第5章 一億の絶望と三つの希望 ―RC暦1月第4週 リーザス城会議室 そこにいるのはリーザスの人間たちだけではない。 シーラ・ヘルマンを筆頭にその取り巻きや、ぜス王ラグナロック・スーパー・ガンジーとその部下も集っていた。要するに人類の指導者クラスの人間である。 「皆さんおそろいですね。……ではこれから魔王ランスへの対策会議をはじめます」 リーザスの筆頭侍女マリスは国王レベルの人間を前にしても顔色ひとつ変えていない。 「概要ですが、ここへ来るまでに目を通していただいたプリントのとおりです。人間同士で戦争をしている場合ではありません」 「……ここへ来てから言うのもなんですがこの『魔王の手紙』は信用出来るのでしょうか? 失踪したリーザス王は薄汚い冒険者だったとか」 ヘルマンの宰相ステッセルはいやみったらしげにマリスを見た。 「ダーリンを馬鹿にしないで! ダーリンはリーザスの王様だもん!!」 リアが真っ赤になって反論する。 「しかし、その手紙が事実なら彼はリーザス王の位にありながら魔王に身を落とした最低な人間ということになりますね」 「なっっ……」 リアは言葉を無くし固まってしまう。 「二人とも、今は内輪もめをしている場合ではありません。手紙は信用できます。魔王城で受け取った物ですから」 さらに激化しそうだったのでマリスが仲裁に入った。 「そこまで言われるなら信用します。しかしですね、どうやって魔王に敵対するつもりですか? 魔王が人殺しを好むなら生贄を出したほうが生き延びられるのでは?」 ステッセルの言葉に会議室がざわめき将軍たちが殺気立つ。 「ステッセル少し黙っていてください」 さすがにシーラが諌める。 少しでも遅れていれば何人かの将軍が切りかかっていたかもしれなかった。 「……とりあえず各国の意見をお聞きしたいのですが」 マリスは何事もなかったかのように会議を進める。しかし、ステッセルはマリスのブラックリストにのせられていた。 「マリス殿、ぜス国は最後の一兵まで戦いますぞ! 人間の力を見せ付けてやりましょうぞ」 ガンジーはそう叫ぶと高らかに笑った。彼はどこにいようがこんな調子だ。 「ヘルマンも、人類が滅ぶのをよしとしません。3国が集まれば、それが結果的に無駄であったとしても抵抗はできるでしょう。生贄を差し出すなどはもってのほかです」 シーラの最後の言葉はステッセルにむけられていた。 「……リアはいや……ダーリンと戦うなんて……」 「リア様、もうリーザス王は存在しません。あれは魔王です」 そう、このままリアがランスに固執するのは危険なのだ。 どうあっても説得する必要がある。 「……マリスまでそんなことを言うの……? ダーリンだもん魔王になっても……まだ離婚届出してないもん。ダーリンはまだリーザス国王だから何しようとかってだもん」 やはりそうきた……。リアのことを疎んでいたランスがリーザスをを滅ぼした場合、リアの命が危ぶまれる。リアがリーザスを差し出すのは自殺行為だ。 「かなみ、リア様をお部屋へお連れしなさい。少し疲れておいでのようです」 「マリスのバカバカバカーー!!」 かなみに引きずられてリアは会議室から退場した。 マリスはコホンと咳払いを1つして会議室の注意を自分に集中させる。 「リア様はああいっておられますがリーザスの意思は徹底抗戦です。それ以外は考えられません。人類の力をあわせれば少しでも可能性があるはずです。ではこれからのことですが―」 迫り来るのは魔王という絶望。しかし、人類の士気はかなり高かった。 ―2月第1週番裏の砦B そこはいまや魔物の巣窟となっていた。 ヘルマン攻めを任されたのはケイブリスとメデュウサ、バボラ。 砦の中心に今死体の山が築かれていた。全て引き裂かれた女の死体だ。 「やっぱ、人間の女ってのはもろくていけねぇな」 「いいんじゃない? まだまだ壊れてもいっぱいあるし」 メデュウサの視線の先には集められた女が魔物に囲まれている。 「それよりケイちゃん? 明日から進軍するの?」 