第7回 波乱のパーティー ―ヒラカタ PM本部 そこに集まるのはほとんどがPMと取引のある企業の関係者。 そんな中普段着の悪司達はちょっと浮いていた。まあ、気にする彼らではないが。 「しっかし、金もあるところにはあるもんだな」 「同感だ。戦争で儲けたニホン人も少なくないということか」 周囲に聞こえる声でそんな話をする悪司と殺に向けられる視線は奇異のもの。おまけに冷笑までついてくる。 「さっさとリンダに挨拶して帰ろうぜ」 「そうだな。どういう意図で呼んだかは知らぬが長居するような場所でもあるまい」 「んじゃ、リンダを探してくるわ」 そう言って悪司は人の林に消えた。 「はい、さっちゃんお料理取ってきたわよ」 すぐ横に色々な料理を盛り付けた皿が差し出される。 悪司の愛人であり姉のような存在でもある神原夕子だ。彼女は場の雰囲気になじんでいるようだ。ちゃっかり何枚かの名刺も貰っているようである。 「すまない」 殺は簡潔に礼を言い壁際に視線をめぐらせる。そこらには立食用のテーブルがいくつかあるわけだがどれも人が使っている。 「どうしましょう? 食べれる場所が無いわね〜」 「どうしたものか……ん? あちらのテーブルが空いたな」 「う〜ん、でも、な〜となくあそこはやめたほうがいいような気がするな〜」 「む……」 殺もこの夕子の『な〜となく』の威力を知っている。 一瞬迷ったが夕子を信じることにした。 「では他の場所を探そう」 「ほら、あそこも空いたみたいよ」 そこは殺が最初に見つけた席からかなり離れた場所。 二人はそこに陣取り料理を口に運び始めた。 「あ、ちょうど良い所が空いてるよ」 「じゃあ、ここにしましょう」 夕子が『な〜となく』避けたテーブルにリセット達も目をつけていた。そして、殺が視線をそらした直後そこに陣取る。 悪司組とは違いこちらはみんな周囲と同じような服装。 リセットはモスグリーンのドレスで山沢はブルー系、ワーグはピンク。 無敵はスーツを着ているが本人はどうにも落ち着かない様子。 ただ、ビノノン王も男性用のスーツを着ているためとても違和感がある。仮面のせいもありビノノン王から半径2mに人は居ない。 「わ〜、これおいしいな〜」 「ワーグさん、口の周りについてますよ」 「ん、無敵、拭いて」 「それぐらい自分でやってください」 「いいじゃない、今はお子様なんだから」 「そういう問題でもないでしょう」 「あっそ」 機嫌を損ねたのかワーグは無敵をひと睨みして席を立った。 「ちょっと散歩してくる」 そのまま人の林の中に消えた。 「相変わらずワーグの考えはわかりませんね……」 「難しい年頃なんでしょうか?」 「……とっくにそんな年代は過ぎてると思うのですが?」 「こらこら二人とも。女性の年齢を話題にしてはいかんとおもうぞ?」 「きっと、話題にするのも馬鹿馬鹿しくなるくらいの年齢なんでしょうけど」 遠くから皿が飛んできて無敵の頭に当たった。 ―パーティー会場中央 「おお、すごいケーキだな……しかも、バタークリームじゃなくて生クリームだ……」 悪司の目の前にあるのは特大のケーキ。戦後の物不足にもかかわらず生クリームをふんだんに使ったリンダ専用ケーキだ。 「生クリームか……」 きょろきょろと見回し視線がないことを確認。 「ちょっとだけ味見を……」 目立たないところをついっと指にひとすくい。 「く〜っ、生クリームはやっぱり違うな。これがリンダ専用とはもったいない」 手は無意識のうちにもうひとすくい。 「もうちょっとくらいいいよな?」 と自分に言い聞かせ悪司はさらに生クリームをしゃぶる。 「……ガキね」 「なんだと?」 振り返っても誰も居ない。視線を少し下げてようやく言葉の主が眼に入る。 「こんなもの貰って喜ぶここの当主もガキだけど、そのケーキを台無しにするあんたは一応大人でしょう? でもやってることはそこらの悪ガキと同じ。