第30章 崩壊の兆 後編

―ピカ爆発1時間前 長崎城下町
城から1キロほど離れた城下町の外れにある長屋からちょっと変わった少女が飛び出してきた。アスカ・カドミュウム17歳。ランスの予想通りかなりの美少女に育っていた。
彼女のどの辺りがちょっと変かといえば頭にきぐるみをかぶっている所だろう。
「あ、あ、あ〜遅刻するぅ〜〜〜」
「だからあれほど夜更かしはよくないと……(長いので割愛)」
頭の上でささやかれるチャカ(帽子状に縫い直された)のお説教をアスカはあっさり無視してひた走る。
ヘルマン防衛線でケッセルリンクに囚われた彼女はしばらく彼の館に住み着いた。
が、お子様の扱いに困りきったケッセルリンクの手からランスにゆだねられ魔王城には置いておけないため五十六に預けられ、無敵、リセットとともに長崎城で育てられた。
だが、今年になって独立し今はリセットや町の子供たちに魔法を教えて生活している。
「ああもう、間に合わない! いでよチューハイ!」
街中でいきなり召喚。出現したチューハイの肩に飛び乗る。
「こりゃ〜〜!! 街中でチューハイを出してはいかんとあれほど……(長いので割愛)」
「はいはい。だって、リセットたちとの約束に間に合わないもん。って言うかもう遅れてるし、しかたがないの。チューハイ、GO!!」
光の巨人は残り800mほどを5秒足らずで走破した。
城門を顔パスでくぐり中庭へ急ぐ。
「おそ〜〜〜い! もう待ちくたびれちゃったよぅ」
中庭にある石の上に頬を膨らませたリセットがいた。
「ゴメンね、これでもチューハイでとばして来たんだからそんなに怒らないの」
「無敵なんかじいに連れられてもう行っちゃったんだよ」
「じゃあ、すぐ追いかけよ」
アスカ、リセット、無敵の三人はほとんど兄弟のようにお互いを思っている。
リセットにとっては頼りになるお姉ちゃんであり魔法の先生でもある。
二人は長崎城内にある訓練施設へ向った。
そこでは先に訓練をはじめていた無敵と剣の師である柳生宗次朗が試合をしてる。
柳生は古くから山本家に仕える武将で年をとり前線を離れた今は無敵に剣を教えていた。
年をとったといえどもその剣の腕はかなりの物で、昔はその名をJAPAN中に轟かせていたという。
「ふう……若、これぐらいにしておきますかな」
「ありがとう、じい」
アスカは汗だくの二人にタオルを渡し柳生にはついでにチャカも渡す。
「さ、はじめよっか?」
今、リセットは少し上級の魔法を習っている。
アスカ先生の授業が始まりじじい二人は幸せそうにその光景を見ていた。
だが、それは長く続かなかった。何の前触れもなく訓練場の入り口に武装した集団が現れた。何もない空中から。それはまるでランスのよく使う転移魔法のように見えた。
いち早く柳生が反応し子供たち3人の前に立ちはだかる。
「気配もなくいきなり現れるとは……貴様ら、なにものじゃ?」
「リーザス特務部隊。魔王の子供たちをもらいに来ました」
「リックさん!? レイラさんも、メナドさんも! みんな生きていたんですね……」
リック達には自分らの名前を言い当てる少女に見覚えはなかった。
「……君は?」
「これで分かります?」
アスカはチャカを頭にのせた。最初は気づかなかったリックたちもようやく気づく。
「アスカちゃんにチャカ殿、生きていたのですか……」
「はい。……って、なんですかその複雑そうな顔?」
レイラもリックもあからさまにアスカから目をそらした。他の者もそうだ。
「……君の両親は―」
重い口を開いたリックだがすぐにアスカに割りこまれた。
「知っていますよ。戦争で私が死んだとおもって錯乱して、しばらくして生まれた私の妹にアスカと名前をつけ私はいなかったように新しい生活をしているんでしょ? 五十六さんに頼んで調べてもらいましたから知っています」
アスカは淡々と事実を口にした。
