オオサカ武勇伝・ぷらすB 6日目 6日目になり早速、転移装置の機動を確認。 これでいつでも好きな場所に門を開くことが出来る。 無敵様さえどうにかしてしまえば他はどうでも良い。この世界の明日がどうなろうと知ったことではない。悪司組が勝ち残ろうとPMが勝ち残ろうと。 もう一度今日の作戦をチェック。 開戦後PMの兵士を壁+おとりとして使い無敵様をおびき出す。 戦いの場はあの路地。適当にいなしつつ無敵様を門に触れさせる。 正面から戦う必要はなく油断を誘えば何とかなるだろう。それに今の無敵様は怒りで我を忘れている状態。瞬時の判断は鈍るだろう。 「レナ。準備はOK?」 「はい、ワーグ様。無敵様を捕獲したら合図を送ります。この世界とは早々におさらばしましょう」 「ん、わかった。リセット、もう少し寝ていてね」 ソファーに座ったワーグ様の膝の上。ワーグ様の術中に落ちたリセット様は幸せそうに眠っていた。一体どんな夢を見ているのか……。 「ところでワーグ様」 「何?」 「その落書きはなんですか?」 幸せそうなリセット様のほほに黒のマジックで『ファザコン』と書かれている。 反対側には『ブラコン』とも。 「なんとなくよ」 「……そうですか」 やはりこの方の考えることはわからない。 否、分かりたくない。 ―境界の橋 橋の真ん中に幽鬼のように佇む一人。 ……事態は予想以上に深刻なようだ。少々煽りすぎたかもしれない。 駄々洩れの殺気が尋常ではない。 悪司などはかなり後方にいる。 ……これではおとりとか壁とか意味が無いな。あの無敵様の前に置いても草のように踏みにじられるだけだ。 「どうするの?」 横に来たワーグ様が問う。 「そうですね。とりあえず、無敵様の狙いは私です。ワーグ様は悪司達の行動に目を光らせておいてください」 「まあ、死なないようにね」 「……努力します」 「努力じゃないの。コレは命令。魔王じゃないけどね。死なれたら目覚めが悪いから」 「承知しました」 正直命の心配はしていられない。予想以上に鬼気迫る無敵様を相手にするのだから。 「おはようございます、無敵様」 「おはようございます。そして、さよならです」 ……いきなり死刑宣告が来た。ランスも女のことになると歯止めが利かなくなるが、この方はさらに上を行っているかもしれない。 「この世界と、ですか?」 「冗談を。貴女と、です。自分が何をやったか忘れたとは言わせません」 「さて、殺した有象無象のことなど一々覚えていませんね」 「……謝罪の一言でも出れば楽に止めを刺そうかと思いましたが……止めます」 無敵様の口元に浮かぶ細い笑み。思わず背筋が寒くなる。 ホント、姉弟そっくりだ。 「趣味ではないですが……楽には死なせませんからね」 「残念ながら死ぬつもりはありませんよ。さて、ついてきてください。こちらの兵隊をいくらぶつけても壁にならないのは理解しました。ならばせめてまきこなまい所へ」 「罠のある場所へですか? かまいません。罠だろうが何だろうが、踏み越え貴女を殺します」 恨みとはかくも人を変えるものか。 ……まあ、変えたのは私か。 無敵様がそのままついてくるというのなら好都合。作戦決行予定地まで着いてきてもらう。 その数分後。私は思い知ることとなった。 暴走無敵様の恐ろしさを。 「……」 「罠? 地形効果? そんなもの……破壊してしまえばそれまでです」 左右にあったビルは跡形も無く崩れ去り、誘い込むはずだった路地は失われた。 念のためビルや周辺の住民を避難させておいて正解だった。 否、避難させていることを悟られたからのこの結果か。 最早どちらでもかまわない。取るべき手段は早くも削られた。 「小細工はもうおしまいですか? もっとえぐいのを予想していましたが。……土岐さんを殺しておいて、住民を避難させるとは思いませんでした」 「もし、避難させていなかったなら、無敵様はどうされましたか?」 「少しは躊躇したでしょう。でも、今の僕はそれで止まれるような状態ではありませんから……きっと、建物ごと吹き飛ばしていたでしょう」 う〜む、やはり少々煽りすぎたらしい。 ネタばらしを最後にやったとして、止まるか不安になってきた。 まあ、止まらなかったら諦めよう。 だが、今は諦めない。 周囲はもはや荒地。 少々暴れてもこれ以上被害は広がらない。 ……これからのことを考えると気分が高揚する。 やはり私は魔人であり、命のかかったこの状況に昂ぶっている。 これから先、こういう機会は最初で最後かもしれない。 魔人同士で命のやり取りなど。 プランA、実行不能につき破棄。 プランB、そもそも楽観的過ぎたので破棄。 プランC、状況次第で実行。