精神年齢が近いのかしら?」 「お前はヤマトの……」 「ワーグよ。いい加減覚えたら? 知能はガキを通り越してサルレベル?」 「んだと!?」 「あんたも呼ばれていたなんて思わなかったけど、いい機会。ここであんたを殺しちゃおうか?」 その外見とは似つかわしくない冷たい笑み。悪司は思わず一歩下がる。 が、そこにはケーキが。 「おっと」 悪司がケーキを乗せたテーブルにぶつかる。 テーブルが傾いた。 タイミングよくリンダがそこへ現れる。 倒れ行くテーブルはスローモーション。 彼女の見ている目の前でケーキは床に落ち無残につぶれた。 リンダの表情が強張り、続いて震えだす。 さすがの悪司もこの場にいるのはまずいと悟りすぐさま姿をくらました。 「あ〜あ、残念だね〜。せっかくのケーキが台無しだ〜。あのもみあげ男はダメダメだね」 「……あんたは誰でちゅ?」 リンダは下を向いたまま問う。 「人に名前を聞くときは自分から名乗ってほしいな。でも、5ちゃいじゃしょうがないか。私はワーグ。ヤマト新王国の関係者なの」 「……ケーキを駄目にした悪司と一緒にいまちたね? あなたも原因じゃないんでちゅか?」 「ワーグは悪いことしてないよ? ワーグは悪いことしてたモミアゲ男をを指摘しただけだよ?」 「それでケーキが駄目になったならあなたも同罪でちゅ……!」 リンダは涙を浮かべワーグを睨みつける。 どいつもこいつもガキばかり。無敵ももう少し相手をしてくれてもいいのに。 モミアゲとも会うし5ちゃいの赤ん坊にも絡まれるし……。 ストレスがたまる。 ……どうしよう? 久しぶりに暴れたい気分。 ワーグの眼が細まる。表情は笑顔のまま。 眼だけは笑っていない。 「ひぃっ!」 直視したリンダは息をのみしりもちをついた。 殺される。蛇と蛙の気分。 一瞬で恐怖がリンダを支配する。 「びえ〜〜〜〜ん!!」 リンダは大声で泣き出し、座りこんだリンダの下には大きな水溜りが出来上がった。 「ワーグ、何をやったんですか?」 騒ぎを聞きつけ無敵がそこに現れる。 「何も。ただ、そこのがきんちょが私を疑ったからちょっと睨んだだけよ」 「その眼のままだったのなら視線だけで殺せますよ……。落ち着いてください」 トントンと背中をさすられてワーグは目を閉じる。 魔王ランスに求めたのは父親としての存在。似た雰囲気を持つ無敵に感じるのはそれとは少し違う。なんといってよいのか、兄妹というのも違う気がする。ただ、側にいて欲しい、かまってほしい。冷たくされると八つ当たりしたくなる。 こちらの世界に来てから強くそう感じる自分がいる。 もう一つとある可能性があるがそれは認めたくない。 目を開けるとすでにリンダはハイネに連れられ着替えに行っていた。 「……謝り損ねたみたいね」 「なんだ、ちゃんと悪いと思っていたんですか。あの子に悪い印象を与えてもいいことはありませんから。敵に回しても面倒なだけです」 「戻ってきたら一応謝ってあげるわ。……早く大陸に帰りたいから」 「そうですね。じゃあ、ビノノン王の所に戻りましょうか」 「そうね。じゃあ……エスコートして」 「……はいはい」 ―リンダの部屋 「き〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!! もう絶対にゆるしまちぇん!! 絶対にヤマトなんちゃらは滅ぼして全員ちゅるすでちゅ!」 「しかし、リンダ様―」 「あんなに大勢の前で……もう決めたでちゅ! ハイネは言うとおりにしてくだちゃい!!」 部屋に戻って着替えるなりリンダは大荒れ。桃山家の当主たろう者が大勢の前で泣き叫びお漏らししてしまったのだ。 「……承知しました」 少なくても、少女に代わり謝罪を述べた少年の態度は真摯なものだった。