第7章 全ては霧の中から ―オールドゼス ゼス防衛ライン 軍本部テント そこにガンジーとゼス四天王、四将軍その他の将軍、そしてゼスへたまたま報告に来ていたラファリアが机を囲んでいる。 「我らがここで食い止めなければ東部へ逃げたゼスの民は危機にさらされる。それだけはなにが何でも避けなければならない! 奴隷兵で前衛を守り魔法兵で一気にたたく。皆、心せよ!」 ガンジーの手元にある兵力は奴隷兵20000、魔法兵30000、リーザス一般兵ラファリア部隊1200。計51200。 さらにガンジーは最後の手段も用意していた。 もしも敗退する事になれば使う隠し玉を。 ―二日後 オールドゼス その日周りには霧が立ちこめ視界が悪かった。近くに河があるせいかこの地方ではよく霧がわく。しかし今日の霧はさらに濃かった。10mの見通しも利かない。 「きましたガンジー様。約20000。正面から来ます」 「来たか……。千鶴子、皆に連絡をこちらも布陣する」 千鶴子が出て行ったあとガンジーは顎に手を当て考え込むとカオルを呼んだ。 「どうなされたのです、ガンジー様?」 「すまないが敵軍の数を再確認してきてくれ。20000では少なすぎる気がしてしょうがない。ヘルマンは30万の兵力が来たらしいからな」 「はい、行って参ります」 カオルが去りまた一人になってもまだガンジーは考え込んでいる。 「何かの作戦か……? いや、魔物は今までただ突撃してくるだけだった。指揮できる者がいるとも思えないが……」 ガンジーの頭にランスが浮かぶ。魔物を軍隊として指揮できるものといえばランスしか思いつかない。しかし、魔王がじきじき出てくるとも考えにくい。 「思い過ごしであってくれるといいが……」 かなり迷ったがガンジーはそのことを頭から追い出し戦いに集中する事にした。 「いやな霧だ……」 日が昇りきったにもかかわらずまだ霧はたちこめている。 まるで、人類の希望を閉ざすかのように。 1時間後二つの軍は戦場で向かい合う。 しかし戦闘ははじまらない。魔物の群れの中から使者が来たのだ。 「何? 敵軍からの使者だと? ……話の通じそうな相手か?」 「それが……どう見ても人間の少女です」 「……どういうことかわからんが会ってみよう」 ガンジーは兵の報告を受け自陣の前まで出て行った。もちろんその周りを四天王が固めている。 敵軍の前に見たことのある少女が立っていた。 「お久しぶりですねガンジーさん」 「たしか……君はランス王のところにいた―」 「アールコート!! 何であなたがここにいるの!!」 ガンジーとアールコートの間にラファリアが入り込んだ。 「あら、ラファリア先輩お久しぶりです」 「なにがお久しぶりよ! あんたや王様が消えたせいでパニックになったんだから!」 ラファリアが怒鳴りつける。以前ならここでアールコートが逃げようとするのだが、アールコートは余裕のある微笑でやり過ごす。 ラファリアはアールコートから漂う違和感に戸惑う。 「さて、お話に入りましょう。今回の侵攻では私に全権を任されています。捕虜を生かすか殺すかそれも全てランス様から」 「捕虜? 何いってんの、まだ戦ってもいないじゃない!」 「話は最後まで聞いてくださいね、先輩。将軍も、兵も私の権限で命を保証します。町の人々も同様です。無駄に殺しあうなんてことはせずに降伏してください」 「アールコート君、まさか君は―」 黙ってアールコートを観察していたガンジーが恐る恐るそのセリフを口にした。 「魔人になったのか?」 「何ですって? あんたが……魔人?」 ラファリアが少しあとずさり一瞬アールコートの表情がかげった。 「……あの方についていくためなら私は何にだってなります。なんといわれてもかまいません」 「……そんなことをしても魔王とは対等にはなれない。わかっているか?」 「……私は降伏を勧めに来ました。こんな話をするためではありません」 そういうとアールコートは2,3秒目を閉じた。 「今、全軍に指令を出しました。あなた方のおかれている状況を正確に把握してください」 アールコートがそういったとたん、兵士たちに動揺が走った。 後方、つまりオールドゼス市内で上がる鬨声。それは戦闘がはじまったことを意味する。 「ば、ばかな! どうやって後ろへ……」 「ガンジー様! 後ろだけじゃありません!」 いつのまにか、かなりの数の魔物に包囲されていた。 「私を中心に全方位に20万の兵を配置しています」 「……アールコート、あんたが来た時から私たちは捕虜同然だったと?」 「ええ。ですからすぐに降伏してください。もう兵達は戦う気力を失っています」 アールコートの言うとおり魔法兵団の士気はかなり下がっていた。 「はっはっはっは、完全にしてやられましたな。まさかこれほどの大群に霧化の魔法をかけるとは」 いつのまにかあの重苦しい霧はなくなっている。 「しかし、我らは降伏などするつもりは無い!! 追い詰められた人間の力、じっくりとごらんいただこう!」 