第三回 VSジャンキー軍団 ―ミドリガオカ 悪司組事務所 そこでは対ヤマトの会議が行われていた。 メンバーは悪司、殺、喜久子、島本、大杉、そして夕子。 「よし、鴉葉に命じて市議会から圧力をかけさせよう。相手の動き次第でやつらのバックにどこがついているのかが分かるだろうからな」 会議の末、地域管理組合の登録を阻止するという方向で話がまとまった。悪司は早速それを実行すべく出かける準備をする。 と、タイミングよく監督官・鴉葉が現れた。ただちょっといつもと雰囲気が違う。 「悪司さ〜ん!!」 唐突に抱きつく。悪司は反射的に蹴り飛ばした。 「あ、すまねぇ……それよりちょうどいいところに来た。ひとつ頼みがあってよ」 「無理だよ、もう……」 「……どういうことだ?」 鴉葉のただならぬ様子を感じ取って殺は目を細める。 「……くび……首切られちゃったから」 なんとも言いがたい沈黙。それを破ったのは鴉葉自身の泣き声だった。 「あ〜、うざい! 泣き止んで詳しく話せ!」 「詳しいことなんて何も……人事部の承認印も市長の印も解雇通告書にも不備はまったく無かった。机の私物はダンボールに詰め込まれて通告書が一枚だけ……。もう何がなんだかさっぱり……」 「……まずいことになったな。後任の監督官次第ではこれからの行動が制限されるぞ」 「チッ、さっちゃんの言うとおりだぜ……後任くらい誰か分かるか?」 「確か……斉藤君かな。懐柔できないことも無いと思うけど彼、森さん崇拝者だから」 「森って治安課のあいつか?」 頷く鴉葉。 しばらく考えた悪司は島本に視線を送る。島本はそれだけで通じたようで一礼すると部屋を出て行った。 「斉藤とやらの情報収集は島本に任せておくとして、我々はどうするのだ、悪司よ?」 「そうだな、とりあえずは現状維持。派手に動けない以上こちらから攻め込むのは得策じゃねぇ。ヤマトのやつらがこちらへ攻め込んでこない限りしばらくは無視しておこう」 「ふむ。情報の少ない今はそれが妥当か」 悪司個人としては、敵対組織はつぶせるうちにまだ小さいうちにつぶしておきたい。しかし、ヤマトに対してはやくざの本能がそれを躊躇させた。 この相手には本腰を入れる必要があると。 ―コフン ヤマト新王国事務所 リセット、無敵、ワーグ、ビノノン王というメンバーに加えて無敵の支配下に置かれた辻家と加古も集められている。彼らが囲むのはオオサカの勢力図だ。 「さて、これより国取りを開始する。それにあたってリセット殿に我が軍の総指揮をリセット殿にお任せする。無敵殿、ワーグ殿にはそのサポートを頼みたい」 「ふふ、任せといて。じゃあ早速だけど今後の予定ね。条件とかを考慮して考えたんだけど最初に攻めるのはココね」 リセットの指差す場所は紫色に塗り分けられた地域。コフンと隣接する那古教の支配地域、カネシタだ。 「姉上、カネシタは那古教の勢力下、ここを攻撃するよりミドリガオカに隣接するハクアか悪司組の支配地域であるフナイを攻めるのが妥当だと思うのですが」 もっともな意見だとワーグは思った。しかし、同時にその意見を無視されるだろう無敵を哀れに思った。 「却下。フナイはここを取ってから。カネシタには温泉があるんだよ? 戦闘の後に浸かってリフレッシュできるんだよ? ここを攻めないで他にどこを攻めるっての?」 「温泉ね……ぜひとも浸かりたいわ。私はリセットに一票ね」 と、ワーグが賛成。考えていることと行動は別である。 「温泉か。久しく浸かってないな。なかなか魅力的だ」 続いてビノノン王も賛成。これで3対1に。カネシタ攻めは不動のものと決まった。 「決定ね。じゃあ早速明日から攻めようか。コフンにハルセ、スズカの管理もあるからリーダーは無敵、あとはハニーで攻めて」 「分かりました。では準備もあるので僕はここで失礼します」 無敵はそれだけ言うと事務所を出て行った。 「……さすがに怒ったんじゃない?」 「そうかな?」 「早く帰るために効率よく攻めていかなきゃならないのにあんたのわがままに振り回されて、報われない子だわ」 「何よ、ワーグだって賛成したじゃない」 「それはそれ。さてと、ちょっとあの子の様子を見に行ってくるわ」 「それなら会議はここまでとしよう。