第一回 旗揚げ ―??? 「痛たたた……何なの一体……あれ? さっきまで外に居た気がしたんだけど」 「それよりどいてください姉上」 声の主は無敵でリセットの下敷きになっている。さらにその下ではワーグとラッシーが目を回している。 「あ、ごめん。……無敵、私達長崎から大阪へ向う途中だったわよね?」 「はい。街道にいました。穴に落ちた訳でもなさそうですし……」 天井はある。しかし、ダンジョンに入った記憶はない。 「たしか歩いてたら急に世界が揺れて地震かなと思ったんだけど……それで気がついたらここにいたのよね。……わけわからないわ」 「う〜ん……あれ……リセット、ここ何処?」 「さあ? ワーグも起きた事だし探索してみましょ」 歩き始めてすぐに気づくのはダンジョンの作りだ。明らかに人の手によって作られている。 「JAPANにこんなダンジョンあったかな?」 「それよりここホントにJAPANなの? なんだか嫌な予感がするわ」 「一応、大陸のようですよ?」 無敵が指した方からハニーが2体近づいてくる。 「……どうも思い過ごしだったわね。微妙に空気が違うから不安だったけど」 「ハニーフラ―」 突然襲い掛かってきたハニーを無敵が一閃、ハニーフラッシュを放つ前に息の根を止めた。 「姉上に襲い掛かる愚か者は人であれ魔物であれ容赦しません」 「……私達の気配を感じ取れなかったのあいつら? それとも気でも狂ってたのかな?」 通常、魔人とわかれば魔物は攻撃を仕掛けるなど愚かな事はしない。無敵は気配を隠すような事はしていない。 「もう、何も考えずに地上を目指そう。無敵先頭をお願いね」 「はい、姉上」 歩き始めてしばらくして三人はある部屋の前で止まった。 「アイヤー、アイヤー」 何体かのハニーが棒を打ち鳴らし踊っていた。その輪の中心には一人の少女が寝かされている。 「……何かの儀式? 真ん中にいるのは人間みたいね」 「おそらく。姉上、助けてよろしいですか?」 「もうちょっと様子を見ましょう。殺されそうなら好きにして」 三人と一匹が息を潜めて見ているとふわりと仮面のような物が少女の上に浮かんだ。 「殺されそうな雰囲気ではないわね。それより洗脳の儀式ってとこかしら」 「さすがワーグ。だてに長生きして―いたっ」 ワーグの観察眼を褒めようと(?)したリセットはワーグに蹴られて儀式の間に転がり込んだ。ハニー達と目が合う。 「アイヤー、侵入者!」 「まて」 飛び掛ろうとしたハニーがその声で動きを止めた。声の主は体の感覚を確かめるかのようにゆっくりと体を起こす。 「我はヤマトの王ビノノンなり。そなたらは何ゆえ我が墓に入ってきた?」 声は低い男のもの。 「洗脳じゃなくて憑依ってことね」 リセットを引き起こしつつワーグが呟く。 「何ゆえって言われてもリセット達は気づいたらここにいたんだけどな……」 「姉上、それ以前にヤマトとは何処の事でしょう?」 「ああ、ひしひしと嫌な予感がする……」 「自分達がどこから来たのかもわからぬのか? 一体何者だ?」 お互い分らない事だらけ。そんな状況を変える第三者はいきなり現れた。 「それらの疑問すべて私がお答えしましょう」 「プランナー! ……じゃない? 誰あんた?」 こういう現れ方をする存在をリセットは一柱しか知らない。白いローブを好んで着込む今は創造神となった者だが……今目の前に現れたのは黒スーツに身を固めサングラスまで黒に統一した男だった。 「私、こういうものです」 男は内ポケットから小さな紙を取り出すと近くにいたリセットにそれを渡した。 『時空管理局 放棄世界管理第三課 ニホン担当神 青葉一郎』 その名刺にはそうあった。 「神……なの?」 「はい」 あっさりと肯定されてリセットは返答に困った。 「あまり時間はありませんのでプランナーさんから話を聞いてください」 「プランナーがいるの? じゃあ―」 「残念ながらここは大陸世界ではありません」 三人はそろってため息をついた。 「ですがこれで通信は可能です」 と、何処からともなく現れたのは30cmほどのモニターだった。 ぱちりとスイッチを入れると画面が砂嵐になる。青葉がチャンネルを操作してもガンガンと叩いてみてもそのまま。 「おかしいな……もう少し待っていてください」 さらに叩く事10回。ようやく音声だけはつながったようだ。 『なんだ、声だけか。まあいい。聞こえてるねリセット? 時間がないので質問は全部後回しにしてくれ』 「……これホントにプランナー?」 『じゃあ、信じられる話を一つ』 このパターンは!? と三人は身構えた。 『魔王になりたてのころ、リセットは父親をオカズにして―』 「わあああああああああ!!!」 リセットの絶叫がこだまする。残り二人は自分のネタじゃなくてよかったと胸を撫で下ろした。 「信じるから。って言うかそのパターンで分ったけど……こんな性質の悪いやつはあんたしかいないわ、プランナー」 『さて、信じてもらえたみたいなので話を進めよう。最初にその世界だけどそこは大陸と次元的に近い世界。その近さゆえルドラサウム追放で互いの世界の均衡が崩れた。一時的にとはいえ魂の総量が大幅に減ったこちらの世界がそちらの世界の方に引き寄せられ衝突した。特異点たる君達はその影響でそちらの世界に引き込まれてしまったんだ。