全軍に響くガンジーの叫びは兵たちを奮い立たせる。 ガンジー王のカリスマ性はすさまじい。 「ラファリア先輩あなたはどうするの?」 「私? ……全力で戦うわ。あなたに負けるのだけはいやだから」 「さあて、使者殿には帰っていただこうか」 「……仕方ありませんね」 アールコートは残念そうに魔物の群れの中に戻っていった。 「もうすぐ対魔人部隊が来る! それまで一体多く魔物を葬れ!!」 魔物に囲まれていようが人類側があきらめる気はなかった。 「来ました! 全方向から20万全速できます!」 「魔法兵詠唱開始! 全力だ!」 ガンジーの指示をうけ魔法兵が一斉に動き迫りくる魔物の中に火の花を咲かせる。 しかし、それぐらいでは魔物の軍は止まらない。 「破邪覇王光!!!」 裂ぱくの気合とともにガンジーの手から全てを消滅させる光が照射される。 しかし、それですら魔物を止めるには至らない。 そうこうしているうちに前衛の奴隷兵と魔物の戦いが始まった。 切り込み隊長はカイトとガルティア。すさまじい勢いで奴隷兵を減らしていく。 魔法兵に到達するのは時間の問題だ。 もともと、円形に兵を配置しているため全体的に守りが薄い。 「いかんな……全軍に伝令! 密集隊形をとる」 しかし、直後ガンジーは頭上に魔力の集中を感じ取った。それもすさまじい魔力だ。 「上だ! 対魔法障壁を展開せよ!!」 ずっと上空で待機していたアールコートは存分にためた魔力を開放する。 「白色破壊光線!!」 魔法障壁の展開より一瞬早く、密集した魔法兵団を真っ白い光が直撃した。 密集していたためかなりの被害が出る。さらに空中からの不意打ちは指揮系統を混乱させた。 「何で……アールコートが魔法を使えるのよ……」 前衛で戦っていたラファリアは呆然と立ち尽くし大きな隙を作る。 それをついて接近した魔物が巨大な爪を振り下ろした。 空中からはアールコートが敵師団長を正確に見抜き狙い撃ちにする。師団長を失った師団は、一瞬戸惑い統率力を無くす。 そこへ魔物がなだれ込み蹴散らしてゆく。 そして、アールコートが次を狙う。 崩壊の連鎖が始まりゼス軍の軍隊としての力はあっというまに低下した。 「体制を立て直せ! 四天王も私から離れて兵を指揮しろ! このままではどうにもならん」 しかし、すでに手遅れで混乱は全体に広がりゼス軍は完全に無力化した。 さらに包囲の輪は縮まり奴隷兵は全滅してしまう。 接近戦では魔法兵は無力。前衛が破られた今ゼス軍の勝機は完全に消えた。 「もはやこれまでか……」 ガンジーは前衛でモンスター10体を相手にしながら呟いた。 『最終兵器』を持っている四天王と四将軍に念波を送る。 「皆、覚悟はいいか?」 もちろん異を唱える者などいるはずが無く。 生き残った四天王と四将軍は懐から赤く光る玉を出した。 LV30以上の魔法使いの血を用いて作られる魔法兵器ピカ。 国を守るためと自らの命を差し出した者達の今の姿。 死ぬのなら魔物を巻き添えにするつもりだった。 ゼスの民は被害を受けない東へ逃げている。兵士たちはもとより死ぬ覚悟だ。 生き残った持ち主はガンジーを含め6人。発動すれば自軍も含めモンスターの群れも壊滅させる威力がある。 全員がピカを発動させる呪文を詠唱し始めた。 「……やっぱり。それもちゃんと予想できてた」 次に狙う的は探すまでも無い。立ち昇る魔力がアールコートに的の位置を告げる。 アールコートの両手に青い光が集まり三つにづつに分かれる。 「スノーレーザー!!」 同時に放たれた6本のアイスレーザーは詠唱に集中している将軍達の頭に吸い込まれていく。直撃を受けた五人の頭は瞬時に凍り付き砕け散る。 ガンジーだけは回避に成功していたが今ので詠唱が途切れた。 生き残っていた部下たちはすぐにガンジーの周囲に結界を形成する。 しかし、次の瞬間彼らが目にしたのは氷の壁。 否、壁のように密集した氷の矢の束。 ワンワードで撃ちだされたものだったが、これの前では弱った生き残りのはった結界など無力。 結界は紙切れのように砕かれ、中にいた者達を原型のとどめぬほどに引き裂いた。そして、さすがのガンジーも全身を氷の矢に撃ち抜かれ立ったまま絶命した。 戦闘がはじまってわずか3時間。ゼス防衛軍は対魔人部隊の到着を見ることなく壊滅した。 ガンジー以下全将軍は戦死し兵力もオールドゼス市内で投降した約1000を除いて全滅した。ヘルマンのときとは違い完膚なきまで敗北。魔人アールコートの名は瞬く間に人類に浸透し恐怖を与えるようになった。 総被害 人類側 将軍 30名 兵力 約5万 魔王側 魔物将軍 3名 兵力 約4000 人類対魔王の第二戦は全滅という最悪の形で人類は敗北する。 あとがき ガンジーさん、彼が嫌いな訳じゃないけど……アールコートの引き立て役として死んでもらいました。 ゼスの将軍についてもこれといった思い入れがないので名前すら出てこない始末。 少々手抜きか……。 |