可能性が低すぎるため実質破棄。 考えていた状況打開の作戦案に片っ端から否を突きつけてキャンセルしていく。 「無敵様。自分の全力というものをご存知ですか?」 「自分の能力の把握なんて基礎の基礎だと思うけど」 「そうです。戦場に出るなら、自分の力と技で戦うなら当然でしょう。ですが、魔王ホーネットの治世下、私はそういう機会に恵まれなかった。魔人になって以来全力戦闘などという機会はなかったのです」 能力の進化は把握している。だが、それがどこまでのものなのか。 現状では進化途中としか言いようが無く、それでも全力戦闘の機会などなかった。 それが今、ここにある。 ふつふつと闘争心が湧き上がる。 無敵様の殺気に当てられているせいかも知れない。 私が心の奥底で望んでいたせいかもしれない。 だが、理由はこの場で意味を持たない。 「無敵様。そんなに私の死を望むなら――」 全力をぶつけさせてもらおう。 「一緒に殺しあっていただけますか?」 「ええ、もちろん」 無敵様の敵意が気持ちいい。恋をしたのかと勘違いするほど心が躍る。 「出ろ。仕事の時間だ」 世界間転移ゲートを開くアイテムにチャージされていた管理神の力を転移十回分程度を残し逆流させる。こういう使い方は想定していなかったためどんな不都合が起こるか予測できない。だが、構うものか。あふれ出る膨大な力を私というフィルターにかけ影に流し込む。同時に情報という力を与えて形を持たせる。あまりの力に負荷がかかり体が軋む。 「リカーニングナイトメア、全開放――」 蓄積してきた全ての個体戦闘情報を影に流し込み私の手中に収める。 『百万の瞳の進軍』 影があふれ出す。 ただの魔物からランスと共に戦った冒険者達。魔人に魔王、この世界の住人。 ありとあらゆる情報が形を得て動き出す。 百万、とまではいかないものの、数多の瞳が無敵様を捉える。 「そんな模造品、いくら寄せ集めても無駄です。壁の役にも立ちませんよ」 「さて、どうでしょうか? 個体能力では足元にも及ばないでしょう。ですが……これら全てを個として扱ったなら……どうでしょうか?」 これら全て私の手足。 膨大な力を得た今なら問題ない。この倍であろうとコントロールしてみせる。 「準備は整いました、無敵様。お互い気の済むまで殺しあいましょう」 「すぐ終らせますよ。貴女の首を落せば百万の影は塵となる。これらを狙う必要はありませんから」 そう簡単に取らせると思いますか? ……すぐにその考えを間違いだったと認めさせて差し上げましょう。 「全軍攻撃態勢。命さえ残っていればかまわない。――蹂躙開始!!」 「蹂躙? されるのはそちらだ!!」 こうして死の舞踏の幕が上がる。 襲い来る獣の爪、牙。 振り下ろされる剣、穿つ槍。 矢は壁のように迫り、降り注ぐ魔弾は嵐の如く。 無敵様はそれらを防ぎ、受け流し、切り殺す。 切り殺された影は一旦崩れ、後ろに下がる。刹那の間に別の影がその場所を埋めて襲い掛かる。その間に私が破損箇所を再構成する。 いかに無敵様が強かろうと、ベースは人の体。腕は2本しかない。防ぎきれる手数には限度がある。 あるはずなのだが。 コレは悪い夢なのか。 無敵様は僅かずつだが歩を進めてきている。 無論無傷ではない。 だが、爪で抉られ、牙に喰らい付かれてもそれら全ての傷をたちどころに修復していく。 無尽蔵とも思える再生能力。 たまに大打撃が入り大きく後退するが、その数は少しずつ減っている。 これは……少し、趣向を変えないとならないな。 前衛にいる人型の情報を入れ替える。1歩間違えば無敵様の心を殺してしまうかもしれないが……。その時はその時だ。 「さすがは無敵様。やはり、正攻法ではどうにもならないようです」 「……どんな卑怯な手を使うつもりですか?」 「予測できているでしょう?」 姿形をリセット様、土岐遥、セリス殿、山沢麻美の4人に絞り込む。 無敵様を取り囲む顔はたったの4種類。だが、数は4人ではない。敵意を向ける影全てが自分に好意を向ける4人になる。 予測していたであろう無敵様だが、一瞬の動揺は隠せなかったようだ。 刺すような殺気が一瞬薄れた。 だが、それも一瞬だった。 うつむく無敵様。この位置からは表情が見えない。 立ち上る尋常ではない気配。あまりの禍々しさに背筋が冷たくなった。 直後、無敵様を取り囲む影の集団が3分の一ほど吹き飛んだ。 「こんな紛い物……彼女達への冒涜は許しませんよ」 「紛い物? 彼方の足元にあるそれをよくて見てはいかがですか?」 「むて……き……助けてよ……痛い、よ……」 足元にあるのは身体を真っ二つに斬られたリセット様。死に様まで再現してある。 流れ出る血、切り口から溢れる臓物まで。 