周囲も少女の非は無かったといっている。しかし、リンダ様の脅えようはただ事ではない。 部屋を辞したハイネはパーティー会場に足を向けた。 ―PM本部内 「この家って無駄に広いわね……パーティー会場ってどこなのかな?」 リセットはちょっとトイレに行ったら帰り道が分からなくなった。 ぶつくさ言いながら歩いていると角の出会いがしらに人とぶつかった。 「あ、ごめんなさい」 「おお、すまね」 お互い顔を見て停止。ぶつかったのは悪司だった。 一瞬の思案の後、先に動いたのは悪司。 リセットの鳩尾を一撃し意識を奪った。 「……思わずやっちまったが……まあ、いいか。ひろいもんだ。おい、牢に入れとけ」 「はい、若」 黒服にぐったりしたリセットを預け悪司もミドリガオカに戻っていった。 それに気づいたものはいない。 ―パーティー会場 「まあ、それもありえますね……」 ヤマトのメンバーのところに現れたハイネはストレートに要件を告げた。 パーティー会場から出て行ってくれと。 「分かりました。では帰ります」 「申し訳ありません」 なんにせよパーティーの主賓に恥をかかせたのだ。そういわれても仕方が無い。 ヤマトのメンバーは帰路に着いた。 そのままハイネに見送られPM本部を出たところで気づく。 「そういえば姉上はどこに?」 「あ、そういえば……ふらりとどこかへ行ったきりですね……」 「ちょっと探してきます」 と、無敵が戻ろうとするとその前にハイネが立ちふさがる。 「申し訳ありません。お連れの方はこちらで探させます。彼方達はお帰りください」 「……信用しますよ? 今日中に姉上を帰してください」 「承知しています」 「姉上に何かあれば……いえ、止めておきましょう。失礼します」 無敵達が去った後ハイネは冷や汗をぬぐった。 最後の言葉と一緒に放たれた殺気。ハイネでも息が詰まるほどのものだった。 「嫌な予感がするな……」 漠然とだがリセットという女性が見つからない、そんな気がした。 ―コフン ヤマト事務所 「ただいま帰りました」 「あ、ちょうどいいところに! 無敵さん、とにかく奥へ」 一息つくまもなく鬼門に急かされ無敵は奥へ。事務所のソファーには1人の女性が寝かされていた。 「む、そなたは那古教の幹部じゃな?」 「っ……そうです。以前の協定に基づき力を貸して欲しい……お願いだ……」 「確か古宮さんでしたね? どうしたのです?」 「由女が……由女がさらわれた……お願いだ! 由女を……!」 古宮はソファーから身体を起こし無敵に詰め寄る。 「もう少し詳しく……古宮さん、酷い怪我じゃないですか!」 血に敏感な無敵は大量の血の匂いを嗅ぎ取る。 「まるで獣のようなやつらが……」 古宮はそこまで言って意識を失った。 「ワーグ、山沢さん。至急応急処置を。鬼門は病院へ行って血液を」 無敵は古宮の血を指にとりぺろりとなめる。 「血液型はB型、RHは+。お願いします」 「私も行こう」 鬼門とビノノン王が近くの町医者に走り、山沢が傷を見る。 「獣……まるで人間サイズだわ……」 古宮の背中の上から下に、大きな爪あとが残る。 「僕は那古教の本部に行ってきます。月ヶ瀬さんたちも無事ならいいですが……」 「リセットといい、那古教といい……嫌な感じね」 「同感です。では行ってきます」 空は曇りしとしとと雨も降り始めた。 そのせいもあり霧となり飛び立った無敵の姿はすぐに見えなくなった。 「……嫌なことが起こるときはいつだって雨。……リセット、無事でいなさいよ……」 ワーグのつぶやきは雨の音に紛れて消えた。 |
あとがき 待たせたわりに二人の世界じゃないっす……。怒らないで…… すべては花粉症のせいです……。 近いうちに花粉症外来逝って来ます。 治ればいいですけど、すぐ治るものでもないんだろーな……。 |