魔王列記 第2.5章 予感

―魔王城 地下牢
メデュウサの日課、それは地下で囚われている魔人ホーネットやラ・ハウゼルをいたぶる事。ただの人間と違い魔人である彼女達が壊れる事はそうない。だから少々の無茶もできる。しかし、今日は限界が来たようだ。
メデュウサはつまらなさそうに鼻を鳴らすとハウゼルの腸から蛇を抜き出した。引き抜かれた後からは血がとめどなくあふれる。
「あ〜あ、ちょっとやりすぎたかしらねぇ」
腸の壁を破り腹の中をかき回したのだ。魔人でなければ数回は死ねる。
「アレフガルド、これ直しといて。あと、服」
服と言い終わるとほぼ同時に着物の着付けが終わっている。まさに神技だ。
「服はこれでよろしかったですな。では、30分ほどで治療してしまいます。何かご用があればいつでもおよびください」
アレフガルドはハウゼルを担ぎ上げると奥の牢に消えた。ネコむしがあれほど速く移動できるなど誰も思わないだろう。使徒だからといってしまえばそれで終いだが。
メデュウサは軽く伸びをすると自室に足を向けた。
そこにもストックがある。お気に入りの人間が。

今日はなんとなく激しくしたいという衝動が消えない。
『悔いを残さないように』
そんな言葉が頭をよぎる。なにかいやなことが起きる予感がする。
長年戦い抜いて生きてきたメディウサの勘。
「ひっ……ぎぃっ! ギャアアアアアッッ」
気がそれている間に力加減を間違えた。蛇は人間の少女の子宮を食い破り内臓の隙間へと頭を埋める。少女は盛大に悲鳴を上げた後大量の血を吐いて事切れた。
せっかくのお気に入りだったのに。
しかし、壊れたものに執着はない。
まだストックはある。部屋の隅に縛られ転がされている別の少女に手を伸ばす。
少女の顔が恐怖に引きつる。
いつもならこの表情を見ると嗜虐心が湧く。が、今日は虐めたいという気にはなぜかならない。予感という影。この平穏が終わりそうな気がする。そんな予感が自身を苛立たせた。
そもそも、ホーネットを捕らえ、魔王城をうばってもそれで終わりではない。リトルプリンセスを殺しケイブリスが魔王にならなければ完全に自分たちの好き勝手出来る世界になるわけではない。
ふと思い当たる。このだらだら過ごしている時間が自分たちにとって致命的になりはしないかと。思いもよらぬ何かが起きるのではないか?
メディウサが考え込んでいるうちに少女は部屋から逃げ出そうとした。
それに気づいたメディウサは反射的に少女の首を後ろから捕らえた。また加減が出来ず少女の首をへし折ってしまった。
「……あ〜あ、今日は踏んだりけったりだわ」
もうストックはない。かといってもう一度地下牢に下りる気も起きない。
「アレフガルド」
「何でしょうか、お嬢様」
部屋にいた気配も入ってきた気配もないのにすぐ横にいる。
あれを片付けといて。その意味をこめ死体に視線を送る。
「はい、ただいま」
執事は二つの死体を小脇に抱えると部屋を出て行った。メディウサは何をする気も起きず窓から東の空を見る。おそらくリトルプリンセスがいるだろう方角。
何か切羽詰ったものが近づいてくる。何かはわからない。ただ『予感』としか言いようがないもの。
「どうしました、お嬢様?」
いつの間にか部屋に戻ってきていたアレフガルドがただならぬメディウサの様子を見て問いかける。
「……アレフガルド、もし、私が死んでもそばに居続けてくれる?」
「はい?」
死ぬ? とアレフガルドは首をかしげた。
「今、世界の流れが変わった。おそらく年貢の納め時よ……。あ〜あ、やってられないわ。アレフガルド、枕になって」
「は、はい!」

―同刻 ラング・バウ攻略戦
「シィーーーーール!!!」
ヘルマン弓兵の放った矢がランスの見ている目の前でシィルを貫く。
ランスの絶叫が戦場に響き渡った……。


あとがき

アレフガルド2世様より受けたリク物です。ちょっとリクエストからずれてる気もしますが大目にみてください。もはやいっぱいいっぱいです。短すぎなのも見逃してください。


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