第二回 行動開始

−オオサカ古墳 地上
悪司組の勢力はリーダー辻家晴子と加古未来を筆頭に20人。対するヤマトはビノノン王を筆頭にハニー35体、ダブルハニー10体、スリーハニー5体。そしてそれらを指揮するリセット、無敵、ワーグ。埴輪が大量に襲い掛かってくるという理解を超えた出来事を前に悪司組のメンバーは呆然としていた。
「よーやく来たみたいね。待ちくたびれたわ」
「……口が聞けなくなる前に聞いておく。お前達は何者? そして、一体何のつもり?」
「私たちはヤマト王国軍。古代ヤマトの王ビノノン王のもと失われた国土を取り戻し、国を再興するつもり。さ、両方答えたわよ。戦争始めましょう?」
リセットの大胆不敵なセリフに辻家はカッと来た。辻家は反射的に拳銃を抜く。
「姉上、挑発しすぎです」
「いいのいいの。あれくらいのオバンにはあれくらい言わないと聞こえないって」
トリガー・オン。放たれたが、弾丸はリセットを打ち抜くことなく地面に着弾。辻家にはリセットが動いたようには見えなかった。変化といえば無敵がいつの間にか刀をぬいていたということくらい。
「これだからオバンはこまるわ。不意打ちなんかしてきて……」
パチッと指を鳴らすリセット。ハニーが隊列を組み進み出る。
「今度はこちらから行かせてもらうわ。攻撃開始」
ハニー達が同時にハニーフラッシュを放つ。壁のごとく迫るそれを、辻家を守るチンピラたちはまともに浴びた。さらに、攻撃を終えたハニーが後ろに下がり次のハニー達が出てくる。攻撃の隙間をなくすためのローテーション攻撃。しかし、統率も訓練も完璧ではない。
隙を突いて辻家がトリガーを絞る。ねらいはリセット。が、直線状に影が飛び出す。
白刃が煌めき、あろうことか弾丸が弾かれた。
「リセット殿、隙が大きすぎるぞ」
弾いたのはビノノン王。
「ごめんごめん、リセットはちょっと訳ありで勘が鈍ってるの。無敵、ガードよろしく」
「はい」
「……愛? 何であんたがそこにいるの?」
辻家は攻撃の手を止めた。視線の先にはビノノン王がいる。
「……この娘の知り合いか。すまないがこの娘の意識はもうない。我が復活するには体の波長の合ったものが必要だったのでな。この娘の体はもはや我の物。我が貰い受けた」
「何いってるかさっぱり分からないけど……とりあえず返してもらうわその体」
「戦場でお互い分かり合おうなんて、確かに無理な話よね。攻撃再開。完膚なきまでに叩きのめされれば考えもきっと変わるでしょ?」
号令一喝、ハニーとチンピラ、エリートヤクザがぶつかり合う。話している間にお互いの距離が縮まり乱戦になってしまった。その中、辻家は常にリセットを狙っていた。彼女が指揮官だと分かっていたから。しかし、弾を撃てども一発も当たらない。かすりすらしないのだ。
「貴様、人間か?」
撃った弾は全て無敵の刀によって弾かれてしまう。3連射すれど同じ。
「元、ですけどね。心は人間のつもりです。姉上を傷つけようとする者はたとえ女性でも容赦しませんよ」
「黙れ!」
マガジンが空になるまで連射。だがそれも徒労に。
「今度は未来ちゃんの番にゃり! 未来ちゃんスペシャルシュ〜ト!!」
どういう力が働いているのか、加古が蹴ったサッカーボールはジグザグに曲がりながら無敵に迫る。が、パシッと片手で受け止められた。威力はなかったらしい。
「……えっと、投降してもらえるならお互い傷つかずにすみます。無駄な戦いはよしませんか?」
無敵は投降を勧める。しかし、リセットは―
「な〜に言ってんの? とりあえず初戦は皆殺しにして力を印象づける予定でしょ?」
ハニーに攻撃再開の指示を出す。
「まだ、市役所という所に届出もしていません。死人が出すぎるのはマズイ気がするのですが?」
「あんたが何とかしなさい」
「……はい……」
無敵はリセットに対して無力だった。後方ではワーグがため息をつく。
「まあ、でもリーダーらしい2人だけは生きたまま捕獲して。使い道があるかもしれないから。無敵、これが最大限の譲歩ね」
「ではすぐに捕らえてきます」
ちなみに会話の途中にも辻家の弾丸が飛来していたが、無敵はそれをすべて打ち落としている。改めて無敵と向かい合った時辻家は相手との力の差を実感せざるえなかった。思わず息を飲む。
「と、言う訳で参ります」
反射的に銃を撃つが無敵はミストフォームで回避。辻家は何が起きたのかわからず固まる。
実体化したのは辻家の背後。首筋に手刀を一撃。辻家は無効化される。
「っ……撤退にゃり〜!」
加古は戦闘を放棄し逃げようとした。後ろを振り返ると目の前に無敵が。腹に必要最小限の当身がはいる。無敵は両肩にそれぞれ2人を担ぎリセットの元へ。
「お帰り。さ、後の雑魚に用はないわ。やっちゃえ!」
ハニー部隊が攻撃を開始。壁となって迫るハニーフラッシュから逃れる術はなかった。
「さ〜てと、この死体の山どうしよう? 良く考えるとこのまま置いとく訳にもいかないわね」
「そうじゃな。ヤマト再興の礎になった者達ということで我が墓の周りに弔おう」
「そうね。さっさとやっちゃおう」
ビノノン王とリセットの命令を受けハニーたちが器用に穴をほり始める。
「ビノノン王、石室を一つ貸していただけませんか? この人たちを寝かせておく場所が欲しいのですが」
「ふむ、ならば地下2階北の部屋をつかうとよい。あの部屋なら逃げる事は出来まい」
「わかりました」
無敵は捕虜2人を連れて古墳内部へ、リセットとビノノン王はハニーに混じって穴掘りを開始した。