リセット殿、農協へ協力依頼に行くが一緒に来てくれまいか?」 リセットは一瞬無敵を追いかけようとして、考え直した。 「いいよ、農協ね(無敵のことはワーグに任せとけばいいか)」 ―フナイ 無敵は人ごみの中を歩いていた。 「……ホントに姉上に逆らえない自分がいやになる……はあ……」 ため息をつきながらとぼとぼと。ちょっとみすぼらしい。よほど落ち込んでいるようだ。 そのため前方の騒ぎに気づいていない。 人ごみが開け空白が出来ている。中央には数人分の死体と20人近い怪しい男。目はいっちゃっててよだれを垂れ流し手には出刃包丁。それに相対するのは満身創痍の二人の女性。一人は見事な大和撫子、もう一人は目つきの鋭い鞭使いの女性。 双方とも突然の闖入者に驚き戦闘が停滞した。 「そこの方! 危険です!」 無敵はその声でようやく状況を知る。 「……えっと、怪我してますね。手を貸しましょうか?」 「ヤクをくれーーー!!」 背後からジャンキーの一人が襲いかかる。 「逃げて!」 「逃げても何もあなたたち二人は戦えるような状態ではないでしょう?」 無敵は刀を抜くと振り向きもせずジャンキーの心臓を刺し貫いた。 「安心してください。この程度の雑魚、100万人集まろうと僕の敵ではないので」 言うなり反転、わらわらと近づいてきていたジャンキーの群れに突っ込む。ジャンキーの攻撃を精確に回避し的確に反撃を加えていく。 二人の女性、山本喜久子と加賀元子は痛む傷を押さえ呆然とその光景を見ていた。 「あの方は一体……」 「分からないわ。ただ、私たちは死なずにすんだみたい」 地域の巡回中に奇襲を受け、数の力に押され一度は死を覚悟した。しかし、無敵の乱入でそうならずにすんだ。 そうこうしているうちに最後の一人が切り伏せられた。無敵は刀を納めると二人の元へ歩いてきた。 「一応かかってくるのは全部片付けましたから。数名逃げたようなのでそれも倒しに行きます。彼方達はどこかで治療してください」 路地へ向かおうとした無敵を喜久子が呼び止めた。 「せめてお名前を教えていただけないでしょうか?」 「山本無敵といいます。では」 無敵はさっと身を翻しジャンキーの逃げ込んだ路地に飛び込んでいった。 「山本無敵……あの強さ、悪司の親戚?」 「どうでしょう? 一発御爺様はその……ああいう方ですし……」 「おね〜ちゃん達、山本悪司って人の知り合いなの?」 問いかけてくるのは10歳前後に見える少女。横にはもこもこの変なものをつれている。 「え、ええ。山本悪司は私の旦那様ですが?」 「ふ〜ん、じゃあさっき無敵をとめて見殺しにすれば終わったんじゃない」 口調が変わりあっけにとられる。 「今ここで魂奪ってもいいけど……無敵のことが気になるから見逃したげる。よかったね」 「なっ……あなたは一体……」 「私はワーグ。夢を繰り死にいざなう者。今はヤマト新王国軍のメンバーよ」 「!」 即座に反応した元子が鞭を振るう。 「……死にたいの?」 ワーグの目が細くなり鞭を掴み取った。 そのまま、鞭を手前に引く。子供の姿とは裏腹な力に引かれ元子はバランスを崩した。 それを立て直そうとした矢先、目の前にはワーグが。 「体術はあまり得意じゃないの。手加減できなくて死んでも恨まないでちょうだいよ」 バランスを崩しがら空きになった元子の腹にワーグのひざが吸い込まれるように入った。 元子はその場に崩れ落ちる。 「さてと、生きてるみたいだし行くわ。じゃあね」 ワーグは意識を失っている元子をそのままに無敵の消えた路地に入っていった。 「ヤマト新王国……あんな人たちと戦うことになったら……」 『まず勝てない』そんな考えが浮かんだが喜久子はぶるぶると頭を振ってその考えを吹き飛ばした。今大事なのは元子の治療だと言い聞かせて。 ―路地裏 「さて、後は彼方だけですよ」 無敵の足元にはすでに息の根を止められたジャンキーが転がっている。無敵の前に立っているのは全身包帯というとてつもなく怪しい男だけだ。 「ひ、ひひっ……化け物じみてる……」 「失敬な。どう見ても彼方の方が人には見えませんよ。……さて、彼方には選択権があります。このまま抵抗して痛い目を見るか、あるいは投降し警察に連行されるか。お奨めは後者ですね。