「だから今はもうリーザスの人間じゃない。ここが私の故郷だもの」
アスカの両腕に濃密な魔力が蓄積し始める。
「アスカちゃん、どういうつもり?」
「分かってもらえませんかレイラさん。この子達といた時間の方が本当の両親とともにいた時間より長い。……妹と弟をさらいますといわれて黙っていられる姉なんていないでしょう?」
魔法を放とうとしたアスカを柳生が制した。
「子供は下がるんじゃ。そして、お二人をお守りするんじゃ」
「貴方も邪魔するんですね」
「……わしとて魔王の支えによる統治には疑問を感じる。しかし、魔王であれなんであれわしのお仕えする無敵様の父君には変わりない。主の命を守るのが武士たる者の定め。お二人をさらう気ならばわしを倒してからにしていただこう」
柳生は刀を抜きかまえた。
相手はリック、レイラ、メナド、メルフェイス、ハウレーン、そしてゴルドバの6人。
柳生は1人で相手をする気だった。
「はぁっ!」
メルフェイス以外の5人が同時に斬りかかる。
一瞬後、わずか2本の剣が5本の剣をあっさり受け止める。
「龍牙壱式・砕!」
気合とともに刀が不思議な軌跡を描く。すんだ音が響き正面にいたメナド、ハウレーンの剣が根元から折れた。相手の技量を知りリーザスの将軍達は距離をとる。
「ふむ、やはりなまっとるな。一つ二つ首が飛んでもおかしくないのだが……」
メナドは青くなって自分の首に触れた。薄皮一枚斬られ血が出ていた。
柳生の技量を知ったリックは一人前に出る。相手を武人として尊重するために。
「……続きは一騎打ちにしましょう。私がお相手します」
「赤き死神か……相手にとって不足はない。わしは山本家剣術指南役・柳生宗次朗。……いざ、勝負!!」
大陸一の剣士とJAPANの大剣豪の一騎打ち。
最初の一合目で二人ともお互いにやりにくさを感じていた。
リックは柳生の二刀流に対してで、柳生はリックの剣パイ・ロードの間合いの長さに対してだ。だが、リセットたちの安全を確保するため早くこの場を脱出し五十六と合流する必要がある。そう考えた柳生が動く。
70歳近い老人のものとは考えられない素早い動き。速さを読み違えたリックはわずかに反応が遅れる。とっさに振り下ろしたパイ・ロードは柳生の刀に弾かれてもう一振りが首を狙う。
「くっ……!」
リックはなりふりかまわずバックステップで距離をとる。
そして、思わず息を飲んだ。もし、柳生の年齢が自分と同じぐらいであれば今の一撃は避けられなかった。柳生の老いが紙一重でリックを生かした。
「……体が思うように動かん。……主君の手前負けるわけにはいかんがな」
リックが休む間もなく柳生が距離を詰める。ありとあらゆる方向から繰り出される斬撃にリックは防戦一方になってしまう。致命傷こそないがかすり傷が次々と刻まれていく。
柳生の方にはそんなかすり傷一つない。
十数合打ち合って突然柳生が距離をとった。その肩が大きく上下している。
「ふう……体力がついていかんな。このままではらちがあかん。ここは1つ奥の手を出すとしよう。赤き死神よ1分ほど時間をくれんか?」
「……ええ、かまいません」
リックとしても1分だけとはいえ休憩できるのはありがたかった。
その間に柳生は無敵の前に膝をつく。
「若、この刀をお受け取り下さい。柳生の技を修めたものが持つ刀でございます」
「じい……まさか……」
「……必ず、お逃げください」
柳生は無敵に刀を握らせると自分は無敵の模擬刀を手にした。
「赤き死神よ、こんな老いぼれと死合ってもつまらなかろう。次で終わりにするぞ」
柳生は呼吸を整え集中する。目に見えるほど濃密な闘気が体を取り巻き驚く事に徐々に皺が消えていく。見る間に2、30歳は若返った。
