オオサカ武勇伝・ぷらすA

6日目

―オオサカ上空
「なんか、スゴイことになってるわね」
「ホント。レナってやれば出来る子だったみたい。頭脳派の非戦闘タイプかと思っていたわ」
「でも、無敵には勝てないわね」
「たぶんね。でも、殺すことがすなわち勝利ではない場合……わからないわね」
地上では1対多の戦闘が周囲を巻き込み被害を広げている。
ソレを見下ろす位置にラッシーに乗ったリセットとワーグがいた。
「万が一のために住民の避難はしておいたけど、あの辺はまだなのね」
「万能執事が慌ててるんじゃない?」
「たぶんね。でも、おそらく手が足りない。戦場は刻一刻と動いているからさらに避難範囲を広げないと」
「避難先も確保する必要があるし。それに、これ以上ひどくなるとさすがに駐留軍も目を瞑れないと思うよ」
「そうなると残す手は少ないわね」
「少ないね。手っ取り早く確実な方法を取る方がいいんじゃない?」
「このままじゃこの町、住めなくなりそうだからね。私たちには関係ないけど、そのままって言うのも目覚めが悪い。けど、直接手を下すのもイヤだし……リセットの案を採用ね」
「決まり。じゃ、コレ外して」
「鎖だけね」
「首輪も!!」
リセットの首にはかわいい首輪ががっちりと。首輪には丸っこくてかわいいフォントでリセットと名前が入っている。それからのびる鎖はワーグの腕に。
「ワーグは〜似合うからそのままでいいとおもうな〜」
「子供ぶってもだめ。コレ息苦しいの」
昨夜PMに潜入してワーグに捕獲されたリセットは一応捕虜扱いとなっている。
ワーグは実に楽しげにサディイスティックな笑みを浮かべながらその首に首輪をかけた。
「もう逃げない?」
「二人で両陣営に同時に動いた方が早いでしょ!」
「わかってるわよ。ハイ、外れた」
「……やっぱり鎖だけじゃない!」
「はいはい、四の五の言わずに飛ぶ!!」
「あひゃ!?」
ワーグはリセットを蹴り落とした。
「じゃ、ラッシー。屋敷に戻ろう。チビ当主に話をつけないと……」
「わふふ」

ワーグが去った後、白い翼を実体化させたリセットが不満げにその後姿を見送る。
「もう、他にやりようなかったのかなぁ……」
愚痴ったところで首輪はそのまま。ラッシーから蹴り落とされた事実も変わらない。
しばらくぶつくさ言っていたリセットだがやるべき事を思い出し方向転換した。
目指す先はコウベの橋付近にいる悪司の元。

―PM本部
「―というわけだから〜、ワーグは一時的にでも手を結ぶ方がいいとおもうな」
「……イヤでちゅ」
「リンダ様……」
「そう、別にいいけど私は。ここはお前達の世界だから。せっかく忠告してやるのにガキの頭じゃ正しい答えは出ないわね」
「ハイネ、全兵力を上げて該当地区の住民を避難させてくだちゃい」
「すでに、全兵力を投入済みです。しかし、追いついていません」
PMは悪司組との戦闘でその兵力の大半を失った。
ハイネは独断で危険地域の避難に当たらせていた。
「ダメダメね。組織の頭が自分の勢力も把握していないなんて」
「うるちゃい! あの黒い女が負けなければこんなことにはならなかったでちゅ!」
「リンダ様。今は彼女の提案を受け入れるべきかと」
ぐずるリンダをハイネが落ち着かせる。ハイネの中ではどうするべきかすでに決まっているのだろう。独断で動くことも出来るだろうが、リンダはなかなか首を縦に振らない。
そんな姿をワーグは冷めた目で見ていた。
「ラッシー、行こうか。あっちの方が面白そうだわ」
「わふわふ」
ワーグとラッシーが部屋を出て行く。
「リンダ様、ご決断を」
「……任せるでちゅ」
苦渋の決断を下したリンダはそのまま自室に引きこもってしまった。
残りの雑務すべてを敏腕執事に任せて。