「ん? やらなきゃ俺様が殺される。魔王が言ってたろ?」 ―侵攻開始の前日 魔王城玉座の間 「とりあえずヘルマン攻めはケイブリスに一任する。兵も好きなだけ持っていけ。支配下においた町も好きにするといい。女を犯すもガキを殺すも勝手だ。ただし、1週間以内にラング・バウを落とせなかった場合……お前の命はない。撤退してきても同じだ」 ランスの声からそれが本気だと誰もが理解してほかの魔人たちも震え上がっていた。 「そおね、あれは怖かったわ」 メデュウサはブルリと身震いした。 「さてと、私は兵に伝えておくわ」 めんどぐさがりのメデュウサでさえ自ら動いてしまうほどあの時のランスは怖かったのだ。 しぶしぶケイブリスもそれに続いた。 ―三日後ラング・バウ本陣 会議室に伝令が駆け込んできた。 「レリューコフ総司令! 見えました。距離2000、数は30万! すごい数です」 「そう取り乱すな。取り乱しても敵の数は変わらぬ」 ヘルマン防衛軍総司令官レリューコフは重い腰をあげると外にある高台に上った。 眼下では多くの兵が魔物の接近に脅えていた。 「静まれ! お前たちそれでも栄誉あるヘルマン騎士か!!」 一瞬にして陣地内が静まりかえった。 「ここに全員がそろうことはもうないじゃろう。しかし、ただでは死なん。一匹でも多くの魔物を屠り、戦えぬ者に光をもたらせ! それのみが我らにできることだ!」 レリューコフの言葉に静まりかえっていた陣内がすさまじい鬨声に包まれる。 ヘルマン装甲兵13000、一般兵22000、弓兵5000、モンスター部隊12000士気はかなり高い。 30万に対して5万2千、数に違いはあれど負ける気はしなかった。 「全軍突撃、人の力を見せ付けてやれ!!」 各軍はそれぞれ将軍の指揮のもとせまり来るモンスターの大群に突撃してゆく。 「レリューコフ将軍出陣の準備が整いました。ご命令を!」 「うむ、他の者に遅れをとるな進撃!」 進撃を開始してすぐレリューコフは少しだけ背後を振り返った。 「シーラ様、貴女様は私たちが必ずお守りいたします……」 戦闘開始から数時間死兵となったヘルマン軍は恐ろしい勢いでモンスターを駆逐していく。 モンスターはどんどん数を減らしていった。 「オラオラオラオラオラオラオラオラァー!! テメェラやる気あんのかぁーー!!」 最前線では目に見えるほどの濃密なオーラを纏いパットンが豪腕を振るっていた。 近づくモンスターを片っ端から殴る蹴る頭突く。それに生き残ったモンスターは他の格闘兵にぼこられる。パットン軍兵力1000だけですでに5000は撃破している。 「……まったく無茶するね。しかたない、私も本気になるか……」 後方にいたハンティは今まで動かしていたフリークロボへの魔力を絶つ。 そして、髪を縛っていた紐を解く。その紐はKDの髭。魔力を抑えるためのもの。 戒めを解かれた魔力は黒髪を漂わせる。 両手を突き出し呪文詠唱。突き出された手の前に巨大な光球が構築される。 「喰らいな!!」 ハンティの叫びとともに光球ははじけ何万という光の矢を放った。 その一本一本が確実にモンスターの中枢を射抜いていった。最後の光が消えた時モンスターは半減していた。 「……まずいな……このままだと兵が逃げるぞ」 モンスターの後ろでその様子を見ていたケイブリスが呟く。 「大丈夫、私たちが出れば何とかなるはずよ。動きたくないけど仕方ないわね」 「仕方ないこと……か……おい、バボラ出るぞ!」 「お〜れ〜人間潰すぅ〜プチプチする〜」 こうして魔人たちは重い腰をあげた。 「最前線より伝令! 魔人と交戦中! 作戦の実行を要請するとの事です」 「よし、本陣へ行き対魔人部隊に出陣を願え。我らは魔人を取り囲みモンスターを食い止める」 「はっ」 伝令を出すとレリューコフは遠くに見えるバボラを見つけた。 「魔人……厄介な存在じゃ……」 結局は魔人を倒さなくては勝利できない。それゆえ人類は魔人に傷を負わせることのできる存在を躍起になって探した。