「……『戦神闘気』その書物にはそうあった。残り少ない命を燃やし一時的に失った力を取り戻す。発動させたからにはわしに残された時間はないに等しい。赤き死神よ、お前の最大の技でもってくるがいい。わしも最大の技で応じようぞ」
「……わかりました」
二人ともが身構えその時を待つ。外で突風が吹き訓練道場の柱が軋んだ。
それが合図となった。
「はぁぁぁぁ!! バイ・ラ・ウェイ!!」
「奥義・鬼哭転生!!」
十分にあった距離が刹那でなくなり闘気がぶつかり合う。
だが、バイ・ラ・ウェイの斬撃は柳生の刀がまとう闘気によって弾かれてしまう。
一太刀の重さが違いすぎた。神速の連続攻撃か一撃に全てをかけるかの違い。
スローモーションで時が進み渾身の突きがリックに迫る。
リックは技の途中で、防御などできるわけがなく……衝撃が来た。
リックは床と平行に飛び壁に激突した。そして、鎧が木っ端微塵に砕け散る。
全闘気を前方に収束させ点の破壊力に重きを置いたこの技は直撃すれば人間の上半身など鎧ごと破壊してしまえるだけの威力を持っていた。
……当たれば、の話である。
柳生の命は技を出し切るほんの少し前に燃え尽きていた。
柳生の体がゆっくりと倒れる。
「じい!!」
無敵とリセットが柳生に近寄るが返事はない。顔は元の皺だらけに戻っていた。
「……決着はついたわ。アスカちゃん二人を渡して」
「……1つ聞かせてください。彼方達は何のために魔王に立ち向かおうとしているのです?」
「決まっているわ。人類の平和のためよ。……ランス君のやったことは絶対に許されない事だから」
「……平和? 魔王が逃げ回ってて、人類が戦争に明け暮れ私のような子供まで戦争に借り出していたあのころが?」
レイラは言葉に詰まった。そして無理矢理話を終わらせるため、剣を抜いた。
「アスカちゃん、お願いだから邪魔をしないで」
「お断りします。二人には指一本触れさせません」
「……こうなったら3人とも捕獲します!」
気がついたリックを先頭に5人の剣士が襲い掛かる。
「白冷撃!」
至近距離の魔法攻撃に一瞬ひるむ。
そのスキにアスカは二人を抱きかかえ訓練施設から出た。
「嘘……」
さっきから1人も城にいる兵士がこないと思っていたら長崎城は炎に包まれていた。
「アスカ姉ちゃん、香姉さんは!?」
「もちろん助けないと……いでよ、チューハイ!」
チューハイの腕につかまり3人は窓から香姫の部屋に入った。
「うっ……」
アスカはリセットと無敵の目をふさいぐ。
中は血の海。侍女たちの死体の山。その真ん中にある白い体、いたるところに血がにじみ陵辱のあとが生々しく残っている。
口元から垂れる血が、香が自ら命を絶ったことを示していた。
「香さん……」
アスカは陵辱され死んだ香姫に着物を着せ苦痛に見開いている目をそっと閉じた。
「おっ、女だ! ヤレるぞ!」
落ち武者らしき男が5人。香を陵辱し殺した犯人に対してアスカより先に無敵がキレた。
「……アスカ姉様、姉上……禁を……破ります……後で止めてください……」
「えっ、無敵それは!」
無敵から人ならざる気が立ち昇る。それはランス唯一の誤算。
リセットの場合、まだ人間のときに出来た子であるから支配力の強いカラーの遺伝子が濃くでた。
しかし、人と魔王の間に生まれた無敵はそうならなず、人の血はなく魔王の、バンパイアの体質が影響した。
無敵が怒りに我を忘れ自分を抑えられなくなったときその力は目覚める。
鋭く伸びた爪と牙。暗闇で赤く光る瞳は見るものを魅了し自由意志を奪う。
一瞬で姿を消した無敵は手前にいた武士の首をかき切った。無敵は返り血を全身に浴び気持ちよさそうに目を細める。
「ガキが! 兄者の仇!」
「黙れ、雑魚」
あっさりと刀をかわし、抜き手を放つ。二人目は喉を貫かれ絶命した。
「無敵……あんなのどうやって止めるのよ……」
アスカが思わず呟く。あの状態から元に戻す方法は知っている。
大きなショックを与えるか気絶させればいい。
