第3章 闇の中に一条の光 ―暗く冷たい空間、生まれ育ったこの城にこのような場所があるとは……考えもしなかった。負け戦をし敵にとらわれてから何日たったか…… この闇の中では関係ないのだが。 昼も夜もなくただ永遠の時を無用な快楽を強要され続けるしか道はない…… つかまった瞬間からあきらめた方がよかっただろうか? 私はまだ、この闇の中にいる私に手を差し伸べてくれる方がいるとありもしない希望を抱いていた…… ケイブリス以外なら誰でもいい……誰か……私に光を…… 新たな魔王の誕生のせいで魔王城は蜂の巣を突っついたような状態になっていた。 つい最近まで次期魔王を狙うケイブリス派と、リトルプリンセスを魔王にしようとしていたホーネット派に分かれて争っていたがその勝敗はホーネットがケイブリスにとらわれることで決着がついた。 そして、現在の城主ケイブリスは魔王の出迎えの準備に追われていた。 「まったくよお、どこのどいつだか知らないが俺様の計画をだめにしやがって……」 いまさら嘆いても仕方がないがケイブリス愚痴らずにはいられなかった。 「仕方ないでしょ、ケイちゃん。この気配どう考えても魔王だもん」 「……わかってる。ただその近くにいる気配、サテラとメガラスなのが気にくわねぇ」 今活動している魔人全てが、魔王の気配を感じ取り城に向かっているはずである。 もちろん、その途中で二人と魔王が会ったと考えられないでもないが― 「可能性は零に近いわね」 「なにがだ?」 「ケイちゃんにはわからないこと」 メデュウサはさっさと部下に指示を飛ばし自分はホーネットで遊ぶため地下牢へ足を運ぶ。 ―魔王城・地下牢 そこでは魔力を奪う首輪をつけられたホーネットとハウゼルがとらわれていた。 体中をケイブリスとメデュウサに陵辱され続けた二人はどんより曇った目で今も下等モンスターにもてあそばれていた。 「お前たちどきなさい。魔王が現れたからね、多分あんたたちと遊べるのも最後……。しっかり楽しませてもらうわ」 メデュウサはモンスターたちを追い払うとまずホーネットの腸に蛇を滑り込ませた。 今の今まで犯されていたためかホーネットはいともたやすく受け入れる。 ぴくっとホーネットの体が反応した。しかし、ただそれだけだ。 「どうしたのホーネット? いつもみたいに声をあげたら?」 グネグネと蛇が腸内を這いまわりそれにあわせてホーネットの腹部が脈動した。 「つ……あっ……」 かすかにもれる声を聞くとさらに奥へと蛇を侵入させる。 「そう……もっと声を出して……」 「あ……う……」 メデュウサはただひたすらにホーネットの腸をむさぼった。 ―同刻 嘆きの谷 そこに広がるのはモンスターの死体の山に血の流るる河。 その中にたたずむ男が一人。 「ふう……こんなもんだな」 「ランス、ごくろうさま」 空中にはサテラとシーザー、そしてメガラスに抱えられたアールコート。 ランスはサテラに高さをあわせると下を見下ろした。 下に広がる死体の山はほんの五分ほど前まで生きていたケイブリス親衛隊。 ランスの気まぐれで魔王の力(無論全力ではない)を試した結果だった。 「そろそろいくか……」 魔王一行はようやく魔王城へ向かった。 魔王城は大陸の西に位置し巨大な窪地に存在する。 崖が切り立っているため軍事的に攻略の難所なのだが誰も魔王の居城を攻めようとは考えない。 ランス達はその正門前に降り立った。 門の衛兵だろうか4体のギガントがランス達に気づき近寄ってきた。 「サ……サテラ様……その人間は……?」 「人間じゃない。サテラの新しい主だ。門を開けろ」 「し、しかし……ケイブリス様よりあなたの捕獲命令が……」 サテラはキッとギガントをにらみつけた。 「お前たちで何ができる? 死にたいなら殺す。サテラの邪魔をするな」 「サテラ、そんなに怖がらせるな。こいつ等はただ命令されてるだけだろ?」 殺気を振りまくサテラを下がらせランスはギガントの前に立つ。 「何だ、お前は……答―」 最後まで言い終わる前に4体ともランスが切り捨てた。 「殺すなら怖がられる間もなく殺せ」 「う、うん。でもランス、殺してよかったの?」 「相手が何者かも理解できないような無能な奴はいらん。