―ミドリガオカ 悪司組事務所
「若、報告があります」
山本悪司と山本喜久子、岳画殺の3人がお茶を飲んでいるところへ島本純が現れた。
「なんかあったのか?」
「はい。コフンが謎の勢力によって制圧されました。配置してあった兵力は全滅です」
一瞬の間。悪司は飲んでいた茶を吹きだした。
「なにぃ!?」
「兵力等の詳細は不明ですが動くハニワを率いる者がいたようです。おそらくそれが首謀者でしょう。首謀者の情報ですがかなりのカリスマ性を持つらしく一度の演説でコフン住民の心を捉えているようです。私見ですが、早めに手を打っておくべきでしょう」
「わかめ組を取り戻したと思えばこれか。……さて、どうするか」
のんびりした空気は一転、緊張感をはらんだ空気となった。

―市議会
リセットが市庁舎に入ったとたん、男女問わず視線が集中した。リセットは気にせず受付へ進む。
「ちょっと聞きたいんだけど、地域管理組合の登録はどこでできるの?」
「え、えっと、ととりあえず申請書と署名を準備していただいて、審査のうえ責任者と面接します。それから―」
「ストップ。もういいわ。めんどくさいから。じゃあ、市長に会わせて。下っ端じゃなくトップと直接交渉するわ」
「アポなしではちょっと……」
「あら、リセットは頼んでるんじゃないの。これは命令。分かる?」
リセットは受付職員の首に指を這わせる。美女に迫られうれしいはずなのに本能は殺意に反応して逃げろと訴えてくる。
「逆らえば……バカじゃないんだから分かるでしょ?」
リセットの、魔王時代に培った身も凍るような笑みを見た時、職員は反射的に防犯ベルを押していた。見とれていたほかの職員も、市民も凍りつく。
「あらら〜、ほんの冗談だったのに」
肩をすくめるリセット。間もなく治安課の職員に囲まれた。
「ちょっと、来ていただけますか?」
「ヤダ」
「……」
治安課職員は問答無用で取り押さえる事にした。しかし、リセットは余裕たっぷりにかまえようとも逃げようともしない。
「おね〜ちゃ〜ん」
緊迫した空気には似つかわしくない少女がその中に割り込む。お子様モードのワーグは治安課職員を押しのけるようにしてリセットの側へ。ワーグの出現に治安課職員は攻撃のタイミングを狂わされた。そして、それは命取りで―
「ダメダメだわね。命をかけた戦闘には向かないわよ、あんた達」
一転してアダルトモードのワーグの言葉はすでに聞こえていない。治安課職員だけでなく市庁舎にいたすべての人間が夢の中に引きずり込まれた。
「あんた達を狂わせてもつまんないから命は取らないわ。感謝してね」
「さてと、これで予定通り進むわね。ありがと、ワーグ」
「窓口職員を脅して治安課職員をおびき寄せ警備を無効化する、か。さすが元魔王ってとこかしら。狡賢いわね」
「なんとでも言って。さ、市長の所行くわよ」
リセットは歩き始めるがワーグはそのまま。リセットが振り返る。
「行かないの?」
「作戦の要がまだ来ない。無敵の邪眼で市長や市庁舎の主要部を支配下に置くんでしょ?」
「……何してんだろね? 無敵〜!」
呼んでも来ない。
「……あのこ邪眼を使うの嫌がってたからね。逃げたのかも」
「何であんなに嫌がるかな? 便利な力だと思うけどな」
「力に対する捉え方の相違ね。とりあえず探してくるわ。あんたは市長室に行ってて」
「ん、わかった。じゃあ後でね」
ワーグは無敵とラッシーを待たせてある近くの公園に向った。
そして、公園での光景を目にして思わず額を押さえた。
ラッシーと無敵は子供たちと遊んでいた。ワーグは無言で近づくと背伸びして無敵の耳とラッシーの尻尾を掴んだ。そのまま引っ張る。
「いいい痛いですよ、ワーグ!」
「わふ〜!!」
2人の抗議を無視して市庁舎前まで引きずる。
「あんた達ね、とうに作戦開始の時間になってるの。待たせないでくれる?」
「それは理解していたのですが子供たちがラッシーを離さなくて」
「言い訳は聞かない。さっさと行くよ」
さらに耳と尻尾を引っ張る。一人と一匹の悲鳴が市庁舎の中に引きずられていき消えた。