アスカが躊躇している間に5人いた武士は全滅していた。
「……足りない……もっと血が欲しい……アスカ姉様、姉上……もっと血を飲ませてください」
無敵が二人の方を向き二人は視線をそらした。視線を合わせれば洒落にならない。
血に濡れた指先がリセットの首筋に触れる。
ゴキ。縮小されたチューハイの一撃が無敵の後頭部を捕らえた。無敵は特大のショックを喰らって気絶した。急いでいたため容赦ない一撃だった。
「ふう、危機一髪ね」
「ひ〜ん、恐かったよ〜」
「はい、泣かない泣かない」
アスカはリセットの頭をなでなで。だが、近づいてきた足音に動きを止めた。
「リセット、よく聴いて。貴女達はチューハイに乗って魔王城へ行くの」
「アスカ姉ちゃんは?」
「すぐ行くわ。大丈夫。さ、早くチューハイに。あとひじじもお願い」
「こりゃ! アスカ、何のつもりじゃ!」
アスカはチャカの抗議をを無視してリセットを一瞬抱き寄せる。
「ありがとう……楽しかった……彼方達のおかげ……」
そして、突き放すようにチューハイに乗せる。
「行きなさい、チューハイ。途中でメガラスさんにあったら二人を預けて」
チューハイは主の命令どおり長崎城から離れた。
それとほぼ同時にリックたちが香姫の部屋に駆け込んできた。
「残念。ひと足遅いですね。リセットと無敵はもういませんよ」
「すぐにチューハイを止めて。そうじゃないと……」
「私を殺す事になるとでも言いたいんですか?」
レイラは頷いた。
「そりゃそうですよね。もはやチューハイを止める手段は術者を殺すほかないですから」
「分かってるなら―」
「お断りです。何度も言わせないで下さい」
レイラ達がかまえるより先にアスカは戦闘態勢に入っていた。
「氷雪吹雪!」
狭い部屋の中で吹雪が吹き荒れる。避けようなどない。
リックは体が動かなくなるのを自覚しつつさらにきつくなる吹雪の中に突っ込んだ。
一閃。だが、手ごたえがないどころか剣が弾かれる。
そして、吹雪を割ってアスカが懐に飛び込んできた。アスカの左手は分厚い氷で覆われている。ガントレットのようなこれでもってリックの攻撃を弾いた。
「なっ……」
魔法使いが接近戦を挑んでくるとは思いもせずリックは大きな隙を作ってしまう。
もともと柳生との戦闘のせいで本調子ではない。
剣を引き戻すまもなくリックの腹に数十本の氷の矢が刺さった。
「うっぐっ……」
「……後悔はしません」
大量の血が床に落ちた。リックは死にはしないがもはや立っている事もできなかった。
「リック!! ……よくも!」
激昂したレイラがアスカに切りかかり、アスカはすぐさま距離をとる。
一撃目を左手ではらい剣に氷を纏わせる。
本来なら剣の重さが変わりバランスを崩すはずだが激昂したレイラには関係なかった。
至近距離で魔法を叩き込むはずだったにもかかわらずメイスと化したレイラの剣がアスカの体を襲う。
氷を纏いつかせたのがアダとなってしまった。
軽い少女の体はあっさりと飛ばされ壁に叩きつけられる。
アバラは砕け意識が朦朧としてもはや戦闘不能だった。
自分が死んでも少しでも時間を稼げば長崎上空にいるはずのメガラスがチューハイから二人を回収してくれる。
アスカはそう考えていた。
「……ただで……死ぬもんですか……あの子達の未来のために!」
アスカは最後の力を振り絞って立ち上がった。そしてローブのポケットから何かを掴み出す。それは何本か管のついたプチハニーだった。
アスカが詠唱をはじめると管がアスカの腕に突き刺さっていく。
「材料は全然足りないけど……十分……」
「まさか……自爆する気!?」
プチハニーは血を吸い膨らんでいく。
「一度戦場で死んだ身……悔いなんてない!」
プチハニーの自爆カウントは1から始まった。
(なかなかいい根性しているね……このまま死なすのは惜しい……)
(えっ……だ、誰!?)
