランスが現れた場所には泉が湧いている。
解呪の泉だ。ランスは女たちの服を引っぺがすと次々に放り込んでいった。

その後、シルキィはもとにもどった6人によって2ヶ月の入院を余儀なくされた。
途中でランスが止めなければ死亡していたかもしれなかった……。

―退院後すぐ シルキィ研究所
「ふう、ようやくできた。フフフ……これで魔王様は私しか見えなくなる」
今回のおくすりは固体で飴玉のようなもの。シルキィはそれを袋に詰めながらひとりごとを呟く。
「以前は魔王様をどうにかしようとしたのが間違いの元……ですから―」
シルキィの目に狂気の光が宿る。
「ホーネット様……魔王様の射程外に出ていただきます」
全治二ヶ月程度の怪我ではこりてなかったらしい。
「このPTTP薬・改で。……といってもまだ実験が不十分だしな……」
さすがに自分で試す気はなく披検体を探してシルキィは研究所を出た。
そしてすぐフラフラ歩きのアールコートと出会った。
(こいつはやめておこう。この前のこともあるしな……)
ホーネットも恐かったがこちらも十分にこわかった。軽く挨拶して通り過ぎようとしたが
「その飴玉シルキィさんが作ったんですか?」
アールコートが呼び止めて、
「えっ、ち、違うが」
反射的に嘘をつく。
アールコートはそれをあっさり信じた。
「じゃあ、いただけませんか? さっきまで頭脳労働ばかりやっていて甘いものが欲しいなって思っていたんです」
それを聞いたシルキィはニヤリとマッドな笑みを浮かべた。
「あのう……何か変なこといいましたか?」
「なんでもない。これが欲しいならやろう。私はいらないからな」
「ありがとうございます」
受け取ったアールコートは早速一つ口に投げ込む。背後ではシルキィが何かを期待する目で彼女を見ていたがとりあえずアールコートは気づいていない。
シルキィはアールコートをつけて観察を続けるが変化は見られない。
「……おかしいな、そろそろ変化があってもいいのに……」
つけられている事に気づかないアールコートは角を曲がった所でリセットとワーグを連れたホーネットと会った。
「あら、アールコートさんよい所に。今からお茶会を開こうと思っていた所なのですがいかがですか?」
「じゃあ、行きます。けど、ちょっとシャワー浴びてからでいいですか?」
「ええもちろん。お待ちしています」
別れようとしたアールコートのスカートが引っ張られた。下を見るとリセットが物欲しそうな目で飴の袋を見ている。
「はい、リセットちゃん。ワーグさんも、ホーネットさんもいかがです?」
「頂きます」
ぱくりと三人が飴を口に放り込んだのを見てシルキィは青くなった。
魔人はいい。少々の副作用が出たところで死にはしないだろう。だが、リセットはまずい。
もし、リセットに悪影響が出ればランスに100回殺される事は確実になる。
シルキィは解毒剤を調合すべく研究室にとって返した。
一方、薬の効き目は唐突に現れた。
「あれ? アールコートさん、身長が……」
「え……ええ!?」
気がつけばワーグと視線の高さが同じで服もブカブカ、スカートがずり落ちそうになるのをアールコートは必死で阻止した。
「アールコートさん、大変訊きづらいのですがあの飴玉……」
「そういえば……シルキィさんに……貰いました」
ホーネットはため息をつく。
効き始めに個人差があるようで、ホーネットも縮み始めていた。
お子様二人はさらに効果の出が早くもはや半分くらいの大きさしかない。
で、1分後4人は10分の1くらいの大きさになっていた。苦労した後何とか服から這い出してくる。
「わーい、小人さんになっちゃったぁ〜」
喜んでいるのはリセットのみ。
「ホーネットさん、ど、どうしましょう?」
「とりあえずこのままでは歩けませんね」
服のサイズはそのままのため4人は生まれたての姿。ホーネットは自分の服の裾を苦労して切り裂き胸と腰に巻きつける。それをあと三組作ってそれぞれに渡す。
「しばらくはこれで我慢しましょう」
「それでどうするの? 探検するの?」
リセットは今の状況が楽しくて仕方ない様子。
「いえ、シルキィの研究所へ行きます」
「……本来の大きさで500mくらいありますから……5kmくらいはありますね」
普段気にしない距離だが小人サイズではかなりの距離だ。上を見上げれば天井も見えない。
ホーネットは改めて魔王城の広さを痛感した。
今ホーネット達がいるのは魔王と魔人の居住区がある棟で、目指す部屋はマリア、パイアール、シルキィの研究室がある研究棟と呼ばれる所。現在位置とは中庭をはさんだ反対側にある。
ホーネットは落ち込みオドロ線を背負っているアールコートを現実に引き戻す。
「ここにいても仕方ありません。歩き始めましょう」
歩き始めて気づく、このフロアは一般の魔物の立ち入りが禁じられている。
だが、他のフロアはそうではなく歩き回っているものもいただろう。
「余計な怪我人……もとい目撃者を出さずにすむのは運がよかったと考えるべきでしょうか……」
ホーネットはスースーする足をみてため息をついた。
そのまま歩き始めから30分リセットが好奇心旺盛なせいで目標の半分も進めていなかった。そんな一行の前に最大の壁が立ちはだかった。
一段が25cmくらいの階段が4段。普段なんでもない階段がいまや壁である。
「……どうしましょう」
「ハーイ、みんなの服を結んでロープにする!」
その間裸になるわけで、万が一人に見られたらそいつは記憶がなくなるくらいぼこぼこにされるだろう。
「それはちょっと……私はかまいませんがリセット様の体を他の者にさらすわけにはいきませんし……」
「ワーグも見られたくないな」
「じゃあ肩車する!」
結局その案が採用されることになる。まずホーネットの肩にリセットが立ち這い上がる。
続いてワーグ。そして、アールコート。
「あ、あの……上、見ないで下さいね」
腰に布を巻きつけただけなわけで上を見れば丸見えとなる。
「も、もちろんです」
ホーネットはちょっと赤くなった。それでも何とかアールコートを押し上げ自分を引き上げてもらう。
「やっと一段ですか……」
「どんどん行こう〜」
リセットは元気だが3人を肩車しなくてはならないホーネットは結構疲れる。
2段目を制覇した時点でホーネットはへたり込んだ。これも薬の影響なのか魔法がほとんど使えず体力もかなり低下している。
しばし休憩のあと階段のぼりを再開、制覇するまでに一時間かかった。
そこからさらに歩く事20分ホーネットはあることに気がついた。
アールコートと視線の高さが同じだった。それの意味する所は一つ。
薬の効果が切れ掛かっている。
今もとの大きさに戻るのはまずい。身を隠す場所も物もない。
全員が走り出すがいくばくも行かない所で元の大きさに戻ってしまった。
体に巻きつけた布はそれに伴って破れる。
「はう〜どうしましょう〜」
アールコートは涙目でホーネットも泣きたかった。
さらに事態は悪化する。研究棟の角から足音が聞こえてきた。
ホーネットは自分の手を見つめて魔法が使えることを確認した。
そしてアールコートと目だけで何か話す。
角からパイアールの姿がちらりと見えた。
「スノーレーザー!」
「ティーゲル!」
おそらくパイアールには何が起きたのか理解する時間なぞなかっただろう。
一瞬のうちに冷凍されぶっ飛ばされた。
「……ムゴイ」
ワーグは誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
「お前ら服もきずなにやってるんだ?」
胸を撫で下ろしたのもつかの間背後に気配が。
「スノーレーザー!」
「ティーゲル!」
魔法を撃ったあと気がついた。相手がランスだということに。
ランスはまさか魔法攻撃を受けるとは思っておらず直撃、ふっとんだ。
「あ……」
「王様……」