―市長室
市長である明里は治安課長の森薫と話している最中に猛烈な眠気に襲われた。不思議な事にそれは森も同じで本人も戸惑っていた。そして何がなんだかわからないまま気がつけば縛られていた。そして、目の前には自分を覗き込む顔が。
「な、彼方達は何者です!?」
「あ、起きたの。私達はヤマト新王国のまあ、幹部ね。地域管理組合の申請に来たの。あんたが市長?」
「そんな事より何で私達が縛られているのです! すぐに解放しなさい!」
「ヤダ。あんた立場をわきまえてる? 「うん」ていうまでじわじわと拷問してもいいんだよ? とりあえず爪剥いでそこに針を刺すとかね。リセットはさっきも言ったとおり地域管理組合の申請に来ただけ。認めてちゃんとした書類をくれれば面倒な事しなくてすむんだけど?」
目が本気だ。それはイヤでも分かる。しかし、それに屈服するほど森のプライドは安くなかった。
「立場をわきまえるのは貴女のほうです。こんな事をして……」
言いかけるがリセットの手に握られている物を見て思わず息を飲んだ。
「フフフ、よかった。これで無敵が来るまでの暇つぶしが出来る。たっぷり鳴いてね」
冷たい微笑を浮かべペンチを握るリセットはゆっくりと森の腕に手を伸ばした。

数刻後市長室の扉を開けたワーグと無敵は思わずため息をつく。
部屋の中央には両手を血に染めた森が倒れていた。リセットの暇つぶしの結果である。
「……あのね、リセット。片付けが面倒だからその趣味はやめなさいって言ったでしょ? 自分で片付けなさいよ」
「大丈夫まだ殺してないから。ただちょっと爪剥いで火であぶっただけなんだから。さ、無敵が来たなら市長さん起こして。さっさと済ませちゃおう」
「分かっていてやったのね……」
指先から伝わる激痛に顔をしかめ森がリセットを睨みつける。
「当たり前じゃない。下調べもせず来たりすると思う? 情報は武器よ」
「ならなぜ!?」
「暇つぶしって言ったじゃない。とりあえず黙って。今用があるのは市長さんだけ。後で仲良くみんな部下にしてあげるから安心して」
リセットは森に背を向け市長―中山明里に近づく。後ろに回りこむとその顎を掴み無敵のほうへ向ける。
「い、一体何を……」
「ご安心を。苦痛はありませんから」
視線が合う。そのとたん無敵の赤く光る目から視線をずらせなくなった。脳内が得体の知れない何かに侵されていく。
「僕達が望む物を用意してください。1つは正式な地域管理組合としての登録。2つ目は戦闘で出た死人等の後始末を担当する人。もちろんこれは法の目をくぐれる技能の持ち主でないといけません」
「はい……分かりました」
市長は完全に無敵の支配下に置かれた。
「さて、次は貴女ですね」
無敵が森の方を振り返る。反射的に目を閉じようとするが体は意思に反して、視線は無敵の目に吸い寄せられる。
「人……間なの?」
「まあ、元はですが。気持ちは人のつもりです。やっている事はそうではありませんが」
抗う事などできるはずもなく森の意識も無敵の支配下におかれた。
そして待つ事数分、森と市長の手によって完璧な書類が出来上がる。
「ん、これで表へは万全ね。後は裏方だけど……市長なんか抜けてそうだし森、あんたがやって」
「はい」
「とりあえず、悪司組に対しての妨害工作を開始しなさい」
かくしてリセット達ヤマト新王国は大きな後ろ盾を得ることになる。そしてそれはオオサカの支配をめぐる戦闘の幕開けとなった。


あとがき

……いったいどれだけ続きを書いてなかったろうか?
まあ、ともかく大番長がはやってる中で悪司世界での話の第2回です。
実は二人の世界ともリンクしていく予定(あくまで予定)なのでこちらも書いていかなくてはいけないのですが、二人の世界より筆が進みません。やる気だけがカラカラと空回り。続きは気長にお待ちください。


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