カウント0。アスカの視界は赤い光に埋め尽くされ、耳をつんざく轟音とともに長崎城は崩壊していった。

―カスタム付近 同時刻
主の制御を失ったチューハイは徐々に小さくなっていく。
「……アスカ……」
曾孫の運命を悟りチャカが呟く。涙を流せぬぬいぐるみの体がとても憎らしかった。
とうとう、チューハイは乗っていられない大きさになり消えた。
「アスカ姉ちゃん……絶対に、この人たちはリセットが殺す……仇はリセットがとるもん……」
リセットは無傷で現れたレイラ達をにらみそう宣言した。

不幸にもメガラスは魔王城への定期報告に行っていて長崎にはいなかった。リーザスの面々はそのタイミングを狙っていた訳ではなくまったくの偶然だった。もし、いたのならもっと別の未来もあっただろう。
だが―

―魔王城
「ランス様、大変です!」
「……なんだ?」
「はい。……長崎城が……反乱軍の奇襲により陥落……」
「続けろ」
ランスから尋常ではない殺気があふれ出てくる。
ホーネットは必死でそれに耐えていた。
「続けろといっている」
一切感情のないランスの命令。
従わなければ殺される。
ホーネットですら命の危険を感じた。
「は……い……。リセット様及び無敵様、五十六様が……さらわれました。その他にも柳生宗次朗が戦死、アスカ・カドミュウムも消息不明です」
「……そうかアスカもか。報告は聞いた……ホーネット、すぐに俺の前から消えろ」
「えっ……」
「失せろといっている!!」
ランスに怒鳴られホーネットは玉座の間から逃げだした。もう一秒でもあそこにいれば間違いなく殺されていた。ときたま忘れそうになるがランスは魔王なのだ。
ホーネットを追い出したランスは壁を一閃。
崩壊は天井まで広がり天井裏にいた忍者を引きずり出した。
「……久しぶりだな、かなみ」
「え、ええ……」
自然とかなみの声が震える。目の前にいるのはランスではなく魔王。
「それで、マリスは人質をとってどうするきだ?」
「……わ、私はこれを渡すように言われただけよ」
かなみは逃げたい気持ちを必死に押さえて手紙を差し出した。
ランスはサッと目を通し握りつぶした。
「フン……予想通りのつまらん内容だな。さてと……」
姿をくらまそうとしたかなみに濃密なオーラがまとわりつく。
「監禁場所を吐け」
黒いオーラはそのまま実体化しかなみを締め上げた。
「私は忍よ……そんな簡単に……えっ……」
急に腕が軽くなった。というより腕そのものが―
「……次は左手だな」
「あ……あ……」
痛みは感じない。恐怖が痛みを上回っていた。
「どこに監禁している? 答えろ」
「し、知らない! 本当よ! 本当なんだから!」
もはや忍のプライドなど意味はなかった。
「……本当なんだな?」
「本当よ、本当のこと知っているのはマリス様だけなの! だからお願い! ……殺さないで! 何でも言う事聞くから!」
なりふりなどかまっていられない。かなみは知らないという事実をぶちまける。
「……もう1つ訊く。あの時お前たちはどうやってリーザス城から逃げた?」
「そ、それは……」
かなみは一瞬言いよどむ。ポトリと左手が落ちた。
「面倒だ、次は両足をおとす」
「ひっ……あ……う……」
恐怖がかなみを支配しまともに言葉も出てこない。歯がガチガチと音を立てるのみ。
「チッ……壊れたか……」
ランスはぴくぴくと痙攣するだけのかなみを引き寄せると首に牙を立て、血をすする。
かなみは大きく目を見開きその意識は白い光に飲まれていく。そして、事切れた。
血にはその生き物の経験情報全てが流れているという。魔王が力と記憶を継承するのはそれゆえである。そして、その血を奪う事により知識と記憶を奪うのだ。
「……ブルーペットの開発した転移装置……それでJAPANへあらわれたのか……」
口元をぬぐいかなみの死体を投げ捨てるとランスは姿を消した。

―オールドゼス
現在人間が保護されているいくつかの管理都市のひとつである。
そこへ現れたランスはカオスを抜き片っ端から人を切り殺していった。子供だろうが女だろうが関係ない。技も何もなく狂ったようにただカオスを振るう。異変に気づき現れた警備の魔物まで切り殺し返り血で染まったランスは身に纏った力を解放した。
以前リトルプリンセスが使っていた『消えちゃえボム』と同等のものだ。
光と轟音が消えると、そこから都市の痕跡が消えていた。
そして、ランスの姿も……


アトガキ
↑今日は気分的にカタカナで。だからなんだといわれても困りますが。
なんだかえらい事になってきましたな。なんと次回最終回かもしれません。
ですが予定は未定なのでどうなるかも未定。続くか続かないかは神のみぞ知る!?

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