行くぞ」 ランスははじめて来たはずの魔王城なのかを平然と歩いて玉座を目指す。 暗い廊下をあちこち曲がりひときわ大きな広間に出る。 魔王城玉座の間。魔王城の中でもっとも広い大広間だ。 その中央に巨大な影が立っていた。 「おい、サテラ! 何で人間なんかを魔王にした!」 「そこ、どいて。ランスの邪魔だから」 「なんだと、こらぁ!!」 体は厳ついがおつむは空っぽのケイブリス。魔王の前だというのに6本の腕を振りかざしサテラに飛び掛った。 「う……うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」 次の瞬間あがるケイブリスの絶叫は魔王城全体を震わすほどだった。 6本の腕はケイブリスの足元に転がっている。 「お前が最強にして最古の魔人か……。期待はずれもいいとこだな」 「ひぃぃぃ……痛ぇよぉ。腕が……腕が……」 うずくまるケイブリス。ランスはその腕を一瞬で切り落としたのだ。 『わしもびっくりじゃぞ……。すさまじきは魔王の力……』 ランスは肩にカオスの呟きを聞きケイブリスの頭を踏みつけた。 「ゆ、許してください……サテラにも謝るから……」 「うるさい。あと一言でもしゃべれば殺す」 ケイブリスは静かになった。本気で脅えている。 「……サテラ、地下牢へ行くぞ。ホーネットとハウゼルはそこにいるようだ」 「うん、ホーネット待っててすぐ行くから」 ―地下牢 そこでは今もなおメデュウサがホーネットをもてあそんでいた。 今は子宮の中でメデュウサの蛇はとぐろを巻いている。 そこへ響き渡るケイブリスの悲鳴。 「あーぁ、もう終わりかー。アレフガルド、服」 「はいお嬢様」 執事レベル3のなせる業かどこからともなく現れたアレフガルドは一瞬にしてメデュウサに服を着せる。 直後、地下牢に靴音が響いた。 「……あなたが、魔王?」 メデュウサは目の前にいるランスに問う。 「ああ。で、ホーネットはどこだ? お前なんかに用は無いのだが」 「ホーネットならあれよ。散々遊ばれてたからもう目も当てられないくらいに汚れてるけど。その横のがハウゼルよ」 「ホーネット! 大丈夫か!」 サテラがホーネットに駆け寄り声をかけるが、まったく反応は返ってこない。 「メデュウサ! お前がホーネットとハウゼルをこんなにしたのか!」 「違うわよ。その辺にいるモンスターとケイちゃんも共犯よ」 「……お前は玉座の間に行ってろ」 今にも飛び掛りそうなサテラを一応とめてメデュウサを去らせるランス。 メデュウサが去るとランスはホーネットとハウゼルの首に巻きつく魔力封じの首輪を断ち切った。 「ホーネット! ハウゼル! サテラ、帰ってきたよ!」 サテラが大声を出すが二人ともほとんど反応を見せない。 「サテラ、こんなところで起こすのもなんだろう。二人を部屋へ運ぶぞ」 ランスは服が汚れるのもかまわず二人を抱えるとそのまま空間を跳躍。 ホーネットの部屋へ跳んだ。 そんなに広くないが趣味のよい調度品が並ぶ部屋。 ホーネットをベッドに寝かせサテラが体を拭いていた。 珍しいことにランスは部屋の外。サテラが追い出したのだ。 「ねぇ……ホーネット……サテラがわからない? ……心配だったから……サテラ帰ってきたのに……」 涙をこぼすサテラの頭がやさしくなでられる。 「サテラ……あなたに涙は似合わないわ」 「ホーネット……」 「……どうなったのか説明してくれる?」 「うん」 「あなたはリーザス城にいるはずでしたね? リトルプリンセス様は?」 「リトルプリンセスはもういない」 サテラの言葉にホーネットは眉をしかめた。 「いない? あの方の世界へ帰ったというの?」 「違う。リトルプリンセスは死んだ」 「……そう……とうとうケイブリスが……」 サテラはフルフルと首を振る。 「あんなやつ魔王になってたらサテラもひどい目にあってる。あんな奴よりもっとふさわしい人が魔王になった」 ホーネットの頭の中に魔人の姿が浮かんでは消える。 「いったい誰が」 「とりあえず服を着て。すぐ呼ぶから」 ハッとするホーネット。ようやく自分の格好に気がついたらしい。 慌てて服を着込みたたずまいを正す。その間わずか1分。 