避けようとは努力したんだけど間に合わなかった。その世界はある意味危険なんだ。なんとしてでも脱出しなければいけない』 「危険?」 『その世界に取り込まれ永遠にループし続ける。その不都合が生じたため放棄された世界。ある事実が起きると時間的逆行を引き起こし、全てをリセットしてしまう。……組みなおしのときその世界にいれば取り込まれその魂は世界の一部となる。こちらの戻る方法は一つ。ループを阻止する事。予定にあった『起きる筈の事』が起きなければ君達をこちらに召喚することが可能なはずだ。ループの阻止の失敗すれば二度と君達は大陸に戻れない』 「そこでとりあえずこれを食べてください」 青葉はポケットから湯気の立つラーメンを三つ取り出した。リセットはどうやって入っていたのかという疑問をいだいたが口には出さない。 「一応ビノノン王の分もあります」 ちょっと前まで蚊帳の外だったビノノン王にも鉢が渡される。 「で、これはなに?」 「この世界の情報、世界観、情勢、人々の習慣、風俗等を取り込みやすいようにしました。同時に彼方方のパラメータをこちらの世界用にカスタマイズします」 いい終わる頃にはリセットが空の鉢を突き出していた。 「おかわり」 二杯目はもちろん普通のラーメン。 「ふう、ご馳走様」 リセットが二杯目を食べ終えるのと残りの三人が一杯目を食べ終えるのは同時だった。 「では、実際どうすればいいかですが、現在オオサカはウィミィ軍、PM、那古教、わかめ組を取り込み巨大化した悪司組が治めています。そのうちカギとなるのは悪司組で、これがオオサカを征するのを防げばループが止まります。他の組織がオオサカを征するか悪司組が崩壊すればいいのです」 「方法は何でもいいわけね?」 「はい」 リセットは何かとてつもなくおもしろい事を思いついたらしく顔がにやけていた。 「リセット達でオオサカを制覇するってのはどう?」 「……なるほど。それもありですね。しかし、兵力はどうするのです?」 「ちょうどいいのがいるじゃない。ねぇ、ビノノン王、リセットと一緒にもう一度国を打ち立てない?」 いきなり話をふられたビノノン王は一瞬呆気に取られたがすぐに正気に戻りリセットに詰め寄る。 「マコトか!? お主らはヤマトの再興に力を貸してくれるというのか!?」 「ふふ、そういうこと。これで決まりね」 『方針は決まったようだね。それじゃあリセット、頑張ってくれ。たまにこちらから連絡入れるから状況を知らせてくれ』 「わかったわ。あんたも頑張ってね。リセットが戻った時、悪魔に負けてたら承知しないわよ?」 『は、ははは……肝に銘じておくよ』 プランナーは妙に引きつった笑いを残しすぐに画面から消えた。 「姉上、プランナーの弱みでもつかんでいるのですか?」 ジト目の無敵にリセットは含みのある笑顔を見せる。 「乙女のひ・み・つ」 「……さて、私はそろそろお暇します。これは当面の活動費に使ってください」 青葉は重そうなアタッシュケースを置くと一礼、姿を消した。 「ん〜、軽く1千万はあるかな。拠点はコフンにするとして、とりあえずここにいる悪司組みには退いてもらいましょうか」 「ふむ、久しぶりの戦だ。腕がなるぞ」 俄然やる気のリセットとビノノン王だが、無敵はそうでない様子。 「姉上、ビノノン王、お待ちください。市民の支持を得るには我々の力を見せつける必要があります。ここは一つ作戦を練り最小限の被害で……はい?」 トントンと肩を叩かれる。ワーグだ。 「リセット達ならもう行ったわよ。大量のハニーを引き連れて。私達も後を追ったほうがいいんじゃない?」 「……そうですね。はぁ……」 「あんたホントに報われないわね。姉に振り回されて、恋人と引き離されて。踏んだり蹴ったりじゃない」 「早く帰りたいです。……姉上を追いましょう」 ワーグと無敵は地上を目指し走り始めた。 ―コフン悪司組詰め所 今ここに配置されているのは辻家晴子と加古未来とその部下達。 今日の見回りを終え、加古が部下とたこ焼きを作り振舞っていた。 そこへちんぴらの一人が大慌てで飛び込んでくる。 「あ、姉さん! ハニワが……埴輪が大量に……!」 「ハニワ?」 たこ焼きを口に運ぶ辻家の動きが止まった。 「オオサカ古墳から突然溢れ出してきたんです! 住民には手を出さないくせに俺達組のもんを見ると一斉に!」 「……良く分らないけど喧嘩を売られて黙っている訳にはいかないわね。反撃するわよ。加古さん、準備はいい?」 「ふぉっと、ふぁって!」 加古は出来上がっていたたこ焼きをすべて口の中にかきこむ。優に十人分はあったたこ焼きが嘘のように消えた。 「ふう、美味しかったにゃりよ。準備完了にゃり」 「……いくわよ」 辻家は一瞬呆気に取られたがすぐに気を取り直し、命令を下した。 こうしてリセットの異世界での戦いが始まる事となった。 彼女達は帰れるのか、この世界の結末はどうなるのか。それはまだだれにもわからない。 ……ASOBUもまだ考えてないから。 あとがき ……やってしまいました、クロスオーバー物。 かなりギャンブルです。はたして大悪司の世界観を壊さずに書き上げられるでしょうか? 自分でも不安です。今後、『二人の世界』と平行して書いていくつもりですがどうなることやら……。 |