―ミドリガオカ、コウベの境界橋
「相変わらず、凄まじいな……」
呆然と橋の向こうで繰り広げられる戦闘を見るしかなかった悪司達。
「ホントに。おねーちゃんの予想を上回ってるわね」
「うお!? リセット、どこへ行っていたんだ?」
リセットは音もなくその側に降り立った。
「ちょっと捕まってた」
「……は?」
「まあ、リセットのことはどうでもいいの。それより悪司。一つ提案があるの」
「提案? 今のうちにヒラカタへ攻め込むとでも言うのか?」
「んにゃ、逆よ。これ以上被害が広がらないうちにPMと手を組んで住民の避難をさせない? リセットはこの世界の住人じゃないからどうなろうと知らないんだけど、ね。ここはあんたらの世界。あのまま、ってわけにも行かないんじゃない?」
無敵の一閃は影ごとその背後にある建物をも両断する。
影の爪は道路を砕き、放つ魔法弾は無敵に回避、あるいは打ち払われ周囲に大穴を穿つ。
秒単位で破壊は広がっていた。
「リセットさんの言うとおりです。若、これ以上被害が拡大すれば駐留軍、果ては懲罰警察ですらも動かざるを得ない状況になります。今後のことを考えるならそれは得策ではありません。一時的にでもPMと手を組むことはプラスに働くと思います」
リセットの提案にいい加減どうにかせねばと考えていた参謀、島本が口を添える。
「……条件がある。さっちゃんや連れ去ったアイツの女を返せ」
「さっちゃんはもうこっちに向かわせてるから大丈夫。残りの女だけど、アレはリセットたちの世界に無敵について行くみたいだから気にしないで。あ、そうだ、預かり物もあるんだった。誰か、那古教教祖にコレ届けて」
リセットが差し出したのは土岐遥から由女や月ヶ瀬に宛てた手紙。
自分の身体に起きた変化やら、無敵についていくことにした旨などが書かれていた。
「ちょっと待て。俺はまだなんとも――」
「うるさいよ、悪司。男ならぐだぐだ言わない。ちゃんとついてるんでしょ?」
リセットはつま先で悪司の股間をつついた。
さすがの悪司も1歩下がる。
「お前な……」
「組織の長が不在なんだから、リセットが決めてもいいでしょ。さ、早く動く。ノロノロしてるとこの町滅ぶわよ?」
リセットの言葉は軽い冗談だったが、悪司組の面々にはそう聞こえなかったらしい。
兵隊から幹部級まで皆が一斉に動き出した。
後に残されたのは悪司一人。どうも勢いに乗りそびれたようだ。
「何をぼーっとしている?」
その後姿にかかる殺の声。
「さっちゃん、大丈夫か?」
「怪我はない。拷問も受けていない。強いて言うなら縛られていたゆえ手がしびれている程度か。さて、我らも動くぞ。あの化け物二人の戦争はヒートアップしている。もう、幾許の猶予も無い」
「お、おう」
「お前にはお前しか出来ないことがある。それを成せ」
「……ああ、分かってるぜ。ウィミィへの工作は任せろ」

こうしてオオサカを牛耳る二大勢力は一時的に手を結び街の為に動き出した。
結果、怪我人は出たものの死者は出ず、ウィミィ軍は幹部の根回しで動けなくなった。
ただ、破壊された物は元に戻るはずもなく、戦争の傷から立ち直り始めていた町は再出発を余儀なくされた。
だが、今回は二大勢力が手を組むため少しはマシだろう。
異界の戦闘を目の当たりにした悪司達はそう自分達に言い聞かせるしかなかった。

――戦闘の爪痕
「若、こっちです」
「両方か?」
「いえ、黒い女だけです」
「無敵のヤツはどうしたんだ?」
「たぶん、レナが勝ったんじゃないかな? で、無敵は大陸に送り返された」
「なるほどな」
若い組員に案内され悪司とリセットは瓦礫の山の中を進んでいた。
この周囲では無傷な家を探す方が難しいほど荒涼としている。
その中に人だかりが見えた。
「どいてどいて。うわ、酷いわね」
「腕がばっさりか。息は……あるな。どうする?」
「もちろん運ぶ。けどその前に応急処置だけはしないと。あ、怪我してるヤツはレナの血に触れちゃダメよ。ある意味猛毒だから」
リセットが天使になって覚えた治療魔法を施し止血する。それでも大量の血液が失われたようでレナは今にも息絶えそうなほどだった。
「リセット、腕は回収したわ。レナの様子はどう?」
「止血はしたけど……血が足りてないわね。アースガルドにでも行かないと輸血なんて望めないし……」
「そう。……誰か刃物持ってる?」
突然のワーグ言葉。近くにいた組員の一人がドスを差し出した。
「ワーグ、まさか……」
「生きるか死ぬかはレナ次第、ね」
リセットとワーグ以外その行為の意味がわからない。
ただ、見ているしかなかった。
ドスの刃を握りこんだワーグの手から少量の血が零れ落ちる。
零れた血は刃を伝いレナの口へ。
「おいおい、口からじゃ輸血にならんだろう。それに血液型とか――」
「世界には、あんたの常識ではどうにもならないことも多いのよ。黙ってなさい」
「お、おう」
ワーグもリセットも黙ったままレナの容態を見守る。
無論、誰も口をきけるような雰囲気ではなくなった。
「魔血魂と私の能力も一緒に注ぎ込んだから……取り込めれば、落ち着くはずよ。少なくとも悪夢は見なくて済む」
「大丈夫かな?」
「半々、といったところかしら。正直分からないわ。でも、とりあえず、動かしても問題はないはずよ。悪司、部屋を用意して」
「ああ、しかたねぇな。よし、俺の部屋へ運べ」
「わかった。ラッシー、お願いね」
「リセットも!」
レナとワーグを乗せたラッシーとリセットがミドリガオカの方へ飛び去っていく。
「さて、と。逃げ遅れたものがいないか総チェックだ! かかれ!」
「「「「「応!」」」」」
部下が動き出し、悪司も探索を開始する。
「悪司」
その後姿に声がかかった。
「お、さっちゃんか。そっちはどうだ?」
「順調だ。喜久子殿と夕子殿を中心に炊き出しを行っている。食材はPMから潤沢に補給されている。まったく問題ないな」
「そうか。じゃあ、さっちゃんは事務所に戻ってくれ。今はあいつらだけしかいないからな」
「わかった。では戻るとしよう」
悪司と別れ数歩、つま先に何かが当たり立ち止まる。
「……」
普通ならそのまま通り過ぎる。しかし、ソレを見たとたん、拾わなければならないと思った。殺はたいした疑問も持たずソレをポケットにしまった。

あとがき

残すところ最終日だけとなりました。
早いのか長いのか。
まあ、更新ペースが遅かったのは確かですけど。

さて、最終回をお楽しみに!!

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