「ランス、入っていいよ」 入ってきた男はどう見ても人間。名前にも聞き覚えがあった。 「サテラ……あなた……」 うろたえるホーネットにサテラはしがみついた。 「半端な魔王やあんな馬鹿が魔王になるまでは時間がかかる……。サテラはホーネトやシルキィやハウゼルが心配だった。殺されてるかもしれないて心配だった……。サテラ一人じゃ……助けに行けないから……」 再びサテラの目元に涙がこぼれた。 魔人であれど友人を思う気持ちは人間の少女と変わりは無い。 「けど……お父様の遺言はどうなるの?人類の開放政策は……」 「それがなにを意味するか、考えたことがあるか?」 そこではじめてランスが口を開く。 「魔王の血の記憶を開けばわかった。ガイはある意味ジルより残酷な魔王だ。わざと自由にさせ、自分は人に紛れ込み、戦争の火種をつくる。そして、その血が流れるのを見て楽しんでいた」 「……うそです。お父様はそんな……」 「この千年間、人間の間で争いが絶えてことは無い。ガイにとっては戦争が娯楽なのさ。自分の手を汚さず人の死を見て楽しむ。実に残酷な魔王だろうな」 「でも、お父様はお母様を愛しておられ―」 「違うな。お前が生まれたのは吸血のために生かしておいた女との戯れの結果だ。愛なぞ存在しない」 「ランス、やめて!」 真っ青になっているホーネットをサテラがかばう。しかし、ランスは無表情に続けた。 「……娘が大切なら母親から切り離しサテラを与えこの城に閉じ込めはしないだろう? シルキィに教育させ20で魔人になる……。ガイが必要としたのは娘じゃない。自分のいうことを聞く魔人が必要だったわけだ。……薄々気づきながら今まで目をそらし続けたんだろう? それぐらいわかる頭をもちながら、何ゆえそこまで父親に固執する?」 「……」 「まあいい。後で答えを聞かせてくれ。夜10時俺様の部屋へ来い」 ランスはきびすを返すとドアノブに手をかける。そこでもう一度振り返った。 「そうそう……ケイブリスの事だがどうする、殺すか?」 「……いいえ、その必要はありません」 サテラでも聞き取れなかったぐらいの呟きだがランスは聞き取り、にやっとうれしそうに笑った。 「……完全に魔王の言いなりの人形になってるわけではないようだな。安心したぞ」 「あ、待ってよランス! ……ホーネット、ゆっくり休んでね」 ―ケイブリスの手から助け出されたことは感謝したい けど、ケイブリスの生死を問われた時なぜ安心されたかよくわからない…… いいたい放題いわれてきずついた? 否、いわれたこと全て気づいていた。 いわれたままにシルキィの教育を受け…… サテラという友達もできた 知識と、それに伴う力を身につけ父の片腕となり次期魔王とまで言われていた なのに父が選んだのは何の力も持たない異界の少女…… 私は見てほしかったのだ有能な魔人ではなく娘として…… だから、何でもいわれるままに動いた。リトルプリンセスのことも…… そうすればいつか父が私を見てくれると思っていたから…… ―同日午後10時ランスの寝室 「入れ」 ランスはキングサイズのベッドに寝転がっていた。 「答えは出たか?」 「はい……。私は父に、娘として見られたかった。言うとおりにしていればいつかは娘としてみてくれると思い……結局は部下としてしか見られませんでしたが」 「そうか、これからどうする? 俺様についてくるか、それとも反乱を起こすか……自由だぞ。好きにするといい」 ホーネットは、すっと膝をおった。 「……貴方様は私に新しい生き方を示したくださいました。私に光を下さった貴方様にこの命尽きるまでついて参ります」 ランスはホーネットに身を寄せると顎をとらえ唇を重ねる。 息苦しくなるほど濃厚なキス。ホーネットにとっては初めての愛情のこもったキスだった。 「これからは俺様がずっと見ていてやる……父親というわけにはいかんがな……」 ホーネットはうなずきランスに身をゆだねた。 あとがき 魔王ガイの考えについてはASOBUの勝手な解釈です。 あと、ランスに身を委ねるホーネットと言うのも書いてみたいきはしたんですが……大失敗をやらかしたため 今はあきらめます。書いたとしても秘密の小部屋行きでしょうけど。 |