今の僕では手加減できるかわかりませんので」 「痛い目はみねーがね……キシャー!!」 怪しげな液体を中に湛えた何本もの注射器がひらめき飛ぶ。 「……ふう、やっぱり」 無敵は地を蹴り空中へ。さらに建物の壁を蹴り方向転換。その跳躍で素敵医師の背後に着地する。 「まあ、予想はしてましたけどね」 振り返りざまに素敵医師の後頭部に柄を打ち込む。 びくっと大きくのけぞり素敵医者動かなくなった。 「後は警察に突き出すだけだけ……その前にいつまで覗き見するきですか?」 裏路地での戦闘をその人物は一部始終見ていた。 無敵に声をかけられ姿を見せる。 「その制服……市議会の人ですよね。僕に何か用でも?」 「いえ……長谷川が倒れた今はもう何も……」 「これのことですか?」 無敵の視線の先には素敵医師が転がっている。 「ええ。私は山沢麻美といいます。貴方は悪司組の方?」 「違いますよ。僕は山本無敵、今はヤマト新王国のメンバーです」 「ヤマト?」 「しらないんですか?」 山沢はつらそうに目を伏せた。 「……わけあって人前に出れなかったので……」 「なるほど、大体分かりました。貴女はミイラ男に薬漬けにされた。そして、薬欲しさにミイラ男をつけていた。そこへ僕が―」 「違います! 私は! ……っく……」 山沢は額を押さえつらそうに俯く。次に顔を上げたときにはその目は狂気の色に染まっていた。 「長谷川!! 死ね!!」 大丈夫かと聞こうとした無敵に猛烈な蹴りが放たれる。 「うわっ、ちょっと! 山沢さん!」 もはや、無敵の声は届かず、山沢の目には無敵が素敵医師のように写る。 そんな状態にもかかわらず蹴りは正確で無敵ですらダメージを殺しきれない。 「えっと……女性に手を上げるのはすごくいやなんでワーグ、頼みます」 山沢と同じく隠れてみていたワーグを物陰から引きずり出す。 「最初から気づいてたんならそう言いなさい。ま、それはいいとして、あの子戦力にほしくない?」 「あの蹴りは確かに戦力になりそうですね。でも、薬が抜けないと厳しいのでは? っつ!?」 避け損ねたハイキックがまともに無敵を捕らえた。 「くう……回避行動が間に合わなければ肋骨が砕けていますね……」 「なおのこと戦力にしたいわね。一石二鳥のいい方法があるわ」 「どんな方法です?」 「あんたの食料と戦力が一緒に手に入る方法。薬の快楽より強烈なものでしょうし……」 無敵はあからさまにいやな顔。 「……他に―」 「ない」 「……」 無敵はリセットだけでなくワーグにも頭が上がらないようだ。 「ごめんなさい、山沢さん。……それからセリスさんも……」 しゃがんで上段回し蹴りを回避、軸足を蹴る。バランスを崩し倒れこむ山沢の首を捕らえ牙を突きたてた。 「あっ……いやあああああああああっ!!」 激しい抵抗も一瞬だけで、吸血の量に比例して動きが小さくなる。同時に目に正気の色が戻っていく。 「……ちょっと吸いすぎましたか。意識はありますか?」 小さく頷く山沢。 「禁断症状も治まったようですし……まあ、うまくいったようですね。しかし、なんて薬だ。頭がガンガンしますよ……」 「無敵、あんたもしかして薬の成分まで取り込んだの?」 「血中に残っているものは。だいぶ楽なはずですがどうです?」 「……あなた方は一体……」 「そうね……この世界でない世界の者っていって信じることが出来る?」 「少なくても人とは思えません……」 「詳しい話はアジトに戻ってからにしよっか。なが〜い話になるだろうから」 ワーグがラッシーに目配せするとラッシーは山沢を背に乗せた。 そのまま空へ。 「この世界初、空の旅にごあんな〜い!」 なぜかコロッとお子様モードに切り替えたワーグはスチュワーデスよろしく 「下に見えますのはオオサカ古墳で〜す。ワーグ達がこの世界に着いた場所なんだ〜」 と楽しそう。一方山沢は地上100mにいる自分と隣に浮遊している無敵を交互に見比べなんとも言いがたい表情をしていた。 結局、山沢は行き場の無いことからヤマト軍に落ち着くことになった。 そして、翌日カネシタ攻略戦が展開されることとなる。 あとがき 山沢を味方にしたかったのでこんな風になりました。無敵じゃこませないし他に思いつかなかったんですね……。次回から那古教がからんできます。 |