みつかったのは3つ、聖刀日光を持つ異界の青年小川健太郎、普通の武器でも魔人を切れる『勇者』アリオス・テオマン、そして、自ら闘神オメガになったフリーク。飛行能力を持ったオメガの肩につかまり二人の青年がレリューコフの頭上を過ぎていった。人類の運命は彼らが握っているといってもいいくらいだった。 「あで……? なんかとんでくる……」 最初に気がついたのはバボラだった。バボラは手を止めそれを目で追った。 それは自分の頭の上に来ると二つに分かれた。 「ランスアタック!!」 それは剣を持っていた。そして、裂ぱくの叫びとともに振り下ろされる。 バボラの意識はそこで吹っ飛んだ。 健太郎のランスアタックがバボラの頭部を粉砕したのだ。頭を吹き飛ばされバボラの巨体は地響きを上げて倒れた。 「だっだれだ!!」 バボラの死体の横には刀を携えた青年がいる。青年はスッと刀をケイブリスに向ける。 「ガキがっ! このケイブリス様をバボラごときと一緒にするな!!」 挑発に乗ってケイブリスは健太郎に豪腕を打ち下ろす。5本の腕の攻撃を回避して健太郎は六本目を迎え撃った。正面から受けず刀でそらしその腕を駆け上がり顔に接近する。 「うがぁっっっ死ねぇぇ」 ケイブリスが噛み付こうとすると健太郎は立ち止まり日光を振り上げる。 「ランスアタック!!!」 ケイブリスは自らランスアタックに当たりに行く形となる。 「ひぎゃあああああああっっっっっ」 とっさに首をひねり直撃は免れたがケイブリスは右の手3本を切り落とされた。 「ちっ……はずした……」 健太郎はすぐにケイブリスから離れた。 「ケイちゃん!」 アリオス&フリークと戦っていたメデュウサがケイブリスを振り返る。 「覚悟!」 一瞬の隙を突きアリオスが懐へ入り込んだ。 「秘剣壱式・白虎!!」 神速の連続切り。リック・アディスンのバイ・ラ・ウェイと似た技だ。 高い再生能力を持つメデュウサの体をものともせずアリオスは剣をふるった。 「あははは……魔王はこうなることがわかっていたから3人に軍を任せたんだ……」 ぼろぼろとメデュウサの体が崩れていく。 「私らは捨て駒ってわけね……」 メデュウサはひにくげな笑みを残し魔血魂となった。いつのまにかバボラの体も消えている。残るはケイブリスのみ。 「くっそーー、お前ら覚えとけよ!」 ケイブリスは逃げ出した。 「まてっ!」 3人がケイブリスを追う。突然ケイブリスが逃げるのを止める。否、やめさせられた。 「言ったはずだな、ケイブリス。逃げてきたら命はないと……」 「ま……まま、魔王様……ごめんなさい! ゆるし―グエェェェッ」 ランスの手がケイブリスの首を握りつぶした。 「お前のような無能な奴はいらん。死ね」 ランスはケイブリスを健太郎達に投げつけると軽くジャンプ。空中でカオスを抜いた。 「小川殿、アリオス殿危険じゃッ、退避する!」 フリークは健太郎とアリオスをかっさらい本陣へ引き返した。 「真・ランスアタック!!!」 人間だった時には使えぬ超必殺技。 名前に『真』が付くだけで威力は天と地の差がある。 膨れ上がったオーラは一瞬でケイブリスを蒸発させ大爆発を引き起こした。 土煙が去ったあとには巨大なクレーターができていた。 ランスの姿もケイブリスたちの魔血魂もない。 「なんて威力じゃ……魔王の力とはあそこまで強いものじゃったのか?」 自分たちが倒した魔人の比ではない。あまりにも力の差がはっきりしていた。 「我々は、魔王一人の力だけでも簡単に滅ぼされるやも知れんの……」 フリークは爆風で気を失った二人の剣士を肩にかつぎ本陣へ戻っていった。 総被害 人類側 将軍 6名 兵力 約1万 魔王側 魔人 3名 兵力 約20万 人類対魔王の初戦は人類側の圧勝で終わった。 あとがき リス撃沈。嫌いなキャラはさっさと死んでもらいます。 ちなみにケイブリスを嫌いになったのは魔王になる直前美樹ちゃんを陵辱した時。 メデュウサの場合は五十六がつかまったとき。 バボラは落とし穴作戦の存在を知った時。1周目は殴り殺した。 以上。 |