で、元凶の彼女はというと……
「あ、あの……ホーネット様?」
「フフフ、どうしたの? なんで脅えてるの?」
微笑みつつにじり寄るホーネット。目はちっとも笑っていない。
「アールコートも……せめてブースターロッドは使わないで……」
ホーネットの周囲には五色の魔法球が浮いていてアールコートは魔法制御用のロッドを構えている。二人とも本気だった。
「シルキィ……覚悟はいい?」
入院半年決定。そのうち5ヶ月間は意識も戻らなかった。

一方、忘れ去られたやつが一人。パイアールだ。
(何が起きたんだ!? 誰か説明を……いや、その前に出して……)
彼が真相を知るのは3日たち氷が溶けたあとだった。

―ランスの寝室
「ところでシルキィのやつどんな薬を作ったんだ?」
「何でも飲んだものの体を7歳前後にしてしまう薬だとか……」
「PTTP薬・改とか言ってました」
アールコートとホーネットは魔王に攻撃したという事でお仕置きに呼び出された。
「はあ? そんなものなんで……」
「ランス様は7歳の私を抱けますか?」
ランスの表情が凍りついた。
「無理だ」
「シルキィは自分以外全ての女性に飲ませるつもりだったようです」
「……あいつ殺してきていいか?」
ランスは笑顔でカオスを掴み立ち上がる。
「もう制裁は加えておきました」
「たぶんしばらくは……」
「そうか、まあいい。さてと、俺様に魔法攻撃をしたお仕置きだ。今日は寝させんぞ!」
ランスはウムをいわさず二人を押し倒した。

―さらに半年後 シルキィ研究所
「ふふふ、三度目の正直! この薬を―」
「ランスアタック!!」
3度目はランスの奇襲によって未遂に終わった。


あとがき
これを誠志さんのサイトに投稿したらシルキィがさすがにかわいそうと言われました。……そりゃそうだ、書いてて良心が痛んだから。


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