「何で、おね〜ちゃんに、こんな酷い事……する、の?」 「何故か、ですか?」 顔を上げた無敵様の口元に浮かぶは狂気の陰りを帯びた笑み。 刀が走りリセット様の首が飛んだ。 「偽者だからですよ。どれもコレも模造品。姿形、声を似せようとも!!」 叫びと共に、無敵様は転がった首を踏み潰した。 「これ以上、無駄なことはやめろ!!」 無敵様の目は紅く燃え上がり、狂気に犯されている。 もし、ホンモノを取り出したらどうなるのか、少し気になった。それはそれで興味深いがそれをやってしまうと色々と後戻りできない気がする。 ……今でも十分に際どいが。 一呼吸置いて精神攻撃はやめにする。無駄どころか火に油だ。 「わかりました。無駄は省きましょう。今からやることは一つ。私は無敵様を蹂躙します。無敵様がやることも一つ。囲みを破り私の首を落すだけ」 攻撃再開。攻撃力重視の編成で無敵様を押さえ込む。 「おおおおおおおおおおおっ!!」 津波の如く襲い掛かる兵を退け無敵様はまた1歩、歩を進める。 全方位から攻撃しているにもかかわらずそれらを捌けるのはどうしてか。 数百倍の手数を前に進軍するのは何に突き動かされているのか。 半日に及ぶ戦闘。 すでに日が傾きかけてきた。 無尽蔵に思えた転移用のエネルギーもかなり消費した。 そもそも未完成の能力は無駄な消費が多すぎた。 これ以上消費すると誰も帰れなくなってしまう。かといって決定打も持ち合わせてはいない。それ以前に能力の過負荷で私の脳が焼ききれそうな苦痛にさいなまれている。 戦闘開始からほぼ半日。これほどの長期戦は想定外。 正直、そろそろ限界だった。 苦痛は私を戦闘の高揚から引き摺り下ろしてくれた。危なく目的を見失うところだった。 高揚して麻痺していた感覚が正常に戻っていく。 同時に悟った。最早勝ち目は無いということも。 「……終わり、ですか?」 無敵様の傷も最早修復されていない。ダメージが再生能力を上回っていた。 にもかかわらず、無敵様は立っている。動きの鈍った影を斬り潰しさらに私の方へ。 「思っていたより手こずらされました。これほど手傷を負ったのは初めてかもしれない」 「あれほどの力を消費して、ようやくそのダメージですか……バケモノじみていますね」 「もちろん、人の身ではないバケモノですので。さて、そろそろいいでしょう。終らせましょう」 「……そうですね」 「抵抗しないのですか?」 「無駄だとわかりましたから」 「いや、それは嘘だ。貴女は切り札を隠している。でも、そんなもの――」 無敵様が地を蹴った。何もしなければ一瞬後私は死ぬだろう。 だが、無敵様の言うとおり私は切り札を持っている。 攻撃力は無い。そして、効果の補償もない。 ただの思いつきであり一か八かの賭けだ。 全ての情報を引き出した際に見かけた形だけの情報。 その形の持っていた人柄も性格も戦闘情報も無い。 ただ、写真を見ただけ。名前と素性を聞いただけ。 それも、ちゃんと見たのはたった一度だけ。 背景はかつてJAPANにあった城。 写っていたのは5人。中央のランスがリセット様を抱き、右側にホーネット様。左側には生まれたばかりの無敵様を抱いた黒髪の美しい女性。幸せそうにランスに寄り添う。 「今の僕には効かない!!」 影を自分の身体に纏いつかせる。土岐遥の首を模造したように自分の体をベースに見た目だけ擬態する。 身体を刀が抉る。効かないと断言した無敵様だったが、その姿には動揺した。 首を刎ねようとした刀は反れて片腕を跳ね飛ばすに留まった。 私が擬態したその姿。 名を山本五十六。無敵様の実母。 凍りつく無敵様。刀が手から落ちる。 「は……は、うえ?」 賭けは私の勝ちだった。切り札は絶大な効果をもたらした。 あれほど怒りに我を忘れていた無敵様が自分を取り戻した。それ以上に怯えてすらいる。 激烈な痛みに苛まれながらも残り数回の分のうち1回分を使いゲートを開く。 場所は無敵様の背後。そして、立ち尽くす無敵様を突き飛ばす。 「無敵様、この勝負……私の勝ちです」 勝利宣言。だが、無敵様はどこか遠くを見ていて私を見ていない。 そして、無敵様の姿がゲートに沈み掻き消えた。 擬態をとく。血が止まらない。足元も定まらない。頭痛で視界がいびつに歪む。 腕の痛みはすでに飽和し何も感じない。 マズイ、身体が思った以上に動かない。 ああ……、ワーグ様にお知らせしないと……合図を……。 合図を出せたか出せなかったのか。 それすらもわからないまま視界が闇に落ちた。 |
あとがき 私はヘルメスの鳥 私は自らの羽を喰らい 飼いならされる 「拘束制御術式零号 開放―」 ↑間違い。ごめんなさい、やりすぎました。 |